魔法少年リリカルけもの   作:さにり

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第五話

 その日は先日香純の家で飼っている猫が仔猫を産んだということで、司狼とライニが彼女の家に遊びに来ていた。庭で放し飼い同然となっている猫たちは自由気ままに過ごしていて、飼い主の人柄故か人懐こい猫たちは香純の膝で眠っていたり、司狼に遊ばれていたりする中。

 

「お前ほんっと相変わらず動物に好かれねぇのな」

「あは、あはははは……、ごめんねライニ?」

「…………いいんだ。僕にはユーノがいるから」

 

 猫たちに怯えられてあからさまに避けられているライニは、内心の落胆を隠しもせずに慰めるようにすり寄ってくれるユーノを撫でながらいじけだす。年相応の仕草に司狼と香純は苦笑を漏らすがそちらの方が好ましいと笑い合った。

 恨めしそうに膝上の猫を撫でている香純を眺めながらユーノの頭を撫でていれば、仔猫が一匹草むらの中に入って行く。それを横目に、猫じゃらしを取り出した司狼にライニを迂回するように集まっていく仔猫たちに深いため息を吐いた瞬間。

 

「──っ!」

(ライニ……!)

 

 ジュエルシードの気配に飛び起きる。司狼と香純はそれぞれ猫とじゃれていて何も気付いている様子はない。

 

(どうしよう、すぐ近くだよ!)

(……いい機会、なのかな。ユーノ、頼めるか?)

(任せて!)

 

 前半はともかく、ライニの言わんとしていることを理解したユーノは素早く身を翻すとジュエルシードの気配を追って草むらに飛び込んだ。

 

「あ、ユーノ?」

「何か見つけたのかもしれない。迷子になると困るから、探してくるよ」

「でも、一人で平気?」

 

 足元を駆けて行ったユーノに香純が慌てて立ち上がるがそれをライニが制する。なおも心配そうな香純に微笑んで、司狼に視線を送れば彼は楽し気に笑ってみせた。

 

「そうだな。司狼、悪いが手伝ってくれるか?」

「おう、いいぜ。んじゃ香純。悪いけどこいつらの世話しといてくれよ」

「え、あ、ちょっと!?」

 

 遊んでいた仔猫たちを香純の方へ押しやって、ライニに続いて司狼も立ち上がる。さっさとユーノを追って森に入り込んでしまった二人に、取り残された香純は猫を抱きかかえながら頬を膨らませた。

 

「なによ、もう。また私だけ除け者にしちゃってさー……。いいもん、いいもん。どーせ私は足手まといだもん。慣れてるもん」

 

 待っているのは慣れてしまったと、涙ぐんだ声で呟いてテーブルに放置されたままだったクッキーを頬張りだした。

 

◆◇◆◇

 

「さて、ユーノ。もう隠さなくていいよ」

(え、でもライニ、彼は……)

 

 香純から見えないところまできてユーノと合流すると、ライニは傍らの司狼を気にせずユーノに話しかける。それに本当に良いのかと確認してから、ユーノは戸惑いがちに口を開いた。

 

「え、えと……はじめ、まして。なのかな? 僕はユーノ。よろしく司狼」

「なんだ、やっぱ普通のフェレットじゃねぇのか」

「……えっと、驚かない、の?」

 

 人語を話し始めたユーノに、司狼はさして驚く様子も見せずに納得していることにユーノは困惑しながら司狼を見上げる。

 

「あー? まあ時期的に、こいつが面白いことやり始めたのお前見つけてからだし。何か関係あるってのは分かるだろ。んで、ライニ。隠してるのはこれだけじゃねぇんだろ?」

「当然だろう? これだけなら、隠す必要もなかったよ」

 

 ジュエルシードや魔法のことを話し始めるライニにユーノは慌ててしまうが、ライニの言葉を妄言ではなく現実として受け止めいている司狼にも衝撃を受けてしまう。この世界に来て日が浅いユーノではあるが、ここは管理外世界。魔法の存在など誰も知らないはずなのに。

 

「で、そのジュエルシードってのは使いようによっちゃ前にあった大樹みたいに危険なことになるから回収してる、と」

「然りだ。まあ、前回は人間が使ったためにあれだけ被害が大きくなったようだし、集めてきたジュエルシードの中で人間が発動させたのはあれ一度きりだから。次にまた面白い展開になるのは少し先の話になるかもしれないが」

「ふーん。ところでよ、ライニ。これもそのジュエルシードって奴のせいなんだよな?」

「……まあ、そうなるだろうな」

「俺にはどうも、なんつーか、面白いことには面白いんだが? こいつがそこまで危険なものに感じられないってのは対象がアレだからかね?」

「……ふむ。まあ、今回はハズレだったようだ」

 

 家ほど巨大化してしまった仔猫を見上げながら、司狼とライニは落胆を滲ませながらも苦笑する。折角面白くなってきたと思った矢先にこれでは、幸先はあまりよろしくないだろう。

 

「って、そうじゃないよライニ! 早く封印を……って、ああ!?」

 

