レ級亜種の島開拓にっき   作:そうなんす

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ぷろろーぐ

 無意識と意識の狭間を揺蕩う自我が、ゆっくりと輪郭を取り戻していく淡い感覚にふと気が付いた。

 

 ああ、後数秒で目を覚ますのだな――――浮上していくぼやけた自我がぼんやりとそう思い――――そして、予想通りに瞼が開く。

 

 

 青。

 

 

 目の前に広がったのは、予想外のことに青空だった。染み一つない美しい青色が頭上のずっと上まで広がっていて、風が吹いては飲み込まれていった。

 

 鼻孔を刺激したのは、独特な潮風の匂いだった。あまり好きじゃない生臭い匂いだ。だが、こんな青空と一緒に嗅ぐとどことなく清々しい気分にもなれるから不思議だ。

 

 しばらくそんな素晴らしい景色と共に呼吸を繰り返した俺は、ふと目を覚ましてぱちくりと辺りを見渡した。

 

「…ここどこ?」

 

 飛び出したのはそんな阿保っぽい言葉。我ながら情けないが、まぎれもなく俺は今全力で困っていた。

 

 何せ、自分の家の布団で眠ったはずなのに、目を覚ましたら海の上に立っていたのだ。これで困らない人間がいるとしたら俺とすぐさま代わってほしい。

 

「ってイうか、何だこの声…」

 

 なんだろう、物凄い幼い声というか、鼻声というか…いや、萌え声?とにかく女の子っぽい声だ。おかしい、俺の声はもっと低くて野太かった筈なのに。

 

 俺は嫌な予感がして自分の身体を見下ろしてみた。そして言葉を失う

 

「…これ、俺の身体じゃなくね?」

 

 まず、視線が低い。それに肌が白…いや、これは美人的な白ではなく、病的なまでの白だ。それに腕も足も細いし何よりも胸が微かに膨らんでいる。多分、中学生程度だろうか。

 

 顔に手を触れさせると、なめらかな肌の感触が顔と手両方に帰ってくる。髪の毛は短髪だが、男の俺からすると十分長い。でも違和感は感じるが邪魔に感じることがないのは、この身体がこの髪型に慣れているからなのだろうか。

 

 俺は恐る恐る自分の股間に手をやった。

 

 何もなかった。いや割れ目があった。俺は気を失いかけた。

 

「…まて、待て待て待て…」

 

 俺は気分を落ち着かせるために、空を仰いで――――息をのんだ。

 

 何故って?化け物の顔がすぐ近くにあったからだよ此畜生。黒くてドラゴンみたいな頭がどこからか伸びていて、人間のような歯を見せてこちらに顔を向けていたのだ。今度こそ俺はしめやかに失禁した。

 

「…」

 

 腰を抜かして海面に座り込むと、ソイツも同じタイミングに同じ速度で顔を迫らせてくる。

 

「くっ…くるナ…っ!」

 

 俺は食べてもおいしくない。おいしくないと思うよ。

 

『フルフル』

 

 …なんだ?首を左右に振ってる。まさかコミュニケーションが取れるのだろうか?

 

 と思っていたら、そいつは俺の尻の方に顎を指さした。俺の尻がどうしたって…。

 

「…はああああア!?」

 

 前略。そいつは俺の尻から生えていました、まる。

 

 どういうことなのなの…どういうことなのなの…。

 

 俺はその後、自分の身体を死に物狂いで調べた。海のど真ん中だからって知ったことか。どこを見渡しても水平線が遥か彼方に見えるだけで他に何もないのだから、多分誰も見てないだろう。

 

 という訳で、隅々まで見てみたり途中で流れてきたプラスチックの破片なんかに顔を映したりして、分かったことがあった。

 

 俺、なんかレ級になってるっぽいわ。

 

 いや、厳密にいうとレ級じゃない。なんだろう…レ級も十分少女だが、この身体はそんなレ級を一回り幼くしたような感じだ。レ級の妹的な感じ。それにパーカーのデザインが少し違うような気がするし、後ろに生えた深海棲艦もよく見ると少し可愛い感じになっている。それと、一番の違いと言えば足。陸地でも歩けるような人に近い足だ。

 

 いうなればレ級亜種、ってところか。

 

「…」

 

 とりあえず前が開いたパーカーのチャックを上げて首まで隠して、俺は頭を抱えた。

 

「どうしてこウなった…!?」

 

