少女(仮)の生活   作:YUKIもと

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 この作品の注意事項

・作者の自己満足

・素人の作品

・主人公最強

・ご都合主義

・辻褄が合わないかもしれない設定

・注意事項が増える可能性

 等が含まれます。

 以上をご理解したうえでお読みください。

 読者の皆さんの暇潰しの一助になれば幸いです。





027-01

 

 アドルの求婚を断ってウルグラーデに転移してから一週間ほどが過ぎた。

 

 ある日、以前と変わらない生活を続ける私の元にミナがやって来た。

 

 「よく来た。ゆっくりしていくといい」

 

 「ありがとう」

 

 現在は十三時過ぎだがルーテシアはすでに初等科に入学していて現在は学校だ。

 

 「今日来たのはちょっと気になった話があったからなのよ」

 

 「何だ?」

 

 「……ルセリアの全ての町でクレリアっていう黒髪黒目の少女をルセリア王が探しているらしいの」

 

 「なるほど」

 

 探し出す気か、諦めの悪い。

 

 「ウルグラーデも扱いが変わって色々情報が来るようになってね?その話が来た訳なんだけど」

 

 「それで?」

 

 「貴女、この町の人にはあまり名前は教えて無いわよね?だからいきなり名前で特定はされないでしょうけど……黒髪黒目はバレているし、もし見つかったら面倒な事にならない?」

 

 「なるだろうな」

 

 「それに貴女ルセリアに知り合いだか友人だかが居るって言ったわよね?……それってルセリア王の事じゃないわよね?」

 

 気分転換にしばらく人の世界を離れよう。

 

 「ミナ。私はしばらく人の世界から離れる、後は頼んだ」

 

 「ええ……?もしかして本当にルセリア王だった訳?」

 

 困惑と驚きが混ざった顔をするミナ。

 

 「私はすぐに出る。私はこの町に居なかった事にしてくれ」

 

 「はあ……分かったわよ……どうせ止められないしね」

 

 「ありがとう、この家は好きに使っていいぞ」

 

 「私は家あるわよ……管理はしといてあげるから行ってらっしゃい」

 

 呆れたように……いや、これは確実に呆れているな。

 

 「何かあったら念話してくれ、転移ですぐ戻る」

 

 「便利よねそれ……私も使えればなー」

 

 「お前ではまだ無理だ」

 

 「もう!いつか使えるようになるからね!」

 

 こうして私は人類の生存圏を離れ外界に飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 適当に空を飛び、人類の生存圏を飛び出した私は草原を歩いていた。

 

 まだまだ人が住んでいる範囲は狭いな……いつか人類はここまで生存圏を広げられるだろうか。

 

 外界では弱い魔物も居るが現在の人類の手に負えないような魔物もかなりいる、それらとぶつかった時、人類はどうするだろうか。

 

 そう思いながら森を抜けると広い湖に出た。深い森の中に広大な湖が広がっている。

 

 私は水辺に近づいてみる。

 

 すると全く深くない……薄く水が張っているだけだ。

 

 面白い状態だな、私は靴を消して裸足になり水に入る。

 

 ひんやりと冷たい透明な水だ、そのまま湖の中心へ歩いていく。

 

 いい雰囲気だ、水面は鏡のように空を映している。

 

 水面の下に空が広がっているようにも見える。

 

 夜の星空が映ればまた違う印象を受けるだろう。

 

 地下水でもしみだしているのか?世界にはもっと不思議な光景や綺麗な景色が沢山あるのかも知れない。

 

 ……ん?

 

 水面に何かが映る、私はすぐに空を見上げた。

 

 空高くを羽と尻尾のような物がある何かが飛んでいた。

 

 視力を上げて見ると全身が黒い鱗のような物で覆われたトカゲのような生物だった。

 

 今まで何度か見たような気がする。

 

 ……特に目的もない、どこに行くのかあいつを追いかけてみよう。

 

 私は上空へと舞い上がるとトカゲの方へ加速する。

 

 下を見ると水面が鏡のように空と飛行する私を映していた。

 

 そうだ、靴は戻しておこう。私は速度を上げながら足に靴を作り出す。

 

 トカゲも中々早いようだ、思ったより距離が縮まらない。

 

 私は更に速度を上げた。

 

 

 

 

 

 

 トカゲに追いつき、距離を保ちながらしばらく飛んでいると高い山脈が見えて来た。

 

 それほど時間はかかっていないが飛んでいる速度が速度なので距離自体はかなり移動しているかも知れない。

 

