「…ここが俺の鎮守府だな」
今日から俺は提督として鎮守府を任された。あこがれの職業だった提督になることができた。研修期間を過ぎてついに俺は鎮守府に入ることがかなった。これから俺は国のために働く公務員になる。
だが実際はそんなことは本音ではなく建前だ。俺は自分のためにこの職に就いた。国を守るためではなく皆を守るため。俺はここに足を踏み入れたのである。聞いたところよりいい鎮守府でよかった。ここの子たちはどんな子たちなのだろうか。それが気になって胸の鼓動が収まらない。
提督室に行ってここの説明をしてもらおうと思って提督室へと向かう。それまで廊下を歩いたわけだがびっくりした。ここまできれいな廊下は見たことがないほどに。確かに研修所や、元帥殿がいるような大本営の近くは確かに片付いていた。だがやはりここほどではなかったように思える。前の提督は掃除とかは徹底していたのだろう。その割には雑草が生えている気がするが。まあ雑草なんて誰も気にしないだろう。
「それじゃあ失礼しま~す…」
提督室に入るといたのは正規空母加賀型一番艦、加賀だった。おそらく前提督の秘書官を務めていたのだろう。しかし、その顔はなんというのだろう。絶望?のようなものがうかがえた。何があったのだろうか。とりあえず気まずいので何か話しかけてみよう。
「えっと…加賀は秘書官なのか?」
「ええ。しばらくはあなたの秘書官を務めることになります」
「よろしく…それで…一つ、気になったことがある」
「なんでしょう」
「おい、そこに隠れてないで出て来い」
俺は扉の方に向かってそう声を発する。すると扉の方からそそくさと走って逃げていく足音。提督室を覗きに来ていたようだ。まあ逃げてしまったものは仕方ない。あとで読んで話を聞くとしよう。それで加賀との話に戻ろうとしたとき加賀の顔が豹変した。しびれを切らして怒りに満ち溢れたような俺の母親に似ていた。でも俺の母と違って優しさなんてものはみじんも存在しないただ怒りの表情だけがうかがえた。加賀は「少し退室します」といって部屋を出て行った。はじめて会ったがここの艦娘はそういう感じなのか。説明されたときに「難あり」といわれる理由はこれなのだろうか。なんかその怒りの表情の加賀が心配になって俺は荷物を置いた後加賀の後を追った。
☆
「このあたりだと思うんだけど…」
階段を下りていたので下の階に行ったはずだ。上の階は存在しないから下を探せば出てくると思うが。
ガシャン!
「なんだ今の音!?」
下に降りて探そうと思っていたらいきなり物が割れた音がした。何かガラスが割れたというより焼き物が割れたような音だ。湯呑とかを勢いよく投げつけるとこんな感じの音が出る。落としてしまったのかと思い俺はその音のする方向へと向かった。その音のした場所は食堂だ。数人の人影が見える。それと見覚えのある髪形。左に流して縛っているのは加賀だけだったはずだ。加賀がいるのかと思い開けてみた。
「おーい加賀…」
その中はとんでもない絵面だった。弓を構えている加賀。そして床に落ちた紅茶を飲む用のティーカップや湯呑。下にはクッキー?のような洋菓子が転がっていて、お茶なども少しこぼれたせいで床が少し濡れていた。そして加賀のほかにもう一人。少し大人びてはいるもののだいたい中学生か高校入ったばかりのような見た目をした人がいる。しかし加賀と似たところがある。同じ空母だろうか。加賀は一航戦。たぶん、彼女は五航戦だ。
「どういうつもりですか?提督室を覗き見するなんて」
「あ、あんたには関係ないでしょ!」
「…ちっ」
舌打ちと一緒に発射される矢。その矢はその五航戦、瑞鶴の頭の横に刺さる。あと少しずれてれば確実に当たっていたところだ。何をしているのかと思って話を聞いた。
「何してるんだ!」
「提督ですか…少々お待ちを…この無礼者を…」
「瑞鶴だな?俺が今日からここに着任した提督だ。二人とも今すぐ提督室へ来い」
俺は加賀と瑞鶴を提督室へと連れてきた。初日から喧嘩かと思うと気分が悪くなる。確かに上の人とかが一航戦と五航戦は仲が悪いという。加賀と瑞鶴なんて最悪だとか。まさかとは思っていたが本当にこんな事態に直面するとは思っていなかった。
提督室に二人を入れて、俺は椅子に座った。そして俺はペンと紙を用意して俺の前に立たせた。
「それじゃあ話を聞かせてもらおう。加賀、お前はなんで瑞鶴に向けて弓を構えていた」
「瑞鶴が提督室を覗き見していたからです」
「そうか、じゃあ次。瑞鶴、お前はなんで提督室を覗き見していた?」
「新しい提督がどんな人か見に来た」
「そうか…」
聞いた話を少しずつ紙に記載していく。いちいち問題ごとに口を突っ込みたくはないが加賀に関しては傷害未遂だ。本来なら憲兵ものだが、俺の責任にされても困る。着任初日から問題起こしたなんて言われたら完全に信用を失う。
「加賀、お前のとった行動は立派な傷害未遂。犯罪だ。それに対して何か言うことは?」
「ありません」
しらっとここまで言えるのはすごいと思う。でも、やはり初日から信用されるわけはない。話したくないことでもあるのかもしれない。そこを聞かないことには真相はわからない。だから…。
「とりあえず今日言いたいことはそれだけだ。二人とも提督室を出ろ」
「…わかりました」
そういって加賀と瑞鶴は部屋の外に出て行った。そして残された俺。明日から始める仕事のため準備を色々としないといけない。ここの地図はたまたま提督室の机の引き出しの中にあって、知ることができた。自分の自室に荷物を運びこんで準備をしよう。
