「何をしている、マレウス」
「べっつにー。ただ、最近この街、騒がしいなって思っただけよ」
遠くを見つめて動かぬ少女に、黒い大型犬が声を掛ける。
少女はそれに答えながらも視線は未だ遠くの空。そこだけゲリラ豪雨でも来ているのか、暗雲が立ち込めている。結界に阻まれて上手く視ることはできないが、これだけの魔力、この程度の結界で隠しきれるわけも無いだろう。
「マレウス」
「わかってるわよ。テレジアちゃんとの約束は守りますぅ~。そりゃこれだけの魔力、美味しそうだしちょーっと味見くらいしてもいいんじゃないかな? って思ったりしちゃったりしなくもないけど? 私だって騎士の矜持は持ってるわよ。テレジアちゃんに言われてるもんね。蒐集はだめーって。ご主人様の命令は守るわ」
窘めるように名前を呼ばれ、少女は頬を膨らませる。それこそ少女の様に可憐な見た目で。しかし次の瞬間、少女の目は妖しく光り口元が歪みだす。
「でもさあ、これ、相当強い奴が来てるよ。放っておいたら、私たちも目つけられちゃうんじゃなあい?」
「……手は出さない。狙いが俺たちでないのなら、わざわざ姿を見せる必要はないだろう」
「はいは~い。それじゃ、ちょっと様子見、行ってみよっか!」
ぱちん、と指を鳴らして転移魔法。瞬きの間に少女と黒犬の姿は消えてしまった。
◆◇◆◇
「お~、やってるやってる。あは、あの赤い服の子、随分美味しそうじゃない。あっちの黒い子も悪くないわ。そっちの白いお兄さんは使い魔かしら。あっちの小動物は、ねずみ? 可愛いけど、美味しくはなさそうね」
結界に触れるか触れないか。ギリギリの境界線から見た中の様子にルサルカは楽しそうに口元に笑みを作る。透視魔法と遠視魔法の応用で結界内を盗み見るのは魔女の異名を持つ彼女だからこそできる技だ。
流石に声は聞こえないし、大規模魔法でも使われているのか巨大な雷と渦巻く魔力でよく見えないが、蒐集欲を掻き立てられるのが数名。目を凝らして値踏みを始めるルサルカはともすれば中に入っていきそうな勢いすらある。
それに呆れてため息を飲み込もうとして、不意に感じた異質な魔力にマキナは僅かに首を傾げ即座に行動に移した。
「…………」
「うわきゃぁ!?」
次の瞬間にはルサルカの襟を噛んで一瞬でその場から転移魔法。元居た場所に戻ってくると、喚くルサルカを無造作に地面に落とした。
「ちょっとマキナ~。もっと見てても良かったじゃない!」
「あれ以上あの場に居たら、お前は見ているだけでは済まさない」
「ぶ~~」
何よりあそこには危険があるような気がしてならないのだ。尚も喚くルサルカにそれを伝えるため黙らせようと口を開いた瞬間──。
結界すら意に介さず、黄金の魔力が爆発した。
空どころか結界ごと次元の壁まで引き裂く黄金光を見上げて、ルサルカは驚愕と呆れに声を震わせる。
「ちょ、ちょっとちょっとちょっと、相手が誰だか知らないけど、地球であんな兵器使うなんて何考えてるわけ!?」
「あれは危険すぎる。俺たちの手にも負えるかどうか」
見たところ魔導砲の一種のようだが、あんなものを白昼堂々使用するとは。管理局が使ったのか、対峙している相手の方か。ここが管理外世界ということを考えると管理局が使用するとは考えにくい。つまり後者の方がそれだけの兵器を有しているのだろう。あんなものを使用してくる相手だ。管理局がわざわざこの世界に来ているというのも納得できる。
「これは暫く大人しくしていた方がよさそうね」
「だから、初めからそうしろと言っている」
重ねて苦言を呈するマキナにルサルカはぺろりと舌を出してまるで誠意の籠らない謝罪をすると、悪びれる様子も無く言ってのけた。
「まあでも、近いうちに蒐集が必要になった時に良い餌の目星もついたし結果オーライ? あの赤いのと黒いの、一人でも結構なページ埋まりそうじゃない。……テレジアちゃん、いつまでもあのままにはさせておけないでしょ」
「……そうだな」
小さく呟かれたそれは少女の本音か。先ほどまでの茶化したような雰囲気はなく、真剣に主の身を案じているその声にマキナも低い声で頷いた。
主を守るのが騎士の本懐。
主の
どちらを取るのが忠誠と呼べるのだろうか。
タイミング悪く黄金と白騎士は見れませんでした。
黄金が蒐集されたら余裕で完成するでしょうに。
登場人物設定更新しました。