ハイスクールD×D 学級崩壊のデビルマン   作:赤土

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まさかの貴虎ニーサン視点。サブタイが出オチ。
「ゴースト」時代も名g……伊草さん視点ありましたけどね。


Melon7. 閉ざす者の問いかけ Aパート

神仏同盟と北欧神話の会談を翌々日に控えたその日。

私、呉島貴虎(くれしまたかとら)の下にもその話は当然の事ながら、来ていた。

少し前の私ならば、神の存在など一笑に伏していたのかもしれない。

あのフューラー演説も、ヤラセなどではない事実であると証明されているが

今なお真実味を帯びない話でもある。

一昔前の私ならば「疲れているのか」と相手にしなかっただろう。

 

……いや、あの日私と弟の光実(みつざね)の前に現れた天照大神は紛れもない本物であろう。

私はオカルトには造詣が深くないが、あの佇まいは神というものが本当にあるのならば

本物と言わざるを得ないだろう。そんな神々が、人間の世界で会談を行う。

普通に考えれば、それこそ「疲れているのか」で終わってしまう話だが

先述のフューラー演説以降、そうも言えなくなった。

聞けば、日本には五大宗家とかヤタガラスとか、蒼穹会(そうきゅうかい)とかいう怪異に強い組織もあるそうだ。

どう考えても、彼らの管轄だろう。何故我々ユグドラシルに?

 

その事を私の同胞にして友人の戦極凌馬(せんごくりょうま)に話したところ、何故だか彼は一部始終を知っていた。

彼の知識は私も頼りにしているが、時折こうして得体のしれないところが垣間見れる。

……ユグドラシルの、人類の危害にならないうちは私がとやかく言う事ではないだろうが。

 

「それは簡単な事だよ貴虎。

 あちら――北欧のオーディン神が、ユグドラシルに興味を持ったのさ。

 知ってるかもしれないが、北欧神話の世界はユグドラシルという世界樹があり

 その樹を中心に成り立っている世界だ。

 だからこそ、同じ名を冠するここに興味を持ったんだろうね。

 ま、実際はウチのお偉いさんが北欧神話に肖って命名したってのが真相だろうけどね」

 

凌馬の蘊蓄に相槌を打ちながら、私は当日のプランを考える。

要するに、諸外国のVIPが来日するようなものだろう。

似たような事は、先日北欧からユグドラシルの見学のために来日したハールバルズ氏。

 

――これも後で凌馬に聞かされたのだが、かの御仁こそ北欧の主神オーディンであるそうだ――

 

彼がまた来るという事か。一度話した相手ならば、いくらか対応は出来るだろう。

簡単などとは言わないが。

 

そうなれば、対応の諸々を考えなければならない。

身辺警護は、ユグドラシル民間警備会社(YGDPMSC)に任せていいだろう。

言っては何だが、いくら私が斬月(ざんげつ)を所持しているからと言っても

私は研究部門のプロジェクトリーダーであって、営業部門ではない。

前回は彼がユグドラシルの技術見学の名目で来社したため、私が応対したが

今回は話が変わってくるだろう。

そもそも、今回は話を聞く限りではユグドラシルタワーを会場として貸し出すだけのようだ。

とは言え、私が何も関与しないわけにもいかないだろう。

事が起きてからでは遅いのだ。事が起きないよう、最善の手を尽くすべきだ。

 

……しかし、何故ここなのだ?

日本神話縁の地とされる出雲とか、伊勢神宮、明治神宮など

神として迎え入れるのならば適した場所が他にあると思うのだが。

日本神話が有利になりすぎるという観点から、避けているのだろうか。

 

……そういえば、確かこのユグドラシルタワーが建つ前、ここには巨大なご神木が生えていたか。

このタワーを建設するにあたって、あっさりと切り倒してしまったが。

あれは……確か、10年程度前の話だったか。

あの頃は私も若かったから、気にも留めなかったが……

いま改めて考えてみると、随分と罰当たりな事をしたものだ、親父も。

もしこの件について追及されれば、ユグドラシルが日本神話の標的となるやもしれんな。

 

「ああ、それと貴虎。すまないが当日私は別件で手が離せなくなる。

 君も聞いているかもしれないが、駒王学園という高校が企業見学にうちを訪ねるらしくてね。

 私はその対応に出ようと思うんだ。

 私と……そうだな、同じ高校生として光実君を当日は借りたいのだが、いいかい?」

 

