ダンジョンに首はあるだろうか。   作:初陣の通りすがり

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タイトル通りです。まあ、主人公がこれな時点でテンプレじゃないかもですけど。


デュラ・インザ・テンプレート

「あの、何か⋯⋯ご用でしょうか?」

 

 

 その日、ギルドの受付嬢、ハーフエルフの女性――エイナ・チュールは突然の来訪者に頭を悩ませていた。

 彼女の前に立つのは黒い騎士甲冑に身を包んだ存在――デュラ・アンデッド。しかし、それを知るものは現状ギルドには存在しない。

 エイナ自身、どこかで見覚えのある風体ではあったのだが、やはり言葉一つ喋らないこの騎士には当惑するしかなかった。

 

 

「冒険者の方、ですよね⋯⋯?」

 

 

 エイナの質問に、デュラは初めて兜に包まれた頭部を――若干不自然ながら――縦に振った。

 一応の意思疎通は図れることが分かり安堵したのも束の間。デュラは唐突に腰に備えた鞄から板と白い棒状の物体を取り出すと、その板に白い棒で何かを書き始めたではないか。

 

 

『私はデュラという。貴公の名をお聞きしても?』

「え⋯⋯あ、はい。私は、ギルドの受付を担当しています、エイナ・チュールと申します」

 

 

 デュラは、エイナの返答に頷くと指先で板を拭う。そうして余白のできた部分にまた文字を書き始めた。

 どうにも、この鎧甲冑の騎士は言葉を発せない理由があるらしい。エルフの血を引くからか、生来の物なのか。聡明なエイナは、理解するとデュラの次の行動を待った。

 

 

『エイナ殿、貴公にそのような権限があるかは承知していないが、ウラノスとの会合を取り計らっては頂けないだろうか?』

「⋯⋯神ウラノスと⋯⋯ですか?」

 

 

 予想外の要望に、緊張が走る。

 この存在は、バベルの上に座する神に何らかの用があるらしい。怪しさしか感じないこの存在を神ウラノスに合わせるのは、如何なものか。それも、恐らくは第一級冒険者に匹敵する程の猛者であろうこの騎士を。

 先程から全身に痛いほど伝わってくる雄々しさと力強さ。それは、あのロキ・ファミリアやフレイヤ・ファミリアの第一級冒険者達と比べても劣らぬものであろう。冒険者でなくとも、普段冒険者達と接する立場のエイナにはそれが容易に分かった。

 だからこそ。だからこそ、このデュラという存在を神ウラノスに会わせることが如何に危険なのか。それが分からないエイナではない。しかし、これが重要な用事などであったなら通さないというわけにもいかないだろう。

 

 

「⋯⋯上の者に確認してきます」

『感謝する。』

 

 

 結局、エイナは上司であるロイマン・マルディールに丸投げすることにした。

 

 

 ▽

 

 

 ふむ。

 ⋯⋯ふむ。

 いや、私自身話せないことが不便である、ということは理解していたつもりだが⋯⋯。

 コクバンとチョークでの意思疎通というのも大分難解だな。これでも昔よりかはすんなりと考えを伝えられるようにはなったが⋯⋯。

 やはり、私という存在が怪しいということには変わりないのだろう。

 ⋯⋯それにしても、ロイマンか。彼が、今のギルドのトップを務めているのか。彼も出世したものだな。私が冒険者をやっていた頃は、彼も一介の職員でしかなかったというのに。

 時代は変わる、ということか。

 

 見れば、ギルドで屯する冒険者達も、昔と違って大分質が良い様に思える。私個人としては、後輩が次々と私を抜かしていくというのも複雑な気分ではあるが、失くした首を探すだけの私には関係の無いことだ。

 

 取り敢えず、奥で一悶着しているようであるから、椅子に座って待たせてもらおうか。

 

 

 ▽

 

 

 黒甲冑の騎士デュラが椅子に座ったのを見計らってか、数人の男達がデュラを取り囲んだ。

 周囲の喧騒はパタリと鳴り止み、彼等とデュラの様子を伺うような視線が殺到する。

 

 

「おい、アンタ」

 

 

 意にも介さず椅子に座って正面を見続けるデュラに痺れを切らしたのか、男の内の一人が声を張り上げて威嚇する。

 

 

「てめえっ! 聞こえてんだろっ!?」

 

 

 そこで、やっと気が付いたといったふうにデュラは視線を男達に向けた。見れば、その者達はオラリオの道をギルドに向かって歩いていた最中にも見かけた顔。デュラ自身には思い当たる因縁があるわけではないが、彼らからすればデュラは気に食わぬ存在だったのやもしれぬ。

 デュラは、男達に掌を向けて静止を促すと、鞄から取り出した黒板にチョークで文字を書き込み始めた。

 

