魔法少年リリカルけもの   作:さにり

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一年以上空けていましたが続いてしまったので……。
空けていた分長くなってます。
彼のデバイスは彼女しかいないと最初から決めていました。


第十一話

 目標の星まであと1時間もせずに到着する。クロノを派遣する準備も整った。その段階まで来るとエレオノーレは艦橋を後にすると迷うことなく艦内のとある一室へと足を向けた。

 生体認証で厳重にロックがされているその扉を容易く開けて、中に入る。それと同時に薄暗い室内に仄かな明りが灯る。

 部屋の中央にはエレオノーレの腰ほどまである円柱と、その上に無色の液体が球体の形を保ちつつ浮いている。その中に納められたブレスレットが青い光を放ち明滅した。

 傍らの計測用モニターに文字の羅列が走り出す。

 

≪珍しいね、艦長。私に会いに来てくれるなんて≫

「ああ。ここしばらくここには来てやれなかったからな。お前の使用者候補を見つけたかもしれん」

 

 若い女の声は部屋に設置されたスピーカーから流れているが、話しているのは目の前のブレスレットだ。時空管理局が使用するどのデバイスとも仕様が異なっているが紛うことなくこれもデバイスの一つである。

 

≪そりゃまた。わざわざ艦長自ら先に伝えに来てくれるなんて、今度は期待してもいいのかな≫

「きっと気に入るだろうよ。お前と似てとかく破天荒な気質のようだからな、ストライフ」

≪そう。上手く使ってくれる人だったらいいなあ≫

「そこはお前が教育してやれ」

 

 おしゃべりなデバイスに笑って、地球につくまでの残り数分彼女らは談笑に興じることにした。これから出会うだろう少年たちへ期待しながら。

 

◆◇◆◇

 

 ジュエルシードの魔力を感じてライニとユーノ、それに司狼が赴いた場所には先客がいた。既にジュエルシードの暴走は収まっているようで、その傍らに佇むのは白いドレスに身を包んだ少女だった。

 

「久しいな、アンナ」

「ライニ……」

 

 ジュエルシードを巡って邂逅するのは、これで三度目だったか。しばらく顔を見ていなかった、と親しみさえ籠る口調で声を掛けるライニに、アンナはびくりと身体を硬直させる。封印する前のジュエルシードを挟んで、アンナは静かにバルディッシュをライニに向ける。

 

「おいちょっと待て。あの犬どうした? つーかお前の右目も……」

「ヴィル、は……」

 

 異変に気付いた司狼の問いにアンナは肩を震わせる。彼女のそばにいた使い魔の気配がないことに加え、痛々しくその顔の右半分を覆う包帯。只ならぬ様子にライニも歩を止めた。

 

「アンナ……?」

「ごめん、ごめんね、ライニ。でも、僕はお母さん(ムッター)の役に立たないといけないから、だから……っ!」

「…………」

 

 続く台詞は、音速を軽く超えた斬撃によってかき消された。

 飛びかかってきたアンナのバルディッシュを事も無げにさばきながら、音を置き去りにして速度を上げていくアンナにどうしたものかと背後で傍観を決め込む友人へと視線を移す。助けを求めるようなライニの視線にしかし、司狼はもう手が出せないと言わんばかりに肩を竦めて苦笑で返してくる。手を貸してくれるつもりはないらしい。

 

「アンナ。以前にも言った通り、僕は卿と戦いたいわけじゃ……」

「わかってる! わかってるけどもうどうしようも無いんだよ!! だって私はお母さん(ムッター)の娘だから! お母さん(ムッター)には私が必要なんだ! ジュエルシードを全部集めれば、きっと優しいお母さん(ムッター)に戻ってくれる!!」

 

 埒が明かないと悟ったアンナが空に飛び、バルディッシュに魔力を集める。砲撃魔法か、それに近い何かを撃つつもりらしいアンナにこちらも迎撃のためにレイジングハートを構える。

 白い魔力と黄金の魔力が放たれる、寸前に。

 

「そこまでだ! ここでの戦闘は禁じさせてもらう! 時空管理局執務官クロノ・ハラオウンだ。詳しい事情を聞かせてもらおうか」

 

