その話を聞いて驚いているのも私だ
俺達は冥界へと飛ばされた。
俺達が飛ばされたのは、冥界の経済を造幣と言う立場から担っているルキフグス領。
そこでは悪魔至上の思想が蔓延し、人間などは生命体としてすら扱われていなかった。
それでも、俺達は当面の目的地を勝手をある程度知っているグレモリー領に定め
そのためにアモンの協力も得て領主でありルキフグスの数少ない生き残りである
ユーグリット・ルキフグスとの対話を試みる。
その対話は、拗れに拗れて一戦交えることになったのだが
最中にアインストがルキフグス領に発生。その対応のためにユーグリットが離脱。
俺達も悪魔を、それも人間を生命体とも思わない奴らを守ることへの抵抗感を覚えながらも
アインストへとその標的を切り替える。
悪魔領を守る戦いという事もあってか、そこにはイェッツト・トイフェルも
アインスト撃退のために進撃してきたのだった。
確執こそあるものの、当面の敵を同じくすることもあってか
俺達は彼らと諍いを起こすことも無く、戦いを無事に終えることが出来たのだった。
そして、俺達はイェッツト・トイフェルのウォルベン・バフォメットや
ユーグリットから、冥界においてこれから起こるであろう出来事を聞かされることとなった。
――――
――その後。俺達は当初の予定通りユーグリットの案内を受けてグレモリー領へと向かっていた。
それなりの距離があったため、乗り物――領主が乗るには些か不釣り合いである
旧式の幌馬車。悪目立ちしないためらしい――を手配してもらっての移動だったが
その移動の最中にもアインストの襲撃は起きていた。
話に聞いていた通り、冥界の治安は悪くなっているようだ。
何せ、国防にあたっているはずのイェッツト・トイフェルの防衛線を掻い潜って
俺達が狙われているのだから。
まあ、アインストは瞬間転移で移動するために防衛線などあってないようなものではあるのだが。
そして、道中俺達が相手取ったのはアインストだけではなかった。
アインストを退けた矢先に、今度はJOKERまでもが襲ってきたのだ。
JOKERはその性質上、都市部に多く発生するはずなんだが……
はぐれ悪魔ならぬ、はぐれJOKERか? 僻地に住んでる悪魔がJOKER呪いをしたとか?
……ま、考えたところで答えがわかるわけでもないが。
「……見ての通りだ。全く、悪魔として恥ずかしい限りだよ。
願いの成就を餌に事を為すはずの悪魔が、願いに釣られる側に回るとは……嘆かわしい」
俺の考えを見越したわけではないだろうが、これにはユーグリットも嘆息しながら吐き捨てる。
JOKERになるという事は、悪魔の矜持を捨てているに等しいのだろう。
そりゃ、願いを叶える側が願いを叶える呪いに頼っていちゃあ、ねえ。
……だがこのJOKER。「どこから入り込んできた」?
そもそも、誰が「冥界にJOKER呪いを持ち込んだ」?
俺の考えが纏まる前に、俺達が乗った幌馬車はグレモリー領に差しかかった。
辛うじて置かれている検問を越え、幌馬車が領地に入ろうとする瞬間
黒い影が俺の懐に入り込んでくる。
「うひゃうっ!?」
それは黒く毛むくじゃらで、人肌よりも仄かに暖かく、ズシリとまではいわないが
存在感を感じる重さのある物体――と言うか生物だこれ!
しかもこの感触は覚えがある!
俺はその正体を察し、ユーグリットにバレないようにしながら
懐に潜り込んだものに話しかけた。
「……もっとマシな出方はなかったんですか、黒歌さん」
「久々に会った第一声がそれとかいけずにもほどがあるにゃん、セージ」
この態度は間違いなく黒歌さんだ。
だがはて。黒歌さんは俺の家にいたはず。それも母さんを守るという名目上。
……ん? じゃあ、今俺の家って……
「あ、ちょっと待つにゃん! 私がこっちに来たのにはきちんと理由があるにゃん!
まず、家に警察が押しかけてきて大変だったにゃん。
で、奴らの動向から只事じゃないと思って……」
「母さん見捨ててきたんですか」
「んな事しないにゃん! お母さんは
で、お母さんはその蒼穹会に任せて、私も嫌な予感がしてセージや白音を追ってきたんだけど
珠閒瑠市に入ろうとしたところで、突然光に包まれて、そしたら……」
蒼穹会。確か
超特捜課とも協力関係だけれども一応表向きはNPOだから、公安の直接の指揮下ではないから
よほど強引な手を使われない限りは安全、って事か。よかった。
……ってか、やっぱ家に公安来たのか。そりゃ来るか。
しかし黒歌さん。俺達を追ってきたのだとしても
暫く珠閒瑠市に外部から入ることはできなかったはずだ。
最終的には公安が入ってこられたことを考えると、外部との行き来は可能になっていたはずだが
その際に冥界に飛ばされたのだろうか?
