サーゼクスの思惑に立ち向かうため、俺はユーグリットの提案を呑み
奴と契約をすることにした、のだが。
「一体何考えてるんですか、セージさん!?」
ユーグリットが手配した宿に戻るなり開口一番、バオクゥに怒られた。
曰く、悪魔と言うものを嘗めすぎているとのことだ。
『ま、こりゃこの嬢ちゃんの言う通りだな。ユーグリットは感性としては旧来の悪魔と同じだ。
それはつまり、今までと同じ感覚で悪魔の力を借りようと思ったら
間違いなく、痛い目に遭うぞ』
そりゃあ、俺だってグレモリー辺りと同じだとは思っていない。
だが確かに、バオクゥの言う通り安請け合いが過ぎたかもしれない。
支払うべき代償として、何を要求されるのか分かったもんじゃない。
「……反省はしてる」
「まあ、セージさんの事情もあるでしょうから私の口からああしろこうしろは
言えた義理じゃないんですけどね」
「と言うかだ。その……レーティングゲーム、だったか。
そいつに参加しなきゃいけない理由って何なんだよ」
全部、こっちの悪魔どもが勝手に決めている。
何かしらの意図があって、無理やりにでも俺達を試合の土俵に引きずり出したいのだろうが。
方針が真逆なはずのサーゼクスとイェッツト・トイフェルはここで意見が合致している。
この状況では、出ないという選択肢は逆に危険だろう。
……俺達をレーティングゲームに引きずり出してやらせたいことは、全く違うだろうが。
「……出なきゃいけないのはわかりましたし
そのためにユーグリットの口添えが必要なのはわかりました。
で、その上で聞きますけど……セージさん、メンバーのあてはあるんですか?」
そこだ。元来レーティングゲームってのは
その眷属達でチームを組んで行われるゲームだ。
ところが当然ながら俺に眷属なんてものは存在しない。悪魔でもないし。
そうなると、バオクゥに突っ込まれた通りどうやってメンバーを集めるんだって話になる。
「…………無い」
「無論、君が悪魔の駒など持っているはずも無いだろうから
疑似的に悪魔の駒の能力を再現させる『
その代わり、以前君が行ったらしい分身でチームメンバーをそろえると言ったことは不可能だ。
異能の駒の使用条件も悪魔の駒と同じだから、一人に複数の属性の駒を与えることはできないし
君はそもそも『
ま、それも使う相手がいなければ何の意味も無いが……
……まさか、いくら勝った相手もいるとはいえ一人だけでいいとかいう
下らない縛りプレイを課すつもりは無いだろうね?」
今回は分身で賄うのは不可だと釘を刺されてしまった。
分身そのものが出来ないわけでは無いらしいが
恐らく前回を踏まえて対策を練りに来たのかもしれん。
分身で賄わせたところで、数の上では俺は圧倒的不利な立場に変わりはないはずだが……
『エンタメ的にそれでは面白みに欠けると判断したんだろう。奴なら考えかねん』
あり得る。アモンの推測に俺は首肯で返す。
観客が人間の無双を見たいかと言うと見たくないだろうしな。
寧ろ、最近話題になっている(らしい)赤龍帝が
調子づいた人間を叩きのめす様の方が見たいのかもしれん。
国防のための演習という要素もあるらしいレーティングゲームだが
現状を見るにそんなものは建前だ。トップランカーがアインストだのと戦っているという話は
少なくともバオクゥからは聞いていない。
『で、実際どうするんだセージ。まさか十九枚落ちで戦うつもりじゃないだろうな』
「そうなったらユーグリットを戦線に引きずり出す。
そこまでハンデをくれてやる義理なんかあるものか」
「……一応想定の範囲内だ。だから特別ルールを打診しておいた。
だがそれでも、僕も素顔で出るわけにはいかないね。
何分、ルキフグスってのは前の戦争では所謂敵対勢力だ。
そこから生じる不平不満を経済を掌握することで黙らせているに過ぎない。
サーゼクスのお花畑な対応を真に受けるほど、僕もめでたくは無いつもりだからね」
分身や召喚を駆使しても、数の不利を賄えるとは思えない。
そう考えてユーグリットにも最悪出てもらうつもりだったが
やはりそう簡単に同じ土俵に立つ気は無いらしい。
相手がサーゼクスとかなら、出てきた可能性もあるかもしれないが……
今回の相手はピンはサイラオーグ・バアル、キリはリアス・グレモリーと若手しかいないので
ユーグリットが出る幕では無いという事なのだろう。
それを踏まえてか、ユークリッドが言うには出場選手に制約のかかる
「ダイス・フィギュア」と呼ばれる特殊ルールでの戦い……らしいが
ここまでくると、本当にレーティングゲームは実戦からかけ離れているとしか思えない。
仮想敵はバカ正直に戦力に制約かける舐めプするのか?