 突如二人の間に人影が現れる。

 

「管理局っ!?」

「…………」

 

 黒い戦闘服を纏った少年の介入に、ライニは魔力を収めて槍を降ろす。対照的にアンナは警戒心を強め魔力を貯めたバルディッシュをクロノと名乗った少年へと向けた。

 

「邪魔を、するなあああああああっ!!」

「く……っ!」

 

 躊躇なく打ち出された魔法にクロノが防御魔法を展開し身動きが取れなくなった隙に、アンナは一瞬でジュエルシードを手に入れるとその場から逃げるように再び空に飛ぶ。視界の端でそれを捉えたクロノの杖がアンナへ向けられた。

 

「逃がすか! ──っ!?」

「ライニ!?」

 

 アンナに放たれた魔弾を咄嗟に割り込んだライニが弾く。そのまま背後のアンナに逃げろと視線で促せば、僅かな逡巡の後転移魔法で姿を消した。それを見届けることなくこちらに杖を向けるクロノに苦笑する。

 

「卿、女性に対して些か乱暴がすぎるのでは?」

「なんのつもりだ」

「そりゃこっちのセリフだぜ、えーと、なんだっけ。クロノちゃん?」

「君は……」

「待ってライニ、司狼! 今は彼の話を聞こう!」

 

 離れたところから歩み寄ってきた司狼とその肩に乗ったユーノ。一触即発な雰囲気に慌ててユーノが待ったをかけた。

 ユーノのセリフにライニと司狼は軽く顔を見合わせると、仕方ないと肩を竦める。ライニが変身を解いて地面に戻ってくるとクロノも杖を降ろしてそれに続く。

 一人逃がしたのは痛いがこの三人は抵抗するつもりはなさそうだ。ならばそれで良いだろう。クロノは悠然と佇むライニに向き直ると改めて要件を伝えるために口を開く。

 

「抵抗の意思がないのなら、暫く僕に従ってもらう。それと、君は一般人か? 巻き込まれただけなのなら君に用はないんだが」

 

 横にいる司狼に視線をよこすと、クロノは訝しむように司狼を観察する。素質はあるようだが、見たところデバイスは持っていない。親しげな様子から仲間と判断したのだがそれにしては先ほどから彼は傍観者に徹しているのが気になった。

 

「おいおい。ここまで来て俺だけハブるなよ、寂しいだろ」

「司狼は僕の友人で協力者だ。魔法使いでなければならないというわけでもないのだろう? であれば、僕としても彼には共に来て頂きたいのだけど」

「それに一般人ってわけでもないしね……」

「どーいう意味だよ、ユーノ」

 

 ライニの行動に驚くどころか当然だと言わんばかりの態度を崩さぬ司狼にユーノは知れずため息を吐きだして呆れてみせる。司狼の問いにはそののままの意味だと返しておいた。

 

「……わかった。ならこちらに。僕の上官が君たちに会いたがっている。心配せずとも危害を加えるつもりはない」

「だろうな。だったらわざわざライニとアイツのドンパチ止めねえだろ」

「その通りだよ。それより、質問は後で受け付けるから早くこっちに来てくれないか」

 

 クロノが展開した転送魔方陣の上に、なんの迷いも無くライニと司狼は足を踏み入れる。時空管理局という組織を元より知っているユーノはともかく、何も知らないどころか魔法だって手に入れて間もない二人まで、警戒心というものを持っていない。そのことに、クロノは説明の手間が省けたことに安堵しながら内心呆れてしまう。

 普通、もう少し罠というものを警戒するだろうし、こちらが敵ではないと告げているとは言え怯えや不安が無いとはどういう料簡だ。知らぬとはいえ、まさか時空管理局が万が一敵に回っても自分たちは大丈夫、などと思っているわけでもあるまい。もしそうであれば、それは無知という罪だろう。巨大な組織に対して一個人が何をできると言うのか。同年代の自分がそれなりの地位を得ているのがその甘い考えを持たせる原因だというのなら、それはこちらの不徳の致すところではあるから諫める気は起きないが。ともあれそれらすべて、時空管理局という組織がどういう物かを知れば彼らも自身の無知を恥じるだろう。どうやら頭は悪くないようだから。

