グレモリー仮設邸でひょんなことから行われたユーグリットとグレイフィアさんの対話は
一触即発の状態となり、そこにグレイフィアさんを迎えに来たであろう
サーゼクスが現れたことで、一度は爆発状態となってしまった。
辛うじて状況を抑えることには成功したが、サーゼクスが来た目的は
やはりと言うか何と言うか、ここに来た俺達にもあったようだ。
「思わぬ来客に面食らってしまったが、今日僕が来たのは他でもない。
アモン……いや宮本成二。君達に、今度行われるレーティングゲームに出てもらいたい」
――そら来なすった! 奇しくも、この間ウォルベンが言った通りの展開になった。
これがサーゼクスの意思か、イェッツト・トイフェルの差し金かまではわからないが
また俺達を見世物にしようって魂胆を、この魔王は抱えているのだろうか。
どれだけ上辺を取り繕ったって、このレーティングゲームってのは
趣味の悪い貴族の道楽でしかないんだ。
駒に生き物――自分の言いなりになるように仕向けた存在を使っている限りは。
「何かと思えばそんな事か。嫌だね、俺達にメリットが無さすぎ――」
アモンが言い終える前に、俺の身体はユーグリットに引きずられる形になった。
ご丁寧に、口まで塞がれた上で。いきなり何するんだ!?
動かしてるのはアモンでも、俺の身体だってことに変わりは無いんだぞ!?
「サーゼクス、ちょっと待ってろ。アモン――この体の人間とは個人的な付き合いがあってね。
少し、その人間と相談がしたい」
「今日中に返事を貰えればいいから、それは構わないが」
そんなわけで、俺達は強引にユーグリットに引きずられて相談を持ち掛けられたのだ。
内容はずばり。俺達のレーティングゲームへの参加であった。
強力な魔力障壁のようなもので、ユーグリットは俺達にサシの対話を試みたようだ。
「……さっきも言っただろうが。俺達にレーティングゲームに出るメリットがない。
どうせ、特別待遇とかでエキシビジョン枠と言いつつ参加選手全員で俺達をフルボッコ。
そう言う展開に持ち込む口実と見たがね」
「他の魔王はともかく、サーゼクスもいくら何でもそこまで露骨な潰しはしないだろう、多分。
それよりもだ。確かに君達にレーティングゲームに参加するメリットは無い。
だが……そのメリットを、僕が提供するとしたらどうだい?」
ユーグリットが提供するメリット。
今までの事を考えれば、冥界での行動における制約の緩和。
――この場合、うまくすれば制約フリーにまで持ち込めるかもしれないが――とか
人間界への過干渉の抑制――はちょっと夢見すぎか。まあ、考えうるのはそんなところか。
ものによっちゃ一考の余地はある。話を聞く価値はあるか。
ユーグリットと言う悪魔に、そこまでの信頼を寄せる価値があるかどうか。
その決断を下す材料が足らなさすぎる相手との交渉は、慎重になるべきだが。
……だが、如何せん俺は冥界では味方が少なすぎる。
少しでも味方になり得る可能性のある相手の力は、借りた方がいいかもしれない。
(……アモン。代わってくれ)
「何? おい、いいのかセージ?
……いくらお前の決定でも、俺のデメリットになるような事だったら
強引に話を打ち切るからな、いいな?」
アモンと交代し、俺は表に出る。一応、アモンを表に出したままでも会話はできるが
こうした方が一応の礼儀は果たせると思ったからだ。
少なくとも、ユーグリットと言う奴は俺が知ってるグレモリー先輩やサーゼクスよりかは
礼儀を尽くすに値する悪魔だと見ている。
価値観の違いなど、この場合においては些細な事だ。
価値観が同じでも、礼儀を尽くすに値しないケースは無い事も無いのだから。
まあ、その相手が相手だからかアモンには警戒されているが。
とは言え、その方が有難いっちゃ有難いが。アモンが目を光らせてくれているお陰で
俺も安心して悪魔と交渉できるってもんだ。
多少情報が古いとはいえ、俺達三人の中で一番悪魔の風習に通じているのはアモンだ。
「……それで、俺をレーティングゲームに出してどうするつもりだ?
俺を出すからには、俺に勝ってほしい魂胆があるんだろう?
サーゼクスの鼻っ柱でもへし折るつもりか?」
「惜しい回答だと言っておくよ。さっきも話した通り、僕は姉上に戻ってきてほしい。
生まれてしまったミリキャスは仕方ないにしても、サーゼクスは僕にとっては不要な悪魔だ。
で、非公式とは言えグレモリーはフェニックスとの婚姻話をレーティングゲームで潰したろう?
