珍しく、香純は一人で図書館へと足を運んでいた。
別段香純は読書が好きというわけではない。比べるべくもなく好きなものは小説ではなく漫画の類で、しかしだからと言って初めてここへ来るわけでもない。ライニの付き添いで来ることも多いし、料理の本や飼っている猫について調べるのは好きだ。
が、今日ここに足を運んだのは何か調べたいことがあるわけでもなく、一人なのだから当然ライニの付き添いでは断じてない。
ならば何故、と問われれば、一人になれる静かな場所を探していたのだ。とは言え本当に人気のない場所に行けば余計なことばかり考えてしまうから、別の何かに没頭できないか、とここに来た次第である。
そしてもちろん、図書館に来たからには読む本を探さねばならない。蚊帳の外にされることの多い香純が見つけた暇つぶしと言えば料理で、ここに来るときもよく料理本を見ていた。
今日は少し趣向を変えてお菓子作りの本なんてどうだろう。今度ライニと司狼を家に招いたとき、振る舞ってやろう。そうしてどんなものかと二人に感想を求めるのも良い。それで美味しいと言ってくれればうれしいし、香純を除け者にしたことを多少は許してやらなくもない。
最近は輪をかけて二人は香純を遠ざけるようになった。その寂しさを紛らわすように考えながら本棚の間を歩いていれば、とある少女が目に入った。
「…………」
車椅子に座りながら、必死に手を伸ばすが僅かなところで届かない。指先が背表紙に触れはするのだが、本棚からは抜き出せない。若干頬を膨らませながら、もう一度。そう思って手を伸ばした瞬間に、別の手がその本を取った。
「はい、どうぞ。これですよね? 取ろうとしてたの」
「……ありがと」
銀色の髪に、紫苑の瞳。加えて車椅子。否応もなくこの日本において目立ち無意識に忌避される見た目も顧みず、いたって好意に満ちたその行為と頓着することのないその視線に、氷室玲愛は目を丸くした。
◆◇◆◇
「それでねー、聞いてくださいよ玲愛さーん」
「君がその幼馴染二人にハブられてるのはもう五回は聞いてるよ」
その後仲良くなった二人は図書館内に併設されているカフェに入って、香純の愚痴を聞き始めて早1時間。いい加減飽きてもいい頃合いなのだが、玲愛もこれはこれでまんざらではないようでところどころツッコミはいれども香純の話に付き合ってくれている。
「綾瀬さんは、その……ライニ、と遊佐君? その二人の事が好きなの?」
玲愛の問いに一瞬香純は意味が分からない、と目を丸くして。彼女のいう『好き』の意味が恋愛の意味を持つと理解した途端に笑い飛ばしてしまった。
「……へ? あはは、冗談キツイですよ、玲愛さん。司狼にとって私なんてペットのコロポックルですし、ライニに至っては……、なんていうか、アイツは違うんですよ。私のこと対等に見てくれてないっていうか、自分はお前らとは違うんだーみたいな? 常に一線引いてて、でも私たちから目は離さない。なんていうか、保護者とか先生、みたいな。仕事だから守ってます、みたいな。いつもそんな感じで……」
だから、自分が彼らを好きになることはないのだ、と続けて答える。そもそもあの二人に恋愛ができるかは甚だ疑問でもあるし、絶対に無理だとも断言できる。その程度には付き合いが長いし、まかり間違ってあの二人に恋人なんて存在が出来ても相手は相当男運がないと同情するレベルで、三日も持たないだろうというのが香純の見解だ。それほどまでにあの二人は人間として破綻しすぎている。
「二人のことは家族としては大好きだし、大切だって思ってます。だから、余計に嫌なんです。こうして私だけ蚊帳の外っていうの。そりゃ、私は足手まといになるってわかってますけど……。だったらせめて説明して欲しい。二人が今どんなことに首突っ込んでるのか、どんな馬鹿やってるのか。心配くらいは、させて欲しいから。全然平気、何もしてないです、みたいな、そんな見え見えの嘘、ついてほしくないんです。ほら、私こうして待ってることくらいしかできないし」
「君、ほんと貧乏くじな役割だね」
「むぅ……。わかってますよぉ……」
むくれてつっぷしてしまった香純に玲愛は仕方ない子だと頭を撫でてやる。なんだか妹が出来たみたいで、少しだけ楽しい。
「ほら、よしよし」
「玲愛さ~ん」
涙を浮かべてぐずりだした香純に玲愛は微笑む。
結局一日、本を読むことなくカフェで過ごした二人は閉館時間が近づいてきたから、と二人そろってカフェを後にして出口に向かう。
玲愛の車椅子を後ろから押しながら、出口に向かうまでの間にも香純はコロコロと表情を変えながら玲愛に話し続けていた。そんな香純の顔を見上げながら、玲愛も微笑む。
「あ、もうここまででいいよ。お迎えが来たから」
「はい。今日はありがとうございました、玲愛さん」
「ううん。私も。楽しかったよ、綾瀬さん」
丁度出口に差し掛かったところで見知った顔を見つけて顔を上げる。あちらもこちらに気付いたのか、こちらを向くと傍らにいる香純に僅かに驚いたような顔をして、次いでどこか嬉しそうに微笑んだ。
「それじゃあ玲愛さん、また今度」
「うん。またね、綾瀬さん。今度、君の幼馴染にも会ってみたいな」
「もっちろん! 一緒にぶん殴ってくださいよ」
手を振って別れると、玲愛は迎えだという青年の元へ自分で車椅子を進めだす。香純と替わるように青年が玲愛の車椅子の後ろへ回ると、図書館を出る前に一度だけ振り返って香純に会釈して二人で去って行った。
◆◇◆◇
青年が玲愛の車椅子を押し始めて、周りに人が少なくなると漸く玲愛が振り返ることなく口を開く。
「カイン。お迎え、頼んでないけどありがとう」
「うん。テレジアも友達ができたみたいで安心したよ。いつも一人でいたから」
「……カイン」
お節介のような青年の言葉に玲愛は少しむくれながら振り返ってカインと呼んだ青年を睨む。それに悪びれることもなく苦笑して謝る彼は好青年を絵にかいたような人物だ。
「あはは、ごめんごめん。でも安心したのは事実だよ。ベアトリスに教えてあげれば喜ぶんじゃないのかな」
「嫌だよ。あの人、無駄に騒いでパーティしよう、とか言い出しそうだし」
「確かにそうかもしれないね。でも楽しいのはいい事じゃないか」
「騒がしすぎるのは嫌いなの」
そっぽを向いてしまった玲愛に苦笑して、さてどうしようかとしたところで助け船。噂をすればなんとやら。
「あ、戒~! テレジアも!!」
「ベアトリス。今帰りかい?」
「ええ。戒に頼まれてた食材、買ってきたところ」
金髪のポニーテールと両手にぶら下げた買い物袋を揺らしながら、小走りにカインと並んだ女性は買い物袋に詰まった食材を見せる。
「ありがとう。二人共、今夜は何が食べたい?」
「「美味しいもの」」
「う~ん、それは困ったなぁ……」
今更ぽけGO始めました。
ハイドリヒ卿のお膝にうぱーとかすぼみーを乗せたい今日この頃。
この配役決めてからA'sに入りたくて仕方ありません。
登場人物設定更新しました。