本編中で明確に突っ込むのは今回が初?
俺達に敗れたシーグヴァイラ・アガレスの二回戦。
それはソーナ・シトリーとの戦いであったが
その最中、事故が起きてしまう。
――シーグヴァイラ・アガレスが大怪我を負ったというのだ。
――――
レーティングゲーム会場・医務室前。
ソーナ・シトリーの「
俺達……と言うか俺も、かつての出来事から嫌な予感がしたので
後を追う形にはなったが、マスクをした黒歌さんを伴って駆けつけることにしたのだ。
「セージ、あんまり試合以外でうろつきたくないんだけど」
「すみません。だけど、ちょっとこういう事態にトラウマと言うか、嫌な予感がしたもので」
「――その嫌な予感と言うのは、私達にも関係のあることかしら?」
声がした方を振り向くと、金髪の縦ロールと言う如何にもなヘアスタイルの
レイヴェル・フェニックスが、顧問弁護士の奥瀬秀一を伴ってやって来ていた。
「…………否定は、しない」
「まあ、お兄様もユーベルーナも快方に向かってますし
もうグレモリーとは関係のない貴方を如何こうするつもりもありませんけれど」
「お嬢の当たりが強いのは勘弁してやってよ。
大好きなお兄ちゃんを再起不能にされたって事は、やっぱり思う所があるみたいなんだからさ」
あっさりネタバラシされたレイヴェルが照れ隠しに奥瀬弁護士をどついている。
……まあ、そうだよなあ。いくら当時の命令だとか見せしめだとかでも
あれは……今思うとやり過ぎたかもしれない。
「レイヴェル、中に怪我人がいるんだ。あまり騒ぐのはよくない」
声をかけてきたのは恵体の悪魔、サイラオーグ・バアル。
その後ろに控えているのは……確か、彼の「
まるで気配を感じないそれは、確かに「
いずれは戦う相手なんだから、
今は、それどころじゃないな。
「……しかし解せませんわね。ちょっとやそっとの負傷ならば
フェニックスの涙で治療できるはず。
今回フェニックスの涙はケチっておりませんし、シーグヴァイラさんの負傷が
ここまで大事になるとは思えないのですが」
「ああ、俺もそれが気がかりでな。心配になって様子を見に来たんだ」
悪魔二人が首を傾げるが、俺と黒歌さんにはなんとなく心当たりがあった。
俺の場合、二重の意味で心当たりがあるんだが。
「ねえヒヨコ。フェニックスの涙ってのは、精神的なダメージも回復できるのかにゃん?」
「誰がヒヨコよ!
……こほん。フェニックスの涙は確かにあらゆる傷を治療することが出来るいわば霊薬ですわ。
ですが、当たり前のことですが既に死んだ者には効果を発揮しませんし
肉体的な損傷によらないダメージ……精神面でのダメージに対しては
これまた効きが悪いですわね」
軽口を叩きながら、黒歌さんがレイヴェルからフェニックスの涙の効能を聞き出している。
確かに、死人に効くようなら
……だが、それよりも。この黒歌さんが聞き出した
「精神面からのダメージには効かない」と言う点が、俺の中にある一つの仮説を齎した。
「……セージ。多分、思ってる通りだにゃん。
詳しい事は実際に診察しないとわからないから、中入るわよ」
半ば強引に医務室に入ろうとする黒歌さん。
それを止める間もなく、俺達もあれよあれよと言う間に中に入ることとなった。
――俺の嫌な予感に呼応するように、ディーン・レヴから悪寒を感じながら。
――――
病室には、既にシトリー会長と真羅副会長に薮田先生。
そして、当事者であるとされる匙が雁首揃えていた。
シーグヴァイラの方は、ここから見る限りだと魘されているようにも見える。
その看病として、アリヴィアンが付き従っているようだ。
……はて。「
「……御足労頂いて恐縮ではありますが、現状において満足なおもてなしは……」
「俺達に気を使うことは無い。まずは治療に専念するんだ。
ソーナ・シトリーの『兵士』にせよ、人間たちにせよ
その力は我々悪魔の下馬評を大きく上回っていたんだ。
見舞いと共に、そのような相手に対しても全力を尽くした。
その戦いぶりを讃えるためにも来ただけだ」
俺達を代表してか、サイラオーグさんがアリヴィアンと挨拶を交わしている。
