魔法少年リリカルけもの   作:さにり

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第七話

 

「はぁ~、気持ち良かったね、アンナちゃん!」

「うん!」

 

 浴衣を着て並んで歩く二人は上機嫌で、アンナなどヴィルヘルムの声も聞こえない程懐いてしまう始末。香純も香純で妹のような存在が出来たのが嬉しいのか、アンナの手を離そうとしない。

 

「アンナちゃん、この後予定ある?」

「え? えっと……ヴィルを待たせてるけど、ちょっとくらいならいいかな?」

「ホント!? 折角だからあの二人にも紹介したいな!」

「ふたり……?」

 

 この後も一緒に遊ぼうと誘う香純にヴィルに悪いと思いつつも頷こうとした途端、男湯側から一人の男性が走って来る。

 

「アンナ! 行くぞ!!」

「え? ちょ、ちょっとヴィル!? どうしたの?」

「あ、アンナちゃん!?」

「ごめん、香純! また今度!」

「え、あ、うん?」

 

 男性に連れられて去っていくアンナに手を振りながら呆然と立ち尽くす。アンナの知り合いの様だから、誘拐ではないのだろう。

 

「何してんだ、バカスミ」

 

 訳も分からず二人が去って行った廊下の先を見つめていれば、後ろから声を掛けられた。振り返れば、先程別れた二人の幼馴染。

 

「あ、司狼、ライニ」

「誰か一緒に居たのか?」

「うん。可愛い子と友達になったんだけど、何か急いでたみたい。ここに泊まってるって言ってたから、また会えるんじゃないかな?」

 

 まだ困惑を残しながらも、折角の旅行だからと思い直して二人の手を取った。

 

「まだ夕飯まで時間あるし、あそぼっか!」

「へいへい」

「そういえば、ユーノは?」

「逆上せちゃって、美由紀さんと一緒に先に上がったよ」

 

 

「ねえ、ちょっと待ってよヴィル! ヴィルどうしたの!?」

「どうしたもこうしたもねぇ! あの化け物共もここにいるんだよ! 鉢合わせたらやべぇ。ジュエルシード手に入れたらとっとと帰るぞ!」

「え、あの人たち、が……?」

 

 騒ぐアンナを部屋の中に引きずり込んで、先程見たあの二人の事を告げればアンナの目が見開かれる。小さく震えるアンナの肩に手を置いて、諭すようにヴィルヘルムは屈みこんだ。

 

「あいつら探知魔法はまだ持ってねぇ。俺達が先にジュエルシード見つけてさっさと逃げれば鉢合わせずに済む!」

「あの、今から、出るの……?」

「あ? どうしたアンナ。いつもならお前の方から急かす癖によ」

「うん、あの、でも、香純が……。ううん、何でもない。行こうヴィル。お母さん(ムッター)のためだもんね」

「アンナ……?」

 

◆◇◆◇

 

「漸く寝たか、このコロポックル」

 どこか呆れたように、布団で熟睡する香純を見て司狼は苦笑する。ずれてしまった布団を被せ直すライニに視線を移すとふと以前から気になっていたことを聞いてみた。

「お前さ、香純のこと好きなの?」

「……? すき、というのはどういう意味でかな?」

「恋愛感情って意味だよ」

 

 言っている意味が分からない、とでも言いたげに首をかしげるライニに間髪入れずに続けて告げれば、彼は苦笑して肩を竦めた。有り得ないとでも言いたげに、それでいて香純を見る目は優しい。

 普段とどこか違う二人の様子にユーノはただ心配そうに二人の顔を見上げていた。

 

「残念ながら、それはないな。僕はそういうのには疎いから。卿の言うように僕が過保護に見えるのは、彼女を預かっている身故に、だからだろう」

「預かる? 誰から?」

「さあ? それに、香純は僕にとって妹や娘に近い存在だからかな。今までもこれからも、僕が誰かを愛することはないし、してはいけない」

「……ふーん。まあいいや。それより早く行こうぜ。バレたら後が面倒だ」

 

 傍らで眠っている香純や家族を起こさぬように、ライニと司狼はユーノを連れてそっと部屋を抜け出すと昼間と違い人気のないフロントを通り宿の外に出る。月明りを頼りに歩きながら、現在二人の感心事であるあの白い魔法少女と白い狼について話しはじめた。そこに先ほどのような違和感はなく、今の二人はこれから悪戯を仕出かす子供でしかない。

