グレモリー領の郊外に建てられた仮設住宅――と言うにはあまりにも豪勢な邸宅に
俺達は招き入れられることになった。
俺達と行動を共にしているユーグリット・ルキフグスについての情報の提供と
白音さんの所在を確かめるための情報交換……の、つもりだったが。
「……セージ先輩、無事だったんですね」
「やはり! こっちに来ていたのか、白音さ……ぐえぅ」
俺が言い終える前に、懐に忍ばせていた黒歌さんが俺を思いっきり足蹴にして飛び出す。
ネコキックを鳩尾あたりに入れて、華麗に飛び出して一気に人型の姿を取る。
突然の事で、白音さんも対応できていないようだ。
「ね、姉様……苦しいです」
「白音! よかった、よかったわよ無事で……!!」
色々言いたいことはあるが、今回は黙っておくことにしよう。
元をただせば俺のせいだ。姉妹水入らずを邪魔するのも悪いし。
「どこか痛いところは無いにゃん!?」
「……苦しい以外は大丈夫です」
……懸念していた悪影響も、見たところは大丈夫そうだし。
ただ、白音さんに限った事じゃないがクロスゲートの影響を受けてないかは心配だが。
そういや、一番影響受けてるであろう俺もあまり悪寒とか感じないが……
「……僕は猫のじゃれ合いを見に来たんじゃないんだ。
リアス・グレモリー。さっさと話を始めようじゃないか」
「グレイフィアは呼んだ方がいいかしら?」
「……姉上を同席させたら、僕が姉上について話すだけで軽く半日以上は潰せるぞ?
姉上との話は別の機会にするから、まずは君の話を先にしたらどうだ」
ユーグリットの言っちゃなんだが意外な態度に、俺も驚いた。
グレモリー先輩も鳩が豆鉄砲食ったような顔で俺を見ていたが
俺もただ、頷き返す位しかできなかった。
……俺以上の爆弾発言かました姿からは、想像できないのだが
半日以上をグレイフィアさんについて語る、ってのもありありと想像できてしまうからな。
ここはユーグリットの言う通り、グレモリー先輩の質問を優先した方がいいだろう。
そう考え、俺達は黒歌さんを宥めてから客室へと向かおうとするのだが……
「ぶ、部長! こいつらは……!! セージは百歩譲っていい……いやよくねえ!!
大体てめぇ、どの面下げてこのグレモリー領にやって来たんだ!?」
出たよ。別に間違ったことを言ってるとも思っちゃいないが
その喧嘩腰の態度だけはどうにかしてくれ。色々な意味で気が滅入る。
「私の招いた客人でも不服なのかしら、イッセー」
「それは…………
…………ふ、不服だ!! セージだけでも許せねえってのに、
グレイフィアさんの弟に、部長を散々邪魔した警察の奴らまでいるじゃないか!!
部長は騙されてるんだ!! 揃いも揃って部長に要らんことを吹き込んだな!!」
なんと。まさか面と向かってグレモリー先輩に楯突くとは。
自分の転生悪魔――眷属を下僕呼ばわりするグレモリー先輩的に、これはマズくないか?
兵藤、お前自分の言っている言葉の意味わかってるよな?
これにはユーグリットも頭を抱えている。言わんとすることはわかるが。わかってしまうが。
「……奴を同席させるのはやめた方がよくないか?
それから僕の名誉のために言っておくが、僕はもう禍の団からは足を洗っている。
知らないのも無理からぬことだが、そこは覚えておきたまえ」
「……そうね。イッセー。不服ならあなたは席を外しなさい。これは命令よ」
「い、嫌だ! どうしてわかってくれないんだ! あいつは……」
屋内でぎゃあぎゃあとわめきたてれば、こうなることは必然であるかのように
奥から赤髪の壮年の男性悪魔が現れる。現当主、ジオティクス・グレモリーか。
「何の騒ぎだね」
「お父様、実は……」
まあ、流れとしては敢えて言うまでもあるまい。
自分の娘の眷属が、自分の娘に歯向かっているのだ。そんなことをすれば……
……ってそうだ。俺がグレモリーに命を狙われたのは
そもそも俺がグレモリー先輩に逆らったからだ。
いくらなんでも、それがわからない兵藤でもないだろう。
言うなれば、俺と同じようなことをやっているって事だ。
――ところが。
「大事な眷属を蔑ろにしてはいかんぞ、リーアたん。
仲間外れになどせず、彼も参加させなさい。何せ彼は、赤龍帝なのだから」
…………は?
いやいやいやおいおいちょっと待て。
俺の時との対応の差 is 何?
