この作品の注意事項
・作者の自己満足
・素人の作品
・主人公最強
・ご都合主義
・辻褄が合わないかもしれない設定
・注意事項が増える可能性
等が含まれます。
以上をご理解したうえでお読みください。
読者の皆さんの暇潰しの一助になれば幸いです。
戦争が始まって一か月が経った。ウルグラーデの状況は戦争が始まる前と変わらないように感じる。
見えない所では影響が出ているかもしれないが、今の所は分からないし私に関係ないのなら気にする事は無い。
奴隷の二人から時々届く手紙によると現在の戦況は獣人が有利らしい、予想が外れたな。
カルガは砦を森の中に作り、侵攻してくるルセリア軍を撃退しているようだ。
これは獣道を使っているのか?獣人の個々の能力は高いからな。
作戦を練って獣道を上手く利用すればかなりの戦力差があっても跳ね返せるかもしれない。
二国が戦争をしている現在、私が何をしているかといえばウルグラーデのモー乳販売店でモー乳とデザートを買っている。
「モー乳の大瓶十本とモー乳アイスを五個貰おうか」
「ありがとうございますクレリアさん」
商品の用意をする女性店員、子供だった彼女も今では母親だ。
「戦争の影響はあるのか?」
私がそう尋ねると商品の用意をしながら答える。
「今の所問題は無いですね……ただいつまでも続けば何か問題が起きるかもしれません」
そう言いながら準備を終える。
「何かあったら教えてくれないか?買えないと困るんだ」
「あらあら……分かりました。何かあったらお教えします」
「頼む」
金を払い商品を受け取りながら言葉を交わし、何かあった時は教えて貰えるように約束して店を出た。
町の人通りは少し減ったように感じる。戦争中であるという事実が人々の色々な意欲を失わせているのかもしれない。
開戦から二か月半ほどたったある日、久しぶりに私の元に手紙が届いた。
何か大きな動きがあったか?
私は手紙を開封し、内容を確認する。
そこにはこれからのルセリアの方針が書かれていた。
森という獣人に有利な場所での戦闘に一月以上も攻めあぐねたルセリアは、魔法使いと炎を放射する魔道具を使って獣人達の砦を周囲の森ごと焼き払うつもりらしい。
森ごと全て焼き払う作戦とは中々思い切った事をする。
世界樹がある森だったら私が許さないが他なら好きにすればいい。
森の環境だけでもルセリアにはかなり邪魔だっただろうが、これは獣道に気が付いたか?
木々が無くなり戦場が広くなれば砦も落としやすくなるし、獣道も潰せてルセリア軍としては嬉しい訳だ。
今まで獣人達が戦えていたのは森の木々がルセリア軍の規模と行動を制限していたからだと私は思っている。
森が焼け、獣道が使えなくなり、広くなった戦場に砦だけになれば例え個々の力がルセリア軍より上であっても物量で押し潰されるかも知れないな。
ルセリア軍は獣王国の首都までの森を焼いて進むつもりなのだろうか?
砦を攻略するためなら分かるが首都までとなると、当然だが獣人達も森が燃えるのをただ見てはいないだろうしな。
ルセリア軍の規模は分からないが数が揃えば出来ない事では無いかも知れない。
前回の手紙を受け取ってから三日後の朝。昨晩から雨が降るなか手紙が、実際は報告書のようなだが、それがまた届いた。
何だ?今度は早いな。
いつもの様にローブの女性から手紙を受け取りソファに座って中身を確かめる。
なるほど、更に戦火が広がるか。
そこには他のルセリア軍の部隊が獣人の村を襲い壊滅させた時、森人と大地人を巻き込み殺害し生き残りを奴隷化した事が知られたと書いてあった。
これが原因で森林国家ユグラド、魔工国ガンドウとも戦争状態に突入したらしい。
この二国に対応するため森を焼く作戦は中止、それぞれの国との防衛に戦力を振り分ける事になったようだ。
現場に居た指揮官は三国を相手にする事になると知っていてわざとやったのか?バレないと思ったのか、獣王国を見て問題無いと判断したのか……。
巻き込まれた森人と大地人も、戦争中の国に、しかも狙われそうな村にわざわざ滞在しているとは……被害にあった森人と大地人はその村の獣人と個人的に交流があったのだろうか?