 クロノはその時そう結論付けたのだが、わかっていないのは自分の方だったと後にこの時の判断を恥じることになる。

 

「すっげー。なんだこりゃ。B級SF映画かよ」

「司狼。はしゃぐのはいいけど、あまり恥ずかしい真似はしてくれるなよ」

「へいへい。優等生の顔に泥は塗らねえから安心しろって」

 

 通されたそこは艦長室らしい。無駄なものが一切置かれていない執務室は事務的で、しかし揃えられた調度品は華美にならず武骨でもない。程よく色を付けるそれらの配置は見事なもので、適度に人間味も感じさせる。知れず背筋が伸びる空気があるが、それが苦ではない。この部屋の主の気性をそのまま表しているかのようでもある。

 そんな中、ひと際異彩を放つそれに目が向いた。

 入って目の前の壁、執務机の背後に当たる壁に額縁に入れられたそれ。横文字のそれは地球上のどの言語とも違い読むことはできなかったが、何故だろう。その文字の一つ一つから並々ならぬ決意のようなものが感じられるのは。

 

「すまない、艦長は今席を外していてね。すぐに来るから楽にしていてくれ」

 

 来客用に誂えているのだろう、ソファを進められてライニと司狼、それに人型になったユーノが並んで腰かける。

 

「気になっていたのだけど、あれは?」

「ああ、あれは義母さんと僕の……ヴィッテンブルグ家の家訓のようなものだよ。『栄えある黄金の爪牙たれ』。僕はまだ『黄金』というものが何なのかはわからないけど、いずれ見つかる『黄金』のために爪と牙を砥ぎ続けろと言われている」

「黄金、か……」

 

 向かいに腰かけたクロノに額縁の文字を聞けば、彼らの世界の共通言語らしい。書かれている意味は先に告げられた通り。クロノの上官でありこのアースラの艦長でもある人は養母だという話だ。

 その艦長が来るまでの間、クロノから時空管理局という組織の説明を受ける。ライニはまだしも、司狼がまともに聞いているかは疑問しかないのだが、とにかく彼らも時空管理局と彼らの住んでいる世界について多少は理解してくれたらしい。

 あらかたの説明を終えたころに丁度ノックと共に扉が開く。そちらに目を向ければ、軍服を着こんだ赤髪の女性が部屋に入ってきたところだった。

 

「失礼。こちらから招きながらお待たせして申し訳ない。私がこのアースラ艦長であるエレオノーレ・フォン・ヴィッテンブルグだ。歓迎するよ、お客人方」

「この度はお招きいただきありがとうございます。僕はラインハルト・ハイドリヒ。こっちは友人の……」

「遊佐司狼。よろしく」

「ユーノ・スクライアです!」

 

 優雅とさえ取れるライニに砕けた調子の司狼。二人に比べて随分緊張しているユーノと三者三様。エレオノーレはそのどれもに反応を示さず、ユーノの自己紹介までを終えると笑みを作る。

 

「さて、ではどこから話そうか、それとも話してもらう方が早いか……。時空管理局についてはそこのハラオウンから聞きましたかな?」

「ええ。あらかたは」

「よろしい。であれば、まずはそちらの事情を聴いたほうが早いようです。君が何故地球に来たのか。君たちが関わっている事について、教えてくれるかな」

 

 理解が早くて助かると頷いて、今度はそちらの番だとエレオノーレはユーノを見る。彼らがこの件に関わるきっかけはどうやらこの少年のようだ。

 

「はい。始まりは、僕がとある古代遺産を発掘したことにあります」

 

 自らが発掘したジュエルシード、乗っていた艦が墜落事故を起こし地球にばら撒かれたそれを責任者として回収する際に怪我をし、ライニに保護されたこと、そして彼らにジュエルシードの回収を手伝ってもらうことになったこと、それから、あの白い少女のこと。包み隠さず全てを話すユーノをライニと司狼は止めることなくエレオノーレの言葉を待つ。

 

「なるほど。どうやら我々が危惧していた通りの厄介ごとになっているようだ。しかし事態を放置せず解決に動いた君の判断は称賛しよう。よくやった」

「いえ、そんな、僕は何も……集めてくれたのはライニです」

「僕はただ、ユーノに言われた通り動いただけだよ」

 