 山脈に近づくとトカゲが速度を落とした、この辺りが住処なのかもしれないな。

 

 速度を落としたトカゲは振り向きこちらを見た。

 

 口から炎が漏れているのが見える。

 

 これは攻撃して来るな。そう感じてすぐに急上昇すると、私のいた所を巨大な炎の塊が通り過ぎた。

 

 トカゲは滞空しながら今度は鋭い氷の塊を大量に飛ばしてくる。

 

 私は向かって来る氷をすべて飛び回りながら避けて行く。

 

 殺したくは無いな。知らない相手は強さが正確に分からないから面倒だ。

 

 ただ感じる魔力からカミラに匹敵する実力者である可能性が高い。

 

 取り敢えず岩を山ほど作り打ち出した、避けきれる量ではないはずだ。

 

 トカゲは私の魔法をそのまま受けながら突っ込んで来る、私は下に潜り込むようにすれ違おうとしたが目の前に尻尾があった。

 

 なるほど、尻尾も武器になるな。

 

 私は体を捻りかわすが尻尾は蛇のように動いて当てようとして来る。

 

 第三者が見れば一瞬の交差だったかもしれないが中々いい動きをする。

 

 私は更に高度を下げ森に突入する。トカゲは森の中に入らず上空から私を探しているようだったが火を吐いて周囲を焼き払い始めた。

 

 「止めんか、馬鹿者」

 

 そう言って飛び出すとトカゲが笑ったように見えた。

 

 こいつわざとやったな?それだけの知性があるという事か。

 

 森の上空に戻った私の足元から突然炎の竜巻が巻き上がる。

 

 すぐに移動したが次々に巻き上がって数を増やし、周囲を取り囲む。

 

 届かない上空にまで昇ろうとすると、トカゲが上を押さえていた。

 

 周囲を炎の竜巻に塞がれ範囲を狭められ上空にはトカゲ、中々やると思っていると突然日の光が遮られる。

 

 トカゲが竜巻の上に蓋をするように巨大な岩の壁を作ったようだ。

 

 視界一杯に広がる岩の壁。

 

 間違いなく知性がある。話せればいいんだが、翻訳魔法の効果はこいつにもあるだろうか。

 

 そんな事を考えながら岩に圧し潰された。

 

 もう少し力を出してもあのトカゲなら死ぬ事は無さそうだな。

 

 岩の下でそう考え、私は魔力を高めて周囲を吹き飛ばす。

 

 岩も、炎の竜巻も、周囲の森も、全て吹き飛ばし大きなクレーターを作り出した私は空中で固まっているトカゲの元に戻ると魔力を高めて言う。

 

 「中々面白かった。お前にならもう少し力を出しても平気そうだ」

 

 「何なのだ貴様は……」

 

 ん?今声が……話せるのか?

 

 「お前話せるのか?」

 

 「なに!?我の言葉が分かるのか!?」

 

 「分かる、お前話せたんだな」

 

 「我の言葉が分かる者が小さき者の中にいるとは……」

 

 「話せるのなら話は早い。私はお前を見かけて興味を持ってな、追いかけて来た」

 

 「小さき者が生意気にも我について来るものだから殺そうと思ったのだが……その力、貴様何者だ?」

 

 「まあお前なら話しても良いが、まず移動しないか?」

 

 「……ふん、確かにそうだな……ついてこい。我の住処に入れてやろう」

 

 私はこのトカゲの住処について行く事にした。

 

 

 

 

 

 

 彼……彼女かも知れないが、着いた住処は殺風景なただの大きな洞窟だった。

 

 私はマジックボックスからソファとテーブルを出してモー乳を入れた。

 

 「お前も飲むか?」

 

 「そんな量で足りると思っているのか?」

 

 「それはそうだな」

 

 正面で横たわるトカゲ……いつまでもトカゲは駄目だな。

 

 「取り敢えず名前を教えてくれ」

 

 「……貴様が先に名乗れ」

 

 「いいぞ。私はクレリア・アーティアと言う」

 

 「……我はクログウェルだ」

 

 「クログウェル、お前の種族はなんだ?」

 

 「……種族とは?」

 

 「共通の特徴を持った生物を大きく分類する名前のような物だ」 

 

 「……そんな物は知らぬ」

 

 聞いてきた時に何となく察したがそういった物が無いようだ、しかし無いのも困るな。

 