その辺りの事はともかく、これでルセリアは亜人種の三国と同時に戦う事になった訳だ。
いくら国として大きくても流石に辛そうだが、どうするつもりなのか見せて貰おうか。
開戦から四か月、私は変わらずウルグラーデの自宅で過ごしている。
時刻は昼を過ぎ午後になった。
私はソファで報告書を読みながら戦争の事を考える。状況はルセリアが少々厳しい状況らしい。
獣王国の砦を焼き落とす作戦は中断し、魔工国ガンドウの見た事の無い武器による攻撃や森林国家ユグラドのゴレム兵に手こずっていると書いてあった。
三方向から攻められるルセリアは戦力を分散するしかない、各国の予想以上の手強さに焦っているかも知れないな。
ガンドウの見た事無い武器というのは恐らく魔道武器の事だろうな、数を揃える事が出来たのか。
ゴーレムは開発に関わったから良く分かる。前衛としてはかなり使える兵士だ、核と素材しか消費しないから人的被害が無い。
このままだとルセリアが滅亡するか?出来れば存続して欲しかったが。
そう思いつつ報告書をテーブルに戻す、現在の状況でルセリアが崩壊したらどうなるだろうか。
彼らを知っている私としては、人間を滅ぼすような事は恐らくしないだろう。
奴隷にするのもあまり想像出来ない。
乗り気ではなくとも二度とこんな事をしないよう、管理するために人間を奴隷化するだろうか?
そんな事を考えていると扉をノックする音が聞こえる。扉を開けるとルーテシアを抱いたミナが立っていた。
「おねーちゃん抱っこ」
「ルーテシアがお姉ちゃんに会いたいって言うから来ちゃったわ、今は大丈夫?」
「大丈夫だ、入ってくれ」
私に手を伸ばすルーテシアを受け取って一緒にソファに座る。ミナはすっかり慣れた様子で飲み物の準備をしている。
「クレリア、飲み物は?」
「モー乳を出してくれ」
モー乳を頼んでルーテシアを抱きなおす、彼女は私の頬や髪を触って喜んでいる。
「ルーテシアをは貴女の髪とお肌がお気に入りみたいね」
触られている私を見ながらミナが飲み物を持ってやって来る。
「今まで何人も子供の面倒を見たがよく触られる、なぜだ」
「貴女は胸は見た目相応だけど……美人だしスレンダーで肌も髪もすごく綺麗で肌触りが良いわよ?良い香りまでするし……まさに人を超えているわ」
私が疑問を口にするとミナが答える、久々に容姿の事に触れられたな。
「以前からよく言われているが今でも良く分からない。確かに人では無いし言われた事が嘘だとも思っていないが……そこまでか?」
「美しさが突き抜けてみんな一歩引く位には綺麗よ」
そう言ってくるミナ、男に群がられても面倒なだけだしそれならいいか。
「声も綺麗なのに……その話し方は男みたいよね、もったいない」
同じような事を何処かで言われたような気がする、変える気は無いが。
「私に性別は存在しないと知ってるだろうに、気が付いたら今の姿だっただけだ」
「そうだけど……見た目と声に対して話し方の落差が凄いのよ」
モー乳を飲みながら答える私に紅茶を飲みながら返すミナ。
「お前、私が少女のように話している方がいいと本当に思っているのか?」
「あー……最初の内なら違和感なかったのかもしれないけど……今だと逆に駄目かもしれないわね」
「ミナさん酷いわ、私こんなに大人しくて可愛いのに……」
可愛らしくそう言うと彼女は紅茶を少し噴いた。
「……!?ちょっと!?やめてよもう!駄目だわ……もう違和感しかない」
「そうだろう?やはり無理をしない話し方が良い」
「後、自分で大人しくて可愛いって言うのは無いと思うわ」
「そうなのか」
私の膝の上で嬉しそうなルーテシアの頭を撫でながら、駄目出しを聞いた。
それからしばらくして落ち着いたミナは少し顔を引き締め私に言う。
「ねえ、ルセリアに居るっていう情報源から戦争の情報は無い?」
「何か知りたいのか?」
「一応ルセリア所属でもウルグラーデには情報が入ってこないのよ、だから少しでも今どうなっているのか知りたいのよね」
「そうだな、一対一だった戦争が三対一になったな」
「え……!?なんでそんな事に?」
私は報告書にあった事を簡単に説明した、説明聞いた彼女は溜息をつく。
「なんでわざわざ敵を増やしてるのよ……」
「私に言われてもな。三国まとめて相手しても勝てると判断したと私は予想している」
「どうなるのかしらね……出来ればどの国も無くならないで欲しいわ……元々人間が一方的に敵視しているだけだもの、どうにか穏便に平和にならないかしら」
うつむいて言葉を洩らした彼女は顔を上げてルーテシアを見た。
