子供達は養子になったため、姓は全員「シルグロフト」に変わり、人間の社会的には七人は兄妹として扱われる事になった。
「起きろ、朝だぞ」
私は最年長であるケイを起こす。
腹一杯食べて風呂に入り、柔らかく暖かい大きなベッドで寝ている子供達は、よほど心地いいのかまだぐっすりと眠っていて起きる気配が無い。
「おはよう」
ケイが身を起こし私に挨拶する。
彼は声をかけるとすぐに起きる、地下都市での生活の影響だろう。
「朝食の用意は始めている。お前の役目はこの子達を起こして連れてくる事だ」
「……頑張るよ」
彼は寝ている子供達を見て苦笑した。
一度私に敬語を使う事を決めた彼だが、私が何度かやめるように言うと敬語をやめた。
彼は以前より雰囲気が柔らかくなり、表情も穏やかになった気がする。
ここまでされてようやく本当に安心したのだろう。
その後、だいぶ遅くなったが子供達は全員起きて来る事が出来た。
食事を終えたら勉強の時間だ。
そんな生活をしていると、ヒトハから犯罪組織が私と子供達を探しているという報告を聞いた。
そういえば裏路地では視線がかなり向けられていたな、そんな中で犯罪組織の構成員を殺せばこうなるだろう。
「諦めると思うか?」
『キャリア・ファンブルが言うには、あちらの世界では甘く見られたら終わりだそうで。手を出せば必ず報復すると周囲に示す必要があるようですね』
「良く分かる。と言う事は諦める事は無さそうだな」
私も手を出されれば必ず報復する、より重要な事があれば別だが。
『現在は地下都市を捜索しているようですが、主様が外部の人間だと思っているため、捜索を地上にまで伸ばす気でいるようです』
人間では無いが外部から来たのは間違いない、月から来ているからな。
「子供達がこの町の外に出るようになっても諦めないようなら消えて貰おう。あの都市には沢山の組織があるんだ、いくつか潰れても大して変化は無いだろう」
「おねーちゃん!」
家のソファで本を読んでいるとエルネットが近寄って来た、私はいつの間にか姉になっている。
母親のつもりだったが、この見た目ではどうしても無理があるようだ、カミラが母と呼ばれているな。
今日は何をしても良い休日だ、子供達も自由に過ごしている。
エルネットは私に正面から抱き着いて来た、ルーテシアもこの位の時はこうだったと思いながら受け止める。
「どうした?何かあったのか?」
「何にも無いよ?」
私が聞くと彼女は私を見て首をかしげる。
子供がやる事だ、特に理由など無かったのだろう。
彼女を抱いたまま本を読んでいると、後ろから近づいてくる気配を感じる。
これはダニエリだな。
そのまま気が付かないふりをしていると私の目を手で覆ってくる、そしてエルネットの声がする。
「だーれだ!」
エルネットはこのために来たのか?私はエルネットの問いに答える。
「ダニエリ、私には通用しないぞ」
「えー!?なんでわかるんだよー!?」
彼は不満そうに言いながら手をどけると、私の隣に座った。
「お姉ちゃん何で分かったの?」
エルネットが私に聞いてくる。
「私は後ろが見えるんだ」
私がそう言うと二人は「嘘だー!」と言って笑いながら走って行った。
「転ぶなよ」
私は一声かけると再び本を読み始めた。
私が一人でソファに座り本を読みながらヒトハと念話していると、ケイが現れた。
彼は私に話しかけようとするが私はそれを手で止める。
報告を聞き終わった後、私はケイに話しかけた。
「悪かったな、ヒトハと会話していた」
ヒトハが話せる事は子供達も知っている、始めは頭に響く声に怯えていたが全員すぐに慣れた。
「姉さんに聞きたい事があって」
ケイは私を姉さんと呼ぶ、他の子供達が私を姉と呼び始めてしまったので、それに合わせている。
「何だ?」
「姉さんは地下都市には沢山の孤児が居る事を知っているよね?」
「知っている」
ケイは反対側に座り私を見る。
「皆を助けても良いだろうか?」
そんな事を言われるとは思っていなかった。皆を助けたい、か。
「お前が全て面倒をみるのなら好きにすればいい、私達は手を貸さない」
私の言葉に驚いた表情をするケイ。
「……俺達を助けてくれたじゃないか」
余裕が出来て他者を思う事が出来るようになったのか?悪い事では無いな。
「お前達を助けたのは私の気まぐれだ、お前達の為では無い。何も無ければ私はお前を見捨てていた」
私は更に続ける。
「私は誰でも助けるような事はしない、自分が助ける気になった者しか助けない。私にも限界はあるし、見ず知らずの者にかける情けも無い」
彼にはそう言ったが私に限界は無いかも知れない。
情けも少しはあるかもしれない。だが、どちらにしてもそこまでする気にはならない。
「限界以上に守る者を作れば、守りたい者達ごと潰れるぞ?それを見極められるなら連れて来ても良い。ただし、お前が責任を持て」
「……分かった……」
彼はそう言って去って行ったが、その拳は固く握りしめられていた。
助けたいというその気持ちは否定しないが、守る者を増やして自滅しては誰も幸せにならない。
しかし、私は子供に甘い事を自覚しているからな。
いつか思わず助けてしまう様な事もあるかも知れない。
子供達と暮らし初めてから数年が経った。
それぞれ学校に通う事が決まり、隣の町の学校へ通学する事になった。
そして犯罪組織はまだ私と子供達を探していた。
その執念深さは素晴らしい、素晴らしいが子供達の邪魔だ。
消えて貰おう。
『ヒトハ、奴らを処分する。補佐に付け』
『かしこまりました』
私はカミラにも連絡し、地下都市へと向かった。
現在、私は家のリビングで子供達と放送を見ていた。
私達は出来るだけ子供達全員が揃う機会を作るようにしている。
《次の情報です。地下都市壊滅事件ですが、いまだに原因は明らかになっておらず、引き続き捜査が続けられています……》
カミラが私をちらりと見る。
《この事件はおよそ半年前、地下都市に存在する複数の犯罪組織が突然壊滅した出来事の事で、この事件を重く見た各国は即座に治安維持部隊を投入し混乱する地下都市の一部を制圧、治安の向上を行う事になりました。更に……》
大体予定通りになってくれたな。
放置していた地下都市が大きな力を得る事を問題視していた各国が、力を削ごうとタイミングを計っているという情報を得た私は、後始末を彼らに任せる事にした。
私が組織を壊滅させ混乱が起きた後、各国の部隊はかなり早く突入して来た。ヒトハに頼んで各国へ仕込みをしていたのが効いたのだろう。
これで私達を探していた組織は消え、ついでに地下都市の治安が少し良くなった。
少し良くなっただけで犯罪都市である事は変わっていないが。