 「私の知識にお前に似たような存在の名前があるんだが……それを名乗る気は無いか?」

 

 「ふむ、聞いてから考えよう……言うが良い」

 

 「竜、もしくはドラゴンと言う……お前の場合は……そうだな、黒竜クログウェルやブラックドラゴンクログウェルになるな」

 

 「ほうほう……よく分からんがいい響きだな……両方同じ意味なのか?」 

 

 「そうだな、特に変わらないから両方使っても問題無いぞ」

 

 「よし、我は黒竜クログウェルだ!」

 

 大きな口を開けて咆哮を上げるクログウェル。牙も大きくて鋭そうだ、素材に欲しい。

 

 「我の種族は決まったが、貴様の種族を聞いていないぞ?」

 

 「私は自分が何なのかが分からない。気が付いたら世界に存在していて、今まで自分と同じ存在を見た事が無い」

 

 「たかが百年ほどであろう?我のように数千年生きて見つからないのならともかく、まだ諦めるのは早いのではないか?」

 

 「一万年以上経っても見つかっていない」

 

 「……何を言っている?我はそのような戯言は好かんぞ」

 

 私に鼻先を近付けて唸るクログウェル。

 

 「本当だ、私はお前達が影も形も無かった頃から存在している。大半は寝ていたが、当時の世界には生物は今ほど多くいなかった」

 

 「そんな事が信じられるか!でたらめを言うのならこの場で殺すぞ!」

 

 起き上がり魔力を高めるクログウェル。信じて貰うにはあの姿を見せればいいか?

 

 それだけじゃこいつのような者は納得しないかも知れないから色々とまき散らしておこう。

 

 「これを見てから判断してくれ」

 

 「ぬぅ……!?」

 

 私の変化を感じたのか戸惑う声を上げるクログウェル、そんな彼を尻目に魔力と魔素が溢れ出し私の輪郭が綻び始める。

 

 「……馬鹿な」

 

 クログウェルが呟く。私の髪は放射状に広がり空中を漂うようになびき始め、全身は深い闇色に変わる。

 

 そして目も口も鼻も耳も無い人型の何かが莫大な魔力と魔素を放出しながら立っていた。

 

 「これで分かったか?私が「何か」である事が。貴様程度ではどうにもならない力の差が」

 

 私の声が洞窟に響く、どこから声が出ているんだろうか。

 

 「分かったわ!……もうやめて。やめて……死んでしまう……」

 

 ……ん?口調がおかしいぞ?まあ今は後回しだ。

 

 濃すぎると魔力と魔素は生物には毒なのか?

 

 私はすぐに魔力と魔素を止めて元の姿に戻る。

 

 クログウェルは体調が悪いのかうめき声を上げている。

 

 「我が悪かった。疑った事は詫びよう……今ので周囲の弱い生物は全滅したかも知れんが……」

 

 「念のため教えておくが、さっきのは全力では無いからな。もっと力を放出したらお前まで一瞬で死にそうだ」

 

 クログウェルの表情は良く分からないが動きが完全に固まってしまった。

 

 

 

 

 

 

 その後クログウェルは落ち着きを取り戻し、私に敵わない事を認めた。

 

 そして私は敬語は使わなくていいと伝えてから会話を進める。

 

 「クログウェル、お前は性別はあるのか?」

 

 「あるぞ?我は女だ」

 

 女か、見た目では私には全く分からないな。

 

 「なるほどな。その辺りは他の生物と同じなのか……ああ、私に性別は無いぞ?」

 

 聞きたそうな雰囲気を感じて答えておく、彼女は「そんな気はしていた」と答えた。

 

 「私の事を小さき者と言っていたが、私に似た者を見かけた事があるんだな?」

 

 彼女に人類の事を教えた後、私は聞く。

 

 「うむ、様々な場所へ飛んでいるが似たような者が沢山いるのを空から見た事があるぞ」

 

 「どんな姿か覚えているか?」

 

 「どんな……?うーむ……我にとって気にするような存在では無いからな……」

 

 「もし今後それらしい生物を見かけたら姿を覚えて私に居場所を教えてくれないか?」

 

 「構わんが……それほどの強さを持っていながらなぜそんな事を気にするのだ?」

 

 私はモー乳を飲んでいたカップを置いて答える。

 

 「私はこの先どれだけ生きるか分からない。生きる事に飽きるような事にならないように世界を私が想像しないような方法で面白く出来る存在を探しているんだ」

 

 「それが小さき者……人類だと?」

 