 遊びに行こうと動き出した仔猫にユーノが慌ててそれを追う。二人もそれに続くが途端にユーノが立ち止まった。

 

「ユーノ?」

「これだけ大きいと、人に見られちゃう。結界を張るから、少し待って」

「結界?」

「うん。結界の外からはここで起きてることは知覚できなくなる。僕が少しは、得意な魔法」

 

 ユーノを中心に展開された魔法陣に、司狼とライニは興味深げに見守っていれば異様な空間が辺りを包む。これが結界という奴なのだろう。感嘆するライニの傍らで司狼もまた口笛を吹く。

 

「これが魔法? お前もできるのか、これ?」

「いいや。正直僕が使ったことがあるのはジュエルシードの封印と、大樹を吹き飛ばしたあれくらいかな」

 

 そういえばまともな魔法は今まで使ったことがないと今更気が付く。レイジングハートにはそれなりの魔法が登録されていると聞いているが、試してみるのも面白い。

 そんなことを考えながら、まずはあの仔猫をどうにかしなければとレイジングハートを取り出した。

 

「そいつが例のレイジングハートって奴か」

「ああ。卿は見ているだけで、少し退屈をさせてしまうかもな」

「次回に期待するさ」

 

 今回は不調法を詫びようと告げれば司狼は肩を竦める。彼も早々に面白い事になると考えるほど楽観的でもない。ライニが秘密を共有しただけでも満足らしい。

 

形成(Yetzirah)──レイジングハート」

≪Standby ready≫

 

 軍服を身にまとったライニに司狼が僅かに目を丸くする。姿が変わるとは言え、髪の長さや瞳の色まで変わるとは思っていなかったのか。凝視されていることに居心地が悪くなって、ライニは苦笑しながら司狼を振り返った。

 

「僕もこの姿はあまり好ましくないんだ。デザインの変更を忘れていたな……」

「あー、確かにな。なんつーかそれ、ゲームのラスボスとかにいそうだぜ。悪の親玉って感じ? それも18禁の」

「む……」

 

 茶化すように肩を叩いてくる司狼の台詞に、今度はライニが顔を顰めた。確かに、正義の味方とは言えないような見た目だろうし、元になったのはあの夢にみる愛すべからざる光(メフィストフェレス)だ。分かってはいたが、他人から見てもそう見えるというのは中々複雑なものがある。

 

「ライニ。早くしないとあの子がまたどこかに行っちゃうよ。追いかけないと!」

「そうだな。行こうか、司狼」

「おう」

 

 ユーノに急かされて、二人は仔猫の後を追って走り出す。大きさ故に仔猫を見失うことはないが、自由気ままに闊歩する様は中々に壮観だ。早く追いつかなければ結界の外に出てしまうかもしれない。

 漸く追いついたと思った瞬間に、それは来た。

 

「イィィィィイヤッハアアアアアアアアア!!」

 

 叫び声と共に、何かが風を切って飛んでくる。音速の数倍の早さで飛び回るソレは最早目で追うことなど不可能だ。

 

「おいおい、こりゃちょっと不味そうだぜ?」

「みたいだな」

「こ、これは……!?」

 

 空気の層を蹴って飛び回るそれは白い軌跡を描き、三次元的に空間を跳ねまわる。辛うじてわかるのはそれが少女の声をしている白い姿ということか。

 

「ヒャハハハハハハハハ!! ジュエルシード、見つけたぁ!!」

 

「おいライニ。あれお前の友達?」

「いや。生憎と魔法少女の友達は持っていないな」

「って二人共そんな悠長な……! 危ないよ!!」

 

 呆然と、半ば暴走しているような少女を見守りながら若干引き気味に司狼はライニに訪ねる。それに心外だとばかりにライニは首を横に振るが、ユーノは慌てて二人に退くように告げる。と言っても、この二人がそれを大人しく聞いてくれるとはユーノ自身思っていないが。現に二人の顔に浮かんでいるのは笑みだ。

 

「僕とユーノ以外の魔法の使い手。興味深いな」

「どうやら狙いは同じみたいだな。どうする、ライニ?」

「丁度良い。彼女がどうアレを封じるのか、観覧させてもらおうか」

 

 司狼の前であの屈辱的な呪文を唱える手間も省ける。というのは口にはできないが。このまま見学するという方針に司狼も否はないらしい。

 

「バルディッシュ!!」

≪Jawohl≫

 

 漸く姿を見せた少女は、白い髪に、白いドレスのような戦闘服(バリアジャケット)を身にまとっていた。歳はライニと司狼と同じ程か。狂気に染まった蒼い瞳はこちらを認識しているのか定かではない。少女の呼びかけに答えたデバイスは杖というより斧に近い形状をしている。少女のあの速さといい、接近戦ではかなりの実力を発揮するのだろう。この速さでは接近戦と言っていいかもわからないが。

 

「ジュエルシード、封印!」

「ニャッ!?」

 

 少女と同じ白い魔力が仔猫を覆う。魔力に囚われた仔猫の苦しそうな声に少女は僅かに表情を歪めたが封印をやめる気配はない。ジュエルシードと切り離されたことにより大きさが元に戻った仔猫はぐったりと地面に倒れ伏した。死んではいないが、気絶したのだろう。仔猫の傍らに浮かぶジュエルシードを手に入れる為、少女は地に降り立つと淀みない動作でジュエルシードをバルディッシュで捕獲した。

