『セージ、試合前に一つ頼まれてくれ。
前も話したが、そんじょそこらの鉱石じゃ、俺の――デーモンの力に耐えられん。
俺の記憶に、一つその力に耐えうる合金がある。それを確保してくれ。
……その名は「
唯一例外的に、この合金で作られた武具だけは使っていたんだ。
デーモンの力にも耐えうる素材だからな』
魔王主催のレーティングゲームに、半ば強引ながらも参加することとなった俺達。
メンバーも粗方選定し終えたところで、アモンから相談を持ち掛けられる。
以前使用した際に問題が浮き彫りになった、魔神剛の鎧の材質だ。
その候補として挙げられたのは超魔合金D。
聞きなれないその名前の合金は、今の冥界にあるのか?
そう思い、
まあ、思った通りの結果が出力された。
「アモン。お前わかってて俺に聞いてないか?
超魔合金Dの精製方法は失われて久しい。
原料になる鉱石もそうなんだが、超魔合金Dって名前自体も
今の悪魔のほとんどは知らんそうだぞ。
……いや、原料になる鉱石自体はあるな。
別な名前を付けられて、
つまり、ほぼ完全に政府が確保している。入手は無理だろうな」
『だろうな。デーモンに関する資料が焚書されたって事は
デーモンに因む物も同じ目に遭ってるってのは想像に難くない。
だが解せねえな。超魔合金Dなんて、その強度も魔法への適応性も悪くないのに
なんでまた、技術を衰退させるような真似をしたんだか。
で、その代わりに生まれたのが悪魔の駒か。何とも言えん話だな』
アモンが疑問に思っていると、俺とアモンの対話――傍から見たら独り言だが――を聞いていた
バオクゥが、思い当たる節があると言わんばかりに割って入って来た。
「超魔合金Dですか? それなら私が持ってますよ?
いやあ、何を隠そう私のこの艤装、一部分だけですけど超魔合金D使ってるんですよ。
……精製方法は私もわかんないんですけどね、あはは……」
「十分だ! バオクゥ、すまないが艤装をちょっと調べさせてくれ!」
記録再生大図鑑で記録できるものは、能力に限らない。
やろうと思えば、書籍の内容を丸コピしたり成分調査も出来る。
そして、記録さえすれば……
「…………セージ」
「…………セージさん」
後ろから黒歌さんと白音さんの白い眼が刺さる。
そう、傍から見たら今の俺はバオクゥにセクハラを働いているようにも映ってしまうのだ。
手に取ってみているのはバオクゥの「艤装」であって「本体」じゃあないんだが。
艤装が本体とか言われたらどうしようも無いが。
「……疚しい部分は無いとだけ言っとく。
と言うか、そうだとしたらタイマンでやったらそれこそ問題だろ」
「まあ、それもそうかにゃん。公衆の面前で女の子辱めるのは控えめに言わなくてもゲスだけど」
「……それこそ、あの変態のこと言えなくなりますよ?」
……白音さん。流石にそれは堪える。ただでさえ俺一部分ではあいつ以上の事やってるのに。
普段の行いまであいつと同等になったら、ちょっと穴倉に潜りたい。
「あー……私は別に? 艤装見てもらってるだけですし?
それにこの艤装、脱着自由ですから外して調べれば全く何も……」
「そっ、そんなことしたらセージが変な趣味の変態みたいになっちゃうにゃん!」
……そう言う風に考えてるのはもう黒歌さんだけじゃないのか。
そう思い、黒歌さんに軽くツッコミで手刀を見舞いながらも
俺はバオクゥが外した艤装をくまなく調べてみる。
持ち上げようとすると結構重い。よくこんなもん担いで動き回ってるよな。
まあ、山奥ロケとかのカメラも似たようなもんか。
「あ、この辺ですこの辺。脚部部分の方、その底面。船で言えばバルジのとこですね。
ここに、超魔合金Dを用いてるんですよ。
逆に言えば、これ位しか使えないんです。何だかんだで、貴重ですから。
……私が今回戦闘に参加できないのも、この部分のダメージが修復できないからなんですよ。
超魔合金Dなんて、今取り寄せるとなるとそれこそルキフグスの闇市場位しかないですから」
げっ、あのぼったくり市場かよ。
確かに、バオクゥの脚部艤装の底面にはまだ亀裂が残ったままだ。
修理をするにしたって、その材料が無ければこういう物は修理できない。
とは言え壊れていても成分記録には恐らく問題は無いが、ここで一つ重大なことを思い出した。
……今俺、モーフィング出来ないじゃないか。
それに出来たとしても、超魔合金Dを生成するのにどれだけモーフィングを繰り返せばいいのか。
アモンに代わってモーフィングするにしても、そのアモンを召喚するために
「……アモン。超魔合金Dだが、一部分だけを使用するとか……」
『それじゃ意味がねぇ。デーモンのパワーを最大限発揮するには、材料費をケチるな。
ルキフグスの闇市場なら、ユーグリットに話を振ればいいだろ。
交渉なら、俺が出てやる』
いや無理だろ。流石にこれ以上アモンを強化するってのはユーグリットが首を縦に振るかどうか。
いくらサーゼクスにぶつける魂胆があるにしても、自分を狙いかねない相手をそこまで強化するか?
