地下都市で犯罪組織を潰した後、特に何かが起こる事も無く二年程が過ぎ、子供達は学校へと通いながら順調に成長している。
一番年上であったケイは今までの遅れを取り戻す様に努力し、町の治安維持部隊に入った。
そして新人の中では一番優秀な隊員との評価を受けている、このまま順調にいけば相応の地位になる事が出来るだろう。
他の子供達はそれぞれの年齢にあった学校へと入学し、これから進む道を見つけようとしている。
当初はティリア魔法技術学校に通わせようかと考え、距離があるので寮暮らしになる事を説明した。
だが子供達が「みんなと離れたくない」と嫌がったため、白紙に戻した。
カミラが「地下都市で寄り添って生きていたあの子達は、全員が全員をとても大事に思っているみたい」と言っていた。
何時か離れる事になる可能性の方が高いのだが、今はまだこれでも良いと思っている。
学校へ行っていた子供達もみんな帰宅し、最後にケイが帰って来た。
「ただいま、みんな」
「お帰りなさい、お兄ちゃん。先にお風呂入ってくれる?」
「分かったよ」
妹のパトラが出迎え、風呂場へと送り出す声が聞こえる。カミラとヒトハ、子供達は夕食の用意を始めている。
そんな中、私はソファに座ってのんびりと本を読んでいる。
私が動くのは私が動く気になった時か、子供達だけではどうにもならなくなった時だけだ。
皆で会話しながら夕食を取る。
普通の事だが、皆は幸せそうだ。
私はそれを見ながら食事をしている。
「姉さん、夕食後の勉強を見てもらっていいか?」
ケイが私に頼んでくる。
彼は遅れを取り戻すため本来の授業時間外にも教えを受けている。
「構わないぞ、他にも一緒に受けたい者は居るか?」
私が聞くとパトラ、ルートール、チェリの三人が手を上げた。
「よし、食事が終わって一時間後にまた来い」
やる気があるのならいくらでも教えてやろう。
ある時、何気なく放送を見ていた私は偶然現在の森林国家ユグラドの首都を見た。
「森林国家はもう名前だけだな」
私は呟く。私が見たユグラドの首都は、森が無くなり人工物で溢れていた。
首都の中央にどこから見ても目立つ巨大な樹だけが残されている。
世界樹は以前見た時より多少大きくなっている気がするが、それ以外は変わっていない様に見える。
何処となく葉に元気が無いように見えるが、周囲に森が無い事が影響しているのだろうか?
ユグラドを見た事で他の国はどうなっているか気になった私は、ヒトハを連れて他の二国の首都も見に行ってみた。
ユグラドと同じ様に広大な森の中にあった獣王国カルガの首都も、ユグラドと同様自然は無くなっていた。
何よりも変化したのは獣人達で、魔道兵器に頼るようになった獣人達は持っていた高い身体能力を失っていた。
失ったと言ったが、正確には獣人自身の戦闘能力が必要無くなり、訓練しなくなった事が原因だな。
それでも魔人の次に身体能力は高いとヒトハは言ったが、かつて私と戦った時の力を持っている者は恐らくもういないだろう。
魔工国ガンドウは今も鍛冶が盛んなようだ、作る物は武防具から様々な部品や原料となる金属の作成に移っているようだった。
以前は山間にあった首都だが、周囲の山が無くなり広大な都市になっていた。
原料の産出は遠く離れた山脈や発見した地下鉱脈から得ているようだ。
これはヒトハから聞いた事だが、以前地下の鉱脈を掘っていた際に地下都市へと貫通し、それなりに大事になった事があるらしい。
改めて世界を見てみると、森は世界から消えてなくなっていた。
様々な事が魔法と魔道具、魔動機で可能になり、木材はあまり必要では無くなったため、森は全て開発してしまったらしい。
もう広大な森を散策する事は出来ないが、その分は他の事で楽しめば良いだろう。
「買い物に行ってくるねー」
「いってらっしゃーい」
子供達の声が聞こえる、買い出しに出かけたようだ。
私はいつもの様にソファに座り本を読んでいたが、ふと以前に読もうと思っていた本を思い出した。
私はマジックボックスから「四大技術の始祖達」を取り出し読み始めた。
【現代の四大技術と言えば皆さんは何を思い浮かべるだろうか?
現代四大技術。それは魔法、錬金術、鍛冶、魔道具である。
それぞれの技術は時を経て混ざり合い、様々な恩恵を私達に与えている。
一番有名な物は魔道飛行船だ、魔道飛行船は前述した四大技術の結晶ともいえる。
その他にも、皆さんが現在当たり前のように使っている様々な物に技術者達の長い研究の末に生み出された技術が使われている。
本書ではそれらの始祖である大魔法使いケイン・イヌス、大錬金術師ラムラン、名鍛冶師ロドロフ、名魔道具技師ミシャの四人について記している。】
本に記された名を見て私は思わず微笑みを浮かべた、皆の名は今も語り継がれているのだな。
私はゆっくりと本を読み進めた。
本を読み終えた私はあの頃を少し思い出していた。
忘れかけていたが、この本を読んだおかげか色々思い出せたな。
私の元を離れた後の皆の功績や様子が記されたこの本は中々楽しかった。
この本にはどの家系も直系は既に存在せず、現在は店も残っていない事が書かれていた。
私は本をしまう、また気が向いた時に読み返そう。
本によると色々と記録は残されていたようで、それらの情報を元に歴史学者の仮説や推測を交えて解説されていた。
ラムラン、ロドロフ、ミシャの三人は人間からすればかなり昔の人物なので色々と仮説が書かれていたが、最近まで生きていたケインについては記録が多く残されていて一人だけ情報が多かった。
四人とかかわりが深い伴侶や友人達の事も資料が見つかっているようで、それなりに情報が書かれていた、中には私の事では無いかと思うような物もあったな。
そんな中ただ一人、ルーテシアだけが行方不明扱いになっていて、発見されなかったと書かれていた。
私達と暮らしていたのだからこの扱いも仕方ないだろう。
街で写影を撮った時にはルーテシアもいたが、誰もそれがルーテシアだとは気が付かなかっただろうしな。
私はそう考えながら別の本を取り出し、子供達の帰りを待ちながらページをめくった。