「このままだとルセリアが滅びそうだが、ウルグラーデは大丈夫だと思うぞ。元々独立国のような物だしな」
ケインもウルグラーデの運営に協力しているみたいだし悪いようにはならないだろう……そうだ、ケインで思い出した。
「ミナは学校の校長を引き継ぐのか?」
「えっ?ええ、次の校長は私に決まっているわ」
突然の話題変更に心配そうにルーテシアを見ていたミナが私へと視線を移す。
「でも、娘がある程度大きくなるまでは正式に校長にはならないわ。この子の成長を待ってからとケインと決めているの」
「そうか、子供のためにはその方がいいかもな」
私は寝てしまったルーテシアを抱きながら夕方まで今後の戦争の行方を語り合った。
開戦から半年。大国は伊達では無いようでルセリアは今も三国と戦争を継続していた。
私はと言うと二週間ほど前に倒れたケインの見舞いに来ている。
寝室で横になっているケインのベッド脇にある椅子に座る。
「わざわざありがとうございます、師よ」
「気にするな。ルーテシアも居るしな」
この二週間ミナが代理として校長の業務を行っている、そのため日中は私がルーテシアの世話をしている。
ルーテシアの面倒を私の自宅で見ていたのだが、二週間たっても治る気配が見えない事を心配したミナが私に診断を頼み、私はここに居る。
「私は治りますか?」
状態を確認した私にケインが声をかける。
「お前、かなり昔から無理を続けていたな?体の中がボロボロで一般的な錬金薬や回復魔法では治らない程に酷くなっているぞ」
表情はいつも通りを装うケインだが、にじむ汗がその苦痛を物語っている。
「倒れるまでは問題はありませんでしたよ……?」
「馬鹿者、限界を超えたから症状が出たんだ。このままではそう長くは無いぞ」
「……そうですか」
ルーテシアが寝ていてよかった、あまり聞かせたい話ではない。
まあこのままでは死を待つのみだが、私は身内には甘いらしい。
「普通ならこのまま死を待つしかないが……今は私が居る」
ケインは軽く目を見開く。
「ケイン、私はお前を治せる……寿命は延びはしないが寿命を迎えるまで生きられる。どうする?いっそ寿命も伸ばすか?」
ケインは目を閉じて何も言わない、すぐに頼むと言わないのは迷っているのか?
何を迷っているのやら。
「死ぬ前に答えろよ、今日はこれで帰るとしよう」
私は寝ているルーテシアを抱き上げて寝室を出る。
どうして迷う?どちらが良いかなど分かり切っているのではないのか?
仕事を終えてルーテシアをミナに返す時、私は彼女に話があると言って校長室に移動した。
「クレリア、話って?」
「ケインの事だ」
ソファに座りそう言うとミナの表情が強張る、勘のいい娘だな。
「結論から言うともう一般的な錬金薬や回復魔法では治らない状態だ、このままでは長くはない」
私の言葉を聞いた彼女は脱力し俯く。
「かなり昔から無理をしていたようだ。体の中はボロボロで二週間前に倒れたのは限界を超えたからだ」
「……もう、どうにもならないの……?」
うつむき震える声で私に問いかける彼女。
「どうにでもなるぞ」
「え……?」
顔を上げる彼女の目には涙が浮かんでいる。
「私が何なのかお前は知っているだろう?一般的な錬金薬や回復魔法では治らないと言ったが……私の薬や魔法が一般的だと思うか?」
「それは……」
「私なら治せる」
「じゃあ……!」
「ただし、ケインが治して欲しいと言った場合のみだ。どうでも良い相手ならそもそも助けないか勝手に治すが、弟子本人の意思を優先してやりたいからな」
「ケインにはこの話は……?」
「した。したがあいつは治して欲しいと言わなかった」
「なんで……!?」
涙をこぼすミナ、それは本人にしか分からんな。
「一週間待つ……一週間後に家に行く。それまでに答えを聞けなければ治す事はない、生きていて欲しいなら説得するんだな」
「……分かったわ」
私は校長室を出て家に帰った。
どんな決断をするのか、治せるなら直せばいいと思うんだが。
一週間後ケインの寝室に私は訪れた。
ケインは少しやせたように見える……ミナはリビングでうつむいたまま何も言わなかった。
「さて約束の時間だが……」
「答えは決めました……師よ」
汗をにじませて私を見つめるケイン、答えを聞く前に言う事は言っておくか。
「答えを聞く前に私の話を聞いて貰おうか」
「……はい」
薄く微笑んで言う私に、ケインは返事を返す。
「助かる手段を前にしてそれを手放す事は愚かであると私は思う。自分だけならそれも良いだろう、ただ残される妻と娘がいる者は果たしてそれでいいのか」
ケインは目を伏せる。
