ルキフグス領に突如現れたアインスト。
アインストの襲撃で被害を被った悪魔が、その立て直しのために
人間界に襲ってこないとも限らない。
そうさせないために、アインストの侵攻から悪魔を守ることにした俺達。
……はっきり言って、一切合切気乗りはしないのだが。
『セージ。気づいてると思うが悪魔の軍勢がこっちに来るぞ。
こっちに仕掛けてこないとも限らん、一応警戒しとけ』
「悪魔の軍勢……まさか」
フリッケンの指摘に、悪魔の軍勢と聞いてある部隊が思い浮かぶ。
バオクゥも交えている手前、出来ればあまり遭遇したくない相手だが……
冥界にいる以上、エンカウントは避けられまいか。
「げっ……あれってイェッツト・トイフェルじゃないですか!
あっちゃー……冥界って事は、あいつらと出くわす危険性を考慮しておくべきでした。
私としちゃ、あんまり会いたくない相手なんですけどねぇ……」
「こりゃ事故だ。向こうだって冥界の治安維持を仕事にしている以上
こういう場面で出くわさない方がおかしい……
……マズい! アモン、一度戻れ! 見つかったら面倒だ!」
「……仕方ねぇな。あいつらにいいように使われるために、この力はあるわけでもねぇしな」
案の定、対アインストのために部隊を展開してきたイェッツト・トイフェルに対し
バオクゥが愚痴る。俺だって面倒な相手だとは思っているが
共通の敵がいる以上、ある意味ではこれはありがたい援軍だ。
ただ、それも
奴らなら、俺やアモンごと魔神剛の鎧を接収しかねない。
そうなったら、俺達の切り札が切り札でなくなる。
いくら魔王も共通の敵になり得るにしたって、それとあいつらと組むのとは話が別だ。
「イェッツト・トイフェル?」
「あ、
奴らは冥界――悪魔政府の魔王直属の正規軍だ。一応はな。
一応とは言え、治安維持の名目でここに派兵してきたんだろ」
一応。俺がそう注釈を入れたくなるくらいにはイェッツト・トイフェルと言う組織は
上司である魔王との折り合いが悪すぎる。行動隊長たるウォルベンはもとより
副指令ともいえるハマリアでさえ、魔王に対する悪感情を隠そうともしていない。
魔王、と言うよりは魔王を輩出した家系に対する悪感情かもしれないが。
少なくとも、魔王眷属と足並みをそろえているところなぞ、思い当たる節が無い。
思った通り、イェッツト・トイフェルとアインストの戦闘が始まる。
展開力は流石に俺達とは比べ物にならず、数の暴力に対し負けず劣らずの数を展開して
一気にアインストの軍勢を全滅させたのだ。
数が少ないとされる悪魔だが、こうして正規軍を結成できる程度には存在している。
そりゃ、人間の軍隊に比べたら構成員は少ないかもしれないけれど。
そこは、悪魔の力で補っているのだろう。推測だが。
戦闘を終え、一息ついているところにイェッツト・トイフェルの行動隊長である
ウォルベン・バフォメットがなんとユーグリットを伴って現れた。
ユーグリットがイェッツト・トイフェルの所属だったのか?
組み合わせが全く思い浮かばなかったが。
「これはこれは奇遇ですねぇ。まさかこんなところであなた方にお会いするとは。
はじめましての方もお見えになりますので、改めて自己紹介させていただきます。
私は悪魔政府直属部隊『イェッツト・トイフェル』所属の
「……それはいいが、何故ユーグリットが一緒にいるんだ?」
「フッ、先程のアインストとの健闘を讃えて教えてやろう。
僕はルキフグスの、冥界の未来のために
彼らイェッツト・トイフェルを全面的に支援することにした。
恐らくさっきのアインストは、
オーフィスはともかく、リゼヴィムの電波ジジイならそう言うみみっちい事をしそうだしな」
は!? こいつ、禍の団の構成員だったのか!?
その割には、アインストの影響を受けていないようだが……
「禍の団と言っても、一枚岩ではないことはよく知っているだろう。
オーフィス――アインストが率いている正統派。フューラーが率いていた英雄派。
……そして、リゼヴィムが率いているクリフォト。
僕の知っている限りじゃこの三つに大別できるな。
他にも
オーフィスがアインストに乗っ取られたときのいざこざで
壊滅したんじゃないかな。知らないけど。で、僕はリゼヴィムの一派についていたって訳さ」
「制裁に、別の派閥の戦力を使ったんですか?」
バオクゥが疑問に思うのも尤もだ。少なくとも、俺の知っている限りでは
その派閥同士の仲は良くはない。オーフィスらアインストの派閥と
フューラーの派閥は実力行使を伴えるレベルで仲が悪かったはずだ。
利害の不一致の結果かもしれないが、派閥同士が協力するような要素はそこからは伺えない。
まあ、フューラーとオーフィスが仲が悪かっただけの話かもしれないが。
「アインストにとっても、この冥界に蔓延る悪魔は邪魔だからね。
あの電波ジジイはそこを利用してうまく出し抜いたつもりかもしれないが……
ありゃ早晩、オーフィスに始末されるね。
自分だって、その邪魔な悪魔の一人に過ぎないって事を理解してるかどうか」
どうやら、アインストに支配される前に抜け出た……と言うよりは
カテレアやクルゼレイとは違う一派にいたことで、アインストの支配下に置かれなかった。
そう言う事だろうな。そして、そこを抜け出てイェッツト・トイフェルについた、と。
……こりゃ驚いた。こいつ、とんだコウモリ野郎だ。
「久々にお会いできたことですし、会談の場を設けたい……ところですが
我々としましても、今回あなた方にお会いしたのは想定外。準備が出来ておりません。
それに、今我々は来るレーティングゲームの大会警備に向けての準備もありますので。
積もる話は、またいずれとさせていただきたく存じます」
言葉だけは丁寧だが、その態度はチョコレートを齧っていたりと相変わらずだ。
しかしこのご時世にレーティングゲームの大会警護とは。
こうしてアインストの襲撃があるってのに悠長なもんだ。
無策で大会やられるよりはまし、と思っておくべきか?