確かに、クロスゲートは突如として現れる系のものだから
時間差で黒歌さんを飲み込んでも不思議じゃないが……
「クロスゲート? が現れてからこっち、前にも増して不可思議な事ばかり起きてる気がするにゃん。
私も
連続して起きるって早々ないにゃん」
「そう言うもんなのかな」
黒歌さんが言うには、ここまで立て続けに怪異に由来する事件が起こるなんて
過去においては殆どなかったらしい。例外は
10年前に起きたとされる珠閒瑠市の事件位か? だがこれだって人間目線で見れば
3年のブランクがある事件で、連続とは言い難い位には間が開いている。
こういう所で、俺と黒歌さんとでは認識に齟齬が起きることもしばしばある。
……やはり、異能を用いても俺は人間か。
「……そこの黒猫の言う事、強ち間違いでもないかもしれねぇぞ。
何せ、俺と氷上の知ってる限りでも駒王町での怪異由来の事件の発生頻度は高かったな。
ただ、どうしても調査の起点が超特捜課発足からだからな。
それ以前から怪異由来の事件が頻発していたとなるとそこはもう俺達でも知らん。
あの領主気取りの小娘の職務怠慢だ」
そういや、俺も気にも留めなかったが駒王町で怪異由来の事件なんて
レイナーレに出くわすまでは噂があったかなかったか程度だったな。
探せばあるのかもしれないが、どうにも兵藤の奴が引鉄になってる気がしないでもない。
……まさか、な。
「そろそろ、その小娘の家につく頃だにゃん。
それよりセージ。白音はどこ行ったの?」
「……情けない話ですが。一度合流した後、はぐれました」
今話すと面倒なことになりそうなので、誘拐された事実は一先ず伏せた上で直近の出来事だけ話す。
それに、俺の勘だとグレモリー領にいるかもしれないし。
案の定暴れ出そうとしている黒歌さんだったが、何とか抑え込むことが出来た。
……結果として、ユーグリットに黒歌さんの存在がバレたが。
「後できっちり説明してもらうわよ。あんたが付いていながらなんてザマよ」
「……面目次第も無いです」
「荷物が一つ増えたのはいいが、あまり騒がしくすると放り出すぞ」
身を乗り出して外を眺めると、陰鬱とした空の下に矢鱈豪華な邸宅が……
……無かった。
「あれ? 俺の記憶だとこれ見よがしにでかい邸宅を建ててた気がするんだが?」
「……そう言えば言うのを忘れていたな。グレモリー領は集中的にアインストに狙われていて
如何にイェッツト・トイフェルと言えどもそのすべてを守り切ることはできなかった。
その影響の一端が、グレモリー邸の倒壊だよ」
ユーグリットが現状を解説してくれるが、どうにもウォルベンの性格を知っていると
この現状は「わざと」とも思えてならない。
「ん? じゃあグレモリー家は今宿無しか?」
「いいや。ここから少し離れたところに、避難所的に拵えた家屋がある。
そこにグレモリーの主だった悪魔は逃げ込んでいるはずさ」
ユーグリットが言い終えるのと同じくらいのタイミングで
確かに前の邸宅に比べればみすぼらしいが、人間目線で見れば
十分すぎるほどの大きさの家屋が見えてきた。ま、中までは何とも言えないが。
ガワだけ立派で中がショボいなんて、よくある話だ。
だが避難所を兼ねているとするならば大きさは必要だろう。
そっちは中の設備もある程度必要だが。
全員(黒歌さん含め)降りたと同時に幌馬車は長居は無用とばかりに帰って行った。
そう言えば転移魔法は? とも思ったが
こうしてクロスゲートが稼働している以上、使わない方がいいのだろう。
実際、俺達がルキフグスに飛ばされたのだってクロスゲートのせいかもしれないし。
冥界にもあり、かつ稼働しているという以上、影響は無視できない。
クロスゲート稼働の副産物たるアインストはこうして現れているのだし。
「丸腰で返して大丈夫なんですか?」
「イェッツト・トイフェルの警邏ルートを通って帰るように伝えてあるからね。
道中何かに出くわしても問題は無いはずさ。
領主と言うものはその辺のフォローも入れておくものだ」
まるで誰かへの当てこすりのように自慢げに応えるユーグリット。
行きは最短ルートを通ったって事らしい。護衛戦力が十分だから、だそうだ。
ちゃっかりしてやがる、全く。
「さて。僕らもここでうろついていても仕方がない。あのボロ屋に向かうとしよう」
……悪魔目線では、あれでもボロ屋なんだな。
いや、悪魔がと言うよりは……良家からすれば、か?
「あれだけの大きさの家をボロ屋と言い切れるとは……
確かに、僕達と悪魔じゃ価値観の相違は拭い切れませんね」
「警部クラスの給料でもありゃ無理だな。柳みたく警視でどうにかってレベルだぞありゃ」
「……や、ルキフグス領の経済観を悪魔の基準と思われてもそれは困るんですけど。
人間に対する価値観は、ちょっとフォローが難しいですが」
俺の疑問は光実がきっちり拭ってくれた。安玖巡査とバオクゥのフォロー付きで。
そういや、冥界って人間界から地下に位相としては存在しているはずなのに
その領土としては地上の何倍も広いのだそうだ。地球空洞説もビックリだな。
ここまでくると、冥界と人間界は相互に影響を与えているのではなく
全くの別世界、いや別次元と言った方がいいのかもしれない。
……だったら尚の事、ほいほい干渉されたくは無いんだがなあ。
人間が宇宙に干渉するように、悪魔は別世界、別次元に干渉するものなのか?
