今、俺達の間にはちょっとした騒ぎが起きている。
それと言うのも、突如として聞きなれない名前の存在が
勝手に俺達のチームにエントリーされていたのだ。
――ビナー・レスザン。
はたまたそれ以外の何者かなのか。それすら一切合切がわからないのだ。
「セージ! これは一体どういうことだ!?
誰なんだよ、このビナー・レスザンって奴は!?」
「すみません、俺も調べてみたんですがわかりませんでした。
バオクゥ、お前何か知らないか?」
「いえ、私も初めて聞く名前でして……」
バオクゥに聞いてみるが、それすらもダメだ。
「……確たる証拠が無いが、ユーグリットに聞いてみるより他仕方ないな。
エントリーの手続きはスポンサー権限だとかであいつがやったんだ。
その時に、何かしら手を加えたって考えるのが自然だが……
何分、奴がやったって証拠がない」
朝練から戻って来た俺を待っていたのが、この混乱である。
ユーグリットの横槍か、何処からか入り込んだスパイか。
情報が少ない現状では、あらゆる事態を想定して動くより他仕方がない。
「俗にいう『事件と事故両方の観点から捜査する』って奴ですね。
宮本君にもバオクゥさんにもわからないんじゃ、我々にわかるはずもありませんし」
「だな。一応聞くが
お前らの知り合いにこんな名前の奴はいるか?」
安玖巡査に聞かれた一同は揃って首を横に振る。知らないという事だ。
無いものは無いのだ。警戒を解くことはできないが、気にしすぎても仕方がない。
そう結論付けて、各々の行動に出ることとなった。
安玖巡査と氷上巡査は薮田先生と合流し、ゲシュペンストの整備。
光実は
黒歌さんと白音さんはスパーリング。
バオクゥは現在の冥界の情報収集。
そんな具合に、皆一様に忙しそうである。ユーグリットは顔を見せていない。
俺達も朝練の続きにとりかかる。
周囲への被害を鑑みて、実際にアモンの能力を行使するのはぶっつけ本番になりそうだが
魔神剛の鎧とアモンの魂のリンクはうまく行っているようだ。
他にも勿論、
この辺は取り組む人物を選ばない基礎的なところも少なくないので
他のメンバーもタイミングが合えば一緒にやっている。
その合間に、俺は
他のものが召喚できないか試してみたが……
ここに来て、以前悪魔絵師に描いてもらったラフ画の女教皇が反応を示していた。
その結果顕現出来たのは、天照様。もしくは大日如来様。
どちらかを能動的に呼び出すことはできなかったので、実戦ではちと、使いにくそうだ。
その際に顕現されたのは、どうも分霊にあたる存在だったらしく
それを俺の指揮下に置くことは、特別問題無いらしい。
また、今回のレーティングゲームに際し本体に招待状が届いたそうだが
国防の観点と環境の都合上――太陽の有無――から辞退したそうだ。
その点からも、分霊がこっちに来られるのはありがたいとも仰っていたが。
ともあれ、どちらが来るかはわからないが
神仏同盟の主神格をも呼び出すことも出来たと言う訳だ。
場合によっては、アモン以上に戦力になり得るだろう。
……それが意味することを考えると、ゾッとするが。
――――
調整と情報収集を繰り返しながら、とうとうレーティングゲームの開会式の朝を迎えた。
結局、今の今までビナー・レスザンと言う奴は一度も俺達の目の前に現れなかった。
誰かの悪戯じゃなかろうか。そんな考えも過ぎるようになっていた。
そんなレーティングゲーム開会式の朝、控室で待機していた俺の下に
バオクゥが血相を変えて飛び込んできた。
「せっ、セージさん! わた、私見ちゃいました!!」
「おい落ち着け。一体何を見たって言うんだ」
慌てた様子で鞄の中から水上偵察機の模型を出しながら必死に記録データを取り出すバオクゥ。
普段なら、記録媒体を予め出した上で俺の下にやって来ているので
この事からも既にただ事ではないことが窺える。
「とっ、とにかく! これ見てください!!」
押し付けられるように記録媒体を寄越される。
何気に、こういう物も記録再生大図鑑で読み取れるので
その気になればレコーダー要らずとも言える。
いくらでも悪用できる。それはどの
そう考えながら、データを読み取ると……
『……セージ。このところの特訓で俺は目が疲れたらしい』
『アモン。そりゃ気のせいだ。俺にも、同じものが見えている』
フリッケンとアモン。こぞって目を疑うのも無理はない。
何せ、そこに映し出されていた映像には――
――イェッツト・トイフェルと、ラスト・バタリオンが会談を行っていたのだ。
「……イェッツト・トイフェルっていち軍事組織、それも政府が運営している組織だったよな?