「レーティングゲーム?」
「悪魔うちで流行ってる娯楽だよ。純血悪魔が、
悪魔に作り替えた自分の眷属同士を戦わせる、趣味の悪い闘技場ごっこ」
「インベスゲームみたいなものですか。不良どもの性質の悪い道楽という。
インベスゲームも、流石にインベスの危険性が認知されたおかげで言うほど流行ってませんが。
……使う奴らは、使ってますけどね」
悪魔の風俗に疎い光実から再び質問を受けたので、俺は内容もあって
かなり悪し様に返答したが、納得されてしまった。
真に受けられてもなんだが、内容が内容なので別段訂正する気も起きなかった。
この場にグレモリー先輩とかがいたら、顔真っ赤にして訂正するんだろうが。
そうして話し込んでいると、ウォルベンに通信が入る。
どうやら、周辺被害の状況を調査していたようだが、それも一段落付いたようだ。
「……どうやら、被害は未然に防ぐことが出来たようですね。
そうそう。ここを離れられるのであれば、気を付けた方がいいですよ。
今冥界は、アインストもですがJOKERという怪物も蔓延っていて
とんでもなく治安が悪くなっておりますので。
悠長にレーティングゲームの大会など、やっている場合では無いという位には……ね」
JOKER。セブンスで、
冥界にもそれがいる……という事は、怪人ならぬ怪魔とでも言うべきか。
だが、人間を基にしたJOKERでさえあれだけ危険なのだとしたら
悪魔を基にしたJOKERなど、どれほど厄介なものか。
交戦記録が無いので、憶測でしかものを語れないが……
それこそ、ジョークで済んでない。
「では、またいずれ。
そうそう。一応、レーティングゲームの大会は一週間後を予定しておりますが
その時は予定を開けておくことをお勧めしますよ。
……あのとち狂った魔王が、何かの間違いであなた方を選手登録しかねませんから」
ウォルベンの突拍子もない冗談に俺は思わず吹きそうになるが
あのサーゼクスやアジュカは、そう言う事をしかねない。
自分の息のかかったグレモリー先輩やらで、合法時に俺やアモンを始末する。
それ位の事はやりかねない。俺のサーゼクスやアジュカに対する評価は、そうなっている。
『完全にフリじゃねぇか。セージ、これは覚悟しておいた方がいいぞ。
サーゼクスが仕向けるんじゃなく、あいつらが自分達の目的のために
俺達をダシにするって意味も込めてな』
アモンの言う通り、サーゼクスが合法的に俺達を始末する、ってだけじゃなく
イェッツト・トイフェルがクーデターの下準備として俺達を選手登録させ
陽動に使うって事もあり得る。むしろ、そっちが本命かもしれない。
やはり冥界は人間には、少なくとも俺達には優しくない世界だ。
俺達に限らず、人間を、他種族を資源ないしコレクションとしてしか見ていない。
そんな悪魔の傲慢に満ち溢れた、この陰鬱な空。
アインストと言う外部の怪異に駆逐されるのか。
JOKERと言う内部の癌に食い破られるのか。
今の冥界は、内部と外部、二つの悪意に晒されている風に見える。
そういう時にこそ、為政者の真価が問われるのだろうが
その為政者にも敵は多く、現在進行形で敵を作っている。
……今の俺達にできるのは、一刻も早くこの沈む船から脱出することなのだろうな。
俺達に寄越されたのは、カルネアデスの舟板か、ノアの箱舟か。
悪魔は救うに値する存在なのか。そんなもの、俺にわかるわけがない。
唯一つ、はっきりと言えるものがあるとすれば。
――自分達が滅びに瀕しているのを、さも世界全体の問題にすり替えられては
たまったものでは無いという事だ。
公安から逃げられたと思ったら今度はイェッツト・トイフェル。
野放しの力程危険なものは無いですからね、言わんとすることはわからんのでもないですが。
その接収した力を、私利私欲で使われては。
>禍の団
現状、実質オーフィス派の一派状態。クリフォトは実質別組織みたいなもんだと思いますし。
しかし拙作ですとオーフィス派=アインスト。
これもうアインストじゃね?
>イェッツト・トイフェル
曲者だけれども、仕事をする大人の代表格、のつもり。
壊れたラジオのように和平を訴えるだけが政治家の仕事じゃないんですよ。
彼らは政治家じゃなくて軍隊ですけどね。今のところは。
ユーグリットを引き込んだり、相変わらずセージを引き込もうとしたり
戦力増強に余念がない様子。禍の団(=アインスト)とも互角に戦えているのに
これ以上の戦力を求めるのは、果たして。
>ユーグリット
クリフォトから鞍替え。現状ではセージの味方ではないけれども、真っ向から敵対するルートではない、そんな扱い。
グレイフィアに接するのに、テロリストでは都合が悪い。
この辺は黒歌の改変と同じ理由です。
おまけに魔王と敵対しかねない組織に所属。あわよくばサーゼクス始末するつもり満々。
グレイフィアを如何こうするのと、サーゼクスに対する意趣返し。
果たして一挙両得なるのやら。