魔法少年リリカルけもの   作:さにり

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第十三話

 艦内に鳴り響くアラートに、艦橋に続く廊下でライニ達は合流するとそのままエレオノーレが居るはずの艦橋へとなだれ込む。

 

義母(かあ)さん、何事ですか?」

「お前達も良く知る娘が何やら大がかりな魔法を使うらしい。海中のジュエルシードを探すつもりなのだろう」

「そんなことできんの?」

「ただの探索魔法では無理だ。故に海中に魔力を放出しジュエルシードを無理やり覚醒させるつもりだろう。無論、被害は甚大なものとなる。海上とは言えこれだけ街に近い。大災害を引き起こすだろうし、術者が耐えられるかどうか」

「そんな!? 急いで止めないと!!」

 

 司狼の疑問に対する答えに、クロノとユーノは息を飲む。特にユーノは顔を青くしてライニを急かすが、当のライニと司狼は慌てる様子もなく、世間話でもしているかのような気安さで肩を竦めるのみ。

 

「海中のジュエルシードを探すなら一番それが手っ取り早いってか。どうする、ライニ?」

「いずれは海も探さなくてはいけないけれど、それが早そうだ。とはいえアンナに負担させるわけにもいかないな」

「んじゃ決まりか?」

「ああ。艦長、出撃許可を」

 

 聞かれるまでもないだろうというライニに司狼は笑って、一体何をするつもりなのかさっさと進んでいく二人の会話に、クロノとユーノは顔を見合わせた。何をするつもりなのかは知らないが、エレオノーレが許可を出すわけがないだろうと彼女を見ると、彼女は楽しそうに笑みすら浮かべている。

 

「もう出してあるよ。海上に結界魔法の準備も終わっているが、お手柔らかに頼む。君に本気を出されては、管理局の結界魔法もさてどこまで保たせられるやら。節度を弁えてくれるのなら文句はないさ。後はどうぞ、君のお好きなように」

「ありがとう」

「…………」

 

 そのまま司狼と困惑しているユーノを連れて艦橋を後にするライニを見送り、クロノはエレオノーレを凝視してしまう。

 大規模魔法に加え暴走するジュエルシードの封印。どう考えても一人の手に負える物ではない。ならばアンナの自滅を待ち、彼女が倒れるかジュエルシードが全て封印されるタイミングを狙った方が効率的だ。ライニ達の出撃許可など出すまでもないだろう。

 

 確かに彼女は年齢や人種で他者を判断するような人ではないし、相応の相手であれば年下であろうが階級が低かろうが敬意を払う人だと知っている。知っているが、それにしてもライニへの態度はおかしくないか。そしてそれを当然のように受け入れるライニもまた、肝が据わっているという話ではない。

 彼らのやり取りはまるで、主従のそれだ。訳が分からないし納得できない。

 そんなクロノに気付いたのか、エレオノーレは苦笑と共にクロノの背を押す。

 

「何をしているハラオウン。彼らだけに任せるわけにはいかないだろう。サポートしてやれ」

「……はい」

 

 釈然としない思いを抱えたまま、クロノもまたライニ達を追って艦橋を後にした。

 

◆◇◆◇

 

「すごい規模だな。この魔法はどれほどの範囲で発動させるつもりなのかな」

「ライニ……!」

 

 上空に展開された巨大な魔方陣を見上げながら、ライニはいつものようにアンナに声をかけた。彼女はライニ達に気付いていなかったようで、驚いたように振り返ると僅かに後ずさる。傍らのヴィルヘルムも威嚇するように牙を剥く。

 

「ライニ! 何を悠長にしているんだ!」

「まあ落ち着けよクロノ。下手に刺激してもあのお嬢ちゃん何するかわかんねぇだろ?」

 

 漸く追いついたクロノがデバイスを構えるのを司狼が抑える。クロノとユーノはまだライニが何をするつもりなのかを理解していないらしい。というよりも、理解したくないのか。

 

「……お母さん(ムッター)にはジュエルシードが必要なんだ。街の中はもうほとんど探したけど残りのジュエルシードは見つからなかった。後はもう、海の中しか考えられない。だからライニ、お願い。邪魔をしないで……!」

 

 今からやる魔法がどれだけの被害を出すのか理解しているのだろう。懇願するようにバルディッシュを構えるアンナに、ライニは気にすることもなく未だ上空の魔方陣を興味深そうに眺めている。やがてその視線が上空から海面へと移された。

 

「……なるほど、こうかな?」

「え?」

「エリー、防御魔法」

≪らじゃ≫

 

 海中に沈んだジュエルシードの探索方。魔力を放出し無理やり起動させるという話だったが、一体どうするつもりだったのかずっと気になっていたのだが。こうして大規模魔法の存在を知れたのは僥倖と言える。