もしかすると、ゲシュペンストとの戦いのダメージが残っていたかもしれないが……
容態を訝しんでいると、黒歌さんが俺の袖を引っ張ってくる。
どうやら、遠巻きではあるが症状に心当たりがあるようだ。
「……セージ。遠巻きだから断言はできないけれど、症例としては白音の時に似てるにゃん。
あ、発情してるとかそう言う意味じゃないにゃん。
気の流れがおかしくなってる、って意味にゃん」
気の流れ? はて、それこそ黒い龍脈にそういう作用は無かったはずだ。
強いて言うなら、力を奪った際にそうした作用が副次的に起こったか。
……或いは、何かの要因で悪いものが逆流したか。
「……ふむ。俺も闘気と言うものを嗜んでいる上での心当たりとして言わせてもらうが。
シーグヴァイラの症状だが、これはどうも彼女の気が汚染されたことで起きているようだな。
気を送り込むか、汚染された気『だけ』を除去すれば、快方に向かうとは思うが……
生憎俺も医者じゃないんでな。民間療法を推奨は出来ん」
「私も同意見にゃん。ああ、私も出身の都合上、気功術についてはちょっとしたものなのよ。
ただ私も医者、それどころか悪魔ですら無いから
私の証言なんか何の役にも立たないだろうけれど」
「元」悪魔だけどな、と心の中で同意を述べながら俺も頷く。
サイラオーグさんが言う「汚染された気の除去」だけなら、俺も出来なくは無いが……
ただ、俺がそれをやるとなると「逆流」や「感染」の危険性があるってのがな。
それでも、出来るのに黙っているのもなんか気分が悪いので
俺はこっそりと黒歌さんに相談することにした。
「セージ。言いたいことは読めたけど推奨はしないにゃん。
ただでさえこっちに来る時にクロスゲート潜ってるんだから
あんたの持ってるディーン・レヴがどう動くかわかんないのよ。
暴走なんかされた日には、事態の収拾なんか出来なくなるわよ」
『ま、俺が表に出れば最悪抑え込むこと自体は出来るけどな。
悪いが、俺がそいつのためにそこまでしてやる義理が無い。
セージの保護って観点なら、俺は動かざるを得んけどな』
そう。「怨念を吸収する能力」でシーグヴァイラの気の流れを安定させようと考えたのだ。
その「汚染された気」が「怨念」ではないかと考えたからこその判断ではあるが……
違った場合、俺が抱えている怨念が逆流して最悪の事態を招きかねない。
と言うか、怨念抱えて正気を保っていられるって時点で
既におかしいとは我ながら思ったりするが。
……それは果たして、正気なのかどうかわかりかねるところだが。
――――
「……結論から言いますと、この症状はシーグヴァイラ君の身体を
負念が蝕んでいることによるものですね。
ですので、その負念さえ取り除いてしまえば彼女は快方に向かうはずですよ」
やはり。薮田先生の診断の結果は俺達の予測と同一であった。
ここに薮田先生がいたのは不幸中の幸いだったか。何だかんだで、この場にいる中では
一番知識を有している。俺の知識は、所詮は付け焼刃だ。
「…………ですが、解せない点があります。
私が知る限り、黒い龍脈には相手の力を吸収したりする能力はあるはずですが
怨念を相手に流し込む能力は無かったはずです。
匙君。黒い龍脈を持っているのはあなたです。心当たりは、ありませんか?」
確かに。薮田先生の疑問も尤もだ。
俺の知る限りと、検索の結果では黒い龍脈にそんな
クロスゲートの中身みたいな効能は無かったはずだ。
どこかでそんな能力を手に入れた、と考えるのが自然だが……
「え? い、いや、俺に心当たりは……」
「匙君、しらを切らないで下さい。あの時に見せた
今回の事件に関係性があるとするのならば、これが今回の原因ではないかと思います。
一体、あれはどこで手に入れた力なんですか?」
「……神器の強化、ですか。私には、初耳の出来事ですがね。
いえ、これについてシトリー君を責めるつもりはありませんが。
私も、皆さんの様子を見ることを疎かにしていましたからね」
……なんだ? 妙に向こうが険悪な空気になっているが……
そういや、シャドウが「
シャドウが奴らと何らかの理由で戦った際に記録した、そう言う事か?