「なのでセージさん。私の艤装を使ってください。
大丈夫ですよ、身を守るための機銃程度なら使えますし、そもそもそっちは超魔合金Dを使って無いので
今回の件には全然関係ないですし」
「気持ちはありがたいが、元に戻して返せるかどうかの保証が……」
「話は聞いていたぞ。超魔合金Dなら、僕が工面してやる」
思わぬ方向から助け船が出た。俺が最初にその可能性は無いと切って捨てたユーグリットだ。
さっき出て行ったはずなのに、また戻ってきている。いつの間に。
「用事があるんじゃなかったのか?」
「ちょっとした野暮用だっただけだ。それより、超魔合金Dなら確かにウチの市場にある。
政府の眼を掻い潜って手に入れた、違法スレスレと言うかほぼ違法な代物だがな。
まあ安心したまえ、当たり前だが足はつかないようにしてある。
でなければ、いくら闇市とは言え大っぴらに市場には流せん」
意外だった。ここで超魔合金Dを使うという事は、即ちアモンの強化だ。
ユーグリットとアモンの関係は、はっきり言ってよくは無いと思っていたのだが。
「僕がアモンの強化をタダで引き受けるのが意外だとでも言いたげだね。
考えてもみたまえよ。アモンが超魔合金Dの力を行使するには、君の力が不可欠だ。
つまり、だ。もし僕がアモンと戦うことになった際、アモンを直に封じなくとも
そのアモンに超魔合金Dの力を与える君をどうにかすればいい。
いくら得体のしれない神器を持っているからと言っても
人間に後れを取るほど僕も衰退しちゃいない。
それに君の戦い方は初見殺しだろう。そんな相手の同じ札に二度も翻弄されるほど
このユーグリット・ルキフグスは耄碌しちゃいない」
……あ。そういえばそうだった。
アモンに魔神剛の鎧を与える際、俺は無防備とは言わないにしても
それほど強化されている訳ではない。
ユーグリットの言っていることは、そのまま俺の欠点の指摘でもあった。
『ユーグリットの事だからお前自身の篭絡も考えにあったかもしれんが
あいつの言っていることは凡そ正しいぞ。お前の合図が無ければ俺は魔神剛の鎧を使えない。
そうなったら超魔合金Dとて宝の持ち腐れだ。
こういう時、自分の身体が無いのがもどかしいな』
それはよくわかる。俺だって、何度身体が無いが故にもどかしい思いをしたか。
ともかく。これで魔神剛の鎧の補修の目途も立った。
と言うか、これでようやくまともに運用できるレベルになったと言うべきか。
以前使った際には、攻撃の度に自壊していたし。
本番でそんなことになったら、目も当てられない。
「そう言う事なら、遠慮なく使わせてもらおうか。
それと、さっき言ってた悪魔の駒の代用品だったか?