 それを見届けて、ライニは少女に拍手を送る。その音に漸く彼らに気が付いたらしい少女は慌てて振り返るとバルディッシュを構えた。

 

「なんだお前!?」

「いや、素晴らしいな。随分と魔法に詳しいらしいが、さて、卿は他に何ができるのかな。知りたいな」

 

 空を飛んでいた魔法に、あの速さも魔法とみて良いだろう。それに封印。手順はライニと同じだが、仔猫に痛みを伴っていたのは魔法の質に関係があるのか。ああ、興味深い。是非他にも見せて欲しいと槍を構えるライニに、少女は怯えたように僅かに後ずさった。先程までの狂気を感じないことにライニは不思議そうに首を傾げる。

 

「どうした狂犬。何故吠えない?」

 

 先の威勢はなんだったのかと一歩ずつ少女に向かって歩き出す。

 

「そちらからこないなら、こちらから行かせてもらうが?」

「……あいつ、やっぱラスボスだよな」

「あ、ははは……」

 

 楽し気に少女に槍を向けるライニを見ながら司狼もまた仕方ないと言いつつどこか楽し気に笑いながら彼らを見守る。それに対してユーノはただ乾いた笑いを漏らすのみ。

 ライニもライニで中々人格が飛んでいると常々感じるユーノだが、その友人である司狼も相当ぶっ飛んでいると言わざるを得ない。ライニだけでも時折手が付けられないのに、彼まで関わってしまってはこの先ユーノに何ができるのだろうか。

 

「……っ!! 舐めるなぁっ!!」

 

 怯えていた少女がライニの言葉に我に返る。半ば自棄だろうが逃げ切れないと悟ったのか。正面からライニに向かってデバイスを構える様に思わず司狼とユーノは拍手を送る。

 音速を超えた速度でライニを囲むように再び飛び回る少女にライニはただ嬉しそうに目を細めたのみで動く気配はない。

 

「イィィィヤッハァアアアアアアアア!!」

 

 声すら遅れて届くその速度。少女は自らが最速であるという自負から誰にも捕らえられないと確信している。

 ああ、そうだ。誰も私に触れられない。私は負けない。触らないで。

 その想いの一心で更に速く。速く。音を超えて光にすら届く程の速度まで魔力を上げて速度を上げる。白い軌跡すら見えなくなる程の速さを得て、彼女は背後からライニの首に向かってバルディッシュを振り下ろした。

 

「なるほど、速いな。だが、それだけか?」

「な、あ……あ、ぁああ、」

 

 振り下ろしたバルディッシュは間違いなく彼の首元を捉えていた。何が起きたのかもわからず轢殺されたはずの少年は、ただ笑いながら自らの槍でバルディッシュをこともなげに受け止める。

 

「恐れで私は倒せぬよ」

「ガァっ!?」

 

 軽く槍を払えば衝撃で少女が後方へと吹き飛ばされる。木に叩きつけられるようにして動きを止めた少女は、呻きながらもバルディッシュを支えになんとか立ち上がろうともがきだすが、それよりもライニが彼女のもとに辿り付くのが早い。

 

「ひっ!?」

「案ずるな。殺しはしない。ただ、卿と少し話を……」

「逃げるぞアンナ!!」

 

 少女に興味があるだけなのだと言い切る前に、少女と同じ真っ白な巨大な狼が割って入って来る。アンナと呼ばれた少女を背に、ライニを一瞥もせず空に逃げる。瞬く間に見えなくなるその白い姿に、ライニは残念そうに肩を竦めた。

 

「ふむ。逃げられてしまったか……」

「よぉ、ライニ。思った以上に面白くなりそうじゃねぇか」

「ああ。すまない司狼。退屈させてしまったな」

 

 声をかけられて漸く思い出したのか。ユーノを抱えた司狼に除け者にしてしまったことを詫びる。

 

「いんや。流石にあの中に入ってけねぇし、そこはいいさ。……なあライニ。俺も混ぜろよ」

「無論。僕も卿がいてくれると助かる。ああも逃げられては、捕らえるのに苦労しそうだ」

「……なんだろう、絶対なにか可笑しいよ。可笑しいはずなんだよ……。いや、でもライニも司狼も普通だし、可笑しいのは僕……? この世界じゃこれが普通なの……?」

 

 悪戯を思いついた子供の様に笑う二人とは裏腹に、ユーノはただただ困惑しながら頭を悩ませた。

 

◆◇◆◇

 

「もー。あの二人遅すぎない!?」

 

 一方で、取り残された香純は最後の一枚となったクッキーを口に放り込むと温くなってしまった紅茶を飲み干した。

 

「戻ってきたら説教してやる……!!」

 




(あとがき)
原作クラッシャー、参戦。


解散の報告に困惑を隠しきれません。
パンテオン、いつか必ず日の目を見ることを信じて課金用貯金は継続します……。
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