少女(仮)の生活   作:YUKIもと

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051-03

 

 「任せろ」

 

 彼女は不敵な、だが美しい微笑みを浮かべて答えた。俺は思わず見惚れたが……すぐにそんな場合では無いと考え直した。

 

 正直に言えば、自分を含めて七人を俺一人で助けられる自信なんてなかった。

 

 彼女は関係無いと言っていたけど、名前からするとかなりの権力者の娘のはず。

 

 彼女の親がどう出るかは賭けだけど。

 

 俺だけなら断った。だけど今は妹とあの子達が居る……皆のためなら……俺は彼女に頭を下げた。

 

 「分かったよ。クレリアを信じる……俺達を助けてくれ……」

 

 それから俺は妹をおぶったまま、クレリアを皆が隠れ住んでいる地下の部屋に案内した。

 

 

 

 

 

 

 「ただいま、みんな」

 

 入り組んだ狭い路地を進んで案内された部屋でケイが声をかけると、壁に立てかけてあった板が動き子供達が出て来た。

 

 「お兄ちゃん!」

 

 四人の子供達が集まってくる。

 

 「何か変わった事はあったか?」

 

 「何もないよ」

 

 「エルネットは?」

 

 「あんまりよくない……今も寝てる……」

 

 「そうか……」

 

 すると私に気が付いた一人が声を上げる。

 

 「……誰……?」

 

 その声で他の子供達も気が付いて警戒している、こんな場所ではそうなるだろうな。

 

 「取り敢えず中に入ろう、話さないといけない事があるんだ」

 

 ケイはそう言って板に隠れていた穴から中に入る。

 

 私も後に続き、その後しっかりと板で蓋をした。

 

 

 

 

 

 

 ケイがおぶっていた少女も目を覚ました、私に少し怯えているようだが。

 

 その後ケイはこうなった理由を話した。

 

 子供達はこれからどうなってしまうのかと不安そうな表情をしていたが、私が助けると言うと子供達の反応は二つに分かれた。

 

 助かると喜ぶ子と、私を全く信じていない顔で見る子だ。

 

 「まだ何もしていないからな。信じられないのも分かる、だからまずは信じて貰う」

 

 そう言って私はケイを見て言う。

 

 「エルネットと言ったか?治療するから連れて来い」

 

 「本当か?」

 

 「ボロボロのお前を治したのは私だぞ、もう忘れたのか?」

 

 私が答えると彼はハッとした様な表情を浮かべ、急いで奥へと消えていった。

 

 「お前達も見ていろ。私がお前達を救うと言った事が本当だと信じさせてやる」

 

 「……うん」

 

 子供達はそう言って黙ってしまう、そしてケイが一人の少女を抱えてやって来た。

 

 「抱いたままでいいぞ」

 

 私は近寄って来たケイにそう言うと、抱えられていた少女を魔法で治療した。

 

 「……お兄ちゃん?」

 

 すぐに抱かれていた少女が目を覚まし、声を上げる。

 

 ケイと見ていた子供達の驚いた気配がする。

 

 「エルネット!……大丈夫なのか?」

 

 「うん……全然苦しくないの……あたしどうなっちゃうの?」

 

 「治ったんだよ……このお姉ちゃんが治してくれたんだ」

 

 「あ……ありがとうお姉ちゃん……」

 

 ケイの言葉で私に気付き、礼を言う少女。

 

 私は彼女の頭をひと撫ですると集まるように言う。

 

 「何をするんだ?」

 

 ケイがそう聞いてくるが、私は答えずマジックボックスから料理と飲み物を取り出した。

 

 恐らく子供達は空腹だろう。

 

 「食え、お前達には栄養が足りていない」

 

 全員いきなり現れたご馳走に釘付けだ、だが手を出そうとはしない。

 

 「……いいの?」

 

 そんな中、一人の少女が私を見て言う。私は料理をつまんで一口食べた後、少女の口元に持って行く。

 

 「食べてみろ、危険な物では無い」

 

 少女は私の手から料理を食べる、すると見る見るうちに顔が明るくなり「美味しい!」と叫んで自分から食べ始めた。

 

 それを見ていた他の子供達も一口食べ、そこから全員止まる事は無かった。

 

