少女(仮)の生活   作:YUKIもと

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 主人公はどうして○○をしないの?や、××の事忘れていないか?といった部分があった時は、作者が忘れて居たり、そこまで考えつかなかったと言う事なので、仕方ない作者だな、とスルーしてください。

 この作品の注意事項

・作者の自己満足

・素人の作品

・主人公最強

・ご都合主義

・辻褄が合わないかもしれない設定

・注意事項が増える可能性

 等が含まれます。

 以上をご理解したうえでお読みください。

 読者の皆さんの暇潰しの一助になれば幸いです。


006

 私は目を開ける。感覚としては全く時間は過ぎていないのだが上手く行っていれば……。

 

 すぐに入っていた魔法金属の箱を開けて外に出る、何も起きていないのなら外は海底のはずだ。

 

 ……私は間違っていなかった。

 

 そこで目にしたのは海底を埋め尽くす多種多様な生物や植物、海中にも様々な種類の魚の群れが行きかう命に溢れた海の姿だった。

 

 陸に行こう。私はすぐに意識を地上へと切り替えた。

 

 魔法を使い魚の群れを突っ切り海上へ向かう。すぐに明るくなり始め海上へと到達すると、陸へと向かう。

 

 これなら知的生命体が居るかもしれない。

 

 陸へ向かう途中にも様々な鳥が飛び交い、岩場で羽を休める群れを見かけた。

 

 そして陸地についた時私は空にも大地にも息づき溢れる生命の音を聞いた。

 

 「くっくっく」

 

 思わず笑っていた。

 

 恐らく初めてハッキリと笑ったと思う、やはりまだ生命は進化の途中だったのだ。

 

 ようやく世界に生命が溢れた……きっと人と呼ばれるような者達も……根拠なくそう考えてしまう。

 

 また世界を見て回って色々集めたいが、まずは知的生命体を探してみたい。

 

 もし居るならきっと川沿いなどに居るはずだ。

 

 何よりもまず優先すべきは意思疎通のできる相手だ、私はそのまま川を探しに飛び始めた。

 

 

 

 

 

 

 ……あれは村か?

 

 川を見つけ、それに沿って探していると明らかな人工物が集まっている。

 

 すぐさま向かいたいが最初の接触だ、慎重にしなくてはならない。

 

 見えないように遠くに降りて徒歩で接触しよう。

 

 遠くに誰かが数人隠れているな。

 

 降りた所から離れた場所に何者かが居る、狩りをしているのだろうか。

 

 行ってみるか、いきなり村に乗り込むより良いかもしれない。

 

 私は隠れている者達に方へ歩き出した。

 

 隠れている場所が目に入る距離になると、突然5人の人類が飛び出してきた。

 

 知識にある人類にそっくりだ……。

 

 私が初めての人類に喜んでいると、その中の一人が声を上げた。

 

 「*******!?」

 

 「……ん?」

 

 声を上げた彼は理解不能な言葉を叫んでいる。

 

 「……ああ」

 

 私は思わず声を洩らす。言語の違いの可能性を全く考えていなかった、何を言っているかわからない

 

 「*!?******!?」

 

 彼は石の槍と思われる武器を構えながら更に声を上げている。

 

 「あー、私は敵対するつもりはない、わかるか?」

 

 「**********!?*****!?」

 

 できるだけ刺激しないように静かに語りかけるが、その時声を上げていた男の右側に居た男が、槍で空を指しながら声を上げた。

 

 「*******!!」

 

 それを聞いた途端、五人全員が槍を構えた。

 

 「これはもしかして……空を飛んでいるのを見られたか?」

 

 彼らは私を取り囲みじりじりと近寄ってくる。

 

 「折角見つけた人類だ、殺したくはないな」

 

 全員が飛びかかってきた瞬間、魔法で強風を起こし吹き飛ばす。

 

 「**!?」

 

 「悪いが効かなくともわざわざ攻撃を受ける気はない、殺しはしないが大人しくしてくれ」

 

 「***……***!?」

 

 彼らは驚愕の表情を見せ何かを呟くと、突然逃げ去って行った。

 

 上手く手加減出来てよかった。

 

 ただの強風とはいえ少し加減を失敗すると辺りの木々ごとなぎ倒す羽目になるからな。

 

 仕方ない、近場に家を建てゆっくり馴らしてみよう。

 

 こうして手ごろな場所に家を建てるため歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 人類との初接触の後家を建ててから数日後、村の様子を見ようと近くまで来たとき感知に数人の人の反応があった、何かを探しているような動きをしている。

 

 狩りか?いや、数日前に私とぶつかった場所の近くだぞ……さすがにそれは無いと思うが。

 

 もしかして私を探しているのか?違うかもしれないが遠くから姿を見せてみるか……違うのならまた逃げるだろう。

 

 「*****……」

 

 私が姿を現すと三人の男が地面にひれ伏し、一番前に居る他の者より装飾の多い男が何か言っている。

 

 どういうことだ?

 

 先日襲い掛かってきた反応とのあまりの差に困惑していると、一番後方に居る少女が前に出てきた。

 

 「*******……」

 

 少女は着飾り、白い髪と赤い瞳そして白い肌をしていた。

 

 少女は何かを言うと私の近くまで歩み寄り、膝立ちになり首を垂れる。

 

 この少女……。

 

 彼女は病気だ、恐らく長生きできないだろう。いや、それもだがもしかしてこの状況は。

 

 生贄か?

 

 大方あっているだろう。

 

 数日前の出来事が原因で私を超常の何かと勘違いし、病気で体が弱い彼女を……いやそこまで理解していない可能性が高いな。

 

 恐らく珍しい見た目の彼女と引き換えに許しを請うつもりなのではないだろうか。

 

 どうするか。

 

 これを断って彼女が無事でいられる保証はない、むしろ私に拒否された供物として処分されるかも知れないな。

 

 私は話し相手が欲しい、彼女を救い傍におこう。

 

 言葉は後で何とかすればいい。

 

 私は暖かく穏やかな風を起こしながら、彼女の足元にマジックボックスの入り口を開けて飲み込む。

 

 その瞬間残された男たちの体が震えた。

 

 「確かに受け取った」

 

 私は出来るだけ穏やかに声を上げるとゆっくりと空に浮かび、彼らから見えなくなるまで飛んだ。

 

 まさか人類に会っていきなり崇められる羽目になるとは。

 

 まずは彼女をどうにかしなければ、私は温泉と食事の用意をしながらこの後の事を考えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 風呂と食事の準備を終え、リビングで彼女を取り出す。

 

 「****……?」

 

 彼女は困惑したように顔を上げた。彼女からしたら突然風景が変わったのだ、困惑するのも当然か。

 

