魔法少年リリカルけもの   作:さにり

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前半ほのぼの、後半胸糞です。
痛い表現があります。
アンナちゃん本当にごめん。


第十話

「うーん、どうしようかなぁ……」

「おいアンナ。何悩んでんだよ。今夜戻れって命令されてんだろ」

 

 部屋の中でグルメ雑誌なんかを広げて唸るアンナに、人型になったヴィルヘルムが近づいて散らばった一冊を手に取った。適当に捲れば癖がついてしまったそのページが開く。

 

「んだこれ。諏訪原お土産ランキング?」

「うん。お母さん(ムッター)に何かお土産でもって思ってるんだけど、いいのが思いつかなくって」

「土産、ねぇ……」

 

 下らないと言わんばかりに雑誌を投げ捨てるヴィルヘルムは、興味がないらしくカーテンを閉めるとソファに寝そべってしまった。

 

「もー。それじゃヴィル、ちょっと出かけてくるから留守番しててね。ヴィルにもお土産買ってくるから!」

「へいへい。気ぃ付けてな」

「うん、行ってきます」

 

 言葉も態度も悪いが、それでもアンナを心配してくれているヴィルヘルムにアンナは笑って外に出た。

 

「とは言っても、お土産、かぁ。お母さん(ムッター)は何が好きかなぁ……」

 

 観光雑誌やグルメ雑誌で調べたとは言え、諏訪原市は広い。土産物には事欠かないだろうが喜んでもらえる物が良いだろう。どうしようかといくつか店を覗いたところで。

 

「あれ、アンナちゃん!?」

「え? ……香純!」

 

 声を掛けられて振り返れば、あの旅館で出会った少女がこちらに駆け寄ってきた。

 

「アンナちゃん久しぶり! あの後会えなくって、ずっと気になってたんだ。この辺りに住んでたの? 今日はお出かけ?」

「う、うん。お土産を買いに来たんだけど……」

「お土産? アンナちゃん、この街詳しくないなら案内したげよっか?」

「ほんと!?」

 

 手伝ってくれるという申し出に有難くお願いして、二人の少女は並んで街を歩きだす。

 

「それで、誰に買うお土産だったの?」

「僕のお母さん(ムッター)。とっても優しくて、とっても綺麗な人なんだ」

「そっか。アンナちゃんはお母さんのこと、大好きなんだね」

「うん!」

 

 今は少し、忙しいみたいだけど。記憶の中のお母さん(ムッター)はいつもアンナに笑いかけてくれた。一緒に遊んでくれた。時折お菓子を作ってくれた。

 一緒に食べたケーキを思い出して、もしかしたら甘いものが好きなのかもしれないと気が付いた。それを香純に相談すればすぐに案内してくれると言う。

 

「お菓子屋さん? そうだなぁ、いっぱいあるけど、個人的なオススメとしては──翠屋かな! 美味しいケーキがたくさんあるの!」

 

 ◆◇◆◇

 

 香純の案内で連れられた喫茶翠屋は、どうやら随分と有名な喫茶店らしく女性客でにぎわっていた。列になったその店先を見て香純が苦笑する。

 

「うわっちゃー。ちょっとタイミング悪かったかなー」

「すごい人気だね……」

「んー。まあ確かに人気なお店だけど、ここまで客層偏ってるってことは……」

 

「ご来店ありがとうございました。またお越しください。……お待たせいたしました。次にお並びの方、ご案内いたします」

 

 客の見送りと次の案内に店先に出てきたのは、まるで人形のように整った容姿の金髪碧眼の少年だ。アルバイトにしては若すぎる年齢に、家族経営ということからお手伝いに来ている店主の子供だということはすぐにわかる。

 シュークリームをはじめ評判の高いデザート目当ての客は勿論、この少年目当てに来る女性客の多さと言えば、この列を見れば明らかだろう。

 

「あ、ライニ?」

「あれ、アンナちゃんあいつと知り合い?」

「えっと……」

 

 なんて説明しようか、言い淀んでいれば視線に気付いたのかライニと目があった。相手は少しばかり驚いたようだが傍らの香純を見ると小さく苦笑を漏らして、一度仕事に戻って店に入ると今度はエプロンを外して外に出てきた。

 

「いらっしゃい、と言えば良いのかな? 見たところ香純の紹介かな」

「まあね。アンナちゃん、お母さんに持っていくお土産探してたんだって。というか、いつの間にこんな可愛い子と友達だったわけ!? あんたと知り合いってことは司狼とももう会ってるの? まさか、アンナちゃんのこと虐めてたりしないでしょうね!?」

「か、香純、僕はその……」

 

 友達、と言っていいか分からず狼狽するアンナに笑いかけて、ライニはそのまま香純に謝罪する。

 

「すまない。近いうちに紹介したかったんだが、中々都合が合わなくてね。それより折角だし、お土産だけじゃなくて何か食べて行くと良い。色々と話したいこともあるだろう?」

「それじゃ、お言葉に甘えちゃおうかな。ね、アンナちゃん!」

「う、うん」

 

