~前回の没案~
「敵を焼き尽くせ、デビルブラスタァァァァァァァッ!!」
「いやああああっ! 私のダンガムがぁっ!!」
ひょんなことから冥界でレーティングゲームを行うことになった俺達。
その初戦の相手は大公であるシーグヴァイラ・アガレスのチームだった。
完全なアウェーでの戦闘だったが、俺達は何とか勝つことが出来た。
……とはいえ、俺は何もしていないんだが。
龍玄の新アームズと、ゲシュペンストの力を過小評価していた悪魔陣営が
その煽りをもろに受けた形であり、言うなればシーグヴァイラは
その矢面に立たされただけの話である。
それを証明するかのように、テレビではインタビューとは名ばかりの
シーグヴァイラの公開処刑とも言えるつるし上げが行われていた。
――今回の試合について、何か一言!
――相手はただの人間だったという事ですが、そのただの人間に二連敗を喫したことについて!
――ただの人間のチーム、それも致命的な出目をだした相手に、何故負けてしまったんですか?
――相手チームが不正を行ったという噂もありますが?
『……それはありません。今回の試合の結果は、全て私の慢心が招いた結果です。
未知の力に油断し、人間の技術に見惚れ、成すべきことを成せなかった。
アリヴィアンは、よく戦ってくれました。今回の無様な敗北は、全て私の責任です』
淡々と答えるシーグヴァイラ。この有様には、勝者である俺達も虫唾が走るような
まるで人間のマスコミのような、醜悪な悪魔のマスコミの有様をまざまざと見せつけられた。
この場にバオクゥがいなかったことに、内心安堵している。
――――
いけ好かない会見のしばらく後、俺達の控室に
その客と言うのが――シーグヴァイラ・アガレスだった。
「メンテナンスの報告ですが……どうしても同伴させろと、しつこかったもので」
「ええ。あそこまでパーフェクト負けを喫した以上、もう怖い物なんてありません。
ですが、その前にいくつか聞かせてほしいのです。
何故、悪魔とは何の関わりもなさそうなあなた方が
ああも私達と戦えたのか。ただの人間だとは、どうしても思えないのです。
そこの聖剣使いや、アモンを宿した人間はともかく」
シーグヴァイラの質問は、はぐれ悪魔討伐を依頼している大公のものだとは思えないものだった。
いや、だからこその質問なのかもしれないが。
俺は巡査達に、彼女らアガレス家は人間界にいるはぐれ悪魔の討伐を依頼していることを
改めて説明した。
「ハッ。てめぇらの尻拭いを実際にやってるのが、俺ら警視庁超特捜課なんだよ。
てめぇらでやってるって言ってもな、そこに至るまでにはタイムラグがあるだろうが。
だから、実際に悪魔が暴れてる現地の俺らが始末に動いてるんだ。
これに問題があるだなんて、言わせねぇぞ」
「そんなわけで、自分達は悪魔と全く関わりがないどころか
寧ろ、悪魔討伐を主任務にしている位なんです。
今回戦ったゲシュペンストも、そのための装備なんです」
ゲシュペンスト。その名前を聞いた時に、シーグヴァイラの眼の色が変わった……風に見えた。
少なくとも、食いつき具合はさっきまでの比ではない。
「そう! そのゲシュペンスト!
まさか本物のダンガムを見ることが出来る日が来たなんて夢にも思わなかったわ!
実際に人間界にはダンガムベースって聖地があるくらいだし
あれもそこで作ったのかしら!?」
「……ゲシュペンストはダンガムじゃねぇし規定ガチガチの警察装備だぞ。
玩具なんぞと一緒にすんな」
……まさかとは思うが、ダンガムは実際に存在するもので、ゲシュペンストはダンガムに出てくる
マシンの一種だと思っちゃいないだろうか。そりゃあ、出て来そうな見た目ではあるが。
興奮していたシーグヴァイラは安玖巡査に水を差された形になり、咳払いをして平静を取り戻す。
「……実際、ダンガム顔をしたデザイン案もあったんですが流石に没になったそうですよ。
ゲシュペンストに求めているのは広報ではなく、国防と治安の維持ですから。
ゲシュペンスト開発の指揮を執ったのは、ギルバート博士なのでまた聞きですが」
そんな案あったのかよ。実際そうなったら著作権やらなんやらいろいろ引っかかりそうだな。
官公庁が広報に漫画やアニメのキャラクターを使う例は枚挙に暇が無いが
まさか実際に運用する装備がそれそのものってのは色々問題だろ。
「まさかと思うが。ゲシュペンストをプラモにしたい、なんて言うんじゃねぇだろうな?」
「それも魅力的……なんですが。
実は真面目な話。あのゲシュペンストの設計図、何処で手に入れたんですか?