 「*****!?」

 

 しばらく呆然としていた彼女だが、私に気が付くと床にひれ伏し何か言っている。

 

 「大丈夫だ、殺したりはしない」

 

 私は優しく声をかけそっと彼女を立たせる、彼女は困惑した顔をしながらも従ってくれた。

 

 「温泉にはいろうじゃないか」

 

 ゆっくりと手を引き風呂場へ連れて行く、彼女は抵抗するつもりはないようでされるがままだ。

 

 風呂場に入り自分の服を霧散させ彼女の服を脱がせる、彼女は寒いのか細かく震えている。

 

 「おいで」

 

 湯の温度は低めにしておいた。

 

 彼女にゆっくりと湯をかける。彼女はびくりとはねた後、目を見開いて体を流れる湯を見ている。

 

 「目を閉じないと痛いぞ」

 

 そっと目を閉じさせて頭にも湯をかける、しっかりと彼女の汚れを落とした後に私も湯をかぶる。

 

 「入ろうか」

 

 どこかぼんやりしている彼女を湯舟に入れる、顔を見る限り嫌ではなさそうだ。

 

 しっかり温まった後魔法で体を乾燥させ、私が作り出したおそろいのワンピースと下着を出した、知識にある物だ、私も最近付け始めた。

 

 「次は食事だ」

 

 私は手をつないだまま声をかけると、食事の準備をしておいたリビングに戻る。

 

 椅子に彼女を座らせ室内で食材を焼き始める。

 

 安全で美味しかった物だけを焼いているからどれかは口に合うだろう。

 

 彼女を見ると私の焼いている食材を見ている、お腹はすいているらしい。

 

 その姿に私が微笑むと、彼女はサッと視線を下に移し白い頬を赤く染めた。

 

 笑われたのが分かったのか?

 

 「食べると良い」

 

 そう言って手本に一つかじって見せる、串を手渡すと私をまねて一口食べる。

 

 彼女は驚いた顔をした後、一心不乱に食べ始めた。

 

 「気に入ったようだな」

 

 顔を赤く染めながらも食べるのを止めない彼女を見ながら、私も一口肉をかじった。

 

 

 

 

 

 

 言葉が通じないからな、聞こうにも聞けないから勝手にやってしまおう。

 

 もともと私に捧げられたんだ、健康になるなら文句は無いだろう。

 

 食事を終えた彼女は不安そうに私を見ている。

 

 万能薬では治せないか。

 

 薬を飲ませてみたが効果はなかった……予想はしていた。

 

 薬の力が足りないのではない、万能薬は異常を治す薬、つまり通常に戻す薬だ。

 

 彼女の病気は生まれつきの物。つまりこれが通常状態だ、異常だが異常ではない状態が今の彼女。

 

 彼女の通常状態を創造魔法で本来の健康体に戻す、実際に行うのは初めてだから悪く言えば実験体だな。

 

 数日間食事を与え薬を飲ませ、十分に睡眠をとらせて体力を回復させる。

 

 十分に回復したと判断した私は、ベッドに座る彼女の前に立ち通じないと分かった上で話をする。

 

 「今からお前の体を健康体に戻す。どんな影響があるか分からないがこのままではお前は長くは持たない……分かるか?」

 

 彼女は最初の怯えが無くなった。

 

 対応がよかったのか私を信じ切った顔をしている。

 

 数日でこの変わりようはおかしくないか?彼女が助かったら今後が心配だ。

 

 「******************」

 

 彼女は穏やかな顔で何かを話すと、柔らかく微笑んだ。

 

 失敗はしたくない物だな。

 

 私は彼女を眠らせベッドに寝かせる。

 

 さて……治してみようか。

 

 私は魔力と魔素を高めて治療に入った。

 

 

 

 

 

 

 治療は終わった。

 

 これで体は健康体になり、もう病気になる事も無い。

 

 寿命も延びているはずだ、100年程は生きる事が出来るだろう。

 

 実験体になってくれたこの娘へのせめてもの報酬だ、余計な事かもしれないが。

 

 しかし……完全な成功では無いな。

 

 彼女の髪は私のように黒く染まり、肌も少し白さが減って瞳も黒くなっている。

 

 生まれつき病気の彼女の本来の色は分からないが、私の魔力に侵されて変色した可能性がある。

 

 色が白かった時は分からなかったが人懐っこい顔をしているな。

 

 変わった色に納得すればいいが。

 

 私は彼女の睡眠を解除する、しばらく経つと彼女は目を覚ました。

 

 「*、*****?」

 

 彼女は寝ぼけているのか何かをぼんやりと言っている。

 

 私は錬金で作った大きい全身鏡を取り出し彼女の前に置いた。

 

 「**!?……******?」

 

 彼女は鏡を見て逃げ腰になったが、鏡に映る姿が自分だと気が付いたようだ。

 

 「**……**********……」

 

 彼女は鏡を見ながら髪を撫で、泣き始めた。

 

 嫌でもこの色で生きてもらうしかない。いや……変えられるかもしれないな。

 

 自殺しそうだったらやってみようか。彼女は鏡の前で泣き崩れ、やがて泣きつかれて寝てしまった。

 

 私の物になったんだ、勝手に死なれては困る。

 

 実験とはいえ手間をかけて治療した訳だからな。

 

 その結果を生きて確かめて貰わなくては、勿論彼女が幸せならなお良いが。

 

 

 

 

 

 

 生贄の少女が泣きつかれ眠りに落ちてどれだけ経っただろうか。

 

 明るかった外が暗くなった頃、彼女が起きた。

 

 「良く寝ていたな。取り合えず風呂に入って食事にしよう」

 

 風呂に入って食事をとれば生きる希望も湧くかもしれない、手を取り風呂場へ向かう。

 

 「あり……がとざいます」

 

 今、少し変だが「ありがとうございます」と言ったか?