凌馬の言う通り、私も当日の予定については聞いていた。

どちらがねじ込まれた予定かはわからないが、ブッキングするにしても程度があるだろうと

思わずにはいられなかった。

方や国際会議、方や学生の企業見学である。何をどうすればこういうスケジュールが組めるのだ。

担当には、一度私の方から釘を刺しておかなければならないかもしれないな。

 

「光実を? ……まぁ、よその高校の生徒と接触するのはあいつのためにもなるだろう。

 そういう事なら構わない。光実をよろしく頼むぞ、凌馬」

 

「代わりに、当日の君の補佐には湊君を派遣しよう。

 神仏同盟に北欧神話と、神々が一堂に集うんだ。

 警備会社に回してある黒影(くろかげ)では力不足に陥るかもしれない。

 君の斬月と……湊君にも、新型のドライバーと

 それに対応した新型のロックシードを持たせてある。

 君用のもできているが……必要になる事態が来ないことを祈るばかりだよ」

 

新型のドライバー? それにロックシードとは……相変わらず、凌馬の仕事は早いな。

とは言え、まるで何かが起こるような物言いだけはどうかと思うが。

私も事なかれ主義というわけではないが、起きないに越したことは無い。

まして、今は情勢が不安定なのだ。タワーの上空の建造物――クロスゲート、と言ったか。

件の建造物に関する情報も、インベスの棲む世界に繋がっているクラックみたいなもので

違いと言えば、クロスゲートからはインベスのみならず

アインストも現れるという事しか聞いていない。それだけでも十分に危険な話だが。

 

肝心のクロスゲートは、間違いなく光学迷彩装置で隠蔽されているだろう。

余計な混乱を与える位ならば、そうした方がいいのだろうが……

 

「当日は忙しくなりそうだねぇ、貴虎」

 

「全くだ……っとすまない、電話だ。

 

 ――私だ。なに? 北欧から神が来た、と?

 会場入りは明日のはずだったが……間違いはないのか?

 ……わかった、私が出迎えよう。すぐに向かう。

 

 ……どうやら、既に忙しくなったみたいだ。

 先ほどの件、私からも光実に伝えておく。よろしく頼むぞ」

 

「ああ、任せてくれ。新型のアーマードライダーについては湊君にマニュアルを持たせたから

 後で彼女から受け取りたまえ。では、私は当日の準備と研究に戻るとするよ」

 

言い残して、凌馬は研究室がある方へと歩いて行ってしまった。

さて、私も来たという神のもとに向かわねばなるまい。

 

――――

 

応接間に居たのは、黒いローブを纏った私と同じくらいの年齢の男性。

オーディン殿が老人の姿であったこと、そして神と言えば年老いた男性か

若い女性のイメージがあったため、目の前の男性をすぐに神だと認識できなかった。

応対していたスタッフから引継ぎを行い、居住まいを正す。

 

「主任、こちらが……」

 

「オーディンと対話したというのは貴公だな? 我はロキ。北欧に名を連ねる神である――

 

 ――が、別に人間の世界をどうこうしに来たわけではない。それも北欧諸国ならいざ知らず

 極東の島国の人間になど、我は興味がない」

 

……高圧的な物言いに、思うところが無いわけでもない。

だが、事を荒立てぬように私は事務的に対応する。

 

「ユグドラシル・コーポレーション開発主任呉島貴虎です。

 遠路はるばる、お疲れさまでした。お早いご到着ですが、此度はどのようなご用件で?」

 

「隠しておいてよく言うな。知っているだろう? クロスゲートと名付けられた

 お前たちの塔の上空にも存在している、環状の建造物についてだ。それの事を知りたくてな」

 

クロスゲートについて調べに来たのか。隠蔽はあくまでも一般市民への混乱を抑止するためだから

神々に通用するわけがないのは織り込み済みだが……いきなりか。

凌馬ならともかく、私はクロスゲートについては碌な事を知らないんだがな……

 

「その件については、私よりも詳しいものがおります。そのものに確認をとりますので……」

 

「いや。クロスゲートがどういうものかは既に日本神話の神に確認をとった。

 よって、かの門が持つ性質などについて我に教授する必要はない。

 その方向ではなく、それが存在するという事実について

 貴公が抱くクロスゲートに関する感想を伺いたい」

 

……むぅ。私個人の意見を聞きたいのか?

