今日は司令長官達がこの鎮守府を訪問してくる。鳳翔さんの達の尽力によってなんとか準備を間に合わせることが出来て、艦隊運用に支障が出ることもなかった。今は午前9時。正門の前でそろって待っているところだ。遠征に出している艦隊のことを上の人たちに伝えてあるのでそっちのことに関しては何も言わないでほしいと思う。
「来たぞ」
正門に二台ほど車が入ってくる。それに向かって敬礼し、車が止まると中から5人ほど出てきた。1人は司令長官、他は大将とか中将とか結構実力者の人たちだ。俺たちは軽く挨拶をした後、早速運用中の状態や鎮守府の状況について説明した。この鎮守府の特徴は自主性を持つことにしている。自分で何かをするというのが重要だと思っている。だが実際は、面倒くさがりな俺に仕事をあまり回したくないというのもある。
それはさておき特徴が自主性と言ったが、それは俺のサボりたいという欲求以外にいくつか理由がある。一つは緊急時の行動だ。鎮守府ではほぼ毎日出撃をして、偵察や制圧作戦を繰り返している。だがそれはあちら側も同じ。深海棲艦が鎮守府に攻めてこないとも限らない。そういったとき、俺は近くの住民の避難等でその場を離れる可能性がある。妖精さん達もいるし下手に離れるわけにはいかない。別に艦娘達を道具としてみるわけではないが、本分は「深海棲艦を倒す」事ではなく「海を守り、人類を守る」事だと思っている。そのためなら俺はたとえ面倒なことでも力を尽くすと決めている。そのために協力してもらっているようなものだ。
もう一つは、緊急時と言えば中身はほとんど同じだが場所が違う。出撃中、イレギュラーな事態が起きたときその場の状況判断も重要になってくる。ほとんどは俺が指揮するがその場その場の判断の方が正確だ。それを考えると自分たちで砲雷撃戦の指揮を執れるようになればさらに安全性は上がると思う。
上の人たちからは「独特だな」と口をそろえて言われたが、なんと言われようとこれが俺の手法だ。こうしろあーしろ言われたとしてもそれを曲げるつもりはない。国家反逆罪?知ったことか。俺たちがしているのは国やそこに住む人々を守るための戦い。国家反逆罪程度でそれが閉ざされるのなら大本営の奴らを全員力でねじ伏せることも覚悟の上だ。もちろん口に出したりしないが…。
艦隊指揮を視察した後、俺は上官達を連れて食道へと向かう。そこには給僚艦勢が用意してくれた料理やお酒がたくさん列んでいた。上官達も普段見ない光景に開いた口が塞がらないようだ。ちょっと面白い。
それらの料理に俺たちは手をつける。そこからは仕事のことから離れて普段の生活についての雑談などをしていた。
だがその時の俺は気づきはしなかっただろう。上官達とこの鎮守府を取り巻く闇を。
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「ついに…これで終わる…」
私の手にあるのはある粉状のもの。そして目の前にあるのは上官達と提督に出す予定の紅茶。これを出してくれとあの人に言われて私は今準備をしている。誰にも見られないように台所の陰ではなくその隣の部屋で。そこなら基本誰も来ないし指示を遂行することが出来る。
だけどその粉をその紅茶に入れようとしたとき私は手を止めた。なんで止めてしまったのかわからない。あんな人たちより、妹や仲間の方が大切なはずなのに何で止めてしまったのだろうか。その手はすごく震えている。まだ迷っている。迷っているはずはなかった。それなのに私は…。
「見つけましたよ。何をしているんですか金剛さん」
「えっ!?」
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「そろそろか…」
「?」
「いやこっちの話だ。それよりこれを食べないか?君の実力は私達上層部でも捨て置けない存在だからな」
そういって大将が紙袋から出したのは洋菓子のようだ。しかも俺も知っている結構高級な奴。最初は受け取る気は無かったのだが、押しが強く結局全員で食べることになってしまった。でも確かに買ってもらったようなものなのでありがたくいただくとしよう。
その時食堂の扉から金剛が紅茶をもって入ってきた。ちょうど頼もうとしていたのでよかった。金剛は俺たちに紅茶を出すとそそくさと食堂を出て行ってしまった。みんなで紅茶を飲んだ後、司令長官が口を開いた。
「少し真面目な話なのだが…以前ここで起きた毒物混入について。君は何かしら無いか?」
「いいえ…僕も何が何だか…」
俺は以前テトロドトキシンというフグの毒をいれられてしまい倒れたことがあった。俺を含め多くの提督勢は艦娘の誰かがやったと思っている。もちろん俺もそうなのだが、それの信憑性が全くなくて、それに加えて仮に艦娘がやったとして誰がやったのか絞り込めない。俺は赤城や霧島と一緒に探したのだがわからなかった。もちろん2人にもアリバイはあるので可能性は低い。