兵法上でも戦力の小出しは原則として悪手だってのは素人の俺でもわかる。
こんなルールが罷り通っている以上、演習の名を借りることすら烏滸がましいと思える。
あるいは、俺が勝手に演習だと思い込んでいただけかもしれないが。
と言うか、最近そんな気がしてきた。
そうなると、演習でもない戦闘をひたすらに娯楽として繰り返す悪魔って結構……
……ま、今更な話かもしれないが。
「ふっふっふ~……誰か忘れちゃいませんかにゃん?」
「うひゃあ!?」
考えを遮るように突如として、耳元に生暖かい息を吹きかけられ
脇腹にこそばゆい感触が走る。
こんなことをするのは一人しかいない。黒歌さんだ。
「やっぱセージのそう言う声はおいしいにゃん。
本当はもっとおいしいところを食べたいけれど……ま、それは今度にして。
セージ、こういう時こそ私の出番じゃないかにゃん?」
「……いや無理っすよ。そもそもどうやって死人を出すんですか。
黒歌さん、書類上では今死んでるんですよ」
そうだ。表向き黒歌さんは彼女の悪魔の駒を摘出・破壊した際のいざこざで
悪魔政府の書類上では死亡したことになっている。
追跡を逃れるために一芝居打った形だが、こうして顔出しで行動している以上
公然の秘密とした方がいいのだろうが。
とにかく、書類上死亡したことになっている存在を出場させることはできないだろう。
いくらなんでも、そこまで政府もガバではあるまい。
……まあ、生きていたとしてもお尋ね者。こういう場に出られるとも思えないが。
悲鳴を聞かれたことといまだに残る脇腹のこそばゆさに気恥ずかしさを覚えながらも
平静を装いながら黒歌さんに返答を返したのだが
黒歌さんは秘策あり、と言わんばかりにドヤ顔で豊満な胸を張っている。
「私だってわかんないようにすればいいにゃん。例えば、覆面被るとか。
こんなこともあろうかと、きちんと準備はしておいたにゃん」
黒歌さんはどこから仕入れたのか、はちわれ模様の覆面と
女子プロレスラーもかくやというコスチュームに早着替えした。
変身のつもりかもしれないけれど、こんなところで着替えんでくださいよ。
「じゃじゃーん。人呼んで『マスク・ザ・ハチワレ』とでも名乗っておこうかにゃん」
早着替えした黒歌さんは、軽い身のこなしでポージングを取りながら
本物のプロレスラーの入場みたいな立ち振る舞いを見せる。
モノトーンカラーの光沢のある際どいハイカットのレオタードのようなコスチュームは
黒歌さんの体のラインをこれでもかと浮かび上がらせている。
人前でしていい恰好じゃない。いつもの事だけど。
そして猫の靴下模様を思わせるニーハイブーツにロンググローブ。
ブーツのピンヒールは、最早レスラーと言うか違う職業に思えてならない。
と言うか歩きにくくないのかあれ。
ちなみに、ご丁寧にブーツの裏とグローブの掌部分には肉球があしらわれていた。
不覚にも可愛いと思ってしまった。
「…………」
案の定、こっちについてきてた白音さんもちらちらと黒歌さんを見てる……
……んだけど、なんか白い目と言うよりは興味津々って様子なんだが。
え? なに? 白音さんこういうのが好きなの? コスプレ的な意味?
言っとくが、このデザインは俺は一切関与してないぞ! …………好きだけど。
「……姉様、それ私の分はありますか?」
「よくぞ聞いてくれたにゃん! 勿論用意してあるにゃん!
あと私はあんたのお姉ちゃんじゃないにゃん。『マスク・ザ・ハチワレ』にゃん」
黒歌さ……マスク・ザ・ハチワレが何処からか取り出した似たようなスーツは
今度は三毛猫模様だった。後は可愛らしさを重視したのか
マイクロミニ丈のスカートを思わせる腰布がついている。
お腹に大きな小判があしらわれているところを見るに招き猫のつもりだろうか。
まあ、縁起物の招き猫はある意味悪魔特効かもしれないが。
広げてまじまじとコスチュームを眺める白音さん。
目が輝いているあたり、どうやら気に入ったらしい。
「……それじゃ、私もいきます。
…………あの、皆さん向こう向いてくれますか?」
姉に倣って早着替えをした白音さん。だからここで着替えるなっつーの。
言われた通り向こうを向いていると、すぐに白音さんから向きを戻していいという許可が下りた。
早着替えのスキル自体はあったらしいが、やはり黒歌さんと違って抵抗があったのだろう。
と言うか、それが普通だ。
「おおーっ! さすが我が妹……じゃなくて白音!