それともまさかとは思うが、人類の総意を聞きたいのか?

いや、こんな非公式の場で後者というのは考えにくいが……

質問に質問で返すのは無礼であることは承知ではあるが、不用意に答えるわけにはいかない。

無礼を承知で、私は先方に尋ねてみることにした。

 

「それは個人としての意見ですか? それとも総意としての感想ですか?

 質問に質問で返すようで、無礼ではありますが」

 

「フッ、言わずともわかると思ったがな。

 いいか、人の子よ。当日は我ら神々の取り決めを交わす時だ。

 その場において、人が割って入る隙などあると思うか?

 だが、我は人の意見も耳に入れておきたい。

 そうなれば、会議とは関係のない場において問うのが筋というものであろう?」

 

傲慢不遜という言葉を体現したかのような身振り手振りを交え、ロキと名乗った神は語る。

なるほど、語ることの内容自体におかしなところはない。

だがそうなると、何故人間の意見を耳にしたいのか。何故私なのか。

そうした部分が、気になってしまう。

 

「……私はあれについて、異界から怪物を呼び込む門であるという事しか聞いておりません。

 そしてそれは、人類に、世界にとって害悪である――そう、私は認識しております」

 

「そうか、それが貴公の考えか。その異界から怪物を呼び込む門……

 ……それはつまり、この建物の地下にも存在する裂け目もそういう事になるのかな?」

 

――何っ!? この神はクラックの事も知っているのか!?

ならば、インベスの事も知っていると考えるのが自然か……

これは、ユグドラシルの情報管理ももう少ししっかりせねばなるまいな……

 

「方や、災いを呼び込む呪いの門。方や、その力を利用した資源。

 だがその実は、侵略を是とする外来の異物。

 我が眼には、さして変わらぬように映るがな?

 

 ……ああ、別にその裂け目を閉じろといっているわけではない。

 さっきも言ったが、我は極東の島国の人間の動向などに興味はない。

 ただ、貴公らが抱えている矛盾について、どう考えているのかを知りたいだけだ。

 なに、ただの意地の悪い神の好奇心だと思えばいい」

 

「……インベスもアインストも、あなたの仰る通りその本質は変わらないのかもしれません。

 そして、門から生まれ出づる力も、我々人類には過ぎたるものかもしれません。

 ですが、それは平時においての事。今はアインストやインベスという脅威が人の住処を脅かし

 禍の団(カオス・ブリゲート)なるテロ組織も活動している状態。なれば、呪いの門の力と言えども

 人を守るための力に昇華できるのならば、揮うべきであると考えております」

 

……嘘は、吐いていない。そもそもアーマードライダーの力の源たるロックシードは

インベスが生育させている果実から作られているのだ。

私は凌馬ではないから原理までは知らないが、ただ斬月として形を成した力。

友から託された、人類を守るための力。それは強大であるが故に、向け方を誤ってはならない。

 

「模範的な回答だな。オーディンやその付き人ならばともかく

 我としてはそのような凡庸な答えは些か肩透かし気味だが……

 我が嗜好など、どうでもいい事だ。

 

 ……人の子よ。北欧のトリックスターとも称されし我から一つ忠告だ。

 『崇高な志があれど、人は矛盾を孕んで生きるもの』だ。

 如何な人間と言えど、この定めからは逃れられん。

 精々、己が矛盾に押し潰されないようにすることだな」

 

……矛盾、か。まさかあの神は凍結した「プロジェクト・アーク」の事も知っているのか?

 

割に合わないという尤もらしい理由で凍結となった、人類の存続のために人類を間引く計画。

それがプロジェクト・アークの全貌……だった。

初めは確認されたインベスによる被害への対策から広がっていった話ではあるものの

それが凍結に至った経緯がとても俗的なもので思い出すのも嫌になるが……

プロジェクトを主導していた私にしてみれば、情けない話だが肩の荷が下りたのも事実だ。

人類のおよそ85%を間引くなど、現実的ではなさすぎる。

いくら人類が存続するためとはいえ、だ。

 

だが、せざるを得ない環境だったならば

私は躊躇わずに85%を間引く計画を推進できただろうか。

いや、今私がすべきことは最善を尽くし

凍結した85%の間引きを、再開させるような事態を招かないことだ。

その為ならば――

 