 

 「私の言葉が分かるのか?」

 

 「え……え!?わ、わた……なん……で」

 

 「落ち着け。ゆっくり話してみろ」

 

 「はー、わ、た、し……わかる……な、で」

 

 心当たりは治療位しか無い。

 

 何故かは今は分からないが後で調べよう。

 

 「分かるなら手間が省けた。風呂に入って食事にするぞ、ついてこい」

 

 「は、はい……」

 

 私は風呂場に向かって歩き出した、彼女も困惑しながらついてくる。

 

 体を流し二人で風呂に入る。しばらく沈黙が続くが彼女が意を決したように話しかけてくる。

 

 「あ、あもぉ……あぅ」

 

 「焦るな。しっかり聞いている……慣れるまでゆっくり話せ」

 

 彼女は私の言葉を聞くとゆっくりと話し始めた。

 

 「ききたいこと、あります……あの」

 

 「大丈夫だ、聞きたい事は後でしっかり答えてやる。今はゆっくりしろ、気持ち良いだろう?」

 

 「はい……きもちい、いです」

 

 「そうか。もうしばらく私はここにいるが辛くなったら上がっていいぞ」

 

 「おとも、いたし、ます」

 

 「言葉を話せるようになったとたん硬いなお前は。数日前は食事を詰め込みながら顔を赤くしていたと言うのに」

 

 「う……うう……」

 

 彼女は温泉で火照った頬をさらに赤くして俯いた。

 

 

 

 

 

 

 風呂から上がり食事をした後、リビングで話す事にした。

 

 ちなみに彼女はいつもよりも更に大人しく食事を食べていた。

 

 「さて、落ち着いた所でまず名前をお互い名乗ろうか。私はクレリア・アーティアと言う、クレリアでもアーティアでも好きに呼ぶと良い」

 

 「ンミナと、いいます、クレリアさま」

 

 「様は……まあいい。ではンミナの質問に答えよう、分かる事なら答えてやる」

 

 「……えと、なぜワタシをけんぞくにしてくださったのですか」

 

 「眷属?」

 

 「はい、かみとひとみ、クレリアさまとおなじ、あなたのけんぞく」

 

 「眷属かどうかは知らんが……ンミナ、お前の体を治す時に私は魔法を使った。その影響だと思っている」

 

 「まほう?……からだを、なおす?」

 

 「実際に見た方が早いか、こういった力の事だ」

 

 私は人差し指を立て水球を作り出した。

 

 「ひゃっ!?」

 

 驚いた彼女が軽く飛び上がる。

 

 「使い方を間違えなければ危険は無い。触ってみろ、冷たいし飲む事も出来る」

 

 「つめたい……」

 

 恐る恐る水球に指先を触れて呟くンミナ。

 

 「これは魔法で生み出した水だ」

 

 「魔法の……水……」

 

 ンミナは目の前の水を見つめている。

 

 どうやら彼女達は魔法を知らないらしい。

 

 「魔法は扱いを間違えなければ、非常に汎用性の高い技術だ」

 

 彼女は目の前の水に気を取られているようで、反応が鈍い。

 

 まだ話が残っているから水は消すか。

 

 「お前の体の治療ついて言っておく事がある」

 

 水を消し、私がそう告げると、彼女はこちらを見た。

 

 「からだどう、なっているのですか?」

 

 「お前の体は私が治した。お前はもう病気にならないし、長く生きる事が出来る」

 

 「からだ、つら、くない?」

 

 彼女は体が楽な事に気が付いたようだ。私の言葉を理解し涙を流した。

 

 「さて続きだ、私はお前を了承も得ず一方的に治した訳だが、言いたい事はあるか?」

 

 ンミナが泣き止んだ所で私は彼女に問いかけた。

 

 勝手に治したのだ、言いたい事があるなら聞いておかなければ。

 

 「ありがとう、ございます……クレリアさまが、おゆるしくださる、なら。おそばに、いたい、です」

 

 私としては関わりを持ち、稀に話し相手になってくれればよかったのだが。

 

 この感じは一緒に住んでずっと傍に居そうだ。

 

 嫌では無い、この娘は嫌な感じがしない。

 

 「たまに私の話し相手になってくれればお前にそれ以上何かを求めるつもりは無い、帰りたければ帰っても良い。体はもう問題無いんだ、普通に暮らせるぞ?」

 

 「おそばに、いたい、です」

 

 「そうか。好きにすると良い」

 

 彼女が住むとなると多少家を改装しないとな、さっさとやってしまおう。

 

 

 

 

 

 

 ンミナが私の家に住み一か月程が経った。

 

 彼女が住む為に部屋を増やしトイレを作り、家の周りに私が許可した物以外入れないように魔法をかけた。

 

 彼女は知らないが彼女自身にも防御魔法と一定以上の危険な攻撃を受けた時、私の元へ移動する魔法をかけた。

 

 死なれては困るからな。

 

 「クレリア様、温泉に入りましょう?お体をお流しいたします」

 

 リビングで備忘録を整理している私にンミナが声をかけてくる。

 

 彼女は何処かおかしかった言葉も問題が無くなり、普通に話せるようになった。

 

 以前の言葉も使えるので私は彼女達の言語も覚えた。

 

 これで村の連中とも話せるだろう。

 

 「分かった、今行く」

 

 「はい、準備をしてお待ちしています」

 

 ンミナと共に暮らした事で、私は今まで気にしていなかった事を気にするようになり始めた。

 

 正確には私に必要無かった事を気にするようになったと言うべきか。

 

 料理やトイレの為の魔法や魔道具、錬金と魔法を組み合わせた衣服の作成、石鹸や洗剤を作るようになった。

 

 初めて出会った彼らが石の槍だった事を考えると私達はかなり高い生活水準のはずだ。

 

 風呂場へ向かうとンミナが待っていた。

 

 彼女はすっかり健康体だ、食事や睡眠もたっぷり取っているため元気が溢れている。

 

 彼女は毎日私の世話をするため魔法の勉強や家事の練習をしている。

 

 家事の方はもう任せられる程に上達したので任せているが、魔法の勉強はかなり苦戦している。

 

 それでも私の補助を受けながら少しづつ上達している。

 

 「クレリア様、こちらへどうぞ」

 

 風呂場の椅子に座るとンミナが石鹸を手で泡立てる。

 

 良い香りのする花や香草の匂い付きだ。

 

 始めは見る物全てに驚くばかりであった彼女も、今ではすっかり慣れたようだ。

 

 一か月と少しで慣れる事が早いのか遅いのかは分からないが。

 

 「今日の夕食は赤ウサギの塩焼きとヒヨリ茸と香草のスープにフル瓜ですよ」

 

 手で私の体を洗いながら夕食の内容を教えてくれる、本当に色々上達した物だ。

 

 「料理が大分上手くなったな、僅かな期間でここまでになるとは思わなかった」

 

 ンミナは慎重に私の体を洗っている。

 

 そこまで繊細に扱わなくても良いと言った事があるが、私にそのような事は出来ないと言うので好きにさせている。

 

 「頑張りました。それに苦痛なく自由に動く体が嬉しくて、なんでもやりたいのです」

 

 石鹸を頭髪用に切り替えて丁寧に洗ってくれる、中々心地いい。

 

 「そうか。お前の好きにすると良い、私も楽が出来るからな」

 

 泡を洗い流された私は先に行く事を伝えて浴槽に向かう。

 

 彼女は嬉しそうに返事を返し、自分を洗い始めた。

 

 一人だった頃も十分楽しいとは思っていたが……。

 

