魔法少年リリカルけもの   作:さにり

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長らく放置していましたが色々と落ち着いてきたのでゆっくり再開していこうと思います。
相変わらずの不定期亀更新となりますがゆるくお付き合い頂けますと幸いです。


第十二話

 

「プログラムが書き換えられている?」

 

 呼び出された室内で、メンテナンスとして預けていたレイジングハートを受け取りながらライニは告げられた言葉を反芻する。それは一体どういう意味だろう。

 

「ええ。ライニ君の魔力に充てられて、レイジングハートにプログラムされている機能が少し変化しているみたいなの。そうね、例えばレイジングハートにインストールされている言語プログラムは、地球で言うところの英語だけのはずだったのに、本来備え付けられていないはずの言語プログラムが追加されている。ドイツ語……だったかしら? 一番わかりやすいのはそこだけど、他にもたくさん改竄の跡が見えるわ。こんなこと初めてよ。今まで使っていて何か違和感を感じたことは?」

「……いえ、僕には何も」

 

 問われて返答に困ってしまう。違和感も何も、ライニの基準はレイジングハートだ。この宝玉を手にするまで魔法と言う物の存在すら知らなかった。

 時折レイジングハートの言語が統一されていない様子は知っていたが、それはライニ自身が多数の言語を修めていたからそれに合わせてくれようとしていたのだとばかり思っていた。おそらくレイジングハートの起動詠唱にドイツ語を用いた影響かと思っていたのだが。

 デバイスだってレイジングハート以外使ったことがないのだから、他と比べてどうかと言われても答えられないのは当然だろう。

 強いて言えば、そう。

 

「違和感、ではありませんが。懐かしいと感じます。どうしてかはわからないけれど。ユーノに初めて渡された時は感じなかったのに、最初に起動してからはずっと」

「懐かしい? それはどういうことかしら」

「僕にもわからないのですが、再び手にすることが、戻ってきてくれたことが、嬉しい……? すみません。うまく説明できなくて」

 

 宝玉の形を保っているレイジングハートを手の平で転がしながら、言葉を探す。

 懐かしい。嬉しい。それに近いがそうではない。無事でよかった、良く戻ってきた、とまるで迷子になっていた子供の帰りを迎える親のような、それでいて必ず戻ってくると確信していたような。待たせてすまない、見つけてくれてありがとう、と長年共に居た友人に対する謝意に近いものもあって余計に混乱してしまう。

 それともう一つ。これは胸に秘めておくつもりだが、レイジングハートは完全ではない。多くの力を失っている、と言うよりも、本体が別にあるのだろう。これは本体から一部を切り離した欠片、分身のようなものか。その欠片だけでもあの威力。ユーノや管理局員の反応を見ればレイジングハートが規格外のデバイスだという事は理解している。それがさらに彼らの常識の埒外であるとわざわざ告げることも無いだろう。何よりも、これは完成させてはいけないと本能で感じている。

 

「君とはあれが初対面だったと思うのだけど。僕の知らないところでどこかで会っていたのかな」

≪…………≫

 

 沈黙するレイジングハートに困ったように笑いかける姿は年相応の幼さが覗く。自分の感情に置き去りにされて困惑しているライニを見かねたのか、技術者の女性は安心させるように笑いかけた。

 

「大丈夫よ。ごめんなさいね、混乱させちゃって。初めて見る現象だから私もちょっと興奮しちゃった。今のところは問題ないみたいだし、レイジングハートが君に使いやすいように頑張ってくれてるのかな。これからも定期メンテナンスは続けるけど、もし使っているうちに少しでもおかしなところがあったらすぐに教えてね」

「はい。ありがとうございます」

 

 一礼して退室したライニを見送って息を吐く。

 少年の手前ああは言ったが、これは一体どういうことだ? 

 

「おかしいわよ、あり得ない。だって、これ、ミッドチルダ式でも、ベルカ式でもないじゃない……!」

 

 コンソールに映し出したレイジングハートの内部プログラム。書き換えられた箇所に目を走らせて、震える声を絞り出す。本来のプログラムが多少変更されている程度であれば納得はできないが理解はできた。言語が変わっているだけなら前例がないだけでおかしいことではないだろう。

 言った通り、レイジングハートがライニの魔力によって変換(コンバート)されたのだと。あり得ないが、不可能な話じゃない。

 ああ、だがこれは? 

 五割以上のコードが全く別物のプログラムに書き換わっているなど、あり得ないだろう。

 本部のデータベースにアクセスして漁ったが、ミッドチルダどころか古代ベルカ式ですらない。ならば他の、もっとマイナーな式なのかと調べてみたがどれも違う。

 

「これは、一体……」

 

 特に核となるプログラムに至っては、完全なブラックボックスと化している。時空管理局の最新鋭の機材を用いても解析できず、文字化けを起こして無意味な文字と記号の羅列と化したコードを見ると何故だか背筋が寒くなる。悪寒を隠すように画面を閉じると背もたれに体重を預けて天井を仰ぎ見た。

 

「君は、何者なの……?」

 

 艦長にこのことを報告すれば、本部には絶対に報告するなと釘を刺されてしまった。報告すれば彼は即刻本部に送られる。有望な人材を本部に取られるくらいなら隠蔽するのもわからなくはない。何より本部では実験に使われる可能性もあるのだから、少年を守る為にもその命令には従うつもりだ。

 ただ、あの時の艦長はどこか良く知っている彼女ではなかったような気もしてしまって。それだけが何やら胸をざわつかせるのだ。

 地球に来てから楽しいのだか恐ろしのだかわからない事態が続いている。

 

「これからどうなっちゃうんだろう……」

 

 この一件が落ち着けば、ライニと司狼は地球に残すわけにもいかないだろう。艦長はどうするつもりなのか。

 呟いた瞬間艦内に鳴り響くアラートに、椅子から落ちてしまった。

 

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