目の前にいる、もう一人の俺。
そいつが繰り出したアナザータナトスの力は
確かに今の俺と兵藤とで太刀打ちできるかどうかは怪しいものだった。
兵藤は本調子ではないし、俺もさっきまでの戦いで正直、消耗している。
不幸中の幸いは、奴を形成しているであろう負念が底をついた――
即ち、これ以上強大な増援を寄越される可能性は低いという事であろうか。
だが、こっちだってさっきのアナザータナトスの攻撃で仲間が全員やられた。
また同じ攻撃が来たらどうにもならない。そうなる前に倒したいところだが……
相手の実力が読み切れないうちに、こっちが全力を出すのは博打が過ぎるが。
検索しようと思ったら、棺桶から触手が飛んできたので割とそれどころじゃなかったし。
INFINITY-ARCHIVES DISCLOSURE!!
MOTION!!
「――アポロ!」
アナザータナトスに近しい力と言う意味で、俺は
オルタ・アポロを召喚する。アナザータナトスの刀に対し、オルタ・アポロの得物は銃。
リーチの上では、こちらが優位ではあるが。
「兵藤! 俺がこいつを食い止める! お前はその隙に――」
「俺に指図すんな!!」
兵藤は口ではそう言っているが、その足はシャドウ成二に向かっていた。
ある程度はこうなることを見越してアナザータナトスの相手を請け負った部分はあるが。
もう一つは、今の手負い状態のあいつにアナザータナトスの相手は荷が重かろう、と言う点だ。
幸い、今のシャドウ成二は本人の戦闘力自体は特筆するところはない、はずだ。
まさか、
連携して戦うのが無理なら、疑似的に連携すればいい。
要は、奴がそう動くのを見越して俺が動く。合わないなら、合わせれば済むだけの話だ。
SOLID-SWORD!!
アナザータナトスの刀に対抗できるとは思えないが、俺自身も剣を生成する。
どうもオルタ・アポロの再現に必要な周防巡査のモーションを再現するとなると
刀剣系の武器が相性がいいみたいだ。ディフェンダーではでかすぎる。
アナザータナトスに対峙する俺とオルタ・アポロ。
徐に、アナザータナトスの背面の棺桶の一つから、蓋が外れ落ちる。
またあの悍ましい攻撃が来るのかと身構えていたが
棺桶から顔を出したのは、赤黒い襤褸のコートを身に纏った怪人のような存在。
何かを「奪おう」と鋭い鉤爪をした手を伸ばしてくるが、その手は空を切る。
しかしそれは、攻撃が外れたことを意味していなかった。
空を切った鉤爪からは、やはり不快な「何か」が溢れ出してきていた。
――
鉤爪から溢れ出したそれは、周囲に残り未だに漂っている。
もしやと思いディーン・レヴで吸収を試みるが……ダメだった。
取り込むこと自体は出来るが、完全に攻撃的な負念であるために変換が効かないのだ。
寧ろ取り込んでしまったことで余計なダメージを受けてしまったさえある。
「ぐっ……!」
さらに今の攻撃で動きが鈍ったところに、アナザータナトスのまた別の棺桶の蓋が外れる。
中から飛び出してきたのは、赤い鉢巻きらしきものを巻き、サングラスを付け
返り血を浴びた襤褸の短ランを思わせる衣装を纏った人型。
そのサングラスは、まるで「真実」など見る必要も無いと言わんばかりだ。
その手に握られた赤黒いメリケンサック共々、もう既に見た目からして殺意に満ちている。
真実など、己が力でどうとでもできるとでも言わんばかりだ。
……当然、これでは近づけない。
離れるという事は、さっきの呪怨魔法が飛んでくるという事でもあり
遠近共に全く隙が無い。
こちらは距離を取ればオルタ・アポロの銃。
接近戦ならば俺の何の変哲もない剣。
腐食剣にすればいいじゃないか、と誰かに言われそうではあるが
その実腐食剣は威力自体は普通の剣と然程変わらない。
あれの真価は相手の装甲や装備を劣化させることだ。生物にも一応効くが。
この時点で些か不利な状態だが、かと言って兵藤にこいつの相手をさせるのも。
言ってはなんだが、あいつの出来ることと言えば火力一辺倒の必殺技以外は
力にかまけた戦い方ばかりで、技術と言えばひん剥き位だ。それも女性限定の。
この状況で役に立つとは思えない。
こいつに任せるよりは、俺が戦った方が確実だろう。
そんなこんなで、アナザータナトスの攻撃を必死に往なしていると
突然背後から撃たれた。
「いつまでこいつを宛がって時間を稼いでいるつもりだ?