 萎縮してしまうユーノに苦笑して、エレオノーレは三人に向き直る。どうやらこれは時空管理局の領分らしい。であれば、とるべき道は限られる。

 

「ここから先は時空管理局の仕事になるだろう。そこで我々は、君たちに二つの選択肢を与えることができる」

 

 す、と指を一本立てて、一つ目の選択肢。

 

「まず一つ。魔法の力を手放し後は我々に任せてもらい、君たちは日常へと帰る。ユーノのことも心配はいらない。我々が責任をもって送り届けよう」

 

 そうして二つ目。指を二本に増やして提示する。

 

「二つ目。我々の協力者としてジュエルシードの回収を続行する。無論、私の部下という形になる以上、ある程度の指示には従ってもらうが危険であることに変わりない。さて、どうする?」

「考えるまでもないな」

「トーゼン。選ぶなら一つだろ」

 

 当然、選ぶのは前者だ。これ以上日常を壊されたくないし、命の危険すらあるのだから。

 クロノは当たり前の様にそれを信じていたし、ユーノもそれを選ぶつもりであった。管理局が動いてくれるのなら、彼らと別れるのは少し寂しくもあるが心配はない。

 だから、そう、だから、ライニと司狼は当然の様に笑って答えた。

 

「このまま続ける。貴方の指揮下に加わろう」

「首輪つけられるみてえで不満が無いってわけでもねえが。バックにでかい組織がいてくれるってんなら派手に遊べるしな」

「なっ!? 君達、何を言ってるのかわかっているのか!? 今の説明を聞いていなかったのか? ジュエルシードの危険性は理解しただろう! それに、管理局は遊び半分でできる仕事じゃない! 今まで単独でジュエルシードの収集を続けていたのは素直に関心するけど、これはそんな単純な話じゃ……」

「口を噤め、ハラオウン。客人に対しそれは無礼であるし、無粋というものだろうよ」

「か、義母(かあ)さん……」

 

 エレオノーレに窘められてクロノは鼻白むが、ユーノがそれを引き継いだ。ロストロギアであるジュエルシード。その危険性はユーノの想像をはるかに超えていた。これ以上巻き込むわけにはいかないだろう。

 

「でもライニ、司狼、クロノの言う通りだよ。何言ってるのかわかってる!? せっかく日常に戻れるのにこんな……せめてもっとよく考えた方が……」

「お前今まで俺らの何見てきたんだよ。一体いつ誰が、日常を続けたいなんて言ったよ? なんの変わり映えのしない一日を死ぬまでずっと繰り返したいなんて、ただの変態じゃねえか」

「言っただろう、ユーノ。僕は心を躍らせている、と。こんなにも面白そうな事なのに、卿は僕に用済みだから帰れと言うのか? それはあまりにも冷たいじゃないか」

「そ、そういうわけじゃないけど、でもやっぱり危ないしそれに……」

「変わらないな、貴方は……」

 

 苦笑交じりに呟かれた言葉に、彼らは何のことかとエレオノーレを見るが彼女は最初に浮かべた微笑のままこちらを見据える。

 

「即断結構。まあ君たちならこちらを選ぶと半ば確信もしていたがね。しかし司狼と言ったか。君はデバイスを持っていないだろう。どうするつもりだ?」

「ああ、だから貸してくれよ。部下の装備整えるのも上官の役目なんじゃねえの?」

 

 元より快諾したのはそれを狙ってのこともある。玩具が無ければ遊べないと言うのなら、どの道どこかで調達せねばならないだろう。

 

「お前、なんて口の利き方を……!」

「すまない。司狼はなんというか、その、子供なんだ。精神的に。大目に見てやってくれ。何より行儀の良い司狼なんて気持ち悪いから見たくないし」

「おいライニ、せめて俺に聞こえねえようにしとけよ」

「構わんよ。君たちはあくまで協力者であり管理局の局員でもないのだから、我々の立場は対等であるべきだ。しかしそういう事なら丁度良い。一つ、余っているデバイスがあるのだがね。彼女に気に入られるかどうかは君次第だが」

 

