少女(仮)の生活   作:YUKIもと

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 独自の文化を考えるのが大変なので現実にあるような物に魔法的な物を加えたり、表現をあいまいにして誤魔化しています。





050-01

 

 私は惑星イシリスが見える月面で椅子に座り本を読んでいた。

 

 既にヒトハの体の研究は一応の終わりを迎え、彼女が望めばすぐに体を与える事が出来るようになっている。

 

 研究が一旦終わった私は、そろそろ人類の町へ行ってみようと考えていた。

 

 私がそう考えた理由はヒトハの報告だ、人類は一部の僅かな者を除き、私達の事を覚えていないらしい。

 

 イシリスを離れて何年経ったかは知らないが、少なくとも人類の中から私達の事が消えて無くなる程度の時間は過ぎたのだろう。

 

 そう思いながら本と椅子をしまった直後、少し離れた所に隕石が落ちて来た。

 

 舞い散る月の地表、隕石の大きさは大した事はない様だ。

 

 月で暮らしていればよくある事で、大きさに差はあるがよくこうして落ちてくる。

 

 拠点は障壁があるので問題は無い、以前そこそこ大きな隕石が私の上に落ちて来た時は邪魔なので消したが。

 

 

 

 

 

 

 拠点へ帰った私はカミラとヒトハを呼び出し、人類の町へ行ってみる事を提案した。

 

 「本当に問題無いの?」

 

 『カミラ様、私達の事を知っていた者達は森人の一部を除き、全て死んでいますし、他の種族は私達の事をもう知らないので問題は無いと思います』

 

 「うーん……」

 

 カミラはあまり乗り気ではないようだ。

 

 「やめておいた方が良いと思うか?」

 

 「出来ればやめた方がいいんじゃない?あの時を知っている森人がまだ生きているというのが気になるのよね……」

 

 「発見されて手を出されても大変なのは人類の方で、私達には何の被害も無いぞ?」

 

 私がそう話すと、カミラは苦笑いをして言う。

 

 「まあそうなんだけど……。うん、お母様が行きたいのなら行きましょうか。お母様が言った通りもし見つかっても私達には何の問題も無いし」

 

 「もし発見されたら今度は十分に時間を空ける事にしよう」

 

 こうして私達は久しぶりに人類の町へと降りる事になった。

 

 

 

 

 

 

 人類の町へ行く事が決定してから数日後、私達はリビングに集まっていた。

 

 「どの国に行くの?」

 

 『ユグラドは避けた方が良いかと』

 

 ユグラドには当時を知っている森人がまだいるからな。

 

 「流石にユグラドには行かない。アーティア合衆国に行こうか」

 

 「アーティア合衆国ね……きっとかなり変わっているのでしょうね」

 

 カミラはやや落ち着きがないように感じる、自分の国であった場所がどう変わっているか気になっているのだろうか。

 

 『現在は国の発行した本人である事を確認するためのカードを持っている者が多く、無い者は国や町に入る際に面倒な手続きがあるようです。転移で直接町の裏路地などに移動する事をお勧めします』

 

 「今はそんな物があるのか」

 

 『身分証明カードと言いまして、対象の魔力を登録して確認するので、持っている者は肌身離さず持ち歩く者が多いようです』

 

 「無いと自由に動けないなら作った方がいいかしら?何処で作るの?」

 

 カミラがヒトハに尋ねる。

 

 『国民保障ギルドで発行出来ますが、魔力登録の他に名前や現在の住所などを登録しなければ発行されません』

 

 「それじゃ無理ね……住所はイシリスに無いもの」

 

 私はヒトハの言ったギルドという言葉で思い出す。

 

 「ヒトハ、冒険者ギルドが今はどうなっているか分かるか?」

 

 『先ほどお話した国民保障ギルドが元冒険者ギルドです。身分証明カードはギルドカードの技術を応用して作られた物です』

 

 「いつの間にか無くなっていたのか」

 

 『はい、現在の人類に「冒険者」という者は存在しません』

 

 「魔道飛行船の発明で人がいけない場所が無くなってしまったし……冒険なんてもう出来ないわよね」

 

 「そうか、今は世界中に人類が住んでいる。手が入っていない所は殆ど無いか」

 

 『更に言いますと、魔道兵器の開発と発展の影響で人類の個体の強さは大きく落ちています』

 

 そうか、人類はもっと力を持つ生物に進化すると思っていたのだが。

 

 そう思い、アーティア合衆国に転移しようとすると、カミラが止める。

 

 「お母様ちょっと待って?」

 

 「どうした?」

 

 「ヒトハ、私達がいた時とお金は変わってる?」

 

 カミラがヒトハを見て言う。

 

 『現在は当時の硬貨は使用されておりません、各国ごとに違う硬貨が使用されています』

 

 「やっぱりね……換金は出来るのかしら?」

 

 『可能です。かなり値が低い物もありますが、金や銀、特に魔法金属は現在も高値で取引されているようです』

 

 資源は今まで貯め込んで来た物が大量にある。

 

 いざとなれば金や宝石、魔法金属を作る事も出来るので換金に困る事は無いだろう。

 

 「他に換金出来そうな物はある?」

 

