魔法少年リリカルけもの   作:さにり

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まったり温泉回。
視点がコロコロ変わります。


第六話

 綾瀬家とハイドリヒ家は遠縁ではあるが親戚であることに違いなく、特にライニの父親が日本に移住する際に色々と世話になった縁もあるため一年のうちに家族ぐるみで旅行に行くことはさして珍しくもない。そこに幼馴染でもある司狼が加わるのも、数年前から当然の行事になっていた。

 今回の旅行は温泉旅館。少し遠出することになるのだが、羽を伸ばすには丁度良い場所だろう。

 久々の旅行に香純は浮かれ気味で、普段は司狼とライニもそれなりに楽しんでいるところではあるのだが今回ばかりは事情が異なる。現在二人に感心があるのはあの魔法少女と狼をどう捕まえるかであり、この旅行は計画を立てるにはそこそこ有効な時間になるだろう、という認識でしかない。温泉であれば当然女湯と男湯に分かれるわけで、必然的に香純は司狼とライニと別れることも多くなる。香純を巻き込みたくないというのは双方同じ考えを持っているために違和感なく行動を別にできるのは僥倖だった。

 

 保護者組の両親や兄姉は少し外を散歩してくるということで──十中八九デートと変わりないのだろう──三人は先に温泉の方へ揃って歩いていた。美由紀は兄や両親の邪魔にならないように、と早々に温泉に浸かりに行っている。

 

「じゃ、また後でね。二人共」

「きゅっ!?」

「ああ。姉上がいるはずだから大丈夫だとは思うが、何かあれば呼んでくれ」

「大丈夫だよ。ライニ、たまに変に心配性なとこあるよね」

「まあお前相手じゃ心配すんのもわかるけどな。過保護すぎんぜ、たまに」

「そうかな?」

「きゅー! きゅ、きゅー!?」

(待ってライニ、これ、え、僕こっち? こっちなの!?)

(ユーノも今日は休息すると良い。温泉は初めてか?)

(いや、僕の世界にも共有浴場はあったけど……いやそうじゃなくて僕おとこ……!)

(?。フェレットならば問題あるまい)

(僕が問題あるんだよ!!)

 

 廊下で別れる際に他愛もない会話を終えて、三人と一匹は二手に分かれた。その際に何故かユーノが騒いでいたが、問題ないだろう。流石に誰が入って来るかもわからない大浴場で司狼とユーノの三人でジュエルシードの対策について話はできない。四六時中ライニと一緒ではユーノも気が休まらないだろうというライニなりの気遣いだったのだが、それがユーノにとって有難迷惑でしかなかったことに気付くのはもっと後の事だ。

 

「今後についてはともかく、事の経緯くらいは教えてくれんだろ?」

「ああ。人に聞かれたくはないから、詳しい話はできないが」

「まあいいさ。いざとなりゃ適当にごまかせるし、大まかなとこだけわかりゃ十分だ」

 

 旅館について早々温泉に行くことを選んだのは、家族の邪魔をしたくなかったという事もそうだが何より人が少ないと踏んだからだ。夜になれば家人の目を盗んで二人と一匹で話し合う手筈になっている。

 ふと足元に転がってきた十円玉に、ライニは一度足を止める。拾い上げて辺りを見渡せば、自販機の前で財布を持っている青年が一人。兄と同じくらいの年だろうか。ライニが十円玉を拾ったことに気付いたのか、彼もこちらを見る。

 

「お、悪いな。ありがとう」

「いえ……」

 

 彼が落としたものだろうと差し出せば、彼は笑いながら十円玉を受け取った。初めて会う人のはずなのに、どうにも懐かしさを覚えるのはどうしてなのか。困惑するライニを他所に、青年はライニについでとばかりに問いかける。

 

「なあ。お前、日常は好きか?」

「……? 好き、と聞かれると……。それなりに楽しませてもらっていますが、」

「そっか。ならいいんだ」

「それは……」

「ライニ、おいてくぞー」

 

 安心したように笑う青年とは裏腹に質問の意図がつかめず首を傾げていると、後ろから司狼が呼ぶ声が聞こえて振り返る。

 