 

 

 

 

 

 その後、私は子供達に一緒に食べようと誘われ共に食事をした。

 

 エルネットという少女を治療した事と、この食事で子供達は私を完全に信用したようだ。

 

 信じるのが早すぎると感じるが、まだ子供だからな。

 

 私に少し怯えていたケイの妹も普通に接してくれるようになった、自分達に危険な事はしないと分かってくれたようだ。

 

 ヒトハは散々弄り回されていた。

 

 お腹が一杯になりまとまって寝る子供達を見ながら、私とケイは話をする。

 

 「クレリアが言った事は本当だった……ありがとう。信じてよかった」

 

 「気にするな、私からすればお前もまだ子供だ」

 

 「子供って……クレリアより俺の方が年上じゃないか」

 

 私は以前の設定を使う事にした。

 

 「私は人間と森人のハーフでな、こう見えて百年以上生きている」

 

 「マジかよ……俺は、てっきり親が高い地位にいて、それを使うのかと思っていたんだ……でもさっきの力を見たら納得した」

 

 彼は私を見て言う。

 

 「アーティア合衆国とは関係無いと言っただろう、それに親もいない」

 

 「……そうですか」

 

 「無理して敬語を使わなくても良いぞ?」

 

 「いえ、助けて貰った上にずっと年上だから……ですから」

 

 「そうか」

 

 まあ今は好きにすればいい。

 

 私は魔法鞄を取り出しケイに使い方を教えた。

 

 「食料は魔法鞄の中にある物を使え、今日は私がいるからお前ももう寝ろ」

 

 「うん……分かりました」

 

 

 

 

 

 

 彼らが全員寝た後、私は念話でカミラに今日の事を話す。

 

 『お母様はその子達をどうしたいの?』 

 

 『私は彼らに教育を行い、地上に上がって暮らせるようにしようと思っている』

 

 『そう、じゃあ私も手伝おうかしら』

 

 『良いのか?』

 

 『私も悪意の無い子供は嫌いじゃないし、ずっと一人で月にいるのもね』

 

 『私の位置がわかるか?』

 

 『分かるわ、早速行くわね』

 

 子供達が目を覚ました時、見知らぬ大人が増えている事に怯えたが、私の年齢とカミラが私の娘だという事を伝えると受け入れてくれた。

 

 

 

 

 

 

 私は子供達にまずは身分を与えようと考えた。

 

 『身分ですか……養子にしてくれる者が居ればそれで解決するのですが』

 

 どうするかを考えている時に聞いたヒトハの言葉を私は採用する事にした。

 

 『ヒトハ、身内の居ないそれなりの資産家を探し出せ』

 

 私はヒトハに独り身の資産家を探し出して貰い、彼らを養子にするように仕向けた。

 

 色々と行う事はあったが、無事に七人はその資産家の養子となった。

 

 それから彼らだけで過ごせるように田舎に家を買い、私は教育を始める事にした。

 

 

 

 

 

 

 彼らが地上の家に移った日に、私は子供達を集めてこれからの事を話した。

 

 地上で生きていける様に勉強をする事を始め、これからの生活の事をしっかりと話し納得させた。

 

 カミラとヒトハも子供達が自立するまで一緒に住む事になった、カミラは久しぶりの騒がしい暮らしを中々楽しみにしている様だ。

 

 私とカミラが勉強と様々な技術を教え、目指す道が決まったら専門の学校に通わせる事にする。

 

 彼らは身分証明カードを手に入れているので何の問題も無く生活する事が出来る。

 

 ヒトハは護衛にしようと思ったが、情報収集であまり家にいないため方針を変更し、全員に簡単な守りのネックレスを渡しておいた。

 

 効果は攻撃等の遮断と、発動した事が私に分かるという物だ。

 

 危険から身を守る物だと教え、忘れずに身に着けておくように言い聞かせた。

 

 しばらくは私とカミラで子供達の面倒を見る事になるが、この子達が大人になるのに十五年程しかかからない。

 

 私達にとっては長い時間では無い。

 

 こうしてケイとその妹のパトラ、ランダン、ダニエリ、ルートール、チェリ、エルネットは新たな生活を始める事になった。

 

 

 


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