私室に行くと、恐ろしいまでに片付いている。やはり掃除好きか整頓好きの提督だったようだ。布団もしっかり整えられていて埃一つない。でも確かに俺も埃があったら気になって掃除し始めるだろう。
☆
「これで終わりだな」
もってきたものをすべて部屋に置いて私室から提督室へと戻る。まあ寝るだけならあれくらいの広さで十分だ。というかあれ以上の広さを用意できないのだ。そんなことに金や資材を使うくらいならと上の判断だろう。まあ確かに考えていることは適切だ。
窓から見える景色は既に赤く染まっている。こんなに時間をかけてしまったのだろうか。まあいい、とりあえずできるだけ執務を済ませるとしよう。
「ん?誰だ?」
ドアをたたく音が聞こえる。誰かはわからない。
「加賀です。入ります」
入ってきたのは加賀だ。正直今日は顔も見たくなかったが用があるなら聞かないわけにはいかない。
「なんか用か?」
「そろそろ執務を開始しているころかと思いまして」
「ああ、そうだ。今から執務を始めるところだ」
「秘書官として手伝わせていただきます」
俺は加賀に書類を渡して少し手伝ってもらうことにしたできることならできるだけやっておいた方が個人的にも楽だし明日に仕事を回さないで済む。加賀は書類にとんでもない集中力で挑んでいく。俺も負けじと書類に手を付ける。この時間からキリのいいところまでやればだいたい…21時くらいまでは続けることになるだろう。面倒くさがりの俺としては、こういったことは小さいころから好きではない。俺はため息をついて仕事に取り掛かった。
☆
「加賀、飯はどうするんだ?」
執務がキリのいいところまで進んだので加賀に言った。すると加賀は手を走らせながら言った。
「私はまだ結構です。提督はお先にどうぞ」
「おいおい冷たいな…だが、命令だ。休憩しろ。こんな時間までどれだけ休まずに仕事したと思っている。出撃時の事も考えろ」
そういって俺は加賀のペンを取り上げる。そして俺の机の上に置いて加賀を部屋から出した。そういえば通った時にあったやつにはあいさつしたけど他はまだだったな。他の奴らにも明日声かけてみるとしようか。
こんな時間に飯は食わねえだろうと食堂に行くと何人かが座っていた。夜だから小腹でもすいたのだろうか。いたのは…戦艦?特徴的な髪のまとめ方をしている奴が一人いる。さっき書類をやっているときに見たからわかるが…彼女は金剛型一番艦、金剛とその姉妹。比叡、榛名、霧島の三人だ。優雅な夜のティータイムといったところだろうか。
「君たちが金剛型の姉妹だな?」
「Yes!帰国子女の金剛デース!」
「比叡です」「榛名です」「霧島です」
「俺が今日着任した提督だ。以後よろしく頼む」
とりあえず加賀を座らせる。誰かいるかなと思ったが誰もいない。本来食堂に鳳翔さんか間宮さんがいるはずだ。彼女らがいないということはもうすでに寝たということだろう。仕方ないので何か作るとしよう。
「金剛、お前たちは飯を食べたのか?」
「No…お腹がすいてるネー…」
「…そうか…じゃあなんか作るか?」
「提督がデスカー?」
「そうだが?」
「…それじゃあありがたくいただくデース」
というわけで金剛姉妹の分も作ることになった。何があるかなと思ったけど、結構まともにものがあった。肉もあるし、米もあるし、もう最高だ。それじゃあとりあえずできそうなものを作るとしよう。魚があったし焼き魚でもしよう。味噌汁を作って明日の朝飲めるようにしよう。
☆
「Delicious!」
「おお、そりゃあよかったよ」
金剛は和食を食べるかどうか不安だったが俺が作れるのは和食関係だけだ。とりあえずおにぎりと焼き魚を作った。味噌汁も同時に出した。あとはお茶くらいだ。
「本当においしいですね…」
「それはどうも」
皆おいしそうに食べている。作った本人としてはとても嬉しいことだ。それからは特に何かあるわけではなく黙々と食事を続けた。話をあまりしていなかったせいで結構早く食べ終わった。飯を食った金剛たちと加賀は帰ろうとしていた。確かに何もなかったが加賀の顔の計り知れない怖さがあってちょっとびくびくしていた。なんであんななのか。金剛たちはなぜご飯を食べていなかったのか。とにかくいろいろ気になった。彼女らに聞けば教えてくれるだろうか。俺も帰ろうとしていたがやはり気になって呼び止めた。
「霧島…少しいいか?」
「はい…なんでしょう司令」
「なんでここってこんな空気悪いんだ?」
そう、一番聞きたいのはそこだった。他にもいろいろ気になったことはあった。なんでこんなに整備がちゃんとしているのか、なんで晩御飯を食べていなかったのか。その他指の数以上のものがあったけど一番はそれだ。この中で加賀以上に話してくれそうだったのが霧島だったため呼び止めたのである。
「…それは必ず言わないといけない話なんでしょうか?」
「…できることなら言ってほしいけど…言いたくないなら言わなくてもいい」
「…すみません。それならあまり言いたくないです」
霧島の顔は、昼間の瑞鶴のような顔をしていた。恐れとか不安とかといった負の感情を乗せた顔だった。「難あり」という意味がやっと分かった。霧島が言いたくなかった話の内容がその「難あり」の理由なのだろう。霧島は扉を閉めたが扉の奥でため息をしているのが聞こえた。本当に何があったのかと思うとちょっと怖くて嫌だった。