 こちらを伺いみるアンナにライニは香純にバレないように人差し指を口元に持っていくと念話を飛ばす。目の前にいながらの念話に首をかしげるがその理由はすぐにわかった。

 

(香純にはジュエルシードのことも、魔法の事も秘密にしているんだ。卿もそうしてくれると、助かる)

(うん。僕も、香純を危険なことに巻き込みたくない、から……)

(ありがとう。今日はただの観光、なのだろう? ならば僕も卿の邪魔をするつもりはないから、安心して欲しい)

 

「そういえばライニ、ユーノは?」

「司狼に預かってもらっているよ。姉上の試験が近いから、僕が手伝いに来たんだけど。流石に厨房にフェレットを連れてはまずいから」

「そっかー。残念だなぁ。アンナちゃんにも触らせてあげたかったのに……」

 

 本当は手が離せないライニの代わりに二人でジュエルシードの捜索に当たってもらっているのだけど。

 そんな気配はおくびにも出さず、ライニは自然と話題を変える。諏訪原市の観光スポットはもう案内したのか、とか。この時期ならどこが良い、とか。アンナに街について教えながらどこか行きたいところはないか、と。アンナを話題の中心に置けば香純が放っておくわけがない。

 

「二人共、今日はありがとう。でも、本当にいいの?」

「ああ。卿の母君にもよろしく」

「楽しかったよ、アンナちゃん。また遊ぼうね!」

 

 結局、その日は夕方まで三人で話し込んで。次は司狼やユーノと一緒に街の観光をしようと約束をする。

 お土産に、翠屋のケーキを箱に詰めて。代金はいらないというライニにアンナは不安そうに首をかしげるが構わない、とライニは言う。

 

「うん、ありがとう。本当に……」

 

 大事に箱を抱えたアンナははにかむように微笑んで、二人と別れると帰路につく。たくさんケーキを貰ったから、帰ったらヴィルヘルムとお母さんと、三人で一緒に食べようと心を躍らせて。

 

 ◆◇◆◇

 

 次元空間に悠然と漂う時の庭園。

 広大な敷地の中心部に位置する主の居城には、しなる鞭の音と少女の悲鳴が響き渡る。

 

「ごめんなさい、ごめんなさい……! もっとちゃんとしたお母さん(ムッター)の娘になるから……っ!」

 

 バインドで拘束され、張り付けにされた少女は傷だらけだが痛みよりも母の期待に応えられなかったことに涙を流して謝罪の言葉を繰り返す。しかし鞭を持った女性は母と呼ばれたにも関わらず、どこまでも冷酷な瞳で少女を見据えていた。

 少女を助けようとした使い魔の狼は口輪を嵌めて檻に入れられ、少女よりも厳重に拘束されては最早唸り声をあげることしかできない。

 少女がお土産にと持ってきたケーキは箱に入ったまま、床に転がっていた。

 

「アンナ。母さんは悲しいわ。貴方が任せてと言うから信じて送り出したのに。集めたジュエルシードはたったこれだけ? 話にならないわ」

「ごめん、なさい……」

「貴方は私の、テスタロッサの娘にならないといけないの。自覚なさい」

「あぅっ!!」

 

 鞭が風を切って少女を嬲る。飛び散る血に白狼が拘束されたまま檻に身体をぶつけるが大魔導士の檻はその程度では揺らぎもしない。

 

「母さんには時間がないの。ジュエルシードがないと、母さんは困るのよ。分かるわね、アンナ?」

「はい……」

「本当にわかっているの? わかっていたら、もっと頑張れるわよね? ああ、これは少し教育が必要なのかしら」

 

 呆れたように溜息を吐いて。手にした鞭を振り上げた。

 一層激しくなる鞭は無慈悲に少女の身体を引き裂いて傷を増やす。

 

「わかってる、わかってるよお母さん(ムッター)……! 私はお母さん(ムッター)の娘だから、もっと強くなるから、ちゃんとした娘になるから……! だからおねがい、ぶたないで……!!」

 

 泣き叫ぶ少女の懇願も虚しく、ひと際大きく振りぬかれた鞭は少女の顔を容赦なく叩き右目を抉る。同時にバインドが解除され、白いドレスを真っ赤に染めた少女が床に転がった。

 

「──ぁあ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!」

 

 潰れた右目を抑えて痛みにのたうつ少女を見下ろして、魔導士は背を向けて部屋から出て行く。

 

「時間がないのよアンナ。残りのジュエルシード、早く母さんの元にもってきて頂戴」

 

 返事も聞かずに扉を閉めて、残された少女は血に塗れながら嗚咽を漏らす。拘束を解こうとしていたのか、使い魔の白狼もまた血だらけで檻の中で倒れていた。

 




(あとがき)
ごめんなさい。
アンナちゃんの白騎士化が進んでいきます。
あと地味に出してなかった設定。舞台は鳴海市ではなく諏訪原市です。
今後この設定が生かされるかは不明。
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