「共に過ごしたいと、まだ生きたいと思う事は無いのか。妻と娘を見捨てて悲しませる、彼女達を思う気持ちがその程度であった、それだけの事かもしれないが」
私はケインを見る、ケインも私を見た。
「私はお前に教えたはずだ、大事な物を守るには力がいると。そのためには使える物は使え、命を捨てて守るのではなく守って生きて戻れと。お前は私の教えを理解しているか?守る気があるか?大事な物など無かったか?」
「私は……」
彼の言葉を遮って続ける。
「お前は私の教えを理解していると思っていたが違うようだな。お前は今意味もなく死のうとしている。ただ自分の大切な者を悲しませるだけの選択をしようとしている」
彼は目を瞑りゆっくりと、長く息を吐いた。
「お前にはお前の考えがあるだろう。どんな選択をしようと私はお前の選択を尊重しよう、たとえ誰が悲しもうと」
「師よ、私は貴女の教えを守っていますよ」
目を開いてそう言った彼の表情は穏やかだった。
「答えを聞こうか」
そう言うと彼は私を見つめてゆっくりと言った。
「……師よ。貴女のお力をお貸しください……私はまだ死ぬ訳にはいかないのです」
「そうか」
こうして私は彼の治療をした。
リビングで一人泣いていたミナに結果を告げると彼女は寝室に走って行った。
柄にもなく余計な事を言ってしまった。
本人の意思に任せると言いながら説得のような事をしてしまったのは、弟子に出来るだけ長く生きて欲しいと私が思っている証拠だな。
翌日、寿命は伸ばさなかったが私の治療によってあっさりと回復したケインは昼過ぎにミナとルーテシアを連れて私の家にやって来た。
ソファに座った私の正面にケインが眠ったルーテシアを抱いたまま座り、その隣にミナが腰を下ろす。
「ルーテシアがケインに抱かれているのは珍しいな」
「朝起きた後ケインを見て抱っこをせがんでずっとこのままなのよ」
私の疑問にミナが答える、父親の状態を感じていた?子供はそう言った事は感じるらしいからな。
「調子はどうだ?」
「若返ったようですよ、体調は最高の状態ですね」
元気を取り戻したケインが微笑みながら言う。
「馬鹿者。若返った訳では無く治す前の状態が悪すぎただけだ」
倒れるまでは問題無かったと言っていたが、自覚していなかっただけだな。
「師よ、助けていただきありがとうございます。私達の一生をかけてこの御恩は……」
「待て」
夫婦で頭を下げ大げさな事を言い出したのを止める。
「何でしょう?」
「そんなたいした事では無いからやめろ」
「死ぬ筈だったケインを助けてもらったのよ?どれだけ感謝してもしたり無いと思うけれど……」
ミナもそんな事を言い始める。
「例え話をしてやろう」
「例え話ですか?」
疑問を浮かべるケインとミナ、そもそも感覚が違うのだろうな。
「お前達がソファに座っていて目の前のテーブルにクッキーが置いてあるとしよう」
「はい」
「友人がすぐ隣に座りクッキーを取ってくれと言われて取ってやっただけで、その友人が人生をかけて恩を返すと言い始めたら困るだろう?」
キョトンとする二人、私にとってはそんな物だ……そこまでされても困る。
「なるほど……あの程度の事は師にとってクッキーを取ってやる程度の事だと……そう言うのですね?」
「お前達と私の感覚の違いだな。上手く伝わっているか?」
「違いすぎてどうすればいいか分からないんだけど……」
真っ先に理解を示すケインに答える私と、困惑するミナ。
「ミナには上手く伝わらなかったか?」
「元々私達とは実力が違い過ぎるのは分かってる。分かってるけど……はあ……」
ミナは頭を抱えてため息をついた。
「せめてもう少し娘が成長するまで死ぬな」
「そうさせていただきます……師よ」
頭を抱えてうつむくミナを横目に、私の言葉に抱いたルーテシアを見つめながら答えるケイン。
守りたいのなら生きろ。
ケインの事も終わり自宅に帰ると手紙が投函されていた。
私に手紙を書く相手は今の所奴隷の二人しかいない。
手紙を取り開封しながらソファに座る、今度は何があったのだろう。
あまりはっきりとした情報では無いな。
手紙にはルセリアが三国を相手にして劣勢になり始めている事、この状況を打開するための何らかの作戦が行われている事が書かれていた。
肝心の作戦は団長である二人にも明らかにされず。親衛隊と一部の上層部のみが詳細を知っている、と言う事までしか探れなかったらしい。
今のルセリアは多少押されているとはいえ三国との戦線を維持している。
作戦がどんな物か分からないがここからどうするのか楽しみに待っていよう。
ケインに何となくそれっぽい事を言う主人公。