 浴槽につかりながら思う。

 

 意思の疎通が出来る誰かとの生活は良い物だ。そのうちまた一人が恋しくなりそうな気もするが、彼女が死ぬまでは此処に居よう。

 

 「失礼いたします」

 

 「くくっ、その硬さは今後の課題だな」

 

 「そ、それは……いえ、頑張ります!」

 

 「無理に直さなくても良い、それもお前の良さだ」

 

 「あ、ありがとうございます」

 

 私達は他愛ない話をしながらゆっくりと温まった。

 

 

 

 

 

 

 「神の巫女、ンミナ様!私達をお助けください!」

 

 目の前でひれ伏す族長、戸惑いながら私に伺うような顔を見せるンミナ。

 

 また何かあったのだろうか。

 

 彼女と共に暮らすようになって五年、彼女はそれなりの魔法を覚えた。

 

 二年ほど前に村と関わりを持つためにンミナに向かわせた際、彼女が数年前に私に……つまり神に生贄に出されたンミナである事が村人にばれた。

 

 更に私と似た黒髪黒目になっていた事が原因で神の眷属、巫女として崇められ何か有事の際に頼られるようになった。

 

 それ以来村人にとっては遠いであろう私達の家に供物と共に使者が訪れ、稀にこうやって何か頼み込まれる。

 

 初めて会った五人以外に会って居ないはずだが何故か全員に私は恐れられるため、使者と会うのはンミナだ。

 

 私は魔法で見えないようになった上で話を聞いている。

 

 ンミナには私が何処に居るか教えてあるためこちらを見ているようだ。

 

 『聞くだけ聞いてみよう。下らない事なら帰らせろ』

 

 話すとバレるため、開発した念話でンミナに指示を出す。

 

 「神の代理、巫女としてお聞きしましょう」

 

 彼女は指示に従い話を聞く事を了承する。

 

 正直普通に隣人として関わりたかったが、彼らの崇めっぷりが凄まじくどうにもならなかった。

 

 力で無理やり直そうとしてもその力でまた崇められそうだしな。

 

 洗脳は出来るだけしたくない。

 

 そんな事を考えている間にも会話が進んでいる。

 

 まとめてしまうと、強めの魔物が村の近くに住み着いてしまったようだ。

 

 彼らに返事は後日と伝え帰って貰い、ンミナに問う。

 

 「今まで同じような事があったらどうしていたんだ?」

 

 「戦える者全員で犠牲を出しながら殺すか追い払っていました。強力すぎる場合は村を捨てて逃げる事もあったと聞いています」

 

 なるほど村人が減れば村の力が衰える。減りすぎたら全滅だ、村を捨てるのも一つの手なのか。

 

 ならば頼れる者が居れば頼るのも当然か。

 

 「今回は魔物が強力過ぎたから頼んできた訳か」

 

 「恐らくは」

 

 彼女の戦闘訓練に丁度いい、今までと同じように相手になってもらおう。

 

 「ンミナ、やれるか?」

 

 「はい、お任せ下さい」

 

 真剣な顔で答えるンミナ、私達は使者から聞いた目撃場所に飛んだ。

 

 「見つけました」

 

 目撃された付近の森を魔法で索敵していたンミナが声を上げた。

 

 「今更だが炎の魔法は使うなよ」

 

 周囲は森だ、火事になるからな。

 

 「はい」

 

 現場に行くと大きな虎のような魔物が歩いていた、今回はどうするか。

 

 「今回は不意打ちは無しだ、奴の前に出てから殺せ」

 

 常に不意打ち出来る訳ではないからな、一発勝負なら迷わず不意打ちだが。

 

 今回は私が居る。

 

 私が空から見守る中、ンミナが魔物の前にわざと姿を晒す。

 

 そして互いに戦闘態勢になる。

 

 「グゥウウゥ……」

 

 低いうなり声をあげる魔物、様子を見ているようだ。

 

 先手を打ったのはンミナだった。

 

 「ウィンドブレード」

 

 不可視の刃を飛ばすが、魔物は見えているかのようにかわし突っ込んでくる。

 

 「アーススパイク」

 

 魔物の目前に土の錐が突き出す、発動が遅い訳では無いが奴のほうが早い、地面に錐が形成されるのを確認した魔物は方向を変えた。

 

 「くっ、アイスウィンド」

 

 吹雪を手から放出する、魔物の動きが鈍り体に霜が降りて行く、油断しなければいけるな。

 

 「いける、アーススパイクっ!?」

 

 吹雪を止め、アーススパイクを詠唱し発動しようとした瞬間魔物が飛びかかる……さてどうする?

 

 彼女は迷わず前に突っ込み飛びかかりを躱す。

 

 「アーススパイク!」

 

 突きあがった錐が魔物の胸を貫く。

 

 「ウウゥゥゥ」

 

 最初は暴れていたが、徐々に魔物の声が弱っていきやがて動きを止めた。

 

 「上出来だ」

 

 彼女の隣に舞い降りて声をかける

 

 「ありが、とう、ございます」

 

 体も魔力もそこまで消耗していない筈だが、命のやり取りは精神を削るらしいからな。

 

 「大分強くなったな、これなら身を守るには十分だ」

 

 「まだまだ、頑張るつもりです」

 

 さらに強くなろうとする気持ちを持つのは良い事だ、弱いよりは強い方が良い。

 

 「引き際は見誤るなよ。もしもの時は生き残る事だけを考えろ、私に申し訳が立たないなどと考えて無茶をするなよ」

 

 「勿論です」

 

 「村に殺した事を伝えて帰ろうか」

 

 「はい、クレリア様」

 

 

 

 

 

 

 「クレリア様今日の魔物の事でお話があるのですが」

 

 村に報告し家で風呂に入っている時ンミナが私に言う。

 

 「気になる事でもあったのか?」

 

 「はい……あの魔物ですがあの村でどうにか出来ないような相手では無いと感じました」

 

 「そうなのか?」

 

 「犠牲は出るでしょう、ですがわざわざ私達に頼むほどでは無いと思います」

 

 「私達を良いように使っていると?」

 

 「いえ、そこまで言うつもりはありませんが……このままだと少しずつ私達に頼るようになり、いずれなんでも頼みに来るのでは無いかと考えてしまいまして」

 

 「なるほどな。そうなったら見捨てればいい、何もかもやってやる気はない」

 

 「そうですね……その時はそうしようと思います。ただ、私は彼らの気持ちも分かってしまうので……」

 

 「彼らの気持ち?」

 

 「はい。犠牲が出る……誰かが一人でも死んでしまうなら自分がその中に入りたくない……他の何かに頼りたいと言う気持ちが分かってしまうのです。クレリア様に救っていただくまで私は辛く、いつ死ぬか分からない不安が付きまとう生活をしていました」