私には、凄く見覚えのある設計だと思ったんですが……」
踏み込んだ話がシーグヴァイラから振られるが、関係者であろう薮田先生は
顔色一つ変えずにその質問に答えた。
「……機密保持の観点から、口外は出来ませんね。
逆に聞きますが、何故そんなことを聞くんです?」
「実は……私は堕天使との和平の式典用として
アルトアイゼン――ロボットの設計をしたのですが
ゲシュペンストの構造が、そのアルトアイゼンとよく似ていたもので……」
「和平の式典用って事は、少なくとも内蔵兵装に関しちゃ積んでないだろ。
それがどうして、治安維持用パワードスーツのゲシュペンストと被るんだよ。
ゲシュペンストには、内蔵火器だってあるんだぞ。詳しくは当然言えねぇがな」
安玖巡査の言う通りだ。式典用ロボットと警察が運用するパワードスーツじゃ、繋がらない。
この場にいる人にとっては、シーグヴァイラの発言は凄く頓珍漢なものにしか聞こえない。
「じゃ、じゃあゲシュペンストの設計図とアルトの設計図を見比べれば……」
「この場で広げるのだとしたら、出来ない相談ですね。
警察の装備の設計図が流出するなんて、普通に考えて大事ですよ。
同様の理由で、アルトアイゼンとやらの設計図も大々的に流すものではありませんね。
設計図一つあれば、模造品を作ることは容易いのですから」
「設計図どころか、現物がマフィアに横流しされたケースもありますからね。
今言ったのは、警察の事例じゃ無いですけど」
薮田先生や安玖巡査に言いくるめられ、さらに
さっきの試合もかくやと言わんばかりの集中砲火を受ける形になったシーグヴァイラ。
ちょっとかわいそうに思えなくも無いが、一応ここ敵地と言えるからなあ。
場外乱闘だけは勘弁してもらいたいが
けんもほろろな対応を受けるのは想定の範囲内だと思うんだが。
「じゃ、じゃあ完成品の写真を見比べて……」
そう言ってシーグヴァイラが出してきた写真。
そこに映っている赤いロボット。これがアルトアイゼンのようだ。
確かに、見方によっちゃゲシュペンストに似てなくはないし、個人的にはいいデザインだと思う。
これを和平式典用とするのは、センスがちょっとどころでなくズレてるとは思うが。
そもそも頭の角はともかく、右手の杭や左手の装飾は武器って言ってもいいレベルだ。
……だが。それ以上にこのアルトアイゼン。どっかで見たデザインだ。
ゲシュペンストよりも前に見た、赤くてごつい奴……
「……あれ? これ、あいつに似てません? アインストの中にいた、赤くて硬い奴……」
光実がそうつぶやいた瞬間、この場の空気の温度がさらに下がった気がする。
もし光実の仮定が是であった場合、アインストはアルトアイゼンを基に
あの赤い奴を作ったことになる。それはつまり……
「そ、それはこっちも被害者なんです! 奴らに勝手にデザインどころか原型機も利用されて
今や和平式典用どころか、侵略の尖兵として扱われて……
アルトや堕天使が作る予定だった兄弟機のヴァイスのためにも
私はアインストを残らず駆逐したいんです!!」
「……なるほど。それが貴様が
声がした方を振り向くと、そこにはあの謎の悪魔――ビナー・レスザンがいた。
確かに、この場にいる俺達のチームの中ではある意味アモン以上に
今の悪魔の時勢に詳しいだろう。そんな風な物言いだ。
「……そうですよ。それの何が悪いんですか!!
アルトも、里子に出したヴァイスも、言うなれば私の子供達!
その子供達を、いいように利用しているアインストに対して仇討ちの感情を向けるのは
悪い事じゃないでしょう!?」
「仇討ちを規制する法は無いな。
だが、次期当主としてその振る舞いは、まだまだ若すぎる。感情的過ぎだ。
実際アインストは悪魔に仇成す存在であるから、討ち滅ぼすことに異存は無い……が。
精々、サー……ルシファーの、大王派の鉄砲玉にされないようにだけは気を付けるんだな」
……うん? 今こいつなんて言おうとした?
そう言えば、ビナー・レスザンが来てからというものユーグリットをあまり見かけないが……
…………まあ、いいか。
シーグヴァイラはシーグヴァイラで、こいつの言っていることが腑に落ちてない感じだし。
――シーグヴァイラ様、そろそろお時間です。
外から、男の声が聞こえる。言われて時計を見てみると、確かに結構時間が経っていた。
声の主は確か、光実と戦ったシーグヴァイラの「
「……もうそんな時間ですか。それでは、私はこれで失礼します」
「……期待に添える情報が提供できずに、すみませんね」
薮田先生の言い分だと、やはりゲシュペンストについて知りたかったってところか。
それで勝負が終わってインタビューで精神的に疲労したところでこれか。
中々の行動力だが、無茶してないか?
