表通りのめぼしい店を見て回り、私は裏通りを見て回ろうと思い始めた。
ケイには止められたが私は元々裏通りも見て回るつもりだったからな。
私は表通りを外れ裏通りへと入る。
それ程表通りから離れていないにもかかわらず突然暗さは増し、建物もボロボロ、店は合法なのか違法なのか分からず、どこを見ても怪しさしかない。
外部客用の表通りと違い過ぎるな。
道を行く人間や建物の中から私に対してまとわりつく様な視線と感覚を多く感じる。
『裏通りに入り込んだ外の人間がどうなったのか大体想像出来ますね』
「これはそれなりに実力が無ければどうにもならないな」
私に目を向けている者達は私をどうしてやろうかと考えているようだ、中には携帯兵器で武装している者もいる。
すぐに来ないのは私の傍にいるヒトハを警戒しているのかも知れない。
「お兄ちゃん!?……やめて!」
「さっさと出しやがれ!」
「ぐっ……!今日は稼ぎなんかなかった!」
私の耳が更に細い路地からの声を拾う。その中に聞き覚えのある声が混じっている。
私はその声がする路地へと入っていった。
最悪だ……こんな時にこいつらに見つかるなんて……。
「今日の稼ぎを出せってんだよ……出さないとどうなるか分かってるよな?」
「お兄ちゃん!」
「来るな!!」
大声を出し妹を離れさせる。
殴られた顔が痛むが今日のだけは駄目だ。
クレリア……恐ろしく綺麗で大人びた話し方をする少女がくれた小金貨……これがあればかなりのあいだ妹と皆を食わせていける。
今日は稼げなかったと納得させる必要がある。
「何度も言ってるだろ!今日は稼げなかった!」
そう言うと三人の男達は笑いながら言う。
「へぇ……?俺達はお前が大通りで女のガキを案内しているのを見たがなぁ?とんでもねぇ美人だったな。あんな女が裏に入って来ねぇかなぁ……」
俺は俯き歯を食いしばる。
見られていた……こいつら最初から見張りでも置いてたのか?
痛めつけられ、動く事が出来ない俺の懐を奴らの一人が漁る。
「うお!?マジか!?小金貨だぜ!!」
「すげぇ!!あの女何者だよ!?」
「おっしゃ!これで女でも抱きに行こうぜ!」
薄れる始める意識の中、そう話す男達の声が聞こえる。
「お兄ちゃん!」
妹が俺の傍へと駆け寄る音がする、くそ……俺は……。
「貴様ら何をしている」
意識を失う直前、あの少女の声が聞こえた気がした。
私が角を曲がった時見たのは、ボロボロになり地面に倒れているケイと、ケイに駆け寄る少女、そして離れて行く三人の男だった。
私の目に男の一人が持っている小金貨が見えた。
『状況から判断しますと、主様がケイに与えた小金貨を男達が奪ったようですね』
「貴様ら何をしている」
私がそう声をかけるとケイに縋り付いていた少女と男達が私を見た。
「んぁ?何だお前……んん?」
「こいつあの時案内されてた女じゃねぇか!?」
「こんな美人見た事ねえからな!間違いないぜ!」
そう言いながら戻って来る男達。
「お前が持っている小金貨は私が彼に案内の対価として渡した物だ、大人しく返すなら重傷で許してやる」
私はケイに回復魔法をかけながら話す、彼はもう大丈夫だ。
「何言ってんだこの女?」
「気にすんな、それよりさっさと捕まえて楽しもうぜ、そんで後は売っちまおう」
「売るの勿体ねぇなぁ」
どうしてこの手の奴は言う事が似ているのだろうな?
「そうか。返す気は無いんだな?」
「あ?当たり前だろ、自分の事を心配しとけ」
私が問うとそう返す男。
警告はした、怪我で済むうちにやめておけばいい物を。
その上私に手を出そうとするとは。
幼い少女が居るので頭を斬り飛ばすのはやめておこう。
「俺が捕まえる、そんで俺が一番のりぇ?」
話していた男の目が突然反転する。
そしてすぐに目、鼻、耳から血を流して倒れ込み、痙攣し始めた。
「はぁ!?」
「え……?」
突然一人が倒れた事に声を上げる残った二人の男、すぐお前達も同じ事になる。
「え……いったいどうにゃっで……」
「お、おい!?なんだきょれっ……」
同じように血を流し倒れる二人。殆どの生物の弱点である頭を潰して綺麗に殺した、これならあまり怖くないだろう。
彼らが持っていた小金貨を手元に引き寄せ、ケイと少女の方に歩いていく。
「大丈夫か?」
私はケイに覆いかぶさっている少女に声をかけるが反応が無い、どうしたのかと思い覗き込む。
「何でだ?」
何故か少女は気絶していた。
『主様、例え地下都市生まれでも幼い子供にとってあれはまだ刺激が強いと思います』
最初から寝かせておけば良かった、取り敢えず死体を処理してからケイを起こすか。
「……?俺は……?」
ケイは起きた後、僅かな時間ぼんやりしていた。
そして自分の体の上で寝ている少女を目にすると慌てて抱きしめた。
「パトラ!?大丈夫か!?パトラ!!」
「気絶しているだけだ、怪我もしていない」
私の声にケイが振り向く。
「あんたは……。俺はどうなったんだ?怪我もしていないし……あいつらは?」
自分の体の状態と周囲に誰もいない事に疑問を感じたのか、ケイは私に問いかける。
私は裏路地を見に来た時にケイの声が聞こえ、声の方へ向かうとボロボロのケイが居たので回復させた事を話した。
「行くなって言ったのに来たのかよ……でも、ありがとう。あんたに貰った金は取られちまったけど……妹が無事ならそれでいい」
「それなら取り返した、受け取れ」
そう言う彼に小金貨を渡す。
「これ……確かに取られたはずなのに、どうやって?」
私を見て驚く彼に私が男を殺して奪い返した事を伝えると、彼は表情を硬くする。
「殺したのか!?……すぐに町を出てもうここには来ない方が良い!何をされるか分からないぞ!?」
報復か、一応仲間意識はあるのだな。
「お前達はどうなる?」
「……みんなは俺が逃がすから気にしなくていい」
私の問いに彼は答える、声が硬いな。
『あくまで私の予想ですが……恐らく関係者として捕まり主様の情報を吐かされた後、殺されると思います』
ヒトハが私に教えてくれる。
助けたのは私の我が儘だからな、その事で彼らまで狙われるのは私の気分が悪い。
『どういたしますか?』
ヒトハが私に指示を求める、私に放って置く気が無いのを察したのか?
『まずはみんなとやらに会いに行く、そこで方針を考えるぞ』
『かしこまりました』
そう話している間にケイは気絶している少女を抱いて去ろうとしていた。
「ケイ、皆に私を紹介してくれないか?」
「……そんな事してどうするんだ」
彼は振り向かずに言う、その声は暗い。
「私の行動が原因だしな、助ける」
「多少強くたってどうにかなる相手じゃないんだ……いいから早く逃げろよ」
彼はこの状況でも私を逃がそうとしている、この子は良いな。
「他に頼る者もいないのだろう?私に賭けてみる気は無いか?」
彼にそう言った後、私はヒトハに言う。
『ヒトハ、私は一度関わった者には多少甘くなるらしい。特に子供には』
『カミラ様も私も知っています。町に行った時も意図的に行っていない子供の粗相には一度も怒っていませんし、むしろ助けていましたから』
そうだったか?
そんな会話をしていると彼は私をじっと見つめ、呟いた。
「……本当に……どうにか出来るのか……?」
「任せろ」
私は珍しくそう言い切った。