開発ってのは侵略行為だとは、誰かが言ったものなのかね。
あれこれ考えていると、屋敷の入り口付近で赤い髪の子供と遊んでいるギャスパーが見える。
って事は……あいつが噂に聞くミリキャス・グレモリーか。
と言うか、ギャスパー無事だったのか。よかった。
「ギャスパー! 無事だったか!」
「わっ!? あ、せ、セージさん!?」
俺はギャスパーを確認するなり声をかけるが、ミリキャスの方はこちらを見て警戒している。
俺に対して警戒しているのかもしれないが
どうも後ろにいるユーグリットに目線が向いているみたいだ。
「……やれやれ。叔父さんが会いに来たってのに可愛い甥っ子には嫌われているみたいだ。
姉上に何か吹き込まれたかな?」
おどけて見せるユーグリットだが、当のミリキャスはギャスパーの影に隠れてしまっている。
まるで、初めてギャスパーを見た時のような反応だ。
そのためか、ギャスパーも警戒は解いていないようだ。
……そりゃあ、ユーグリットはグレモリーからはいいように思われていないだろうし。
なんか、ここも俺と似てるな……
面識のほぼ無い初対面同然に拒絶されるのも堪えるが
甥っ子に拒絶されるのも堪えるのだろうな。
今一、実感の沸きにくい話ではあるが。
そうこうしているうちに、玄関の扉を開けてグレモリー先輩が姿を見せる。
そりゃあ、ここはグレモリーの持ち家なんだからいるのは不思議では無いが。
「ギャスパー、ミリキャス、そろそろ……ってセージ!
あなた無事だったのね! 近くにいなかったから心配したわよ……
……って!! あ、あなたは……!!」
「やあ、久しいな。我が愛しい義妹よ」
悪びれる様子もなく義妹と言ってのけるユーグリットだが
グレモリー先輩の態度は、さっきのミリキャスとほぼ変わらず
まるで怨敵を見つけたような態度だ。
そりゃまあ、取り巻く環境やらなんやら考えればさもありなん、か。
ユーグリットの側も、感極まったというよりは慇懃無礼って感じの態度だし。
「……あなたに義妹と言われる覚えは無いわよ!!」
「おいおい。僕の姉上は名目上は君の兄君の妻なんだ。
ならば君は、僕にとって義妹になる。何らおかしなことではあるまい?」
なんか、似たようなやり取りを以前見たような気がするが。
その際も、グレモリー先輩が一方的に相手を否定していたような。
ともかく、あまり意固地になられても話が進まない。
俺はひとまず、グレモリー先輩を宥めることにした。
「少し落ち着いてくれ。何故彼がここにいるのかについては色々と事情がある。
そして、その事情もあって俺達はここに来たんだ。
出来れば、その説明のために腰を据えて話したいんだが。
それに、そっちに聞きたいこともあるし」
「そ、そうね。ちょうどお茶の用意が出来たところよ。
話は中で聞くことにするわ……他の皆も構わないわね?」
満場一致で首肯する。
ミリキャスの目線は冷たかったが、それよりもさらに冷たい目線を俺達は
中に入ると同時に浴びせられることになるのだった。
グレモリーも例外なく大変なことになっています。
>冥界にJOKERが現れるわけ
以前さらりと触れましたが、セージもいよいよ疑問に思いだしました。
何せ、誰かがノウハウを持ち込まないと現れるはずのないものですから。
クロスゲートさえあれば出てくるアインストとはそこが違います。
その以前触れた通り、誰かが持ち込んだからこそJOKER呪いは流行ったわけですが
それがいつ、誰の仕業かはもはや不明。
案外電波かもしれないですし。
>グレモリーとユーグリットの関係
そもそもルキフグスがグレイフィア以外……で
死人に口なしでグレイフィアの証言がグレモリーにとってのルキフグスの全て……でしたが
拙作ではユーグリットが領主として健在。でもって造幣と言う形で経済握ってる。
なのでリアス(と言うかグレイフィア)が頓珍漢なことに。
ミリキャスにも影響出ちゃってるしどうすんのこれ。
>黒歌&セージ実家
そりゃセージは強く出られない。公安来たら逃げたのはそれはそれ、これはこれ理論で
追及されてたりしてますが。
(そらセージの所に公安が来たんだから家が割れてるのだから来ないわけがない。
似たようなイベントが起きたイッセーとの違いは相手がテロリストか国家権力かの違いだけ)
現状、セージの母は蒼穹会に保護されてますが
果たして、メガテン(orデビルマン)フラグを回避できるかどうか。
回避のために黒歌をフェードアウトさせるのは、ちとできませんでした。
※7/28訂正
グレイフィアが抜けてた、なんで?
ルキフグス名乗ってるくせにルキフグスらしくないのがいけないんだ(責任転嫁)