こっちはこっちで、精神的に疲れるようなことを言われてるし。
一礼して、俺達の控室を後にするシーグヴァイラを見送り
足音が聞こえなくなるタイミングで安玖巡査が口を開く。
「時間か。そういや、アガレスってのは連戦だったな。次は……シトリーだったか」
「そうだ、薮田博士。ゲシュペンストの方はどうでしたか?」
「問題ありませんよ。ただ、キックはするなとは言いませんが、なるべく控えてください。
装甲材質ならともかく、内部機械はここで壊れられると面倒ですから。
特にレコーダーの誤作動などされた日には、欺けるものも欺けなくなりますからね」
そういや、ゲシュペンストを下手に動かすとレコーダーから足がつくとか何とか言ってたっけ。
公安に追われてこんなところに来てしまったが……家、大丈夫かな。
などとふと思っていたら、不意に安玖巡査が思いもよらぬことを問い質してきた。
「……なあ博士。ギルバート博士はゲシュペンストの設計図をどこで手に入れたっつった?
さっきのあいつじゃないが、確かにあの赤い奴とゲシュペンストは
構造が似通ってる部分がある風に見えた。
……まあ尤も、専門家じゃねえ下手の横好きの私見に過ぎねえが」
「ほう。流石は家電に一家言ある
あれを家電と言っていい物かどうかはわかりかねますが。
ビナー・レスザン……でしたか。その悪魔の言う通り、彼女はまだまだ若いという事ですよ。
下手人まではわかりませんが、彼女の知らぬところで流出があったのは間違いないですね。
それがどうして、警察の関係者に流れ着いたのかまではわかりませんが。
答えとしては、そんなところでしょうか」
今の話を聞く限りだと、シーグヴァイラは(その感性に共感が出来るかどうかは別として)
曲がりなりにも和平のために動いていたのだろう。
それがこうして、二重の意味で悪魔に牙を剥くことになろうとは。
ちょっとだけ、不憫に思えてきた。
シーグヴァイラ自身は和平のために作ったものが、アインストと警察の両者に分かれて
同じ設計図から潰し合いをしている。本人にしてみりゃ、心苦しいのだろうが……
「そんな出所不明の設計図なんか使って平気なのかよ」
「技術職として答えますが、著作者不明の設計図など突如沸いたアイデアと大差ありませんよ。
それにさっきも話で出た通り、治安維持用パワードスーツと式典用のハリボテとでは
ガワは似せられても、中身は真似しようがありません。
ゲシュペンストが真似たのは、精々外見だけですよ。
そもそも、悪魔由来の科学技術を人類の科学力で完全再現するのは
セベクの技術を接収した南条コンツェルンどころかユグドラシルでも無理ですよ」
そんな御大層な物、使っていませんでしたが。と薮田先生が付け加える形で締める。
実際、ゲシュペンストで使われている装備は悪魔が用いている機械や技術と言うよりは
超特捜課で運用していた装備の発展形が殆どだ。
つまり、この時点で既にゲシュペンストとシーグヴァイラのアルトアイゼンの間に
接点はほぼ、無い。
「では、私はこれにて……おや? 真羅君ですか。試合はどうしたのです?」
「それどころではありません、会長が……ソーナ様が大至急先生を呼んでくれ、と……!」
ただならぬ雰囲気を伴ってソーナ・シトリーの「女王」、真羅椿姫が駆けつけてきた。
それと同時に、向こうで試合の中継を見ていたゼノヴィアさんやマスクを脱いでいた黒歌さんが駆けつけてきた。
――これは大変なことになりました! シーグヴァイラ・アガレス選手、ドクターストップです!
転送魔法が働いたため、命に別状はないとのことです!
「聞いての通りだ、ソーナ・シトリーの『
「……実況はああ言ってるけど、見るからにヤバい負傷の仕方だったにゃん」
この騒動を聞いた薮田先生は、恐らく色々と察したのだろう。
真羅椿姫に促される形で、俺達の控室を後にした。
「……私を呼ぶという事は、フェニックスの涙でも対処しきれない事態かもしれませんね。
いや、或いは治療以外の問題で私の力が必要な事態かもしれません。
すみませんが、暫く駒王学園の教師としての立場に戻らせていただきますよ」
薮田先生が出た後で記録映像を見てみると……匙が、シーグヴァイラに重傷を負わせていたのだ。
その匙が持っている
設計図問題。そりゃ触れずにはいられないでしょうて。
この世界ではゲシュペンスト→アルトアイゼンではなく
アルトアイゼン→ゲシュペンスト(見た目的な意味で)です。
或いはパーソナルトルーパーをダウンサイジングしてパワードスーツ作ったとか。
ムゲフロで似たような事例があったような、なかったような。
>シーグヴァイラ
残念ながら、彼女もまだまだ若かった。無能では無いはずなんですが
若気の至りで逸ってしまって……
アルトの設計図流出も、もう少し気を配っていたら……
でもそうしていても堕天使側からも漏れていたのだから同じこと。
若気の至りが事態を悪化させる、ペルソナ2的には原作再現なんですが
HSDD的には真逆の展開。
無事に済んだと思ったのに負傷退場とかどういうことなの……