「いや、大変結構。オーディンと邂逅したという人の子の意見、参考にさせてもらった。

 今この世界は、先ほど話したように異界からの怪異が押し寄せるのみならず

 混沌によって覆われようとしているからな。それにどう立ち向かうか。

 神の視点から、人間の立ち振る舞いを観察しようと思ってな。

 貴公らがどう思おうが、我ら神々にとって人間の一挙手一投足は大変興味深いのだ。

 敢えて露悪的に言えば……モルモットだな」

 

……やはり、我々人類の力など、強大な力の前には吹けば飛ぶ程度の影響しか齎せないのか。

ロキの言う「モルモット」とは、そういうことかもしれない。

行動を起こして結果を齎す。当事者には必死でも、観察者には片手間だ。

凌馬の仕事ぶりを見ていたからこそ、わかってしまう。

 

……プロジェクト・アーク推進の際には、非合法すれすれな方法ながらも

多数のモルモットを用意したが……私もまた、モルモットだったという事か……

 

「貴公がオーディンと何を話したのかまでは知らぬ。

 だが、如何に人に寄り添う神と言えども、その本質は神であるという事だ。

 神は神であり、人ではない。人が神になれぬように、神もまた、人にはなれん。

 ……所詮、オーディンや彼奴等の為していることは人間の真似事……遊戯よ」

 

「……は」

 

思わず、生返事を返してしまった。

オーディン殿の第一印象は好々爺と言うべきものであったが

この神の印象は……超然めいている。神とはかくあるべきなのかもしれないが……

私には、よくわからない。

 

「さて、話し込んでしまったな。

 オーディンが語っていた人間、どれほどのものかと思ったが……まぁ、及第点としよう。

 

 では、さらばだ呉島貴虎。努々、使命感に押し潰されないようにすることだな」

 

ロキが黒いローブを翻すと、その姿は初めからそこになかったかのように消え去っていた。

確か……ロキは北欧神話では悪神と言われているが

それだけにとどまらない性質を持っている、だったな。

 

……人間もそんなものだ。純粋な人間も、悪事を犯す。

悪漢と呼ばれるものにも、正義や信念はある。

オーディン殿と言い、ロキ殿と言い。そして我が国の天照大神と言い。

私が出会った神は、人とそう変わらぬ心を持っているのやもしれんな。




【朗報】プロジェクト・アーク凍結済み

三大勢力のやらかしがあったりしてますが、侵食という意味では
鎧武原作ほどやばい事態じゃないので、早急な対応も言うほど必要ではないため
プロジェクト・アークは凍結と相成りました。
計算すると本文で触れてる通り85%間引きになりますからね。
割に合わないです。人類の存続がかかってるとは言え。

あと、三大勢力的にもプロジェクト・アークは死活問題なので
そっちの方面からも圧力がかかった可能性もあります。
お前らが言うな、って話ですが。

現在進行形でヤバい事態ですが
今更プロジェクト・アークを再始動させてもどうにもならない、ってのが
お偉いさんの意見。事前準備でどうにかなるレベル超えてますからね。

>ヤタガラス
葛葉ライドウより。戦後解体してそうな組織ではありますが。
(あの世界で史実通り世界大戦が起こったかどうかってのは別として)
ただ、現存していればとてつもなく頼りになる組織って気はします。

>新型ロックシードとドライバー
拙作では斬月のロールアウトからそれほど経ってないはずなのにもう完成。
ユグドラシル驚異の技術力です。ソーダァ。

>光実
一応、貴虎の手伝いの他に天樹高校に通学しています。
学校生活は鎧武原作同様なのでアレですが……

でも駒王学園への転校は嫌がるだろうなぁ。

>貴虎
いや、フューラー演説無かったらこの世界でも悪魔だの神器だのの話出しても
「疲れているのか?」案件だったとは思うんです。
今回、思いっきりロキと問答繰り広げてますけど。

因みに光実にまた重要な仕事を振ってますが
拙作では兄弟仲は今のところこじれてません。やったね。

……その分、凌馬がアレなことになってますけど。

パーソナル転送システム(ゲシュペンスト)と戦極ドライバー(黒影)、使うならどっち?

  • パーソナル転送システム(ゲシュペンスト)
  • 戦極ドライバー(黒影)

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