 魔方陣から読み取れた必要な魔力量とその範囲。それらを理解した途端、ライニはレイジングハートの穂先を海面に向け軽い調子で魔力を流し込んだ。

 いつもの砲撃魔法の威力と範囲を少しばかり上げただけ。

 つまりこういうことだろう。わざわざ大規模魔法など使うまでもない。探索範囲に必要分の魔力が流れれば十分ならば、これで起動するだろう。

 

 瞬間、波が荒れ狂いジュエルシードを中心に渦潮の柱が立ち昇る。続けて晴天だったのが嘘の様に天は分厚く暗い雲が覆い尽くし、風は吹き荒れ雷を伴う豪雨となって瞬く間に大嵐。

 

「え……?」

「アンナ、退け!! 巻き込まれるぞ!!」

 

 展開していた魔方陣すらかき消すジュエルシードの暴走に、放心しているアンナを乗せてヴィルヘルムがさらに上空へと退避する。

 

「な、なにしてるんだ君は!? 過剰供給で大暴走してるじゃないか! というかこんな広範囲の無差別放出で過剰ってなんだよ!?」

「おー、すっげ楽ちん~。これでユーノがばら撒いたのは全部っぽいな」

 

 頭を抱えて騒ぐクロノと違い、ライニならやるだろうと信じていた司狼は呑気なもので起動されたジュエルシードの数を数えているほどだ。

 

 ユーノが元から持っていたジュエルシードが1つ。そこからライニが集めた6つのうち1つはアンナに譲られて、5つ。更に時空管理局の協力を得てから司狼とライニが集めたものが3つの計9つ。管理局によるとアンナが集めたものが既に6つ。

 残りのジュエルシードは6つという話だったが、天を穿つ渦潮の柱も同じく6つ。

 どうやらこれで21すべてのジュエルシードが揃ったことになる。

 

「街中と違い、海上であれば多少騒ぎになっても問題ないだろう? 時空管理局が居てくれて助かった。流石にこの範囲の結界をユーノ一人に頼むわけにもいかなかったから」

 

 悪びれもしないライニの様子にクロノは先ほどからあー、とかうー、とか唸りながら髪をかきむしっている。その気持ちが分かってしまって、ライニの肩の上でユーノは苦笑することしかできない。

 司狼が張った防御魔法のおかげでこの嵐の中でも飛行魔法が乱れることはないが、常識的に考えて戦闘服(バリアジャケット)も意味を失くすほどの嵐を引き起こす暴走など、どれほどの魔力を注いだのか考えることすら恐ろしい。

 

「さて、司狼。卿はそちらのジュエルシードを頼む。クロノ、卿にも手伝ってもらいたい。他は私が鎮めよう」

「──おう。まかせとけよ、ライニ」

「司狼?」

 

 ライニの指示は当然のもので、わかっていたはずなのに一瞬だけ司狼の返事に間があった。ほんの一瞬。それでもそれは初めて感じた違和感で、ライニが確認するより早く司狼はさっさとここから一番遠いジュエルシードに向かっていた。

 

◆◇◆◇

 

≪どしたの? なんかアンタ、いきなり不機嫌じゃん≫

「そうでもねぇよ」

 

 ジュエルシードに向かいながら、エリーの声に何でもないと司狼は首を振る。原因などわかり切っている。ライニだ。命令されたのが気に食わない。どこか上から目線のライニの指示などいつもの事なのに、今回ばかりは癪に障った。

 

 俺の共犯者はライニであって獣じゃない。俺はお前の共犯者であって部下じゃない。あいつらのように扱うのはやめてくれよ。反吐が出そうだ。そんな超越者みたいな口調、似合いすぎてて似合って無いんだ。殴りたくなってくるだろう。

 

 なんて、自分でも意味が分からない。理不尽な苛立ちだと思う。そんな理解できない苛立ちを抱えたまま、司狼は小さく吹き出した。

 

「なんだかねえ。俺も焼きが回ったかな」

≪なーに一人でぶつぶつ言ってんのさ。これ、どうするつもり?≫

「なんでもねーよ。そうだな、抑えるのは無理だし魔力を放出させ続けるってのはどうよ。電気の放電と一緒だよ。こいつらライニの魔力喰って暴走してるだけなら喰らった分吐き出せば落ち着くだろ、多分」

≪そんな電化製品じゃないんだからさあ。って、まあ他にできる手も無いし、やるしかないか。補助魔法の重ね掛けでどう? そっちにリソース裂くから命中させるのは完全に司狼の腕前次第だけど≫

「お、いいねえ。射撃は得意だぜ」

 

 失敗すれば大暴走、最悪次元振に巻き込まれて命を落とす可能性すらあるというのに、どこまでも軽い調子でジェルシードの鎮圧に取り掛かる。

 横目に確認すればクロノとライニも既に各々のやり方で始めていた。アンナもまた離れた場所のジュエルシードに向かっているが、まずは放置でいいだろう。封印を手伝ってくれると言うのなら文句はない。取り分に関してはここを収めてからの問題だ。

 

◆◇◆◇

 