 

『貴公らは、私に何用か?』

「⋯⋯ぁあ? てめえ、気が付かなかったとは言わせねえぞ」

「はっ、ここじゃなんだ。表に出ろよ」

 

 

 そのあからさまな対応に、デュラは嘆息するような仕草をするもゆっくりと立ち上がった。渋々といった態度に男達は眉をひくつかせるが、まだ時ではない。

 

 

 

 ▽

 

 

 ギルドを出て、デュラが男達に連れてこられたのは路地裏。男達は、それぞれの得物を構えるとデュラを取り囲んだ。

 

 

「てめえに恨みはねえがよォ。大金もらったんでな。さくっとやらせてもらうぜおィッ!」

「前金の二倍ももらえるんだ。相当恨まれてんじゃねえのか、おい。はははっ!」

 

 

 大金をもらった。その一言に、デュラは内心首を傾げる。傾げる首などないが。

 自らは誰かの怒りを買うような真似をしたであろうか。否。己はオラリオに帰還して、まだ半日も経っていない。その間に接触したのも、じゃが丸くん売りの女神とハーフエルフの受付嬢エイナ・チュールのみ。思い当たる節があるとすれば、過去に因縁のあるファミリアの存在。闇派閥(イヴィルス)などとはそれなりに衝突したが、いずれも滅ぼしたはずだ。ならば何処だ。残党という可能性もあるが⋯⋯。

 

 思案を巡らせている間にも、男達はそれぞれの武器を構えてじりじりと詰め寄る。

 

 

「くたばれよ、無口野郎ッ!!」

 

 

 しかし、こうして思案していても答えなど出ない。デュラは意識を切り替えると、襲い掛かる男に意識を向けた。

 得物は斧。こちらを殺すつもりで来ている。しかし、脅威ではない。

 

 上体逸らし。斧を避ける。肩を当てて斧を持つ手の動作を封じ込める。

 踏み込み。体勢を崩した男の懐へ潜り込む。何も持っていない右手で男の手を引っ張り寄せる。

 シールドバッシュ。左手の盾で以て男の顎を強打。その意識を刈り取った。

 

 その流れるような動作は、レベル1とレベル2の混成した男集団の誰にも理解出来なかった。

 

 

「「は?」」

「え⋯⋯?」

「あ?」

 

 

 男達の唖然とした声が漏れる。想定外。それ以外の考えが思い浮かばないとでも言うかのように。

 そこに鈴の音のような少女の声が重なる。

 デュラはその気配に気が付いていたが、男達の仲間、伏兵かと気に留めていなかった。しかし、そういうわけでもないらしい。

 

 

「誰だ⋯⋯ッ!」

「⋯⋯」

 

 

 建物の陰から現れたのは、金髪の少女。武装していない様子を見るに、ただ興味本意で後をつけてきたのか。

 男達は少女の脅威とは到底思えない雰囲気に安堵する。しかし、デュラにとってはそうではなかったらしい。

 

 

「⋯⋯ッ」

 

 

 警戒を最大にして剣の柄を掴むデュラ。その警戒を向けられている少女は困惑しながら、口を開いた。

 

 

「あの⋯⋯私は、敵じゃないです」

「あぁ?」

「⋯⋯り、リーダー⋯⋯! こいつ、剣姫ですよ! 剣姫、アイズ・ヴァレンシュタイン!」

「はぁ? そんなんが、ここにいるわけねえだ⋯⋯ろ⋯⋯」

 

 

 男達のリーダー格であろう男が、仲間の言葉を否定しようと現れた金髪の少女を睨みつける。

 しかし、ここで男はあることに思い至る。

 先に黒甲冑に倒された男は、燻っているとはいえ腐ってもレベル2。それを一瞬で気絶させた存在が警戒心を大にして構える存在。本来、レベル差というのは絶望的な壁となって冒険者と冒険者を隔てる。だからこそ、先刻の出来事を目の当たりにした時点で男達は退却を腹に決めていた。自分達が束でかかっても勝てないと、理解出来た。

 そんな存在が刃を抜かんとしている。

 

 男達には、自分達など眼中に無いのであろう後の黒甲冑よりも、目の前に立つ華奢な少女が明確に聳え立つ“死”そのものに見えた。

 

 

「⋯⋯う⋯⋯うぁっ!?」

「おい、待て! 逃げるなっ! クソっ!」

 

 

 雲の子を散らすように、数人の男達はその場から一目散に走り去っていく。気絶した男を拾う余裕もないらしい。

 

 

「⋯⋯あの⋯⋯」

 

 

 路地裏には、金髪の少女――アイズ・ヴァレンシュタインとデュラの二人だけとなった。

 

 




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