 『後は珍しい素材や宝石などですね』

 

 「宝石は分かるが、珍しい素材とは?」

 

 私はヒトハに素材について聞く。

 

 『人類が滅ぼした魔物や生物の牙や骨、皮などですね。素材として優良な物も多く存在し、取れる魔物が既に絶滅しているので数が限定されています。その為、かなりの高値がつけられています』

 

 「供給源を潰してしまわなければそうはならなかった。人類はこうなる事を考えなかったのか?」

 

 「考えていた者は居たんじゃないかしら?止められなかっただけで」

 

 私がこぼした疑問にカミラが反応する。

 

 分かっていても止められなかったか、人類としてはよくある理由なのだろうな。

 

 「さて、話し込んでしまったな。転移予定の裏路地には今誰もいない、そろそろ行こう。換金は宝石をいくつか売ればいいだろう」

 

 「じゃあ出発ね」

 

 『お供致します、主様』

 

 二人と共に私はアーティア合衆国に所属する町の裏路地に転移した。

 

 

 

 

 

 

 転移を終えると、そこは高い建物に挟まれた真っ暗な細い路地だった。

 

 「……狭いし汚いわね」

 

 『裏路地とはこのような物です、カミラ様』

 

 二人も暗視は出来るので、路地の状態について話している。

 

 私達がいる路地は壊れた机や椅子などが壁に積み重なっていて、通る事は出来るがお世辞にも綺麗とは言えない状態だ。

 

 「表通りに出るぞ。夜ならそう目立たずに紛れ込めるだろう」

 

 角をいくつか曲がると暗闇の路地の先に光が見える、表通りに着いたようだ。

 

 「凄く明るいわね……この分だと昼でも変わらなかったんじゃないかしら……」

 

 「そうだな。ここまで昼と変わらないとは思っていなかった」

 

 夜だと言うのに魔法の光に照らされた町は昼の様に明るかった。

 

 少しは目立たないかと思って夜にしたというのに、既に私とカミラの容姿に反応したのか周囲の人間がこちらを見ている。

 

 「面倒な事にならない内に換金に行くぞ。ヒトハ、宝石の買い取りをしている店の場所は分かるな?」

 

 『はい、ご案内します』

 

 私達はヒトハについて行き、その場を立ち去った。

 

 「……私達の知るアーティア帝国の姿は全く無いわね」

 

 移動中カミラが呟く。

 

 確かに帝国とはまったく違う。

 

 高い建物と様々な店がぎっしりと並び、建物や店の前には映像の看板が商品などを宣伝し、周囲の人の喧騒と合わさり常に騒音の様に騒がしい。

 

 大きな通りには個人の乗り物と思われる魔動機が行き交い、空にも多くの飛行魔動機が飛び交っている。

 

 至る所に浮かんでいる明かりが町全体を昼の様に照らし、人の数は夜であるにもかかわらず減っているようには見えない。

 

 月から町が光って見えるのも納得だ、ずっと昼のような物だからな。

 

 

 

 

 

 

 『こちらです』

 

 私達が案内されたのは大通りにある清潔感のある白い建物だった、「ヴィオルード宝石店」という名前らしい。

 

 「いらっしゃいませ、本日はどのようなご用件で?」

 

 「宝石をいくつか買い取って貰いたいのよ」

 

 念の為、私ではなく一目で大人だと分かるカミラが対応する。

 

 「かしこまりました、身分証明カードをお願いいたします」

 

 「何処に入れたかしらね……ちょっと待ってね?」

 

 カミラの咄嗟の演技中に私は二人に念話を繋ぐ。 

 

 『ヒトハ?聞いていないぞ?』

 

 『……宝石の買取では身分証明の提示は必要なかったはずです』

 

 「森人の祖母から宝石の売買に身分証明は必要ないと聞いていたのだけど……」

 

 上手くカミラが探りを入れる。

 

 「なるほど……お客様のおばあさまは森人でいらっしゃいましたか。申し訳ありませんが必要無かったのはかなり昔の事でして……現在は盗品であった場合などのために身分証明カードの提示を求めているのです」

 

 『ヒトハ?』

 

 私はヒトハの名を呼ぶ。

 

 『申し訳ございません……情報が古かったようです……』

 

 こんな事は初めてだ、どこか不具合でも起きたか?

 

 いや、まずはこの場を去ろう。

 

 『カミラ、上手く誤魔化せるか?一度出よう』

 

 『分かったわ』

 

 「仕方ないわね……今度は持ってくるわ。急ぎでは無いしね」

 

 「規則ですので、申し訳ございません」

 

 店員が申し訳なさそうに言う。

 

 「良いのよ。祖母にも今は違うと言っておくわ、ありがとう」

 

 そう言って店の出口へ向かう。

 

 「またのお越しをお待ちしております」

 

 店員の声に見送られて店を出た。

 

 

 

 

 

 

 店を出て人気の無い裏路地へ入る。

 

 「二人とも、今日は中止だ。帰ってヒトハを見る」

 

 『申し訳ございません、主様』

 

 「今までこんな事無かったわよね?私も心配だし構わないわよ」

 

 「帰るぞ」

 

 私はヒトハを抱え、月の拠点へと転移した。

 

 

 


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