 

「さて、司狼。彼女達の狙いはジュエルシードで間違いないと思っているのだが、卿はどう思う?」

「俺もそこは同意見。ってことは、こっちから探す手間は省けるってことだな」

「厄介なのは、僕と違いあちらは魔法に長けていることだ」

「お前の知らない魔法で、ジュエルシードを探すことができるってことか」

「多分、探知魔法も使えるんだと思う。人によって得意な魔法は変わるから、あの子か、使い魔の狼の方が探してるんじゃないかな」

 

 変わらない二人に安堵しながら、ユーノもまた思っていたことを二人に告げる。ユーノの見立てではあの狼は少女に造られた使い魔だ。それはそれだけ少女が優れた魔導士という証明でもある。

 

「相手が二人組ってのも面倒だな。前回みたいに逃げられる可能性もあるってわけだ」

「ああ。正面から相手にするときは分散させる必要がありそうだ。司狼、頼めるか?」

「おうよ。犬っころの相手は慣れてるぜ」

「え、ちょ、ちょっと待ってライニ! 司狼にも戦わせるの!? 危ないよ!!」

「司狼なら問題ない。でも、そうだな。魔法が必要になる場合もあるだろうし、その時はユーノがサポートについてくれると助かるよ」

「僕がサポート!? 逆じゃなくて? いやそうじゃなくて……!」

「あ? フェレットに心配される程弱くねぇっての。流石にあの暴走娘とサシで勝負ってのは笑えねぇけどな」

 

 てっきりサポートに回るかと思っていた司狼があの狼と戦うと聞いて慌てて止めるが、どうやらこの配役は二人にとって既に決定事項だったらしい。一体どこでそこまで話し込んでいたのかと瞑目するが、話を聞く限り話し合うまでもなく決まっていたのだと理解する。

 

「な、なんなのこの二人……」

 

 魔法使いですらない司狼を当然のように前線に立たせるライニも、当然のように前線に立とうとする司狼も理解できない。辛うじてわかるのは、ユーノの常識に照らし合わせてもこの世界においてもこの二人が普通じゃない、ということくらいだ。

 

◆◇◆◇

 

「見つけた。ジュエルシード。これでお母さん(ムッター)も喜んでくれるかな」

「……とっとと封印して終わらせようぜ」

「うん。そうだね、ヴィル」

 

形成(Yetzirah)──バルディッシュ」

≪Jawohl≫

 

 変形したデバイスを手に、アンナがジュエルシードを封印する。一先ず無事に終わったことに二人が安堵しかけた瞬間に。感じた魔力に二人の身体が強張った。

 

「逃げろアンナ。俺がやる」

「ヴィル!? ダメだよ、ヴィルも逃げて!!」

 

 振り返れば、先日であった規格外の魔力を持った少年と、その仲間であろう別の少年と一匹のフェレット。絶望的な状況に、アンナを守るようにヴィルヘルムが前に出る。

 

「なんか展開的に俺らの方が悪者みたいで、どうも納得いかねぇぞ」

「仕方ないだろう。魔力だけで見れば勝敗は既に見えているのだから。警戒するのは当然だ」

「ふ、二人共やりすぎないでね? 穏便に……」

 

 ユーノの制止を軽く聞き流して未だ警戒を解かない二人に視線を向ける。既に臨戦態勢に入っている二人に苦笑してしまった。とって食おうとしているわけでもないのに、そこまで警戒しなくても良いではないか。特に今にも飛びかかろうとしているヴィルヘルムを見て、使い魔にすら嫌われてしまう自分には流石に落胆してしまう。

 

「さて、僕は卿と話しがしたいのだけど、信じては、もらえなさそうかな」

 

 出会いが出会いだったせいだろう。殺気を飛ばすヴィルヘルムにライニは仕方ないとレイジングハートを取り出した。

 

「させるかよォ!!」

「危ない!」

 

 狼に変身しながら飛びかかって来るヴィルヘルムに、ライニの肩から飛び降りたユーノが結界を張る。防御結界に阻まれながらもヴィルヘルムは退こうとしない。

 

「はっ! その程度の結界が、俺に効くわけねぇだろうが!!」

「まさか、抗バリア魔法!?」

 