 「実際に私は人に紛れ生活して来た。人は進化している、きっとこれからも進化するだろう。そして新たな物を生み出すかもしれない、私はそれを見るのが楽しい」

 

 「我には分からんな……」

 

 「長く生きるのなら一度くらい人と暮らしてみるといい。何か見つかるかもしれないぞ?」

 

 「我の気が向けばな」

 

 私が薄く微笑んで言うと、彼女は顔を背けて言う。

 

 

 

 

 

 

 それから数日後、私はまだクログウェルの住処に居た。

 

 ある日外に出ていたクログウェルが戻って来て質問して来る。

 

 「気になったのだが、我の言葉が分かったのはどうしてだ?そういった能力があるのか?」

 

 「それは翻訳魔法だな、私が作った魔法だ。それをかけっぱなしにしていたから分かったんだ」

 

 「ほう、そんな物があるのか」

 

 「お互いにある程度の知性が無いと効果が無いが、便利だぞ」

 

 「我にその魔法を教える気は無いか?」

 

 「構わないが……お前も魔法使っていたよな?見た感じ同系統だと思うがそこの所はどうなんだ?」

 

 「我の使う魔法は元素魔法だが、確かに貴様が使っていた魔法も同じ物を感じたな……名前何と言う?」

 

 「名前は……」

 

 水魔法や火魔法と言っていたが全体の名称はつけていなかったような?……いや忘れているだけか?

 

 「どうした?」

 

 「確認してみる、待ってくれ」

 

 不思議そうな声色で言ってくる彼女に待って貰い念話をつなぐ。

 

 『ミナ、聞こえるか?』

 

 『どうしたの?まだ一か月も経ってないわよ?』

 

 ミナの意外そうな声が聞こえて来た。

 

 『確認したい事があってな、お前達は魔法の事を何と呼んでいる?』

 

 『何と……?属性魔法かしら?』

 

 聞いても思い出せない、人類が決めたのか。

 

 『ありがとう、まだ戻らないから頼むぞ』

 

 『分かったわよ、またね』

 

 「こちらでは属性魔法と言うらしい」

 

 私は不思議そうな表情で待っていた彼女に答えた。

 

 「今聞いたような言い方をするな?」

 

 「ああ、人の町に住んでいる友人から聞いていた」

 

 「どうやって聞いている?」

 

 「念話と言う物があってな」

 

 私は簡単に任意の人物と遠距離でも会話出来る事、大気中の魔力に影響される事などを説明した。

 

 「我にそれも教えろ!」

 

 「構わないがお前は私に何が出来る?まさかただ教えてくれとは言わないよな?」

 

 「なっ!?あたしは数千年生きるドラゴンよ!?」

 

 ……今あたしと言ったか?

 

 「私の方がお前より長く生きているし強い。その名前も私が付けた物だが」

 

 「教えろ!教えなさいよー!」

 

 何だこいつは。

 

 力を見せた時もおかしくなっていたが、今までの口調と雰囲気は、態度はどこへ行った?

 

 「おいクログウェル。今までの口調と態度はどこへ行ったんだ?お前もしかしてそっちが素なのか?」

 

 「そんな事は無い。我は我だ……どうすれば教えてくれるのだ?」

 

 軽く流して話を進める彼女、まあ触れられたくないなら見逃してやろう。

 

 「そうだな……お前の素材が欲しい。後は体を調べさせろ」

 

 「二つも要求があるのか……?」

 

 「翻訳魔法と念話だ」

 

 「調べるのはともかく体の一部は……」

 

 私は特に吹っ掛けるつもりは無いがお前が教えて欲しいと言って来たんだ。

 

 「お前から直接取ろうとは思って無いぞ。例えば歯が抜け変わったり鱗が自然に剥がれ落ちたりしないのか?」

 

 それが無いなら痛くないように魔法を使って剥ぐしかないが、どうだろう。 

 

 「おお!それならたまにあるぞ!」

 

 「それで十分だ、貰っていいか?」

 

 「うむ、我の寝所に散らばっているから持って行くといいぞ。放置しておいて正解だったな!」

 

 嬉しそうな声で言う彼女、掃除をしてなかっただけじゃないのか?