 ダメだ、何も思い出せない。俺はただ昨日普通に眠っただけだ。それまでも何の変哲もない日常を続けてきただけで心当たりは一切ない。死んだ記憶もなければ神に出くわした記憶もないし、女の子を助けるために命を張ったりトラックに跳ねられた記憶もない。

 

 本当に、目が覚めたらこの身体になっていて、前が開いたパーカー来ていて中身がビキニでしっぽがイ級だったのだ。

 

「…あ、意識が飛ンでた…」

 

 ここまで唐突過ぎると、人間って本当に思考が停止するんだな。俺の頭のタービンは今にも熱で融解しそうだ。もう訳が分からない。

 

 分からないが、どうにも夢じゃない事は分かる。というのも、もう目が覚めてなんだかんだで1時間は経っているからだ。夢ならとっくに覚めてる。

 

 本当、よくもまあここまでぼんやりと過ごせたものだ。まあ、それだけ衝撃的でまさしく呆然自失って感じだったんだろうが。

 

 空を見上げて俺は心底困って首をひねる。

 

 …やべえ、どうしようこれから。

 

 なんか、転生した主人公がすぐに適応して生きていけるのって本を読んでる側では違和感とかなかったんだけど、自分で経験してみるとマジで無理ゲーだわ。あいつら何なの?適応力の化身なの?

 

 だって、艦これの世界(推定)に転生してきて?

 

 レ級亜種になっちゃって?

 

 で、ここで俺にどうしろと?何をしろと?

 

 分からん、ぶっちゃけ分からん。俺を転生させた謎の存在Xは、俺に何を期待して転生させたのか。これがマジで分からない。

 

 とりあえず…どうする?レ級らしく艦娘襲うか?

 

 いやいや、襲う理由がない。っていうか襲いたくない。だって艦娘ってあれでしょ?姫級を相手にして倒すベテラン提督もいるし、レベル100越えの化け物もいるんでしょ?そんな奴ら相手に事を構えようとか、無謀すぎだ。

 

 それじゃあ、深海棲艦の仲間の元へ向かう?

 

 これも俺に動機がない。だって俺心は人間のままだし。深海棲艦ってなんかドロドロしてそうっていうか、殺伐としてそうっていうか…洗脳されて対艦娘の駒として扱われそうで、近寄りたくない。

 

 人間として生きていく…ってのは、この見た目じゃ絶対無理だ。肌が白いし、なんか目から炎っぽいのが出てるし、そもそも尻尾あるし…人に近づいた瞬間には通報&艦娘に滅せられる未来が見える。

 

「ううーん…」

 

 頭を悩ませていると、尻尾が俺に頭をすり寄らせてきた。ぷにぷにとしていて意外と触り心地が良い事に驚きつつ、俺はソイツに顔を向ける。

 

「なんだ?」

『ぷいっ』

「んー…?」

 

 向こう、向こう!と顔を向けるが、目を凝らすも何も見えない。もっと見えないかなー…と思っていたら、尻尾が口から何かを吐き出した。うえっ、何やってんだよ!っていうかどうなってんだよそれ!

 

「…って、これ艦載機…?」

 

 俺がつぶやくと同時に、、口から飛び出した飛行機がぐいっと上昇して空へと消えていった。

 

「…目を凝らせばいイのか?」

『こくこく』

 

 なんとなく言っていることが分かって、俺は少し逡巡したがすぐに言われた通りにした。すると、視界が一つ増えた気がした。これは…艦載機の見ている景色か。こんな事できるんだ、すげえ。

 

 艦載機が見下ろしている景色には、海の中に点があった。もっと目を凝らしてみると、それは小さな土地のようだ。つまりは島である。砂浜と小さな森が見える。大きさはそれほど大きくはないと思う…多分。

 

 それと、砂浜に何か変なものがあるが…これは、打ち捨てられた船だろうか?

 

「…お前これを俺に見せたかったのか?」

『ふんす』

 

 俺は少し逡巡して、ため息を吐き出した。とりあえず尻尾の好意を受け取って行ってみることにしたのだ。

 

 まあ、確かにずっと海の上に突っ立ってるってのも詰まんないしな。仮でも本命でも、拠点は必要だ。

 

 俺は得意げになっている尻尾に口元をほころばせて、頭を撫でてやった。お前見た目の割には良い奴だな。

 

「それじゃ行ってみるか」

『!』

 

 おー、といった感じの反応が返ってくるのに俺は少し元気づけられて、直感に従って海の上を滑り始めたのだった。

 

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