 ヒビが入る結界にユーノが目を丸くするが、すぐに気を引き締めて結界に魔力を注ぐ。せめてライニがデバイスを起動するまでの時間は稼がなくては自分がいる意味がない。

 

「ありがとう、ユーノ。 形成(Yetzirah)──レイジングハート」

≪Standby ready≫

 

 ライニの声にレイジングハートが答える。

 靡く黄金の鬣に、黄金の瞳。その手に握られた黄金の聖槍。

 その姿に、ヴィルヘルムが僅かに怯む。

 

「ユーノ、行くぜ」

「任せて!」

「しまっ……!?」

 

 司狼がその隙を見逃すはずもなく。結界とは別の魔法陣が展開された瞬間に司狼とユーノ、それにヴィルヘルムの姿が掻き消えた。

 

「転移魔法……!」

「さて、これで二人きりだな。卿にも事情があるのだろう。素直に話してくれるとは思っていない。そこでどうだろう。僕は卿から情報を得る代わりにジュエルシードを賭ける、というのは」

「……っ! お母さん(ムッター)の為に、頑張らないといけないんだ!」

お母さん(ムッター)……?」

 

◆◇◆◇

 

「舐めた真似してくれるじゃねぇか。魔法もろくに使えねぇ劣等人種野郎が……!」

「はっ! なんだよ犬っころ。ライニ相手じゃなくなった途端急にイキってきやがって。そんなにアイツが怖かったのか?」

「司狼、煽らないで! 彼、かなり強そうだよ」

 

 ライニ達とは離れた森の中に転送された三人は互いに睨み合う。先に動いたのはヴィルヘルムだ。

 狼の姿のまま、魔力で強化された獣の脚力で飛びかかる。咄嗟にユーノを抱えて司狼が飛びのくが、地面を抉ったその爪の威力に思わず口笛を吹いてしまう。

 

「ヴィルヘルム・エーレンブルグだ。名乗れよクソ餓鬼。戦の作法も知らねぇか!?」

「遊佐司狼ってんだ。こいつはユーノ。忘れていいぜ? どうせお前、すぐにくたばっちまうんだからよ」

「カハッ! 言うじゃねぇか!! 悪いが遊んでやる時間はねぇんだぜ!?」

「連れないねぇ。遊んでやるから楽しもうぜ犬っころ! 取ってこいくらいはできるんだろ?」

「だから煽らないでってば~!」

 

 

 遠くの森から響いてくる轟音は、司狼が遊んでいる音だろう。先日と違い友人も楽しめている様子に安堵して少女に向き直った。

 

「自己紹介が遅れたな。僕はラインハルト。ラインハルト・ハイドリヒ。共にいたのは友人の遊佐司狼とユーノ・スクライアだ。縁あってユーノの手伝いでジュエルシードを集めているのだが、卿は何故ジュエルシードを狙っている?」

「煩い! お母さん(ムッター)の邪魔しないで!!」

 

 音速の数倍の速度でバルディッシュを打ち付けてくるアンナをこともなげにいなしながら、ライニはアンナに声をかけ続ける。先に言ったようにライニはただ彼女と話しがしたいだけであり、攻撃の意思はない。

 

「そうだな。ではまず、卿の名前が知りたい。目的が同じならば今後また顔を合わせることも少なくなかろう? 呼び名が分からなければ不便だ」

「……。僕はアンナ・てすた──ううん。アンナ・シュライバー。大魔導士プレシア・テスタロッサの、お母さん(ムッター)の娘だ!! 僕はお母さん(ムッター)の娘だから、お前なんかに、負けるわけにはいかないんだ!!」

 

 名前を答えることに思巡するが、それも一瞬。彼の言う通り、今後の事を考えれば名前を教えていた方が都合も良い。ただそれだけだと、答えてしまった言い訳のように続けて叫ぶ。

 アンナの答えにライニは笑みを深めて続けて問う。

 

「なるほど、どうやら、そのお母さん(ムッター)とやらがジュエルシードを求めているらしいな。では何故? 何故卿の母君はジュエルシードを求めている?」

「知らない。知らないけど、お母さん(ムッター)の目的には必要なんだ。だから……っ!」

「相分かった。ならば最後の質問としよう。娘と言いつつ何故母君と同じ姓を名乗らない?」

「──ッ!!」

 