ここで俺が出しゃばると収集がつかなくなりそうだから、言わないではおくが……
……どうやら、後でグレモリー先輩に確認を取らなきゃならない事例が出来たようだな。
俺の時は暗殺までされそうになったのに、今回はお咎めなしってどういう事なんだよ。
「そうだよ、リアス君。お父様の言う事は、きちんと聞いておくべきだ。
僕も仕事柄、些細なすれ違いから悲劇的な結末を迎えてしまった父子を多く見ているからね。
君には、同じ轍を踏んでほしくないんだ」
俺の耳にも「何言ってるんだ」としか思えなかったジオティクスを擁護するように現れたのは
これまた驚いたことに布袋芙先生。一体、今までどこに行ってたんだ?
「一先ず、皆無事のようだね。ホテル・プレアデスに泊まっていた生徒たちは
皆、駒王学園で無事が確認できたのだけど
岩戸山に向かったイッセー君達とリアス君達が見当たらなくてね。
それでもしやと思い、冥界に来てみたら……と言う訳さ」
納得は出来ないが、一応筋は通っている。
とはいえ、前々からこの布袋芙先生の言う事はそんなんばっかりだが。
だが、いくら納得できなくともここで一番発言力を持っているのはジオティクスであり
その彼がこう言っている以上、無碍にも出来ないのがな。
それはグレモリー先輩も理解していたらしく、大人しく従っている。
……えらく顔には、出ているようだが。
「そして君は……ええと……」
「ルキフグス家現当主ユーグリット・ルキフグスです。いつも我が姉がお世話になっております」
「おお、グレイフィアの弟であったか! いや挨拶が遅れすまなんだ。
なにせグレイフィアはあまり家族の事を語ろうとしないものでな。
今はサーゼクスの妻、即ち我が娘も同然と扱わせていただいているが」
……うわあ。こっちはこっちで物凄い殺気がにじみ出ているのを感じる。
大方「それは駆け落ち同然の結婚だろう、ルキフグスに話が行かないのは当然だ」みたいに
考えているのだろうけれど……同席するだけで胃が痛い。なるべく気配を殺しておこう。
「……ほう。その我が娘にメイド――給仕の如き振る舞いをさせるのがグレモリーの常識ですか。
我々ルキフグスは、ルシファーに仕えることはあっても
グレモリーに仕える覚えも謂れも無いのですがね」
「いやいや、そう言うつもりは無いよ。こうして君が来てくれたのもとてもありがたい話だ。
何せ今まで、ルキフグスとは一切連絡がつかなかったもので
こうしてルキフグスの者、それも現当主が来てくれたのも何かの縁。
どうだろう、ここで改めて我がグレモリーと家族ぐるみの……」
その言葉がユーグリットの地雷を踏み抜いたのか、にじみ出ていた殺気が
一気にジオティクスの方へと向けられる。標的になっていないとはいえ、背筋が凍る思いだ。
こうして見ると、魔王に匹敵するってのも強ち何の誇張でもないって事か。
「……それは、我がルキフグスに其方の負債の連帯保証を行え。そう言う意味合いですか」
「手厳しいなユーグリット君。まさか私とてそんなつもりでこの話を持ち出したりはしないよ」
「当然です。我々にも経済特区としての自負があります。
それが故に全ての悪魔に対し我々は公平に接するよう努めております。
そう、それこそ現政府よりも。
それを当主の姉が嫁いでいるからと言っていち家系を贔屓するような事があっては
それは他のあらゆる悪魔の不平を招き、やがては暴動に繋がりかねません。
それはこの悪魔社会の平穏を願ういち悪魔としても、避けたいところです」
……まあ、そりゃ身内びいき、って事だしなあ。
人間社会だってそんなことをしたら不平が出て来るに決まってる。
そうなれば、ルキフグスにとってグレモリーを支援することにメリットがないとどうにもならない話だが……
次の布袋芙先生の言葉に、俺は思わず耳を疑った。
「……その点についてだけど、返済の当てがあるんだ。だから経済面で君達の重荷になることは無い。
そうだろう? イッセー君」
「え? あ、ああ、そうっす。なんでも俺達をモデルにした作品がヒットして
その印税が入ってきて、それで……」
ユーグリットが思わずマヌケな声ではあ? と聞き返していたが
俺も思わずマヌケな声が漏れてしまっていた。
それ位、寝耳に水な話だったのだ。
何故?
どうして?
どういう経緯で?