そこで絞り込んで出てきた証拠…その毒が入っていた可能性が一番高いのは鳳翔さんの料理ではなく、俺がその前に加賀と飲んだお茶だった。吹雪が飲食物に混入されているという明石の言葉をヒントに見つけ出した答えだったがそれの信憑性が高い理由は、基本そのお茶っ葉や湯飲みは俺しか触らないからだ。そこで触ったことのある奴が容疑者と言うことになる。
そこでまた問題がある。どうやって毒をいれたのかということだがそれも吹雪の発案で見つかった。湯飲みだ。俺がもってきた湯飲みの縁につけられていてそれを俺がお茶と一緒に飲んでしまったと言うことだそうだ。
わかっている情報をあらかた説明した後、司令長官は誰かに電話をしていた。するとそれと同時に食堂の扉が勢いよく開く。入ってきたのは赤城と金剛。そして憲兵たちだった。司令長官が指示をすると彼らは上官達に近づいて手錠を掛けていた。状況がわからず司令長官に聞くと赤城が口を開いた。
「以前ここで提督をしていた人は交通事故で死んでしまいました。ですがそれは事故ではなく事件であることがわかったんです。司令長官にその話をしたところ協力してくれることになりました。そして以前の提督が死刑になりあなたが来た。以前のようなことを防止するため、私は司令長官の指示でこの鎮守府に在籍。内情を探っているところであなたが倒れ、それを報告しました。そしてやっと犯人がつかめました。それが金剛さんです」
金剛は涙を流しながら泣いている。そこで金剛ははっきりと話してくれた。妹を人質にして脅された。もし上官達の命令に逆らえば妹たちは解体し海に流す。…つまり殺すと言うことだ。
「申し訳ありませんデシタ…!」
「というわけだ。お前をだしに犯人を捕まえたようなものだがやっと捕まえられた。主犯格がこいつらだったからな…。連れて行け」
「はっ!」
「金剛…貴様ァ!」
「早く来い!」
半ば、いや強引に憲兵はその上官達を連れて行った。そこへまるで見ているかのように一本の電話がかかってくる。それに出るとそれはどうやら元帥のようであった。司令長官から元帥に対して連絡をいれたらしい。俺に話したいことがあるなら代わってくれてもよかったのだがまあそれはあちらの都合と言うことだろう。元帥もこの鎮守府の事件は気になっていたらしい。加えて殺されたのは自分の息子ともなれば当たり前だろう。
これで俺たちは一件落着と言うことだ。話がどんどん進んでいくのでちょっと疲れた。金剛もどうやら落ち着いたようで普通に立てている。
「赤城、ありがとう」
「いえ、任務ですから」ニコッ
「本当にありがとうございました」
「気にするな。旧友の事だから気に掛けてるだけだったし」
「金剛も申し訳ないと思うなら前みたいに楽しく過ごしてくれ」
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「疲れた…」
「お疲れ様です」
司令長官達が帰った後、俺は榛名と一緒に執務をしていた。金剛の疲れが取れ比叡とぐっすり寝ているらしい。榛名は寝ないのかと聞いたら「秘書官ですから」と返された。確かによく考えてみればそうだった。今日の秘書官は彼女だったのだ。
「少し良いでしょうか…」
執務も終わりそろそろ寝ようかと思っていたとき、榛名が話題を出してきた。どうせこの後は寝るだけだし、暇と言えば暇なので聞くことにした。榛名を座らせてお茶を出すと榛名はそれを飲んで口を開いたのだが…第一声は全く予想も出来ないものだった。
「ごめんなさい!」
榛名の話を聞いたところ、どうやら犯人は金剛ではなく榛名なのだという。最初に脅迫されたらしく、以前俺の湯飲みにテトロドトキシンを付着させたのは彼女。そして…艦隊の艦娘を大破させるように仕向けたのも榛名だった。俺はその話を聞いて口を塞ぐことが出来なかった。とても不思議な気持ちだった。怒りと絶望が入り交じっていてとてもいつも通りでいることは出来なかった。
だが、そこでいつも通りでいようとするのが提督というものだと思う。なんとか押さえ込み、俺は榛名の話の続きを聞いた。榛名が苦しんでいることに気づけず、金剛がその苦しみを肩代わりし、結果として2人を苦しめるだけになってしまった。
こんなことをする資格はない。彼女らの罪は俺の罪より軽い。普通なら逆、俺が許してもらわないといけない内容。俺は榛名に頭を下げて言った。
「すまなかった!」
「そんな…悪いのは私で…」
「違う…俺が気づけなかったんだ。こんな俺だが許してほしい」
「提督…」
☆
「テイトクゥ!ティータイムにするデース!」
あの日から一週間、俺たちは少し変わった。接し方やいる時間、仕事に対する態度までたくさん変わっていった。平和ではない。制海権もまだ取り戻せていない。だけどそれでもひとときの幸せを感じることが出来ていた。面倒くさがりな俺の性格は全く変わらず、よく加賀とかに言われている。「もっとまともに仕事してください」と。艦娘に上から目線に言われる提督というのも普通に考えれば無いが悪い話ではない。
「ああ、今行くよ」