ならば今回もすでに成立している婚姻の破棄が出来なくとも
姉上をルキフグスに連れ戻す位は出来るはずだ。いや、やらざるを得んだろうよ」
あー……そりゃあ、婚約破棄を引き合いにレーティングゲームを出した
グレモリーからすれば、これは引くに引けない条件になるわけか。
こんなところにも、ごり押しのツケは回ってる訳か。
仮に魔王が特権か何かで有耶無耶にしようとしたら、それをルキフグスが指摘する。
そのネタは俺がバオクゥに流してもいいし、ユーグリットからイェッツト・トイフェル経由で
リー・バーチと言う俺が知ってる限りではかなりのマスゴミに流れるかもしれない。
ユーグリットの差し金(という体)の俺が出れば、そういう事態にもなり得るわけか。
「そもそも今回のレーティングゲームの参加者は
聞いた話では皆本来ならば資格なき若い悪魔だ。
リアス・グレモリー。ソーナ・シトリー。レイヴェル・フェニックス。
シーグヴァイラ・アガレスに……サイラオーグ・バアル」
面子に聞き覚えがある。確かいつだったかの会合の時に名前が出た若手悪魔だ。
成る程、そこでやるはずがオーフィスが出ただかでお流れになったレーティングゲーム。
それを今回やるつもりか。
「事故で再起不能になったライザー・フェニックスと違い
公式試合参戦資格をまだ持たない、若手悪魔によるゲーム。
……そこに、特例として君をねじ込むんだ。悪魔の後ろ盾など何一つ持たない君を
魔王特権か政府軍特権かは知らないが、強引にねじ込むわけだ。
ならば僕も口添えしてやろうというのだよ。条件を加えた上でね。
公式な試合じゃないんだから、いくらでも条件は付けられる。
リアス・グレモリーがライザー・フェニックスと戦った時のようにね」
「……要は、俺のスポンサーと言うかパトロンになるって訳か」
悪魔の協力者としてはバオクゥがいるが、彼女を後ろ盾と言うには些か心許ない。
彼女の情報網は優秀だが、彼女はフリーだ。組織立って動いている悪魔じゃない。
後ろ盾と言うには不適切だ。
それにそもそも、俺は悪魔の組織とは協力関係を結んだ覚えがない。
「ルキフグスの名誉を守るというのならスポンサーと言えるけれど
姉上の事に関しては僕個人の意向が強いから、今回はパトロンと言うべきかな。
さっき言ったように、僕からもメリットを提供するのはルキフグスの名に懸けて誓おう。
その代わり……」
「参加者全部ぶっ潰してサーゼクスの面子を潰せ、か?
グレイフィアさんを連れ戻すには、それなりに戦果をあげなきゃならないと思うが」
「最低限叩き潰すのはグレモリーだけでいい。
他はいざ知らず、フェニックスやバアルは生半可で勝てる悪魔ではないからね。
おっと。君はフェニックスには勝ったんだったか」
反則スレスレの方法だけどな、と返答しつつユーグリットの言葉に首肯する。
それに、あれは兵藤や祐斗、白音さんもいたから勝てた勝負だと思う。
少なくとも、俺一人でライザーに勝てたとは思えん。
「それと、姉上の事は僕の領分だ。君が口出しすることじゃない。
……と言うか、黙っていてもらおうか。この間も言ったが、君にどんな過去があろうとも
僕と姉上の間に押しかけるような真似は慎んでくれ」
「わかった、悪かった。要らんお節介だったな」
年上の忘れられない想い人。そう言う存在と言うだけでつい、自分に重ねてしまったが
確かに考えてみたらユーグリットにしてみたら要らん世話だ。
俺は俺、ユーグリットはユーグリット。
ユーグリットがグレイフィアさんとの事に関して、どういう結論を出すか。
それは、俺の関知するところではないだろう。
「そうでなくとも、転生悪魔ですらない人間や
時代にそぐわないとして封印したはずのデーモンが
現政権の希望たる若手悪魔や転生悪魔を駆逐すれば
それだけでサーゼクス――現政権に対する打撃にはなるさ」
『……確かにな。放逐されて今やはぐれ悪魔同然の扱いを受けているデーモンからも
溜飲の下がる話にはなり得るか。デーモンからは裏切り者扱いされてる俺だが
その点に関しては、デーモンの連中の言いたいこともよくわかる』
「……その結果、デーモンが政権奪還を果たしたりはしないのか?