 嵐の中を悠然と泳ぐように飛びながら、暴走するジュエルシードに近づくとライニは無造作に手を伸ばす。魔力の奔流など物ともせず、ジュエルシードを握り込めばそれだけで渦潮の柱は消え去り即座に暴走が止まる。何をしているという事でもない。ただ単純に、先ほどよりも少し強い魔力を使った封印魔法を流しこんで無理やり鎮圧させただけにすぎないのだ。

 

「ああ、良い子だ。大人しくて助かるよ」

「……僕さ、今度辞書で大人しいの意味調べて来るよ」

 

 ライニの肩の上、彼の魔力で守られているユーノは同じように3つ目の回収を終えたライニに引き攣った笑みをこぼす。

 司狼とクロノ、それにアンナもそれぞれ1つずつジュエルシードの封印に成功したようで、漸く嵐が収まると息をつく。たった1つの封印で三人は既に疲労困憊といった様子だ。

 

「皆無事で何よりだよ」

「無茶苦茶だ君は! やりすぎだよ!!」

「ちゃんと集まったし、結果オーライって奴だろ」

 

 同じく疲弊しているはずの司狼は面白かったと笑ってばかりで、クロノは恨みがまし気にライニと司狼を睨みつける。

 

「お疲れ、二人とも」

 

 ライニの肩から飛び降りたユーノがせめてもの労りとして司狼とクロノに回復魔法をかけるが、多少の疲労回復程度にしかならないだろう。

 

「ライニ。その……」

「ああ、すまない。卿にも手伝ってもらったのに、1対5では取り分として平等ではないな」

 

 バルディッシュを構えながらも、遠慮がちに声をかけてきたアンナにクロノは警戒するが、ライニは微笑を浮かべて振り返る。なんの躊躇もなく自ら封印したジュエルシードのうち2つをアンナへと差し出した。

 

「3対3になればお互い文句もなかろう」

「でも、僕が封印したのは……」

「卿のおかげで大規模魔法について知ることができた。これはそのお礼だよ」

「……ありがとう」

 

 ライニから受け取った2つのジュエルシードと合わせて3つ、アンナはその場で母の元へと転送する。これできっと、母も喜んでくれるはず。

 そう思っていたのに。

 

「ライニ危ない!!」

 

 上空からの巨大な魔力反応にユーノが叫ぶ。避ける間もなく、ライニとアンナに向かって迸る雷撃に二人が呑み込まれた。

 

◆◇◆◇

 

お母さん(ムッター)、どうして……」

 

 真上から落ちてくる雷に抗うこともせず、アンナは茫然と涙を流して呟いた。

 ああ、母は不出来な自分にそんなにも怒っていたのか。

 これは、母の娘であれなかった自分への罰だ。

 

 目を閉じて来るべき衝撃に耐えていたのだが、いつまで経っても予想していた衝撃が来ない。それどころか、痛みとは正反対のこれは……温もり……? 

 

「え……?」

「何を驚く。卿、ずっとこうされたかったのであろう?」

 

 目を開ければ、ライニがアンナを守るように抱きしめていた。未だ二人を襲う雷はライニの魔力に阻まれて、二人に掠ることすらしない。

 

「ああ、良いさ。卿の渇望もその寂しさも、全て私が抱きしめてやろう」

「ライ、ニ……」

 

 細められた黄金の瞳は慈愛に満ちている。まるで我が子を守るかのようなその視線に、アンナは頬を染める。

 

「僕を……抱きしめて、くれるの?」

「無論、卿が望むなら」

 

 言葉通り、アンナを抱く腕に力が籠る。

 母からは決して与えられなかった温もり。以前香純に抱かれた時よりも強い抱擁にアンナはただただ茫然と、この時ばかりは母のことすら忘れて彼に縋ってしまった。

 

「ああ、僕は……」

 

 であれば、自分は。

 彼のための騎士となろう。

 白い騎士に。

 最速の騎士に。

 彼の前に立ちはだかる有象無象を、最速の願いをもって轍としよう。

 それが白騎士の務めなれば。

 

「ラインハルト・ハイドリヒ」

 

 貴方に変わらぬ忠誠を。

 

◆◇◆◇

 

「ライニ!!」

「アンナ!!」

 

 雷が収まったとき、そこには無傷のライニと彼に守られたアンナがいた。それに安堵したユーノとヴィルヘルムが彼らの元へ走り寄る。

 しかし油断はできない。再び集まる上空の魔力にライニはレイジングハートを構える。

 

「エリー。防御魔法の重ね掛けだ。ライニ以外の全員にな」

≪了解。気休めだろうけどね≫

「生身でとばっちりよりマシだろ」

 

 ライニのやろうとしていることをいち早く理解した司狼が防御魔法を乗せた弾丸を打ち出すのと、ライニの砲撃魔法が打ち出されるのはほぼ同時。

 落ちてくる雷全てを打ち払いながら、黄金光は天を引き裂き次元の裂け目に現れたその場所へと打ち込まれた。

 




白騎士ログイン。
次回は閑話の予定。登場キャラが増えます。
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