お前のように分身は出来なくとも、その気になればこいつの相手をしながらでも
お前を処分することくらいは容易いんだぞ?」
「ぐ……!」
どうやら、兵藤の相手をしている片手間で、触手砲を忍ばせて
死角に入ったタイミングで撃ち抜いてきたようだ。
触手砲の砲撃は光弾であるため、悪魔でも生霊でもなければ、アモンも表に出ていない
現状で受けるダメージはそれほどでもなかったが
これで生じた隙でアナザータナトスの攻撃をもろに受けてしまった。
ヤバい。これはヤバい。視界が歪む。
「く……!!」
EFFECT-HEALING!!
回復させて態勢を整えるも、このままでは同じことの繰り返しだ。
そうなれば、回復の手札が心許ないこっちが不利に決まっている。
オルタ・アポロではアナザータナトスに勝てないのか……?
いや、そんなことは無いはずだ。
そもそも、向こうが
こっちだって使うのが筋と言うもの。そして使うカードは…………
PROMOTION-ROOK!!
「
しかし、この昇格は力そのものの操作が可能だ。重力、電磁力、強い力、弱い力。
我ながら大したズルだと思うが、相手があれだけの脅威であれば
ズルでもなんでもやらねばならない。これは遊びじゃないんだ。縛りプレイしてる場合じゃない。
――
アナザータナトスの周囲の重力を、可能な限り増加させる。
棺桶が軋む音と共に、アナザータナトスはその躰をその場に縛り付けられる形になる。
……ま、まあグラダインってのはなんとなく頭に浮かんだから言ってみただけで
特に意味は無かったりするが。
「…………くっ」
などと偉そうなことを言いはしたが、実は未だにこの4つの力――基本相互作用とやらを
完全に理解しているわけではない。これが理解できる高校生なんて簡単にいてたまるか。
なので、自分の理解の範疇の外にある力を操作するというのは
それは即ち、俺自身に物凄い負荷がかかるのだ。
かと言って、アナザータナトスを触手で縛り上げるのは難しいだろう。
本体を縛っても棺桶がフリーになるし、棺桶を縛っても本体がフリーでは意味が無い。
となると動きを止めるのは……こうなるわけだ。
そして戦車の力を使っているという事は、俺自身の耐久力も上がっているという事だ。
多少横槍を入れられても、意に介さずに行動することが出来る。
流石に分身を作っている暇は無いが、俺のシャドウの横槍を無視してアナザータナトスを攻略するには
この形態はうってつけであると言えるだろう。
「てめぇっ、さっきから俺を無視してんじゃねぇ!!」
「……お前、はっきり言ってやろうか。
『自分がまともに相手されるほど、大層な奴だと思っているのか?』
赤龍帝だか未来の魔王だか知らんが、ここは人間の世界だ。
悪魔のルールも、ドラゴンのルールもこの世界には存在しない。
存在しないルールを……押し付けるな」
一方、シャドウは兵藤の攻撃を往なすなり、返す刀で一撃を加えたかと思ったら
そのまま兵藤の左腕を捩り上げていた。
「異質な力を持った者が迫害される。
そんなのは何千年前から連綿と続いている、人間の限界だ。
だがだからこそ人間はその中で生きなきゃならない。お前は結果論とは言え人間であることを捨てた。
未練がましく、人間の世界に付きまとうな」
EFFECT-STRENGTH!!
そんな状態で、捩り上げた左腕にさらに力を加える。
いくら兵藤が悪魔とは言っても、人体構造上どうにもならない力を加えられれば……
「あがっ、あがあああああああっ!!」
「なにがハーレム王だ。自分の周りを蔑ろにして、自分の気持ちも満足に伝えられないで
人心掌握など出来ると思っているのか。それとも、変な力で強引に従わせるのが
お前の言うハーレムか。悪役の、それも独裁者の発想だな」
……シャドウの言っていることは、完全に俺の代弁だった。
変な力、に関しては俺の憶測に過ぎないが。
だがグレモリー先輩を狙いつつも全く声をかけなかったり
かと思えば姫島先輩や紫藤と爛れた振る舞いをしている。
その結果がアーシアさんの離反だ。全部、てめえ自身の行動の結果だろうが。
「…………なあ? こいつ、ここで殺した方がよくないか?