……どれだけ考えを巡らせても、俺の中に答えが出てくることは無かった。
「……お恥ずかしながら、その件については初耳です。
仕事柄、こちらは経済面に関する事柄は積極的に情報を仕入れるようにしていたのですが
その我々を以てしても、今しがた初めて聞いた話です。
一体、どのようなお話なのです?」
「『赤龍帝おっぱいドラゴン』と言う作品でね、主人公の転生悪魔がドラゴンとおっぱいの力で
悪魔社会を脅かすあらゆるものを撃退する、と言う所謂ヒーローものの作品だよ」
……そんなの流行るんだ。まあ、悪魔の感性と人間の感性はまるっきり異なるからな。
俺からしたら信じられないものが流行ったところで、別におかしくもなんともあるまい。
『いや、悪魔から見てもどうかと思うぞ。少なくともタイトル聞いた限りじゃ』
アモンに突っ込まれたが、確かに話の内容を聞く限りでは
今更悪魔社会でそんな凡百なヒーローものが流行るとは考えにくい。
あれだけ人間社会の模倣をやっておいて、今更ヒーローものが特別扱いされるなんて……
『セージ。一つだけ、こういう現象を起こせるものがあるぞ。
そしてそれは、副産物として今の冥界にもうじゃうじゃいやがる』
まさか……JOKER呪いか!
確かにあれなら、殺しの願いだけじゃなくて普通の願いだってできる!
だが、いったい誰がこんなことをJOKER使ってまで願ったんだ?
そもそも、そう言う「誰かの願いを叶える」は悪魔の領分だろうに。
……とも言い切れないのが、今の冥界の現状なんだろうけど。
「その作品に、イッセー君とリーアたん。それにリーアたんの眷属達も参加してくれてね。
そのお陰でグレモリーの財政も立て直せそうなんだよ。
この話を持ち掛けてくれたナイア君には、感謝してもしきれないよ」
「いえいえ。僕の方こそ、僕を受け入れてくれて感謝の極みですよ」
まただ。布袋芙ナイア、一体全体何を企んでいるんだ?
兵藤を手籠めにして、グレモリーの外堀を埋めるような真似をして……
まさか本当に、兵藤とグレモリー先輩をくっつけようとしてるのか?
だがそんなことをして、一体何のメリットがあるんだ?
持ち上げるだけ持ち上げて、のぼせあげた奴を一体どうするつもりなんだ?
「……お父様と先生で何か話している、とは思っていたけれど
この話だったとはね……色々取材が来ていたから変だとは思ったのだけれど」
「まさか借金まみれの土地をリーアたんに渡すわけにはいかないだろう。
リーアたんでなくとも、ミリキャスの教育にもよろしくないからな。
ヴェネラナやグレイフィアに、要らぬ苦労をこれ以上かけるわけにもいかない。
私にとっては、渡りに船とも言える話だったのだよ」
家を守るための策略。外堀埋めのように見えるのはその副産物。
とりあえず、そう考えるのが現時点では自然か。
そのためにJOKER使ってるのは、いかがなものかとは思うが
そのJOKER使った証拠が無いんじゃあなあ。
「……お話は分かりました。ですが、それはあくまでもあなた方グレモリーの家の問題。
我々ルキフグスには、何の関係もありません。
そしてその上で言わせていただきますが、我が姉を……ルキフグスの者を
辱めるような真似は、おやめいただきたいのです」
「辱める? 一体何の……」
そうジオティクスが言いかけた次の瞬間。
屋内にユーグリットの怒号が響き渡った。
「姉上に公の場であんな格好をさせておいて! 辱めてないとでも言うつもりか!?
それも当主であり弟である僕の前で!!
あれでルキフグスに要らぬ風評被害が立ったらどう責任を取るつもりだったのだ!!
さっき言ったがもう一度言ってやる! 我々が! いつ!? グレモリーの臣下に下ったのだ!!」
ユーグリットの物凄い剣幕は、彼が魔王に比肩するという話を確定づけるには確かなものだった。
その剣幕に周囲の者は気圧されるばかりであった。俺も勿論、結構ヤバい。
だがその重圧を押しのけるように、奥から銀髪のメイド服の女性が現れた。
「やめなさい、ユーグリット。この件に関しては旦那様は無関係よ」
「あ……姉上!?」
グレイフィア・ルキフグス。渦中の悪魔のお出ましであった。
>おっぱいドラゴン
流行らせないと言ったな。あれは嘘だ。
……いやすみません。個人的には流行らせたくない低俗番組だと思うんですが
話の都合上……
おかげで流行語に「ずむずむいや~ん」が入り込んでいる有様。
つまり、グレモリー領他で「ずむずむいや~ん」と声高に叫ぶ悪魔がちらほらと。
そう、何も考えずに「レッツ・ポジティブ・シンキング!」と言った風に。
>イッセー
そのお陰か増長の兆しあり。リアスにも面と向かって楯突き始めました。
果たして据え膳の成功に意味はあるのでしょうか。
>ジオティクス
ナイアの犠牲者3号(2号は匙)。
イッセーの成功体験のためだけの都合のいい舞台装置に仕立て上げられてます。
一応、家を立て直すという意識は本物ですが。
>ユーグリット
ルキフグス当主にしたら何故だか格が上がったような。
姉の事でムキになるのは変わっていないはずなのに。