 

 「素材はこれでいいな。後は魔法を教えるからその後ゆっくり体を調べさせてくれ」

 

 「うむ、構わんぞ」

 

 

 

 

 

 

 元々魔法の熟練者であった彼女は魔法を教え始めて僅か一週間で翻訳魔法と念話を覚えた。

 

 彼女だけなのか竜族全体の特徴なのか、どちらにしても私が教える時間は一週間で終わる事になった。

 

 「じゃあ今日からはお前の体をじっくりと調べさせて貰うぞ」

 

 「我はどうすればいいのだ?」

 

 「特に何もしなくていい、寝ていてもいいぞ」

 

 「そうなのか、簡単なのだな。では貴様の言う通り寝ている、終わったらそのまま放っておいて構わん」

 

 「分かった、お休み」

 

 そう言うと彼女は目を瞑り眠り始めた。私は彼女の鱗や角を触ってみる……鱗は堅い感触だが柔軟性もある、角は弾力は無くただ堅い感じだな。

 

 私は眠る彼女の巨体を隅々まで調べ始めた。

 

 

 

 

 

 

 彼女の体を調べて共に暮らして過ごしているうちに約一年が経った。

 

 転移があるので何かに夢中になって時間を忘れたりしなければどこにでも顔を出す事は出来る。

 

 外に出たのは少し前にミナにルーテシアの進学祝いに顔を見せて欲しいと頼まれた時が最後だったか。

 

 ルーテシアはしばらく見ない間に大きくなっていた。

 

 時間を空けるとはっきりと違いが分かるな。

 

 クログウェルの事はそれなりに分かった。現在までの内容から簡単に言うと彼女の基礎能力は人類や他の魔物など相手にならない高さだった。

 

 彼女だけなのか竜族が生まれながらに強いのかは分からない。

 

 彼女に聞いてみたが今まで苦戦した相手は居ないと言っていた。

 

 その中には彼女に何となく似ている者が一匹だけ居たらしいが、逃げてしまったようだ。

 

 異常なほど強かったルセリア王……アドルもあくまでも人の中での話だった。

 

 種族の差は大きい。この差を人間はひっくり返せるだろうか?何の準備もしないで彼女に喧嘩を売ったら恐らく全滅だろう。

 

 亜人種の国は分からないが人間の国はな。王とその母はまともに見えたが、国民は何故ああなったのか。

 

 暮らしていた時に聞いておけばよかったか。

 

 

 

 

 

 

 彼女の住処に住んで日々を過ごしていたある日、私はクログウェルと会話をしていた。

 

 洞窟の外は雷雨が降っていて時々雷の音が聞こえる。

 

 「クログウェルの食事は周囲の魔物を取って食べているのか?」

 

 洞窟の一部の地面に家を作り、庭にクログウェルと話すためにソファとテーブルを用意した私は横たわる彼女に問いかける。

 

 「そうだ、だが我はそこまで多くの食料を必要としない」

 

 「全く必要無いという訳では無いのか?」

 

 「そうだな、ある程度の量で大分長く持つが、間違いなく腹は減るな」

 

 「つまり食事以外の方法でその巨体を維持出来ている訳だな……」

 

 「きょっ!?巨体とはなんだ!あたしはそんなにデカくない!」

 

 地面に下していた頭を持ち上げて叫ぶ彼女、急に切り替わるように話し方が変わるのは見ていていて面白いな。

 

 「ああ、お前が太っているという訳では無い。竜族的にはそうであっても他の者から見れば十分に大きい生物なんだよ、お前は」

 

 「ああ……んんっ……我もそれぐらいは分かっていた、だが巨体はやめろ」

 

 「じゃあなんと言えばいい?」

 

 「ん?……美鱗の引き締まった体……とか?」

 

 「長い、普通に体でいいな。大きい表現を使わなければいいんだろう?」

 

 「……まあいいだろう」

 

 

 

 

 

 

 ある日の夜、私は夕食を作っていた。周りには明かりをつけている、私には必要ないが一応な。

 

 「貴様はいつもそうやって何かをしてから食べているな」

 

 スープを作り、ステーキを焼いているとクログウェルがやって来た。

 

 「料理と言ってな、こうする事で美味しく食べる事が出来るんだ」

 

 「それほどに違うのか?」

 

 「違うな。私も昔調味料を使って食事をした時には衝撃を受けた」

 

 獲物を殺して生で食べるだけだった頃は気にしていなかったが、料理の力は侮れない。

 

 「ふーむ……しかしそんな量では腹の足しにならんな」

 

 「あまり食べなくても平気なら何とかなるんじゃないか?」

 

 「それでも流石にそんな量では足らん……我が獲って来た獲物を料理する事は出来んのか?」

 