◆◇◆◇

 

≪お帰り、艦長。待ってたよ。その子たちが例のお客さんかな?≫

「ああ、そうだ。彼に合うデバイスを探しているのだが、軍用のものより君とのほうが彼もやりやすかろうよ。彼に使われるか否かは君の判断に任せるがね」

 

 エレオノーレに連れられて入った小さな部屋の真ん中。展示されているようなそのデバイスが明滅する。部屋に響くその声がデバイスに組み込まれているAIだと気付くのに少し時間がかかった。

 

「こいつが俺のデバイス?」

≪まだそうなるとは言ってないよ。私はエリー・ストライフ。ちゃんとした型番もあるんだけど、味気ないからエリーって呼んでよ。君は?≫

「遊佐司狼ってんだ。よろしくなエリー」

≪よろしく司狼。って、ちょっと勝手に取らないでって!≫

 

 なんの疑問も無く液体の中に手を突っ込んで、浮かんでいるエリーの本体を掴むとそのまま引き出す。抗議の声も無視して左手に嵌めれば、ブレスレットはピタリと司狼の腕に収まった。

 

≪ねえ、君のデバイスになるなんて一言も言ってないんだけど?≫

「でもその気だったろ? 安心しろよ退屈なんてさせねえからよ」

≪あーあ。艦長が言うから期待してたけど、こりゃ期待以上の馬鹿だったかなあ≫

「嬉しいこと言ってくれんじゃねえか。男に馬鹿ってのは最高の誉め言葉だぜ?」

≪何それ。まあいいや。君たち面白そうだしね。改めてよろしく≫

 

「彼女は?」

 

 随分とおしゃべり……というよりも、明らかに自我と知性を備えているデバイスにユーノは面食らいながらもクロノに問う。

 

「ああ、彼女はある開発者が最後に作ったデバイスでね。開発者の人格をコピーして作り出したAIを搭載しているんだ。そのせいか我が強くて、管理局内で彼女を使える魔導士がいない。僕らの任務のうちの一つに素質のある人間のスカウトするっていうのも含まれているのだけど、彼女のパートナーを見つけるというのもその一環だよ」

 

 よりにもよって司狼が彼女のパートナーになるとは思わなかった、とクロノは呆れたように肩を竦めてみせる。義母の考えは時折意図が読めないが、今回程納得できないことはなかった。何故ここまでド素人同然の彼らに肩入れするのか。

 

「どうやら双方気に入ってもらえたようで何よりだよ。とはいえストライフが時空管理局の管理下であることに変わりはないから、君がもし管理局を離れたいと言うのなら返却してもらうことになるが」

「んだよ、マジで首輪じゃねえか。まあいいや。そっちにつく方が楽しそうだしな」

「僕はラインハルト。ライニと呼ばれているし君もそうしてくれると嬉しい。よろしくエリー」

≪よろしくライニ。レイジングハートもよろしくね。君らとは仲良くできそうだ≫

≪Nice to meet you too.≫

 

 ライニの首にかけられていたレイジングハートも赤い光を明滅させてエリーと言葉を交わす。この先本格的に司狼が戦いに参加するとなると色々と大変そうだとユーノは今から頭を抱えてしまいたくなる。

 

「魔法が使えるようになると言っても、無茶は絶対しちゃだめだからね!」

「わーってるって。お前は俺の母親か?」

「それより司狼。武器と戦闘服は何か考えているのか?」

「おー、ばっちりな」

「ならば丁度良い。君とストライフの相性確認も含めて君たちの戦力を計測したい。つまり模擬戦だな。相手はハラオウンが務めるが、よろしいか」

 

◆◇◆◇

 

 派手な赤いコートにデザートイーグルを模した大型拳銃。ライニの軍服に近い戦闘服とはだいぶ趣が違うが妙に様になっている。

 

「よっしゃ行くぜエリー! ぶちかますぞ!!」

≪りょーかい。派手に遊ぼうか≫

 

 三つ巴の模擬戦は司狼とエリーの準備運動も兼ねている。それを踏まえ、初手を務めたのは司狼とエリー。魔法など使ったことが無いはずだと言うのに、放たれた魔力弾は宙でいくつもの弾丸に分裂し雨の如くにライニとクロノに降り注ぐ。

