「換金は普通にするのよね?」
「する。情報源として使うなら普段通りにさせておくのが一番だ、立場を使って何か変わった事をしてしまうと、疑われ情報が入らなくなる可能性がある。これからもただの客の一人として普通に交換する」
地上の町を歩きながらあの場所の使い方を話す、あの男には私達に対して普通に対応するように命令してある。
「地下都市は酷かったわね。都市全体がああだったら、ただの巨大な犯罪都市だわ」
『実際、ゴロツキや犯罪に手を染める者が集まり、国をまたぐ大小さまざまな犯罪組織が集まる巨大な地下犯罪都市となっているようです。しかし表通りなどの一部の地域は外部からの客用に整っていて、比較的治安も良くなっています』
「……前に話していたけれど本当に地下に犯罪者を押し込んだのね」
『押し込んだと言うよりも予想外に集まってしまったので蓋をしたのだと思います』
カミラは呆れているようだが、私はそれなりにいい方法だと思う。集めておいた方が監視しやすいし処分も楽だ。
とは言っても人類の善悪など私にはどうでもいい事だ。
私達に都合がいいのなら相手が何をしていようと構わない。
「ようやく現在使われている通貨を手に入れたし、街を見て回ろう」
こうして私達は久しぶりの町を楽しみ始める。
しばらく三人で楽しんだ後、私達は個別行動をする事になった。
カミラとヒトハは二人でどこかに行ったので、私は一人で本屋にやって来た。
長い時を過ごす私には、本はかなり良い物だ。一度読んだ物でも時間を置けばまた楽しむ事が出来る。
私の記憶が完璧では無い事が良い方に働くのは、今の所一度楽しんだ物をまた楽しめる事くらいだな。
こうして見ると、数は多くあるが以前より大分値段が高くなっている気がする。
何気なく店内を回っていると「四大技術の始祖達」という歴史の本を見つけた。
封がされているため開けて読む訳にはいかないが、これは読んでみたい。
私の教え子達の事が載っている本だからな。
取り敢えずこれを買ってから他の本を探そうと考え、私は本をカウンターに持って行った。
「お嬢さん、今時紙の本を買うとは珍しいね」
カウンターにいた老婆が私かけてくる、どういう事だ?
「何で珍しいんだ?」
私がそう言うと彼女は珍しいものを見るような目をして言う。
「魔道書庫を知らない訳じゃないだろう?」
魔道書庫、知らないな。
「そういった物と関わらないまま生きて来たからな。良ければ教えて貰えないだろうか?」
私の言葉に彼女は驚いたようだが、しっかりと教えてくれた。
魔道書庫とは本のデータの入ったカードを差して読む事が出来る魔動機で、現在は殆どの人はこれを使って読んでいる。
その為、場所を取る上に保存が難しい紙の本を買うのは、よほどの本好きか学者くらいらしい。
なるほど、簡単に持ち歩けて場所を取らない魔道書庫が一番人気という事か。
「ありがとう、見に行ってみる。まずはこの本を買う、いくらだ?」
「買うのかい?」
「私は本を買いに来たんだ」
「魔道書庫にも同じ物はあるよ?」
そう言う事か。
「私は本が好きなんだ、魔道書庫と本で同じ物があるなら本を選ぶ」
保存方法や保管場所など私には問題にならないからな。
「そうかい……ありがとうね」
そう言って彼女は本を受け取り封を外す、私は料金を払って本を受け取った。
「良ければまた買っておくれ」
「また来る」
その後カウンターを離れ、私は再び本を見て回った。
そして言った通りに大量の本を持ってカウンターに再び戻って来た私を見て、老婆は驚いていた。
本は買ったし魔道書庫を見に行ってみよう。私は老婆に教えて貰った魔道書庫店へと向かった。
『カミラ様、どこへ行かれるのですか?』
「貴女の装飾品を見に行くわ」
隣を浮遊するヒトハの問いに答えながら街中を進む。