 

 「なるほどな」

 

 私では共感してやる事が出来ない、辛さも苦しみも死の恐怖や不安も感じた事が無いからな。

 

 私はンミナと居るのが中々に楽しいと感じている。

 

 村の連中にも少なくとも悪意を向けなければ酷い事をするつもりは無いが、悪意を持っていたり利用しようとする者には相応の報いを受けて貰う事になる。

 

 「あの村は生まれつき珍しい色をした、体も弱く村の力にほとんどなれなかった私を捨てずに育ててくれました。最終的には生贄に出されましたが」

 

 「今では神の巫女だが」

 

 「ふふ、そうですね……生贄に選ばれた時どこかで納得しました。誰かを犠牲にすることが避けられないなら被害は少ない方が良い。あの時、私が普通であったならかつての私を選んだでしょうね」

 

 「自分が一番大事なのは普通だろう。私だって友人や知人ならともかく、見知らぬ誰かの為に何かしてやる気はないぞ」

 

 「クレリア様は初めて会った私を救ってくださいましたが?」

 

 「私にも助ける理由があっただけだ。そうで無ければどうしていたかは分からない」

 

 「助ける理由ですか……もしよろしければお聞きしたいです」

 

 理由を知りたいというンミナ、隠す気も無いから構わないか。

 

 「話し相手が欲しいと思っていたからだ。お前の病気に気が付いて実際に治す練習が出来るとも思っていた」

 

 「私の病気を完治させてまで話し相手が欲しかったのですか?」

 

 「私としては時折かかわる程度でも良かったのだが、お前を捧げられたからな。無理強いはする気はなかったが傍におけるのならと思って受け取った」

 

 「ずっとお傍に居ますよ」

 

 彼女は柔らかく微笑んだ、しかし気になる事がある。

 

 「以前も言ったが、私がお前を勝手に練習台にした事に思う所は無いのか?上手く行くかも分からずあの時点で死んだり、更に酷い事になる可能性もあったのだが……」

 

 彼女は微笑みながら軽く首を横に振る。

 

 「何も思うことはありません。貴女は自分勝手に命を玩具にするような方では無いと、僅かな時間を共に過ごしただけで感じました。今なら分かります……あのままでは私はもう長く持たなかった。私の意志を確認しようにも言葉も通じない、だから貴女は私を勝手に治療した……後で恨まれても構わないと思いながら」

 

 瞳を閉じて思いを語る彼女。

 

 確かにあの時は意思を確認する時間は無かったな、意思の疎通が可能になる前に彼女の命が尽きる可能性の方が高かった。

 

 「クレリア様には感謝しかありません。私を健康な体に治し、素晴らしい環境と様々な知識と技術を教えて下さいました。私は一生貴女にお仕えいたします」

 

 私の瞳を見つめ、真摯な表情で語る彼女。娘とはこのような感じだろうか?

 

 「ありがとう、これからも共に暮らそう」

 

 「はい!」

 

 更に仲を深め、私達は他愛ない会話を始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 更に仲を深めてから一年後。

 

 手袋や靴を作り移動や作業の安全性が増した。

 

 正直作るのを忘れていたのだが、ンミナはとても喜んでいた。

 

 村との交流も増した。

 

 ンミナが強くなったため私の同行が必要無くなり、私の世話の合間を縫って、村人を魔物から助けたり怪我を治療しているうちに彼女は村に受け入れられた。

 

 敬われてはいるものの以前のようにひれ伏されるような事は無く、村で声をかけられるようになったようだ。

 

 更に彼女は私の使う言葉を村の人々に教え、その結果元々の言語はほぼ使わなくなり私の言葉が共通語になった。

 

 頻繁に村の役に立ち始めた途端扱いが変わったのは思う所があるらしいが、彼女も喜んでいた。

 

 そんな事ありながらも穏やかに過ごしていたある日。

 

 「求婚された?」

 

 「はい……」

 

 ンミナが結婚を申し込まれたらしい。

 

 彼女は19歳で、この村ではこの年まで結婚していないのは珍しい。

 

 大抵は15歳前後で結婚するようだ。

 

 しかし病気である事、13歳の頃に私に捧げられた事、更に私の巫女になってしまった事、それらが重なりそのような話は今まで無かった。

 

 「相手は誰なんだ?」

 

 「幼馴染です、現在は村の戦士長をしています」

 

 詳しく話を聞くと、彼は昔から腫れ物のように扱われていた彼女に変わらず接してくれていた男性の様だ。

 

 現在は18歳で戦士長という立場もあり、結婚を勧められていたのだが何故か頑なに断り続けていた。

 

 どうして断るのかとンミナが尋ねた所、ンミナがずっと好きだったらしく勢いで村の真ん中で求婚されたらしい。

 

 ンミナが病気で長くない事に苦しみ、生贄に選ばれたときは一番に反対して暴れ、巫女として戻った時は泣いて喜んだ様だ。

 

 「なるほどな。巫女の地位のせいで今まで言えなかったが、ンミナ自身に尋ねられた事で抑えられなくなったのか?」

 

 「私はクレリア様と共に在ります、残念ですが彼の思いには……」

 

 「ンミナ。巫女と言うのは結婚してはいけないのか?」

 

 「ただの巫女ならば問題なかったと思いますが、私は神の……クレリア様の力を受けた眷属ですから扱いがどうなるかは……」

 

 「彼の事が嫌いな訳では無い訳だな?」

 

 「それは……そうですが……昔から彼は私に良くかまってくれましたし、想いを聞いて嬉しく思いますが……」

 

 ンミナも良い感じだな、男の方もずっと想い続け操を立てているのは好印象だ。

 

 そして戦士長か、正直ンミナのほうが遥かに強いと思うが彼女より強い者など村に居ないしな。

 

 「神として命ずる。神の使徒である巫女はお互いに想い合っている男女に限り結婚し家庭を持つ事を認める」

 

 「ええっ!?」

 

 大声を上げて驚くンミナ、何をそんなに驚いている。

 

 「よろしいのですか?」

 

 「ん?嫌なのか?」

 

 「私はクレリア様のお傍で一生お世話を……」

 

 「結婚しても此処に住み時々家庭に行けば良いだろう。神の使徒と結婚しようと言うんだ、嫌でも納得して貰う」

 

 結婚は許すが私の世話から外す気はない。

 

 納得できないなら諦めて貰う、ンミナにも男にも。

 

 「てっきりもう私は必要無いのかと……」

 

 ンミナは心から安心した顔で呟く。

 

 「お前が嫌だと言わない限りそんな事はしない」

 

 そう言うと彼女は微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 それからはスムーズに事が進んだ。

 