私の見立て通り、よく似合っているわよ!」
「……リングネームは『カムカム・ミケ』でお願いします」
リングネーム名乗るあたり白音さんもノリノリじゃないか。
マスク・ザ・ハチワレのネコミミ覆面に対抗してか、こちらは目の周りだけを覆うタイプのマスクだ。
正直、見る人が見たら一発でバレそうなもんだが。
「……気分が乗ってきたので、ちょっと本気出してみます」
「あっ! 待って白音! そのスーツは……」
黒歌さんの制止を待たずして、気を解放して身体を成熟させる白音さん。
……なのだが、スーツの大きさは据え置きだったようだ。
これは……どう見なくともマズい。
何せ、言っちゃなんだが普段の控えめで小柄な白音さんの体系とは全く異なり
気を解放した際の白音さんの身体は、黒歌さんと遜色ないほどに肉付きがよくなる上
背も高くなる。大人がジュニアサイズの服を着ればどうなるか。言うまでも無かろうて。
「……んっ……くぅん……姉様……これ……きつい……です……」
ブーツやグローブも途端に窮屈そうなデザインになり
肉付きの影響をもろに受けた胸元や鼠径部辺りが
黒歌さんよりもきわどくヤバいことになっている。
零れ落ちそうとか、はみ出そうとか、隠せてるのかどうなのかとか。
そう言う使用上の注意はもっと早くに言ってくれ、黒歌さん。心の準備ってもんがある。
「……あはは、スーツはまだ改善の余地ありそうだにゃん」
「……せめて伸縮性だけは確保してください」
何とか元の大きさに戻った白音さんは、顔を赤らめながらジト目で黒歌さんを睨んでる。
俺は今回の件にはノーコメントだ。ノーコメントだったらノーコメントだ。
他の男性陣もそっぽを向いていたり、目が泳いでいたりしている。
唯一、ユーグリットだけは好色な目を向けているが……なんか知らんがムカつく。
「まあともかく、そんなわけで二人戦力は確保できてるにゃん。後は……」
黒歌さんがぐるりと周囲を見渡す。確かに、二人が来てくれるなら心強いが
正直、レーティングゲームを勝ち抜くのに三人(と二人)だけではまだ不安が残る。
ユーグリットはさっきの言葉から察するにちょっとやそっとでは同じ土俵には立たないだろう。
……などと思っていたら、いつの間にかユーグリットが何処かに行っていた。
さっき白音さんにいやらしい目を向けていたのに、何処に行ったと言うんだ。
……必要以上に干渉しないという事かもしれないが、全面的に信頼できない相手である以上
行動が読めないというのは些かやりづらい。そんな相手と組むなって話でもあるんだが。
そんな折、部屋の扉をノックする音が響く。安全を確認して扉を開けると
そこには何と、白いメッシュの入った長髪を靡かせた男――
ちょっと活動報告案件になるので、近況についてはそちらで。
>ユーグリットとの契約
そら悪魔の事情に詳しい人からすれば安請け合いと怒られる。
ちなみにバオクゥとの契約はただの取材協力(これも悪魔契約にねじ込もうと思えばいけるか)なので
正式なものでは無いです。
>レーティングゲーム
拙作の状況だと呑気にやってる場合でもない気はしますけどね。
まあ「世情が暗いから景気づけに祭典を行う」ってのもあの魔王なら考えそうだとは思いますが。
……ただ、今回のレーティングゲームは別の思惑もあるようですので……
>リングコスチューム
東方タッグマッチとかで出てるようなあんな感じ。
どの道黒歌はそのままじゃ出せないので、じゃあ覆面レスラー枠にしちゃえって事で。
ノリノリでコスチューム着てるあたり、某魔王みたいな趣味になってるような。
ちなみにリングネームは以前大那美組と行動した際にアイデアを貰った様子。
その場にいなかった黒歌は自前で考えたんでしょう。多分。
戦極凌馬がここに来た。お分かりとは思いますがミッチの強化フラグです。
ヨモツヘグリや斬月・偽ではないとだけ。