 「じゃあ今度食事をする時、食べずにここに持って来い。簡単な料理になるが違いははっきり分かるはずだ」

 

 「おお、いいのか?では明日にでも獲って来よう!」

 

 彼女は尻尾を揺らして言う、結構気になっていたのかもな。

 

 

 

 

 

 

 翌日の朝早く獲物を探しに行ったクログウェルは昼前に戻って来た。

 

 両足で大きい魔物を掴み洞窟の入り口に着地すると手で引きずりながらこちらにやって来る。

 

 「獲って来たぞ、さあ料理を作るのだ!」

 

 「分かった」

 

 巨大な串焼き設備を作り準備はしてある。

 

 彼女が取って来た魔物は頭が二つあるヤギのような牛のような……良く分からない大きな魔物だ。間違いなく五メートル以上はある。

 

 今回の調理は大変では無い。適当な大きさに切り分けて串焼きにするだけだ、骨なども食べられるようだが頭や太い骨などは取り除いて切り分けて行く。

 

 「おお、よく分からんが手馴れているな」

 

 そばで見ている彼女が感心したような声を上げる。

 

 「今回は単純に塩を振って焼くだけだ。人と比べるとお前の食べる量は多いからこれが楽だ」

 

 「量を多く作ればいいのではないか?」

 

 「面倒だ」

 

 「ぬう……」

 

 大きい調理器具でまとめて……という方法なら出来るだろうがそこまでやる気は無い。

 

 切り分けた肉に塩を振り、金属製の串に刺して焚火にかけて回す。

 

 しばらく回していると次第にいい香りが広がり始めた。

 

 「むぅ……いい香りがするぞ……」

 

 彼女は鼻先を肉に近付けて鼻を鳴らす。

 

 「まだだ、肉が大きいからしっかり焼かないとな」

 

 「分かった、待つ……」

 

 顔を引っ込めて伏せる彼女。小さい子供の面倒を見ているような気分だ。

 

 そしてじっくりと火を入れて行くと肉からこぼれる油が焚火に落ち始める、そろそろ大丈夫か。

 

 私は用意しておいた石の大きな皿に肉を下ろし串を抜き、彼女の前に置いた。

 

 「魔物肉の塩焼きだ、食べてみろ」

 

 「うむ……では食べてみよう……!?美味しい!なにこれー!今までの肉はなんだったのー!?」

 

 彼女は言葉を崩しながら一気に食べる、私はその声を聞きながら次の塊を焼く。

 

 「おかわり!」

 

 元気に次を要求する彼女は見た目は大きな竜だが何故か小娘に感じてしまう。

 

 「まだ焼けてない、もう少し待て」

 

 「えー……?」

 

 「このまま食べるなら食べてもいいぞ?」

 

 「……待つ」

 

 不満そうな声を上げる彼女にそう言うと大人しくなる。

 

 一度食べてしまったからには彼女は今までの食事では我慢出来ないかもしれない。

 

 そして次々と焼いた魔物肉を平らげて、獲って来た魔物を完食した。

 

 「ふー。我は満足だ……次も頼むぞ?」

 

 伏せて料理の余韻に浸る、彼女が言う。

 

 「断る。後は自分でやれ」

 

 「なんで!?」

 

 彼女は頭を勢いよく上げて叫ぶ。

 

 「なんで私がお前の面倒を見なければならないんだ?私は頼まれたから一度だけ頼みを聞いてやっただけだ」

 

 「そんなー!?あの味を知ったらもうそのまま食べられないわよー!?」

 

 「おい、その体格ですり寄ってくるな」

 

 彼女の体の大きさでされたら潰される、平気だがやられたいとは思わない。

 

 「うう……もう食べられないなんて……」

 

 落ち込む彼女だがそんなに絶望的ではないと思う。

 

 「自分で出来るようになればいいだろう、教える事なら引き受けてやる」

 

 「出来るかなぁ……?」

 

 「火は魔法でも構わないし、最低でも皮と骨と内臓を取り除いて塩を振って焼く事が出来ればそれなりの味にはなる。より美味しく焼くには相応の経験と技術が必要になるが、それはその気になった時にやればいいだろう」

 

 「やってみる……」

 

 「そうか、ではまた食事をする時に持って来い。最低限の事だけでも出来るように教えてやる」

 

 私がそう言うと彼女は頷いた。

 

 

 




 ドラゴンは出したかった。

 美鱗は「びりん」と読みます、美肌的な意味合いとして使いました。

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