 男を呼び出し決定した事を伝えた、彼は穏やかそうな中に逞しさを感じる男だった。

 

 答えが出るまで待つと伝えたが彼は即座に了承した。

 

 彼はンミナが神の眷属になった時点で独身を覚悟していたようで、彼女に理由を聞かれた時、想いだけでも伝えたかったと話した。

 

 こうして二人は結婚し夫婦となった。途中神の眷属と結婚するなど許されないと言う騒動が起きたが、私が収めた。

 

 こうしてンミナは時折村に戻り夫婦として生活している。

 

 

 

 

 

 

 そろそろ生まれそうだな……。

 

 妊娠したンミナが寝ている村の寝室に、私は姿を隠して待機していた。

 

 あれから一年半が過ぎ、二十歳になった彼女は妊娠した。

 

 後継の生産はこの村の夫婦の義務のような物だが、神の巫女であるンミナの妊娠は村にとって大きな出来事だった。

 

 私は万が一の事が無いように妊娠が発覚してから彼女に何があってもいいように魂のような物にも干渉出来る力を身に付けた。

 

 妊娠期間内に完成するとは私自身も思っていなかったが。

 

 彼女の子供にはもう魂が定着している、これならもう安心だろう。私の家で楽に産む事を勧めたが、生む辛さも母親としての試練だと断られた。

 

 私には全く理解出来ないが、彼女が必要だと言うのなら強要はやめておこう。

 

 まあ念のためこうして姿を隠し待機しているのだが。

 

 本気で隠れていないから彼女も何となく気が付いているかもしれないな。

 

 ……もう生まれるようだ、何もなければいいが。

 

 

 

 

 

 

 彼女の子は無事に生まれた。事前に私は知っていたが女の子だ。

 

 しかし出産とは凄いな、あんなに叫ぶンミナを初めて見た。

 

 死ぬのではないかと心配したが彼女の状態は問題無かった。

 

 今は赤子を抱き安静にしている。

 

 問題は無さそうだ。そう考え姿を消したまま部屋を出ようとすると、背後から声が聞こえる。

 

 「ありがとうございます……クレリア様」

 

 やはり気が付いていたようだ。

 

 「私は何もしていない」

 

 姿を消したまま静かに答えて、部屋を後にした。

 

 その後、流石に子供がいるのに私の家に居させる事は出来ないと考えた。

 

 父親を始め村人は神として崇める私の家に滅多に近寄らない。

  

 流石に子供から父親を奪う気は無い。

 

 暫くは村で親子三人で暮らすように伝えた。とはいえンミナは私の世話のため頻繁に来るそうだが。

 

 そして時々赤子の世話を手伝ったり、夫が居る事を知っていながらンミナに手を出そうとした男が私に処刑されたりした。

 

 

 

 

 

 

 子供が生まれてから三年程経った頃、報告がンミナに届いた。

 

 「複数の魔物に襲われた!?」

 

 ンミナが声を上げた。

 

 どうやら狩りの途中二匹の魔物に襲われ、ンミナの夫が皆を逃がすため残ったらしい。

 

 すぐに現場に向かったのだが……。

 

 「あなた……」

 

 ンミナが呆然と声を上げる、彼女の夫である戦士長は二匹の魔物と刺し違えて死んでいた。

 

 「なぜこいつは逃げなかった?村に逃げればンミナか私がいたとというのに」

 

 「夫はいつも自分の力不足を嘆いていました。妻である私を危険に晒したくないと……」

 

 彼を抱きしめ涙を流しながら言うンミナ。

 

 「愚か者め。大事な者がいるのなら生きるべきだろう」

 

 「夫は村を守る戦士の長です、家族と村を守る者なのです……」

 

 彼女はそう言うが全く理解出来ない。どうにもならないのならまだ分かる、だが今回は死ぬ前に引いていればどうにかなったはずだ。

 

 彼が死ぬ必要は無かったと思う、村に撤退すれば問題無く倒せる私達がいたのだから。

 

 「皆で一斉に逃げてしまうと犠牲が増えます。足止めをする事で犠牲を減らそうと考えたのだと思います……」

 

 彼女が答える、皆を確実に生かすために残ったのか。

 

 「連れて帰ろう。お前達の好きなように弔うと良い」

 

 

 

 

 

 

 その後、惜別の儀式を行ない彼の遺体を埋葬した。それからンミナと娘のアミラは私の家に住む事になり、村では新たな戦士長が任命された。

 

 「ンミナ」

 

 「はい」

 

 私の家のリビングで言葉を交わす、娘は部屋で眠っている。

 

 「私には奴の考えも大切な者を失うお前の気持ちも分からない。私はお前に何をしてやればいいと思う?」

 

 「抱きしめさせてください」

 

 彼女はもう大人だ、私とは大人と子供の体格差がある。

 

 私を後ろから包むように抱きしめるンミナ。

 

 「暫くこのままで……」

 

 静かなリビングに、静かに泣く彼女の声だけが響いていた。

 

 

 

 

 

 

 彼女は泣き疲れて眠ってしまった。私は寝室に彼女を運び、娘と寝かせておいた。

 

 ンミナが泣き疲れて眠るのはあの時以来だな。

 

 以前彼女を癒した時以来だと思う。

 

 彼女は私と暮らしている事が幸せなようだった。幸せそうな顔は見ていて悪くない気分だ。

 

 今日の彼女は見た目はあまり変わらなかったが深く悲しんでいた。

 

 魂を始め、色々と感じる事が出来る私には分かってしまう。

 

 ンミナにかけている防御魔法と緊急避難魔法を奴にかけていればこうはならなかっただろう。

 

 だがンミナの夫であってもそこまでする気にならなかった。

 

 ンミナは私を優しいというが、誰にでも味方する訳では無いし理不尽な事もする。

 

 私は気に入ったモノ以外には何も感じない人外だ。

 

 勿論自分に好意を向ける相手は私も無下にする気にならない。

 

 半面、悪意を持つ相手や私の大事な物に手を出す輩には何も思う事は無く、すぐに処分するだろう。

 

 実際以前ンミナに手を出してきた男はンミナ本人も夫も散々諦めるように話したがいつまでもまとわりついた。

 

 最後警告も無視した為、最終的に私が処刑した。

 

 私の事は恐れていたようだが……ならばなぜあの男はあそこまでしたのか、殺されないとでも思っていたのか?