そうなると、俺としては……」
デーモンがサーゼクスに代わって悪魔社会の主導権を握る。
デーモンの協力者としてアモンがいるが、正直アモンをデーモンの代表とするには
些か話が違いすぎる。兵藤を人間の代表として扱う位には無理のある話だ。
デーモンが悪魔の代表になった途端、今までとは違うスタンスで人間界に侵攻してきました。では
ユーグリットに提案されるメリットが帳消しになりかねない。
「……今の政府の政権奪回なら、寧ろイェッツト・トイフェルの方が余程怪しいよ。
少し前なら旧魔王派がその立ち位置だったんだろうけど
奴らはこぞってアインストに成り果てたからね。
もう、悪魔社会の政権になんて興味無いだろうね。
ああ、僕が彼らに手を貸しているのは別に権力欲しさじゃないからね」
確かに、カテレアはもう政権なんぞどうでもいいって感じだった。
クルゼレイだって、旧魔王派の悪魔と言うよりもうほぼアインストだった。
現政府が放逐した結果がアインスト、は僅かに同情の念を覚えるが
聞いた話では奴らは自分からアインスト――オーフィスに縋っている。
結局のところ自業自得だ。
「そのへん含めて、現政府にしてみれば皮肉な結果さ。
政敵とした旧魔王派が政権に興味を示さなくなったと思えば
今度は自分達のお抱えだった政府軍が謀反を企てている。
バケモノと化した政敵を倒して万々歳、が現政府の思い描いているプランだとしたら
失笑を禁じえないね。敵は身内からも生まれるものさ……今回みたいにね」
そう語るユーグリットは、どこか遠い目をしていた。
強く想いを抱いている姉が、領主の自分にとっては政敵とも言える立ち振る舞いをしている。
そう考えれば、複雑な心境と言うのも頷ける。
「……話が横道にそれまくったけど、僕が君にこの試合に参加してほしいのは今述べた通りさ。
メリットは……そうだな。差し当たって、ルキフグスの目の届く範囲では悪魔の人間に対する
不当な扱いはこれを禁ずる。ただし、冥界では今まで通りだ。
冥界でまで人間を優遇すれば、それはまた反乱の種になりかねないからね」
確かに、悪魔の人間に対する扱いは不当極まりない。それは、ルキフグスで見てきた通り。
見方を変えれば、グレモリーだって何ら変わらない。
当事者に言わせれば、それが人間のためだとか宣いそうなものだが。
そんなことを決める権利など、奴らにあるわけがない。
……にしても。些か、提案するメリットがショボくないか?
せめて、今回みたいに事故で冥界に来た人間の処遇も改善してほしい気はするが。
「……不服そうだね。だが、如何にルキフグスが経済を担っていると言っても
現政権に携わっている訳ではないんだ。あいつに邪魔されている……ってのは、邪推だろうけど
どの道、今の僕が口をはさんだところであいつが耳を貸すとも思えないしね」
『……だろうな』
「そう言う訳だ。だが、民間レベルなら経済を牛耳っているのは僕らルキフグスだ。
ルキフグスにはこんな座右の銘もある――『財を制する者は、政を制す』とね。
法律として定めることはできないが、経済の側から働きかけることはいくらでも可能さ」
本当に言ったのかよ、と言いたくなる座右の銘だが、確かに経済と政治は密接な関係にある。
そう言う意味では、ルキフグスである彼の言葉一つで冥界が動くこともあり得るだろう。
……実際、流行しているという兵藤が主役の話も影響力が凄いらしいし。
話の内容はともかく、後で少し調べてみる価値はあるかもしれない。
「フフフ、僕の提案を飲む気になったかな?
ああ、アモンとの二重契約なら心配しなくともいい。
そもそも、アモンと僕らルキフグスとじゃ担当が違う。
肉屋と取引契約を交わしておいて、魚屋と取引契約を交わすのは二重契約になるかと言うと
そんなわけは無いだろう? そう言う事だよ」
『……サーゼクスに泡吹かせるって意味じゃ、被っちゃいるがな。
だが今回の奴の主目的はサーゼクスじゃない。サーゼクスに泡吹かせるのはものついでだろう。
二重契約にあたらないってのは、俺からも保証させてもらうぜ。
それに、今のお前なら複数の悪魔と契約しても問題は……
……いや、あるな。グレモリーの眷属との契約がまだ切れてない。
お前、あの白猫を元に戻すことばかり考えていて契約の事忘れていただろ』
…………あ。
そういや、俺が幽閉されたときに祐斗や白音さんと契約交わしたっけ。
俺が表に出られたから、てっきり切れたものだと。
それに、結構慌ただしかったからその後の顛末をすっかり忘れていた。
「なんだ。あまり複数の悪魔と契約するのは望ましくないな。
そう言う事なら、この話は無かったことに……と言いたいが、僕がそれでは困る。
君に決定権は無い。その契約、さっさと破棄しろ」
(アモン。悪魔との契約を勝手に破棄して問題にはならないか?)