「すまない、すぐに行く。……申し訳ないのですが、友人に呼ばれているので、これで」

「ああ。あんまり馬鹿やって周りを困らせるなよ」

「……卿、私をなんだと思っている? 心配せずとも、女神の治世は乱さぬよ。それが卿に負けた、私の務めだ」

 

 全くそんなに心配することでもないだろう。そう肩を竦めて心外だと言わんばかりに苦笑する少年の瞳は、黄金。それにぎょっとして再び少年を見れば、先程と同じ蒼い瞳と目があった。

 

「大丈夫ですか?」

「あ、ああ……。なんでもないよ。大丈夫。ほら、友達が呼んでるんだろ?」

「……?」

 

 どうやら少年は、自分が何を言ったのかは理解していないらしい。それに安堵の溜め息を吐きつつも、懐かしい姿となったかつての幼馴染と男湯の暖簾をくぐる後ろ姿を見送って再び息を吐く。

 

「胃が痛い……」

 

 今後不用意な接触は控えようと誓った蓮は、先程渡された十円を自販機の中へと投入した。

 

◆◇◆◇

 

「ユーノは私が洗ってあげるね~」

「きゅ、きゅ~~!!」

(ライニ!? ちょっとライニ! 助けてよ~!!)

 

 香純に抱きかかえられながら女湯へ連行されるユーノは暴れながらライニの背中に助けを求めるが、ライニはそれすら面白がっているようでそのまま司狼と共に男湯の方へと去ってしまった。

 暴れるユーノを抱え直しながら香純が女湯の暖簾をくぐる瞬間に、出てきた女性とぶつかってしまう。

 

「わっ! ご、ごめんなさい!」

「ううん。私もごめんね。怪我はない?」

「はい!……うわ、美人さん」

 

 顔を上げた香純が見たのは、腰まで届く柔らかな金髪に碧の瞳。日本語が随分と上手いから、ライニと同じハーフなのだろうか。

 見惚れていれば、女性は香純の目線に合わせて屈みこむ。

 

「可愛いフェレットだね。貴方の子?」

「ううん。この子は友達の子で、ユーノ君って言うんです」

「そっか」

 

 ユーノの頭を撫でていた女性はそのまま香純の頭も撫でると優しく微笑んだ。

 

「皆のこと、よろしくね。香純、ユーノ」

「え……?」

 

 名前を呼ばれたことに困惑して、去っていく女性を振り返れば彼女は廊下の角を曲がって香純の視界から消えてしまった。

 

「なんだろう、あの人……。不思議な人……」

 

 教えた覚えのない名前を呼ばれたことに警戒してもいいはずなのに。彼女からは悪意のようなものは微塵も感じない。それどころか、むしろこれは……。

 

「お母さん、みたいな、ううん。ちょっと、違う、けど……」

 

 守られていると、そう感じられた。傍に居るだけで感じる暖かさと安心感。

 撫でられた頭に温もりを思い出すように触れて、微笑んだ。

 

「いこっか、ユーノ」

「きゅぅ……」

 

◆◇◆◇

 

「あ~……、偶にはこんな休息も悪かねぇな」

 

 人型になったヴィルヘルムは、広い浴場で影になる場所を陣取って束の間の休息を楽しんでいた。ジュエルシードがこの近辺にあるというのが分かって、先日の化け物との戦闘で傷ついたアンナにも丁度良いだろうと療養も兼ねてこの旅館に宿を取ったのだ。

 あの街から遠いこの場所なら、あの化け物も容易にここには来れないだろう、と踏んでいたのだが。

 

「うわ、すげぇぞライニ。ここめちゃくちゃ広いぜ」

「司狼。人が少なくとも大声を出すのはあまり感心しない」

「ぶふぉっ!?」

 

 とても、すごく聞き覚えのある、というより忘れたくとも忘れられない声と名前。思わず滑ってそのまま湯銭の中にダイブしかけたがここで目立つのはかなり不味い。慌てて辺りを見渡して入り口から影になる場所へそっと移動しながら二人の子供を目で追った。

 どうやら片方はまず間違いなくあの時の化け物と一緒にいた少年で間違いない。もう一人は、何やら少しばかり見た目が違うようだが間違えるわけがない。あの化け物だ。

 

(おいおいおいおいちょっとまてぇ!? なんで、あれがここに、まさか狙いは同じか!? ふざけんなよ、あんなの相手にしてられっか!!)