 

「流石、やはり卿は面白い」

「これは……っ!」

 

 手にしたレイジングハートの一振りで降りかかる弾丸全てを撃ち落としたライニが切っ先を二人に向けて魔力を集める。防御呪文でやり過ごしたクロノは続くライニの攻撃に瞠目した。

 司狼が手数で攻めるトリックスターならば、ライニは力で全てをねじ伏せるパワータイプとでも言うべきか。しかしその魔力の質も量も尋常じゃない。

 

「さて、これはどう凌ぐ?」

 

 二人の反応を楽しむように、ライニが撃ち込んだ砲撃魔法は辺り一帯を焼き尽くす威力を伴っている。飛行魔法を駆使して躱した二人はそれでも余波で体勢を崩され吹き飛ばされたほどだ。天地が逆になった状態で吹き飛ばれながら、それでも司狼は気にせず銃口をライニに向けると続けて引き金を引き絞る。狙いは雑でろくな体勢ではないと言うのに、エリーがサポートするまでも無く命中率は神憑り的で正確だ。加えエリーの補助で弾道は直線だけに及ばない。四方八方から狙う弾丸は、それでもライニは躱すことなく槍を軽く翻すことで受け止めてみせる。

 正面からの弾丸を柄と刃をもって三発防ぎ、その勢いを利用して槍を後ろ手に回せば背後から迫っていた二発も受け止める。槍を正面に構える次いでに振り下ろせば斬撃の形を保った魔力弾が落下する司狼に向かって放たれる。

 たった一呼吸の内にこちらの攻撃は全て防がれ仕返しの一撃まで来るのだから呆れてしまうでたらめ具合だ。

 

≪うっわマジ?≫

「アイツ化け物だからな。ラスボス級だぜ?」

≪さしずめあたし等はやられ役って?≫

「まさか。魔王を打ち倒す勇者様だよ。主役は俺らだ」

 

 軽口を叩きながら漸く体勢を整えた司狼は銃口に集めた魔力を撃ち出すことはせず、刃の様に薄く鋭く形を変えると迎え撃つように振り下ろした。

 

「っおらぁ!!」

 

 轟音と衝撃に意識が丸ごともっていかれそうになるが、気合で持ちこたえて形成した刃の向きを僅かに変えて斬撃を逸らす。逸れたそれが背後の壁を破壊する音を聞きながら、そういえばクロノは何処に行ったのかと思った瞬間。

 

「これは……」

「うお!?」

 

 彼方より飛んできた魔法が彼らの手足を拘束し磔にする。視線を移せば遥か上空に逃げていたクロノがこちらにデバイスを構えていた。

 

「少し驚いたけど、これで大人しく……」

「こういう魔法もあるのか。なるほど、しかし……脆いな」

「は!?」

「エリー、頼んだ」

≪りょーかい≫

「え!?」

 

 片や初めから拘束などされていなかったかのように、簡単に拘束を砕いて磔から解放されてしまうし、もう片方は打ち出した一発の弾丸が蛇の様な軌道を描いて全ての拘束を打ち破る。

 司狼は、まだいい。初めて使うとは思えぬ程の技術は確かに驚愕するが、デバイスを持つ手を自由にしていたのは失策という他無い。

 問題は、ライニだ。素人相手と侮っていたのは認めよう。しかしそれは彼らの初撃を見て認識を改めた。故に今の拘束魔法に手抜きなど一切ない。間違いなく彼らの動きを封じるために発動したそれが、蜘蛛の糸でも払う程の気軽さで突破されるとはどういう事だ。

 

「ああ、なんだか少し楽しくなってきた。司狼、それにエリー。卿らはどんな魔法が使える? どんな使い方をしてくるのかな。クロノ、僕の知らない魔法を知っているのなら是非見せてもらいたいな。なあ、私を楽しませてくれよ」

「全部試してやるからお前こそへばるなよ。萎える展開はごめんだぜ?」

≪あっちゃー。ヤバい人たち選んじゃったかな、これ≫

「嘘だろう……?」

 