 

 ンミナの夫といいあの男といい、行動が分からない。

 

 考えがそれてしまった。彼女の夫は私の事を恐れ敬っていたが、好意を持っていた訳では無かった。

 

 それが原因かもしれない。

 

 そう言えば今も名前さえ知らないな。

 

 まあンミナの夫としては十分な男だったと思う、強さも心も。

 

 

 

 

 

 

 外が明るくなり始めた頃ンミナの娘のアミラが起きて来た。

 

 ンミナが泣き疲れて寝たのは深夜だったのでまだ起きてはこないだろう。

 

 母親と同じ黒髪黒目で、村では神の血を継いだ娘と言われている。

 

 もちろんそんな事は無い。ンミナは私の実の娘ではないし私に子が出来るとも思えない。

 

 血は継いで無いが力は継いでいるかもな。

 

 「くれりあおねーちゃ」

 

 私もそれなりにこの子に会っている。二番目に呼ばれ、顔を合わせたのが私だった。

 

 父親である奴は結構ショックだったようだな。私に好意を持っていなかった原因だったりするのだろうか。

 

 「おいでアミラ」

 

 マジックボックスから果実水を出しながら呼ぶ、彼女はトテトテと私に近寄り膝の上に乗った。

 

 果実水を与え、落ちないようにお腹に手を回して支えてやる。

 

 「慌てないでゆっくり飲め」

 

 私が作る飲み物はンミナとアミラに好評だ。美味しい上に栄養も多い。

 

 「アミラ?」

 

 果実水を飲んだアミラは体を私の方に向け、抱きついて眠ってしまった。

 

 なぜこんなに懐かれているのかが分からない。

 

 「また寝るのか……子供は良く寝るな」

 

 アミラの頭を優しく撫でながら呟く。私は部屋でのんびりと夜が明けるのを待った。

 

 完全に外が明るくなった頃、ンミナが起きて来た。

 

 「アミラ、どこ?」

 

 娘が居ない事に気が付いたンミナが探しているようだ。

 

 「ンミナ、私の所だ」

 

 ほっとした顔の彼女がリビングに現れた。

 

 「明け方に起きて来てな。果実水を与えたが飲み終わったらまた寝てしまった」

 

 「お任せしてしまい申し訳ありません。お世話をするべきなのに寝坊してしまって」

 

 「気にするな。それに昨日の今日だからな……アミラもすぐに父親がいない事に気付くだろう」

 

 「夫の分も愛します」

 

 「お前なら心配はいらないか。私は母親を知らないが良い母親をやっていると思う」

 

  そう言いながらアミラをンミナにそっと渡す。

 

 「色々と落ち着くまでは私の事は気にしなくていい。娘と自分の心を整理しろ」

 

 「はい……お言葉に甘えさせていただきます」

 

 それを聞いた私はンミナにも果実水を渡し、風呂に向かった。

 

 

 

 

 

 

 ンミナの夫の死から一年が経ち、彼女も完全に落ち着きを取り戻して日常に戻った。

 

 娘のアミラは父はもういないと分かったらしく、話題に挙げる事は少なくなった。

 

 家の外で二人と共に食事をしている時、私は気になった事をンミナに聞いた。

 

 「ンミナ。アミラはこの村でどんな扱いになる?」

 

 名前を出されたアミラが私を見る。まだどういう事か分からないだろうが、出来れば幸せになって欲しいものだな。

 

 「そうですね、恐らく次代の巫女になると思います」

 

 「本人の意思に関係無くか?」

 

 「はい、神の力を継いでいる黒髪黒目の女子です。間違いなく巫女以外の道は選べないでしょう」

 

 「もし成長したこの娘が違う道を選んだらどうなるんだ?」

 

 「幼いうちに巫女としての訓練と教育を始めます」

 

 「物心つく頃には巫女としての行動が日常になっている訳か」

 

 私の楽しみのためにも好きな事をやって欲しいが、巫女として村にいた方が色々と良い事は間違いないか……村にも望まれているようだしな。

 

 「娘の訓練の事でクレリア様にお願いがあるのですが……」

 

 「珍しいな、どうした?」

 

 「クレリア様から教えていただいた魔法などの技術と知識を、娘に伝える事を許可して頂きたいのです」

 

 「構わないぞ。そうだな……はっきりと決めておくか」

 

 アミラに教えるのは構わないが他の者に教えるつもりは無い、使い方次第では危険だという理由だな。

 

 幼いころから危険性などをしっかり教えて扱えるようにしよう。

 

 何が問題かと言うと、危険を危険と知らずに使う、危険であると知っていても使う事を抑えられない……といった無知、心の問題だ。

 

 心を抑えられない、という点に関しては私も誰かの事を言えないが……やりたい事はやるからな。

 

 それはともかく。誰もが深く考える事無く魔法を使えばいずれ人類が滅ぶかもしれない。

 

 「決めた。私がンミナに教えた技術と知識は代々巫女の候補者のみに伝える事を許し、巫女にならなかった者もその技術と知識を他者に教えてはならない。と言う事にしよう」

 

 「教える者を限定するのですね」

 

 「巫女になるならば力はあったほうが良い、だから教えないという選択は無い。しかし広める事はしない」

 

 そこで私はもう一つ付け加える。

 

 「この力が特別では無くなった時、この決定は効果を失う事とする」

 

 私はいずれ、魔法、錬金、魔道具は世界に広がると考えている。

 

 人が増え繁栄した時。私は技術と知識を教え、きっかけを作る気でいる。

 

 そうなれば技術や知識は世界中に流れるだろう。更に言えば私が他者に伝えてはいけないと決めたとしても、きっと破る者が現れる。

 

 私が教えなくとも、いつか人はきっとたどり着くという気もしている。

 

 「分かりました。代々その決定を守るように伝えましょう」

 

 「厳しくしすぎるなよ、子供は遊ぶ事も大切だ」

 

 訓練は大事だが訓練だけの幼少期は良くない……と思う。

 

 「はい、私もこの子を不幸にはしたくありませんから」

 

 ンミナなら上手くやるだろう、何かあれば私が手を貸せばいい。

 

 

 

 

 

 

 ンミナ母娘と暮らしていたある日、私はンミナに問いかけた。

 

 「ンミナ、突然だがこの世界に他の種族は居るのか」

 

 昼食後の日光浴をしながら聞く。

 

 「他の種族ですか?」

 

 膝の上で遊ぶアミラの頭を撫でながら返事をするンミナ。

 

 「そうだ。お前達と少し姿が違ったり、大きく違っても意思の疎通の出来るような者は居るか?」

 

 「そうですね、商人が言うには複数居るようですよ?」

 

 「ほう、どんな者が居るか教えてくれるか?」

 

 私の膝にのってくるアミラ、私は支えながら話を続ける。

 

 「はい、森人、大地人、獣人、ですね」

 

 「お前は会った事はあるのか?」

 

 「いえ、実際に会った事はありませんが、それぞれの種族には本拠と言うべき土地があるそうです。そこから出て来た者が様々な町で混じって暮らしていると聞きました」

 