……あれ、いらないから」
俺の発言に、ユーグリットとアモンから驚きの声があがる。
黒歌さんも目を丸くしているようだ。
一応、これだって考えなしの意地っ張りってわけでもない。何故ならば。
「考えてもみてくれ。俺達は『悪魔の駒に頼らない人間――と妖怪』の代表として出るんだ。
そこで紛い物とは言え悪魔の駒の力なんか借りてみろ。
勝ったにしても負けたにしても、悪魔の駒推進派にマウントを取る口実を与えることになるぞ」
俺の意見に、ユーグリットは得心がいったように頷く。
勝てば「悪魔の駒の力を使ったから勝った」。
負ければ「悪魔の駒に頼らない人間や妖怪はこの程度」などと
自分達に優位なように言いふらすのが、ありありと想像できる。
そんな戯言を言わせないためにも、ここで悪魔の駒を使わないことで
そうした言い訳を無効にさせておく必要があったのだ。
「……確かに。そこは僕の考えが浅かった。謝罪するよ。
だが、そうなるとどうやって悪魔と人間の地力の差を埋めるつもりなんだ?
君達の神器や聖剣、その妙な道具で戦うにしても、そんじょそこらの悪魔はともかく
赤龍帝クラスとなると、通用するかどうかは怪しいぞ。
君達が赤龍帝に勝てているのは、奴自身が未熟だというのと地の利もあるのだろう。
ここは奴にとってはホームグラウンド、君達はアウェーだ。
この戦い、今までと同じと思わない方がいいぞ。
それと、駒の特性を使わないのは勝手だがダイス・フィギュアのルールにおける
駒のコストはきちんと反映される。そこは忘れてくれるなよ」
それもそうだ。俺だって、まさか集団リンチで戦えるなどとは思っていない。
いや、戦略上はそれが基本ではあるのだが。
特に、個々の能力がどうしても劣る人間である以上は。
俺がわかっていることを伝える旨の返事をしたと同時に
今度は反論のような形でユーグリットに言葉が投げかけられた。
「そっちこそ、人間嘗めんじゃねえぞコウモリ野郎。
俺達人間はな、てめえらみたいな連中の玩具にされるために生きてるんじゃねえ。
てめえらの導きっつー横槍なんぞが無くったってな、生きていけるんだよ」
「信じられないのなら、それを今回僕達で証明して見せます。
まさか、現実を目の当たりにできない程でも無いでしょう?」
かねてから思っていたんだが、悪魔の駒の使用は結局のところ
「自分達にとって有益だから引き抜く」行為でしかないわけで
そこに相手への敬意は存在していない、風に思える。
それなのにグレモリーだとかは人間との共存を謳う。出来るかんなもん。
悪魔からの人間評はグレモリーもルキフグスも上っ面はともかく根本は変わってないらしく
それはユーグリットの言葉が証明していた。
だからこそ、安玖巡査も光実も言葉に出たんだろう。
光実が口にしたのは意外ではあったが。
「……言ってくれるな。だが、意地を張って負けたなどと
情けない結果は見せてくれるなよ。そうなっては、僕も立つ瀬がない。
ま、最終的に僕は姉上を取り戻せればそれでいいのだけどね。
サーゼクスの鼻を明かすのは、姉上を取り戻せればついでに達成できる目的だ。
その目的のためにも、人間の力と言うものを見せてもらおうか。
そのための投資は、僕は惜しまないよ」
そう言って、ユーグリットは魔法陣から黒光りする鉱石を取り出す。
乱雑に切り崩されたようなそれは、調べてみると確かに超魔合金D――の原石だった。
「精製済みじゃないのか」
「精製の技法は僕も知らないな。何せこの鉱石はアグアレスで採取されたものを
裏取引みたいな形でうちが買い上げたんだ。彼らも超魔合金Dの精製方法までは知らないしね。
精製済みのものは、悪いが僕の一存だけでは簡単には渡せないな」
こうは言っているが、精製済みの超魔合金Dを俺達に渡せない本当の理由は
間違いなく別にあるだろう。
――人間に超魔合金Dを渡すつもりがない。
出来るかどうかは別として、仮にゲシュペンストやアーマードライダーに超魔合金Dを用いたら
それがどういう結果になるか。その辺のリスク管理ってとこだろうな。
それに、ゲシュペンストは薮田先生、アーマードライダーは戦極凌馬。
どっちも、超魔合金Dを実際に活用しそうでならない。
(……これ以上交渉を粘ってもあまり得なことは無さそうだな。
アモン。少々の特訓は必要になるが、原石の状態でいいか?)