『そこは然程問題にはならねえよ。少なくともあの線の細い兄ちゃんの方はな。
ただ白猫の嬢ちゃん。こっちに関しては向こうが悪魔じゃなくなった関係もあってか
ちょっとややこしいことになっている。悪魔契約としての体は果たしていないから
ユーグリットとの契約に差し当たっての問題は存在しねえが……
あの嬢ちゃんがそんなことするタマには見えねえが、魂持って行かれるなよ。
妖怪との契約は、俺も専門外だ。詳しい事はあの黒猫の姉ちゃんに聞くんだな』
今アモンに言われて思いだした。悪魔との契約は魂が担保に入るじゃないか。
そんなことを忘れるとは俺らしくない失態だが、ここまで来た以上は……
そう考えると、ユーグリットとの契約は安請け合いだったかもしれないと後悔し始めた矢先。
「ああ。それからサービスで君の魂は獲らないで置いてやるよ。
アモンの恨みを買うのは僕としても避けたい。君がアモンと契約した、珍しい人間でもね。
悪魔にだって命あっての物種って概念はあるんだ。
でなきゃ、フェニックスの涙が人気商品になるわけがない」
『ハハハッ、セージ。俺に感謝しろよ?
ああ、因みに俺もお前の魂を獲るつもりは無ぇ。
前にも言ったが、お前に死なれると困るからな。肉体的にも、精神的にも』
アモンめ。ここぞとばかりに俺に恩を売ってくるな。
どれだけ恩着せがましくされようとも、俺のやる事は変わらんからな?
差し当たっては――
「……わかった。そう言う事ならそっちの提案を飲もう。
レーティングゲームが終わった後の事、忘れるなよ」
「いいだろう。ルキフグスの名を出したんだ。その名を穢さぬことをここに誓うよ。
……誰かさんと違ってね。
では、僕らの契約が成立したことを祝して。
――悪魔と人間が協力関係を交す際に、定番の言葉がある。
その言葉を以て、僕からの話を締めさせてもらうよ」
――コンゴトモ、ヨロシク
この言葉を受けた後、俺達は正式にサーゼクスの要求を呑んだ。
結果として、俺達はウォルベンの言った通りの道を歩むことになりそうだ。
五大若手悪魔と、俺を旗印とする人間混成チーム。
サーゼクスが何を思って俺達を招集したのかは終ぞわからなかったが
この試合は、俺達にとって、恐らくサーゼクスにとっても思わぬ事態を招くことになる。
そう思い至るものは、まだ俺達の中には誰もいなかった。
……辛うじて、ユーグリットが一枚噛んでいたかもしれない。その程度だ。
原作におけるソーナ戦とサイラオーグ戦を一緒くたにやろうとしてます。
大丈夫なのか?
まあ、拙作じゃレーティングゲームなんてそれほど存在価値のない代物ですし……
だからこうしてレーティングゲームに出る出ないの方で尺が取られる。
>ユーグリットの目的
結局サーゼクスの鼻を明かしてグレイフィアを連れ戻したいだけ。
その駒として悪魔の駒を使わない形でセージを利用している。
(触れてませんが、ユーグリットも悪魔の駒は反対派です)
当のセージは冥界での味方欲しさにこの話に乗っかってます。
……普通ならリアスやソーナ、変化球でサイラオーグ辺りが
そう言うポジションになるはずなんですが、そこはほら。
拙作、意地の悪い展開ばかり続いてますし。
一応、サイラオーグとの接点はありますけどね、セージ。
>契約問題
ほぼ拙作独自のものですが、多重契約とか大丈夫なのかな、と。
ペルソナ2じゃ3つまで契約は重複可能でしたが。
ユーグリットが言っている通り、契約「破棄」によるペナルティは特にありません。
ペナルティが起きるのは契約「違反」が起きた時。
例えばセージの場合、アモンを体から追放するのは問題ありませんが
アモンの意向を無視してサーゼクスと協調路線取ろうものなら
速攻で内側からアモンに消されます。
非現実的な喩えですが、悪魔の契約ってそれ位シビアなものでしょうし。
まあ、カジュアルなのがHSDDでの悪魔契約なんでしょうけど
あれはグレモリー(リアス)特有のものと解釈させていただきました。
少なくともノリについては。
さて、コネの無いセージがどうやってレーティングゲームのチームを作るのやら。