それが、勝手に他所の軍隊……まあ、私設軍みたいなもんではあるにしてもだ。
そいつらと、会談なんかやっていいのか?」
「だから問題なんですって! この事が明るみに出たら、間違いなくクーデターの疑惑を……」
バオクゥの言葉を遮るように、バオクゥの通信端末からけたたましい着信音が鳴り響く。
通話のために席を外したバオクゥを見送った後、俺も何気なく外を眺めてみるが……
……確かに、元々重苦しい冥界の空気が、さらに重いような印象を受けた。
「……セージさん。驚かないで聞いてください。
今、リーさんから話があったんですけど……
……イェッツト・トイフェルとラスト・バタリオンが同盟を結んだそうです。
既に公式に発表されていることで、今頃号外や緊急特番が組まれてますよ」
いやいやいやいや。それ驚くなっていう方が無理だぞ。
正直、今だんまりを決め込んでいるのはどうリアクションをしていいのかがわからないからだ。
なんで悪魔至上主義な軍隊とオカルト混じりとは言え人間の軍隊が手を組むんだよ。
『……マズいな。奴ら意外と足が速い。奴らの第一目的をアインストの殲滅とすれば
イェッツト・トイフェルとラスト・バタリオンは、共通の敵を持っていることになる。
そうなれば、束の間の同盟を結ぶことに何ら不思議なところは無い。
当然、奴らの事だ。アインストの殲滅以外の目的もあっての同盟だろうがな』
そうか! 謀反の意思ありって突っ込まれる前に、アインストって当面の敵を駆逐するための同盟だと
対外的に説明を付けることで、正当性を持たせたわけか!
だがそれでも、この件に関してサーゼクスとかが何か言ったって話は聞いていない。
軍部の暴走……日本でも、昔あったことではあるが。
「一応、発表の上では今日から行われるレーティングゲームの警備強化も
観点に入れての事だそうです。
何分、セージさん達人間チームも参加するという事で、人間の軍隊である彼らが来た。
交流の一環、そんなところでしょうね」
おいおい。自衛隊でも地球最強クラスのアメリカ軍でもなく
亡霊の私設兵団とつるむとは。そりゃ人間の軍隊に変わりはないけどさあ。
前々からイェッツト・トイフェルも怪しいとは思っていたが、とうとう隠さなくなってきたな。
こりゃレーティングゲームを隠れ蓑に、本当にクーデターか何か起こすつもりかもな……
……正直、ここまでイェッツト・トイフェルも周囲が見えてないとは思わなかったが。
この混乱している現状でクーデターを起こすなんて、自殺行為だとしか思えない。
現政権に不平があるからクーデターを起こすのだとしても、今のまま起こしたところで
よくて心中だとしか、俺には思えなかった。
それに、組む相手がよりにもよって……だ。
周防巡査に曰く、ニャルラトホテプに近しい軍隊でもある。
そんな相手と組んででも、冥界からアインストを駆逐したいのか?
まあそれ位、アインスト――オーフィスは底の知れない相手ではあるが。
間違いなく、アインスト駆逐以外に目的がある。アインスト対策も兼ねているにしてもだ。
このとんでもない事態にどうしたものかと思っている矢先に、控室にアナウンスが流れる。
しかしそれは、今入った情報に関することではなく、当初の予定通りと言える内容のものであった。
――これより、レーティングゲーム・冥界復興祈願杯の開会式を行います。
出場される選手の皆様は、会場にお集まり下さい。
「じゃあ、私は観客席から応援してます。今回記者席取れなかったもので。
セージさん、さっき言った話も含めて、十分に気を付けてくださいよ」
頷き返し、俺は控室を後にする。
静まり返った通路を歩きながら、大なり小なり緊張した面持ちのチームメンバー
――二人ほど、覆面でよくわからないが――と合流する最中
見慣れない仮面の悪魔とも合流を果たす。
「……ビナー・レスザン、か?」
「そうだ。如何に君達が人間としてレーティングゲームに参加すると言っても
レーティングゲームは悪魔の祭典、と言う認識は未だ色濃く。
それは永劫に塗り替えられることは無いだろう。
だからこそ、言い訳程度ではあるが祭典の体裁を整えるために
私が君達のチームに参加することにしたのだ」
ボイスチェンジャー越しの声からは、感情は読み取れない。
悪魔の祭典であるというレーティングゲームの体裁を整えるための参加、か。
言わんとすることはわかったが、ならばアモンで十分ではないか?