 

 二人が入り口から遠ざかったのを見送って、ヴィルヘルムは急いで彼らの視界から外れるように最短ルートで脱衣所に戻る。水気を拭くのもそこそこに浴衣を羽織ると荷物を纏めて足早に男湯を後にした。

 その間にも同じく女湯でくつろいでいるであろうアンナに念話を送る。

 

(アンナ! アンナやべぇぞ急いで逃げろ! 作戦変更だ! ……おい、おいアンナ? アンナどうした!?)

 

◆◇◆◇

 

「へぇ~。アンナちゃんって言うんだ。私は香純。よろしくね」

「よ、よろしく……えと、香純」

「も~! アンナちゃんかわいい~~!!」

「へ? あ、うわっ! か、香純!!」

 

 湯船に浸かってゆっくりと休んでいれば、同い年程の少女が入ってきた。外人というのが珍しかったのか話しかけてきた彼女とアンナはすぐに友人となって、並んで湯銭に浸かっていたのだがついに香純の我慢の限界が来たのか唐突にアンナに抱き着いてくる。

 

「お肌白い~! すべすべ~!! ねえねえ、あとで髪結わせて!」

「う、うん……」

 

 今までヴィルヘルム以外に友人と呼べる存在がいなかったアンナにとって、同年代というだけでも未知の相手だと言うのに。初めて抱きしめられた感覚に顔に熱が集まってしまう。触れ合った肌の暖かさは温泉に浸かっているからだけではないだろう。慣れない温もりだが同時にとても安心できる、不思議な感覚。そこに言いようのないむず痒さも感じて、アンナもまた同じように香純の背中に手を回そうとしたところで湯船の縁で倒れているそれに気が付いた。

 

「香純、大変! その子逆上せてるよ!」

「へ? あ、ああっ! ごめんユーノ!!」

 

 慌てて香純がユーノを抱き上げる前に、別の手がユーノを抱き上げた。それに合わせて顔を上げれば見知った女性がユーノを抱いていた。

 

「あ、美由紀さん」

「私も逆上せちゃったからさ。ユーノ連れて先上がってるよ。香純ちゃんはお友達と一緒にもう少しゆっくりしておいで」

「ありがとうございます!」

 

 気を利かせてくれた美由紀に頭を下げて、すっかり茹だってしまったユーノと一緒に美由紀は脱衣所に戻っていく。それを見送って、香純はアンナに向き直った。

 

「ね、露天風呂行ってみよ! きっとすっごく気持ち良いよ!」

「うん!」

 

(アンナー!?)

 

 当然、初めてできた同年代の、それも女の子の友人にアンナが浮かれないはずもなく。ヴィルヘルムからの呼びかけなど右から左で聞こえてすらいなかった。

 

◆◇◆◇

 

「レン! お待たせ!」

「マリィ。丁度良かった。牛乳、飲むか?」

「あ、これ……」

 

 休憩スペースで見つけた恋人に女神が駆け寄る。何かを買っていたらしい彼は持っていた瓶をマリィに差し出した。

 何の変哲もない牛乳瓶。

 それでもマリィは何かそれを特別なものであるように大事そうに両手で受け取った。

 

「懐かしいだろ? 固めの盃。今は俺達二人だけど」

「ふふ。そうだね、懐かしいね」

 

 サンドイッチはないけれど。今は二人しかいないけれど。

 懐かしむ様に蓋を開けて冷えた牛乳で喉を潤す。

 

「櫻井の奴も、この世界のどこかにいるんだよな」

「うん。ケイもセンパイも、それにエリーも、皆いるよ」

「そっか。なら、良かった」

 

 他の黒円卓の面々も。全員女神の愛に抱かれている。それを聞いて蓮は満足そうに頷いた。そんな恋人の様子にマリィも嬉しかったのか。無邪気な笑みを浮かべて悪気なく一言告げる。

 

「もしかしたら皆、ライニたちと会えるかもね」

「…………え?」

 




今後太陽さんは百合フラグをたくさん立てて行く予定です。
次回はおそらく自滅因子による白コンビ蹂躙回になります。予定は未定。
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