 「町があるのか」

 

 知らなかったな。

 

 「はい、この村は辺境と言いますか……かなり閉鎖的でした。クレリア様が現れたこの十年程の間でようやく他の村や町と交易をするようになりました」

 

 「いずれ他の種族にも会いに行くか」

 

 「町には興味は無いのですか?」

 

 「今はな、いずれ暮らしてみるのも良いだろうが」

 

 ンミナの膝に戻っていくアミラ、元気だな。

 

 「村の者が何と言おうと私はクレリア様について行きますよ」

 

 「お前が生きている間は此処にいる」

 

 ンミナがこの村から離れようとすれば必ず村の者は反対するだろう。

 

 彼女が行きたいと言うなら何をしても連れて行くが、私が何処かに行かない限り彼女はこの村で過ごすだろう。

 

 ンミナを見ると悩んでいるような顔をしている、何か迷っているようにも見えるな。

 

 「ンミナ」

 

 「はい、クレリア様」

 

 「聞きたい事があるなら聞くと良い、私はお前に嘘は言わない」

 

 彼女は暫く考えていたようだが、心を決めたのか口を開いた。

 

 「クレリア様は何者なのですか?村の者が言うように神なのですか?様々な事を知り月日を経ても貴女様の姿は変わりません。昔から気になっていたのですが……聞く事が出来ませんでした」

 

 まあこれだけの事をして人である訳が無いな。

 

 気になっていたのなら聞けばいいと思う。しかし何者か……その答えは残念ながら……。

 

 「分からない」

 

 「えっ?」

 

 驚く彼女、まあ嘘は言わないと言った直後にこれでは分からなくも無い。

 

 「落ち着け、嘘は言わないと言っただろう。ただ少なくとも神では無いと思う」

 

 戸惑う彼女に私は今までの事を話した。

 

 突然気が付いた事、様々な知識を知っていた事、世界を巡り力を付けた事、一万年の眠りにつき目覚めた後にンミナに出会った事。

 

 「と、まあこんな所だ」

 

 彼女は必死に私が言った事を整理しているようだった、暫く待っているとようやく口を開いた。

 

 「何と言えばいいのか言葉が出ないのですが。その……クレリア様は遥か昔から存在していたのですか?」

 

 信じていない訳では無いだろうが、人の身では信じるのは難しいか。

 

 「そうだ。私は眠る前に世界を巡ったが、その頃は人はおろか生物も今ほどは居なかった。意思の疎通が出来る存在を欲した私はいつか現れる事に賭け眠りについた。そして賭けに勝ち、私は今ここにいる」

 

 「それは神と言えるのではないでしょうか……」

 

 「違うな、私は全知全能では無いし自分勝手で我が儘だ。人が思うような神では無い、私は私という一つの存在でしかない。だから私は生きたいように生き、やりたい事をやりたい様にやるんだ」

 

 私は好きに過ごす、いつか私が消えるまで。

 

 「神と崇めるのも良いだろう。崇めたいのなら止めはしない……ただ崇める者達が望む事をするかは分からんが」

 

 彼女は真剣な表情で私の話を聞いていたが、突然私に声をかけた。

 

 「クレリア様」

 

 「なんだ?」

 

 「今は生きたいように生きておられますか?」

 

 その質問に、私は僅かに微笑みながら答えた。

 

 「ああ。私はやりたいように、お前達と生きたくて生きている」

 

 私の答えを聞いた彼女はいつもの柔らかい微笑みを見せて呟いた。

 

 「良かった」

 

 アミラの寝息を聞きながら、穏やかに午後を過ごすのだった。

 

 

 

 

 

 

 「クレリア様!お祖母ちゃんが!」

 

 あれから五十年が過ぎ、ンミナも七十歳を超えたある日。

 

 アミラの娘ミーナが飛び込んできた。

 

 「そうか、すぐ行く」

 

 彼女の命は尽きようとしている、魂の輝きは僅かしか感じない。

 

 彼女の寝室に行くと彼女の親族が集まっていた。

 

 私が姿を現すと彼女への道を空けた。

 

 「……クレリア様」

 

 年老いた彼女は手を伸ばした、私はその手を取る。

 

 「そろそろか?」

 

 「……はい」

 

 もう限界だろう、私の一存で苦痛は無くした。

 

 私の力で永遠に生きる事も出来たが彼女はそれを断った。

 

 彼女は人として私の傍に居たいと言った。

 

 理解は出来なかったが、彼女が決めた事だ。

 

 「クレリア様に言いたい事が……あるのです」

 

 「なんだ?」

 

 「失礼だと思います……ですがもう伝えられなくなる前にどうしても」

 

 私は黙って彼女の言葉を聞く、彼女の瞳は閉じつつある。

 

 「貴女は私にとって命を救ってくれた恩人であり、姉であり、妹であり……娘でもありました」

 

 そうか、お前は私を家族だと思ってくれていたのだな。

 

 「お前は私にとって初めて心を許した人間であり、姉であり、妹であり……母親だったよ」

 

 閉じた瞳から涙を流すンミナ、彼女は弱々しく、しかしいつもの微笑みを浮かべる。

 

 「もし生まれ変わる、……事が、あるのなら……また、貴女の、お傍……に」

 

 「ああ、また会おう……ンミナ」

 

 私と家族に見守られ、彼女は微笑みながら静かに息を引き取った。

 

 

 

 

 

 

 「此処に居たのね、クレリア姉さま」

 

 ンミナの惜別の儀式と埋葬が終わり、昔と比べ広くなった家のリビングに座っているとアミラがやってきた。

 

 立派な大人になった彼女は寂しそうな表情を浮かべる。

 

 「アミラか……この家ともお別れだからな」

 

 ンミナが死んだら私はこの村を去る事は事前に伝えてある。

 

 だいぶ引き留められたが最終的には皆納得してくれた。

 

 「姉さま」

 

 アミラが抱きついてくる、そっと抱き返してやる。

 

 「行くのね」

 

 「ああ」

 

 六十年以上をこの家で過ごした。楽しかったと言える時間だった、そしてこれから私は新たな種族に会いに行く。

 

 体を離し外へ出るとミーナを始め親族の娘達が集まっていた。

 

 男は居ない……そう言えばンミナの一族は娘しか生まれなかったな。

 

 理由は分からないが調べる気にはならなかった。

 

 次々に彼女達が抱き着きに来て別れを惜しむ。全員と言葉を交わし、やがて旅立つ時がやってきた。

 

 「娘達、楽しく生きろよ」

 

 そう告げて空へと浮かぶ。手を振る娘達に手を振り返し、私は村を後にした。

 

 

 

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