『構わねえよ。魔神剛の鎧がきちんと使えさえすればいい』
アモンとの相談。決まりだ。交渉成立という事で
俺はユーグリットから超魔合金Dの原石を受け取る。
名前は忘れたし検索する必要性も無いので省略しているが、悪魔の駒と同じ原料なんだよな。
あれは俺がコピーした滅びの魔力で消せる程度のものだったが
超魔合金Dは、いったいどれほどなのか。
『精製方法にもよるが、超魔合金Dは魔力的な攻撃に対しては滅法強い。
滅びの魔力だろうと例外じゃねえ。サーゼクスクラスとなると断言はしかねるがな』
つええな。それだけに、最大限スペックを発揮するとなると俺の力次第って事になるわけか。
俺の身体でアモンが全力を出し切れていなかったって考えると、デーモンが使っていた武器と
同じ材質のガワを与えれば、アモンも遠慮なく全力を出せる。そう言う寸法だ。
「原石ならある程度工面できる。足りなくなったら言いたまえ。
……ただで、とは言わないがね」
これ以上足元を見られるのは御免だ。俺はそう返し、ユーグリットとの交渉を切り上げた。
出場の手続きはユーグリットが代わりに行うらしいが、大丈夫か?
……まあ、いくら防壁を作れるとは言っても人間が長時間冥界の空気を吸うのはよくないからな。
その事を考えれば、レーティングゲームなんぞやらずにさっさと帰りたいんだが。
――――
翌日。早速訓練を開始した俺達も合間にニュースを目の当たりにしたが
案の定、俺達の出場で話題は持ちきりになっていた。
――レーティングゲーム魔王特別杯開催、6つ目の参加チームにまさかの人間チーム!
そして連なる各チームの参加メンバーの名前。
他のチームに見慣れない名前があるのはいい。そもそもアガレスやバアル
果てはシトリーですらよく知らない部分あるし。
俺達の所にも当然、取り決めたメンバー――ご丁寧に、黒歌さんと白音さんはリングネーム――が載っていた。
……だが、その中で見慣れない名前を見た。
――ビナー・レスザン。
気になって記録再生大図鑑で調べてみるが、結果が出ない。
一体何者なのか。誰かがスパイでも送り込んできたか?
いや、そもそも昨日までの時点でそんな奴はいなかった。
(アモン、デーモンにそんな奴はいたか?)
『いや、俺の知ってる限りじゃいねぇ。とは言っても、俺もデーモンの全部を知ってるわけじゃないが』
アモンも知らない悪魔となると、逆にデーモンの可能性は薄くなる。
強いて心当たりがあるとすれば、ユーグリットが何か知っているかもしれないが……
確たる証拠がない。それでも、問い詰める必要はありそうだが。
俺達の戦いは、思わぬところからきな臭さを増していたのだった。
※11/15大幅加筆・修正。
せっかく6チームでリーグ戦行えるのに、わざわざ5チームにして運用しづらくする意図も無いでしょう。
あと、ルールを考えるとセージの「駒の特性使ってたら意味がない」は一理あるにしても
ルール無視が罷り通りかねないのでこの辺も加筆。
ちょっと、スランプ気味かも……
まあ、普通に考えて自分の攻撃で自壊するような材質じゃまともに運用できないですしね。
>超魔合金D
超合金Zに類するものは必須であろう、と。
マジンカイザーはZどころかニューZαではありますが。
名前が被っただけで別に超魔生物とかは関係ありません。
そして今まではセージの身体だったから本気出せてなかった(出したらセージの身体が吹っ飛んだ)と言う事実。
つまり、ここからアモンはほぼ全盛期に近い状態に。
ちなみに、バオクゥの艤装の一部に用いられていますが
何故だか(棒)似たようなシステム持ちの天照様の艤装の材質はヒヒイロカネです。
どっちが材質的に強いか、とかそう言うのは今回野暮なので触れませんが。
>セージのチームの立ち位置
暗黒武術会の浦飯チームみたいなものと思っていただければ。
悪魔の領域で人間が戦う(しかも人間サイド)訳ですからね。
そして、ここでの戦いの結果如何では、冥界の今後が大きく変わりうることがほぼ確定した瞬間でもあります。
(ただの人間に負けては悪魔の駒の優位性が全く無くなる、単純に悪魔を増やすためだけの道具に成り下がる)
妖怪が参加してる? 悪魔の力を使ってる? 妖怪は個人で人間に協力しているだけ、悪魔は人間に召喚されて出てきているだけなので
悪魔の駒の恩恵とは一切関係ありません。能力の参考元ではあるにしても。