事前にお母様にはヒトハの体にリボンのような装飾品を付けていいか聞いておいた。お母様は「ヒトハが良いと言えば構わない」と答えた。
『私の……ですか?』
「そうよ。でも貴女が嫌ならやめるわ、どうする?」
『主様は何と?』
「貴女に任せるそうよ」
そう言うと彼女は黙ってしまった、出来れば自分で決めて欲しいけれど……。
『どちらでも構わないのであれば……装飾品を付けてみようと思います』
しばらくの沈黙の後ヒトハは答えた。
私達は店内に入る。明るく派手な店内は女性客が殆どで、付き添いで来ている男性も少しいた。
「何が合うかしらね……」
『付ける事は決めましたが何をどうすればいいのか分かりません』
「そう、まずは金属製の物とそれ以外があるけれど……金属はやめた方がいいかしら?」
『……そうですね、物によっては活動に悪影響があるかも知れません』
「じゃあそれ以外ね」
私は非金属製のアクセサリの方へ移動する、布や手ごろな値段の宝石、骨から削りだした商品などが並んでいる。
「この辺りね……ヒトハ、好きな物を選んでみて」
私がそう言うと隣でアクセサリを見ていた女性が私を不思議そうに見ている、それを見て私は気が付いた。
ヒトハはゴレムだと思われていると思う、けれど普通に会話できるゴレムなど人類は知らないし、彼女の声は他の客には聞こえ無いようにしている。
……つまり私は他の者から見ると独り言を言いながらうろつく変な女と言う事になる。
『ヒトハ、念話で話すわよ』
『……?はい、何の問題もありません』
これで変な目で見られる事は無いわよね?
彼女は商品の周囲を他の客の迷惑にならない様にウロウロしていたけれど、やがて一つの装飾品を手に取り持って来た。
『これなどどうでしょうか?』
ヒトハが持って来たのは……細い紐に、何かの骨から削り出したペンダントトップが付いたペンダントね。
『この様な物をルーテシア様が付けていたのを覚えております』
うーん……「ルーテシアが付けていた」か。
『本当にこれが良いの?ルーテシアが似た物を付けていたから気になっただけでは無いの?』
『分かりません……』
私はそう呟くヒトハを軽く撫でる。
『そうね、貴女的に言うなら……目にした時に自分の中に一番大きな異常が起きる物を選んでみて?』
『……探してみます』
そう答えて再び探しに行くヒトハ、彼女の言う異常が感情の大きな動きなら、嫌いな物かも知れないのよね……好きと嫌いの違いが分かるかしら……?
『ヒトハ、異常が起きたらそれとはまた違う異常を起こす物も探してみて?』
『……違う異常ですか?……探してみます』
それから時間をかけてヒトハは二つの品を持って来た。
一つは明るい水色の、手首につける布製のアクセサリ。
もう一つは同じく手首につける様々な色が混じった……私的には下品なデザインの布製のアクセサリね。
……下品と言ってしまったけれど、ヒトハにも好みがあるわよね?……あれが好きなのかもしれないし、感想を言うのはやめておきましょう。
『この二つです。一方は危険を感じますが、もう一方は安全です』
安全と危険……今の彼女にはその様に判断されているのね。
『それで……どちらが危険で、どちらが安全なのかしら?』
『はい、この様々な色が混じった物が危険です……そして、この水色の物が安全です』
私はそれを聞いてほっとした、ヒトハの好みに文句を言う気は無かったけれど……私の感覚と近くて良かったわ。
『じゃあ安全な方を買いましょう』
『はい、ありがとうございます』
私はヒトハの選んだアクセサリを買い、ヒトハの左の手首に付けた。
店を出て次の目的地である服屋に向かっている途中、ヒトハは自分の手首に着いたアクセサリを手を持ち上げて何度も見ていた。
お母様に痛まない様にならない様に保護してもらおうかしら……そう思いながらヒトハと共に服屋へと向かう。
ヒトハの装飾品はシュシュを手首に付けている感じです。