「知っているとは思うが、俺にはアモンが……」
「人間に下った悪魔、他神話との関係で脛に傷のある悪魔など、悪魔としては認めない。
そう思っている悪魔も今尚少なくは無いという事だ。ゼクラム・バアルとかな。
この戦いは、君達人間の力を示すと同時に
悪魔の一つの時代の変遷を意味するものでなくてはならない。
それを果たせるのは、グレモリーでも、バアルでもない。
それが、私が君達に力添えをする理由だ」
ビナー・レスザンから語られた、自分が俺達に協力する理由。
まあ、下手に人間のためだとか言われるよりかは信用できるか。
脛に傷って言い回しだと、直近でやらかしたグレモリーとかよりも昔――
それこそ、西暦一桁台か紀元前位の時代の話かもしれない。
譜面通りに受け取るなら、悪魔も変わろうとはしているようだ。方向性はさておき。
『……脛に傷、か。この野郎が何処まで知ってるかはわからんが、大体合ってるってのがな……』
(アモン、何か言ったか?)
『いいや。お前と同じで俺にも色々あんだよ。気が向いたら話してやるよ』
そういや、アモンからはサーゼクス――と言うか現行政府に切り捨てられて幽閉されたって話と
それ以前は聖書の神の支配に立ち向かうべく蜂起したって話位しか聞いてないな。
興味が無いと言うか、アモン自身も話さないしそれどころでも無かったからな。
今は、アモンの過去を掘り返しても仕方が無いだろう。
デーモンやサーゼクスが相手って訳でも無いし。
そうこうしているうちに、目の前にステージが現れた。
神器持ちは神器自体の影響で冥界の瘴気をある程度抑えられるが
それの無い光実や氷上巡査は間に合わせのマスクを装着してステージに赴く。
俺もまた、サングラスを装着して参加する。
冥界に太陽は無いので、遮光と言う意味だと無意味なのだが
顔が割れることを防ぐという点では、まだ活用できる。
……とはいえ、リーやバオクゥと絡んでいるうちに顔割れも起こしてしまっているので
今となってはあまり意味のない代物だったりするのだが。
仮面で売り出したために、正体が割れても仮面が無いと格好がつかない。その程度の理由だ。
ステージに出た俺達を待っていたのは、ブーイングが半数以上を占める歓声。
これを聞くだけでも、ここがアウェーなのだという事は思い知らされる。
以前、俺がフェニックスを倒した時にはまだ賛否は半々程度の評価だったが
こうして悪魔を辞め、人間に戻り、悪魔に弓引いている現状では、まあこうもなるか。
これでは、俺はともかく他の人はとなると。
「今更ですが、巻き込んでしまってすみませんでした」
「私は別に気にしてないにゃん。以前はブーイングどころか指名手配だったわけだし?」
「警察やってりゃ人の恨みなんざ買うもんだ。いちいち気にすんな」
「人間相手に言われるならともかく
悪魔にブーイングぶつけられるのは祓魔師冥利に尽きるものだよ」
「言わせておけばいいんですよ」
……とまあ、こんな具合でブーイングはどこ吹く風だった。だがそう言ってくれるのは助かる。
俺達の入場は参加チームの最後だったらしく、俺達が指定の位置についたと同時に
アナウンスが流れ、サーゼクスの挨拶が始まった。
――この逆境にも負けぬ、未来ある若手悪魔達の夢を支えるために!
そして、堕天使や天使との和平の足掛かりとして
まずは共通の隣人たる人間と手を取りあえた記念として!
ここに、冥界復興祈願杯の開幕を宣言するものとする!
話が飛んでいる風にも思えますが、セージ視点なのである程度は仕様です。
>僧侶の召喚能力
召喚魔法の使い手が強いのは鉄則。
こうして見るとセージってすっぴんジョブにも思えるような。
能動的に召喚対象を選べない、はFF3の幻術師みたいなもんです。
>同盟
どうして悪魔は自分から破滅フラグを立ててしまうのか。
情報漏洩が起きても気にしていない辺り、もう既に事は……?
>ビナー・レスザン
原作では……だったのが何故かここで。
このねじれにねじれた拙作で原作通りかと言えば……
んなわけねえだろ、とだけ言っておきます。
と言う訳でレーティングゲーム()が開幕したわけですが
果たして参加者のどれだけがサーゼクスの意図を汲んでいるやら。