こいつの
それはいい。だが、こいつが魔王になった世界の人間界はどうなっていると思う?
こいつが人間を庇護するような奴か? 最悪、自分のええかっこしいのためだけに
敵を人間の世界におびき寄せかねないぞ?
それに庇護にしたって、今やっていることの猿真似になりかねん。
人間の世界は、人間の手で守られるべきだ。
それを、こいつらはしゃしゃり出てきて滅茶苦茶にするかもしれないぞ?」
シャドウの問いかけに、俺は一瞬頭が真っ白になった。
まさか、今度は俺にこいつを殺すかどうかを聞いてくるとは!
……確かに、俺はこいつに撃たれはした。
そう考えれば、俺自身の身を守るためにもこいつは……
「考える時間位はくれてやる。だがくどいようだがもう一度言っておくぞ。
俺はお前だ。その俺がこいつを殺すことを提案するという事の意味をよく考えろ。
独りよがりの理想郷と、世界に住む人々の自由と平和。比べるべくも無いと思うがな。
それからこいつを殺して罪悪感を覚える必要ならないぞ。
何せここにいるのは俺とお前、そしてこいつだけだ。目撃者など、何処にもいない。
お前の選択が全てだ。誰の意見も求めていない。無論、こいつの意見もな」
とんでもなく傲慢な物言いに、こいつも俺なのかと軽く頭痛を覚える。
だが、俺も思い返してみると割とそういう所がある……かもしれないし。
まあ、今から殺す相手の意見なんか普通聞かないしなあ……
……だが。俺の答えは決まっている。
兵藤が俺を殺そうとしたとか、そう言う事はこの際関係ない。
俺とこいつの関係ではなく、こいつ自身がこの世界に何を齎すか。
こいつが、この世界で何を成そうとしているか。
独りよがりな夢のために、世界を、人の魂を犠牲に出来るものか。
こいつの夢が、本当に人格を奪い去って女性を蒐集する事なのだとしたら。
それこそ、今悪魔がやっているように。
……こいつをここで殺すことが、ひいては世界の平和に繋がるのかもしれない。
だけど、何かが俺の中で警鐘を鳴らしている。
そもそも、今こいつを殺すことに躍起になってる場合なのか?
もっと重大なことが、あるような気がするが…………
サブタイは歌:子安武人。
しかし本当に「本当の私」が何処なの問題。
アナザータナトスにせよ、オルタ・アポロにせよ元は他人のペルソナ。
(アナザータナトスはペルソナとは少し違いますが)
シャドウも一面に過ぎないので「本当の」と言い切るのは乱暴が過ぎますし
今ここで戦車に昇格して戦ってるセージだって宮本成二と言う個人の一面に過ぎないわけで。
……ほんとの私はどれでしょう?
で、これと同じことはイッセーにも言えます。つまり……
今回、以前イッセーが突き付けられた質問と似たようなフリをしていますが
アンケートは行いません。
(結果がなんとなく想像できるというのもあるのですが)
>シャドウ成二の言動
セージが地の文で述べている通り、ほぼセージが思っていることを代弁してます。
心の内側の具現化たるシャドウの名は伊達では無いです。
つまり、ここでシャドウがイッセーに対して言っていることを
セージは常日頃から懸念していたわけで……
……そりゃあ、関係悪くもなるか。
ただ、ここで怒りをぶつける程度にはセージはイッセーの事を気にかけている、とも言えます。
態々イッセーを殺すかどうか聞いてくるのは、シャドウの出自に起因するただの意地悪だと思いますが。
ちなみに、この場にいないので言及していませんが
多分リアスに対しても同じくらいか、もっと酷い事言ってると思います。
>アナザータナトスの棺桶の中身
没ネタの再利用。マハエイハを使ったのはアナザーアルセーヌ。メリケン握ってたのはアナザーイザナギ。
彼らの「アナザー」ではなく、ただの棺桶の中身なのでそれっぽいだけの存在。
それぞれ「強奪する」ことや「真実を力でねじ伏せる」と原典に対して
これでもかと悪意のある解釈を成しているあたり、やはりアナザー。
因みに、彼らの元ネタになったアナザーライダーの設定の都合上
アナザー青面金剛とアナザーヴォルカヌスはクロスゲートの力業で強引に出す以外
どう捻っても出せず、彼らは早々に没と相成りました。
どっちもデザイン構想まで練ったのに……
>グラダイン
それにしてもこの駒王番長、ノリノリである。