 楽し気に笑う黄金に、挑発的な笑みを浮かべる司狼。模擬戦とは思えぬ魔力の昂ぶりにクロノは顔を引きつらせた。

 

◆◇◆◇

 

「さて、様子はどうだ?」

「艦長、この、この子たち、何なんですかこの子たちは!? なんですかこの数値あり得ないですよ!!」

「早く止めないとトレーニングルームが保ちませんってこれ!!」

「クロノ君大丈夫!? 非殺設定本当に設定されてるんだよね!?」

 

 オペレータールームはモニターから流れてくる映像と音声に加え計測されている結果に阿鼻叫喚。慌てふためく彼らに対しエレオノーレはまるで気にしていない。計測された数値すら予想通りと言わんばかりだ。

 

「司狼って子、あのエリーをもう使いこなしてますよ。これが天才って奴ですか? 訓練を受けてないなんて嘘でしょう。初めての戦闘とは思えない」

「魔力だってAAクラスは難くないですよこれ。成長期に入ればAAAクラスまで行くかも……」

「それよりなにより、問題はこの子でしょう。魔力がどんどん上がっていく。瞬間的な数値はSクラスを軽く突破してます。化け物か……?」

「魔力もそうだけど、僕はこの二人が末恐ろしい。模擬とはいえ、普通友人相手にあんなにも簡単に銃口向けたり刃向けたりできるもんなんですかね? 攻撃一つ一つに躊躇がないし、殺す気だって言われても信じますよ。それが全て遊び感覚だと言うのだから、無邪気というかなんというか……」

 

 興奮も冷めやらぬ口調で各々上げてくる報告にエレオノーレは満足そうに頷いた。やはり自分の目に狂いはなかったようだ。

 

「どうやらとんだ原石を発掘できたようだな。さて、彼らの本気を引き出せなかったのは惜しいがそろそろクロノが死にそうだ。止めてやれ」

「はい!」

 

 苦笑と共に命令されたそれは呆れが混じっているが、やはり母として息子が心配なのだろう。勤務中だと言うのに呼び名が変わっていることに気付きながらも、それを指摘する者は誰もいない。何よりもクロノが心配なのは全員同じだったのだから。

 

「なんなんだ君たちは!? 本当に今まで訓練を受けてこなかったのか!? 特にライニ、君だよ!! 拘束魔法を素手で破るなんてふざけてるのか!?」

「何、と言われても」

「俺たち平和な日本で暮らしてた小学生だし。んな物騒な訓練受けねえっての」

「わかる。君の気持ちすっごくわかるよクロノ」

 

 医務室で手当てを受けながらクロノは司狼とライニを睨みつける。同じく手当を受けている司狼はまだしもかすり傷一つ負っていないライニは何なのだ。戦闘服に加え自然と溢れ出す魔力がそのまま装甲として機能しているなんて反則もいいところだ。これでは生半可な攻撃魔法は効かないどころか物理攻撃だって効くか怪しいものであるし、拘束魔法は先の通り。まずその装甲を剥がさなければ拘束魔法の方が破壊される。常時強化魔法を纏っているに等しい状態でもあるから軽く殴られただけでもたまったものではないだろう。

 戦闘中にライニはパワータイプに近いと分析していたのだがこれは違う。ただのチートだ。タイプなんてものはない。というよりもそんなもの関係ないのだろう。なまじ強すぎる魔力のせいで、戦略などそもそも必要としていない。誰だって羽虫を潰すのに作戦を考えたりなどしないだろう。それでもライニの戦闘スタイルを定義するのなら蹂躙。その一言に尽きる。

 

「エリーとの相性も良いみたいだし、これからは前線に出て貰っても構わないな、司狼」

「おう任せとけ。これで美味しいとこ取りはされなくて済みそうだしな」

「今までも結構前に出てたよね……?」

 

 まさかアレがただのサポートだったなんて言いださないだろうな、とユーノは突っ込まずにいられない。

 ああ、きっとこれからもっと被害が増えるのだろう。なにせ時空管理局なんてバックが付いてしまったのだ。今まではユーノが隠蔽できる範囲で、という制約が付いていたのだがその心配がなくなったのだから。

 

「ユーノ。君の苦労も察するよ……」

「ありがと……」

 

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