 振り下ろされたバルディッシュの刃を受け止めたライニがアンナを見据える。これ以上の情報は聞けなさそうだと判断して、最後は個人的に気になったことを気紛れに問い質す。

 先程の名乗り、確かに一度テスタロッサを名乗りかけたのに、何故シュライバーと名を変えたのか。ただの好奇心。それだけだったのだが、何かの琴線に触れたのか。飛びのいたアンナは顔を俯かせて、涙声で話し出す。

 

「……だって、だって仕方ないじゃないか! お母さん(ムッター)が名前を付けてくれたんだ。お母さん(ムッター)が僕を作ってくれたんだ。 お母さん(ムッター)が僕を娘にしたんだ。なのに、なのに可笑しいよね……? 私はお母さん(ムッター)の娘なのに。私がテスタロッサを名乗るとお母さん(ムッター)すごく怒るんだ。私をぶつんだ。何度も何度も。『アンナ、アンナ。気持ち悪い出来損ないが。折角アリシアの記憶をあげたのに。お前は出来損ない。お前は人間ですらない、化け物なんだよぉっ!! そうだよ、僕は化け物だ!! 大魔導士に造られた人造生命! 使い魔を超える、お母さん(ムッター)の道具! お母さん(ムッター)の為なら何でもする! お母さん(ムッター)の為なら何でもできる!! それが僕の存在理由だから!!」

「……なるほど」

 

 震える声は徐々に叫びに変わり、狂乱したように再び襲い来るアンナの速度は先ほどの比ではない。音すら置いて飛び回るアンナに、レイジングハートでバルディッシュを防げば音が数秒遅れて響く。

 

「哀しい子だ。だけどどうしてかな。この感情は、なんと名付ければ良いのかわからないのだけど。……どうしようもなく卿が愛おしく感じるよ」

 

『私はすべてを■■■いる』

 

 脳裏に過った言葉は誰の言葉だったか。

 

「抱きしめたい。■■■やりたい」

 

『故にすべてを■■する』

 

 名状し難い想いのままに、初めてライニが攻撃に転じる。レイジングハートで受け止めたバルディッシュを軽く払い、アンナ諸共地面にたたきつける。

 

「あっ!」

 

 衝撃でバルディッシュを手放したアンナの首元に刃を突き付けて、レイジングハートに魔力を注ぐ。後はアンナをその槍で貫けばチェックメイト。何の躊躇いもなく怯えているアンナを壊そうとした瞬間に。

 

『君が善い人で本当に良かった。すべてを破壊してしまうような、恐ろしい人じゃなくて、その力を守ることに使ってくれて、ありがとう』

 

「…………いや、やめておこう。レイジングハート」

≪Jawohl≫

 

 思い出すのはいつかユーノに言われた言葉。今の自分はまるであの夢に見る愛すべからざる光(メフィストフェレス)そのものではないか。苦笑して、魔力を放つ代わりにレイジングハートから集めたジュエルシードの一つを取り出した。

 

「持っていくといい。そういう約束であっただろう?」

「え……?」

「情報を得る代わりにジュエルシードを賭ける。卿は僕に包み隠さず卿の事を話してくれた。元より僕には卿と戦う意思はない。何より卿の母君にはこれが必要なのだろう?」

「あ、ありが、とう……」

 

 アンナがジュエルシードを受け取ったのを確認すると、ライニは槍を収めて変身を解く。そのまま背を向けるライニに、アンナは慌てて声をかけた。

 

「待って!」

「何かな?」

「あの、僕……僕も、ライニって、呼んでもいい?」

 

 思わぬ言葉にライニは少しばかり目を丸くして、次いで無邪気に破顔した。

 

「その呼び名、気に入っているんだ。だから、そうしてくれると助かるよ、アンナ」

 

 今度こそアンナと別れたライニは三人が飛んだであろう森に向かって歩き出す。あの悪友の事だから上手くやっているだろうが、魔法に関してはライニと司狼はあまりにも知識がなさすぎる。その辺りはユーノがサポートしてくれるだろうが、先の攻防を見る限りユーノとヴィルヘルムの相性は悪そうだ。

 

「さて、司狼とユーノは生きているかな」

 

 友人の危機だというのに、どこか楽しそうに足取り軽く夜の森へと足を踏み入れた。

 




(あとがき)
白アンナちゃんは優しさに慣れていないので絆されやすいです。
チンピラコンビは次回になります。
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