「連絡が遅れてしまってすみません、先生。確かにサジは、黒い龍脈を強化しています。
ただ、その強化の元となったのは調べてみたところ、分割されたヴリトラの……」
「ヴリトラの神器……なるほど、そう言う事でしたか」
シトリー会長からの報告を受け、一人ごちる薮田先生。
俺でもついていけてるかどうかわからないってんだから、後ろにいる黒歌さんや
他の悪魔組は既に頭に疑問符が浮かんでは消えている。
「分割していたものを一つに結合し直した……と言えば、聞こえはいいかもしれませんが
実際には神器を摘出して、それを移植したのと変わりありませんね。
そして、私の知る限り生きたまま神器を摘出する方法はありません。
恐らく、その際に匙君に移植したヴリトラの神器にヴリトラのものでは無く
元の神器の持ち主の思念が残っていたと考えられます」
「では、黒い龍脈の負念はそれによるものだと?」
真羅副会長の問いに、薮田先生は首肯し返す。
それよりもだ。神器の摘出と言えば……レイナーレがやろうとしていた事だ。
あの時はアーシアさん相手に使い、結果としてアーシアさんが悪魔になる原因になった出来事だ。
その件に関しては、俺はレイナーレを未だに許したわけではない。
と言うか、ある意味グレモリー先輩以上に許せない相手ではある。
……だが、レイナーレが自身に「
レイナーレにアーシアさんの思念は移っていなかった。
これに関してはレイナーレが手際が良かったのか
匙に移植手術をした奴がヤブだったのかは知らないが。
「聖なる力に抗体のあるものなら、聖水なり祈祷なりで負念を祓う事は容易ですが
ご存じの通り、悪魔相手にそれは出来ません。
逆に、時間を置けば自然治癒し負念に対し抗体も出来るかもしれませんが……
色々な理由で、おすすめはしませんね」
シーグヴァイラの治療方法――と言うのもお粗末なものだが――が提示されるが
これは言った本人もあまりにもあまりな方法なのか、すぐに否定している。
その理由が今一つ掴み切れていなかったのか、サイラオーグさんが薮田先生に質問する。
「免疫を付けることを薦めないとは……
もしや、その前にシーグヴァイラが持たないという事か?」
「命を失うような事態にはならないと思いますが……負念に染められた知的生命体が
元の人格を保持できるかどうかと言われれば、私は出来ないと見ますがね。
つまり、生き長らえたところでそれはあなたがたの知る
シーグヴァイラ・アガレスではなくなっているだろうという事ですよ」
そりゃそうだ。俺だってあんな背筋の凍るような気色の悪いものに四六時中晒されていたら
あっという間に正気を失っているだろう。
俺が正気を保てているのは、ディーン・レヴって外部装置があるからに他ならない。
それが無ければ、俺はあっという間に溜め込んだ負念に飲み込まれてしまうだろう。
……だが。負念を除去すれば治療できるという事は。
「薮田先生。負念の除去装置か何かは?」
「……残念ながら、冥界の医療技術と言えどそういう所は……」
だろうな。前に調べた時も、そう言う魂だとか思念に関する概念に関しては
何故だかやたらと研究が後手後手であった。だから俺が四苦八苦する羽目になったのもあるが。
そうなれば、思念を汚染する負念を除去できるのは――
「ちょっ……まさかセージ! 止めろっつったでしょ!?」
「だが、他にできる人がいないでしょう。出来るのにやらないってのは、後悔しそうで」
「そこまでする義理が無いでしょ!? 知らないとは言わせないわよ!
あんただって負念を溜め込み過ぎたら、どうなるか……!!」
そうだ。今回は別に戦闘中ってわけでもない。
そうなると、外に放出してハイ終わり、と言う方法が使えないのだ。
行き場を失った負念がどうなるか。そんなの、ちょっと考えればわかることだ。
……仕方ない。言い訳としては下手糞すぎるが、このプランで行くか。
「治療法は俺が持っているんだが、それをやると俺もただじゃ済まない。
そこで、俺のアフターケアも兼ねて、この後少しスパーリングに付き合ってもらいたいんだ。
参加者は誰だっていい。ああ、勿論病人の傍にいる面子は必要だから
この場にいる全員に来てもらう必要は無いが」
「成る程。それが手っ取り早いとはいえ、あなたも無茶をしますね」
「事情はよく分からんが、スパーリングなら俺が付き合おう。
お前は確か、この後レイヴェル・フェニックスとの戦いが控えているんだろう?
そのウォーミングアップの手伝いが出来るのは、光栄なことだ」
言っとくが、手札の全部は見せないぞ。
スパーリングと言う表現をしたのは、こうすればサイラオーグさんは
食いついてくるんじゃないかと思っての事だ。そしたら案の定だ。
「……ったく。あたしは止めたからね? 後で泣き言言ってもほっとくわよ?
ほんと、白音と言いセージと言い世話がかかるんだから」
「同感ですわ。フェニックスの涙は用意しておきますので。
場外乱闘は程ほどにしてくださいまし」
怒られた。まあそりゃそうだ。いつの間にか備わった霊力吸収能力。
それの指向性がディーン・レヴのお陰で誘導されている。
今の俺は、負念を優先的に吸収しやすくなっている。
一番いいのは、それを自力で浄化することなんだが……生憎、出来ない。
なので、溜め込んだ負念は一度何かに使わなければならない。
そうしなければ……俺が、負念に飲まれる危険性があるのだ。
そして負念が大量に漂っているクロスゲートを潜り抜けて
ここに来るまでにそれほど消費していない。
この状態でシーグヴァイラの負念を肩代わりすればどうなるか。
……外に放出するまで、保ってくれればいいが。
シーグヴァイラに手を翳し、彼女を取り巻く負念を俺のディーン・レヴに取り込ませる。
その過程で、負念は当然俺の身体にも入ってくるわけだが……
(やはり……キツイか……!!)
シャドウはよくあれほどの負念を操れたものだ。
シャドウにできた事なのだから、俺にできない道理はない……んだが
シャドウはそもそもが俺の内面、とりわけ負に属していたからこそできただけの話かもしれない。
あまりやり過ぎると、俺がシャドウに反転しかねない、そう言う事か。
――ナゼ、生キテ――
――ドウシテ、殺サレネバ――
――オレタチハ、コンナヤツノ糧ニ過ギナイノカ――
言っちゃなんだが、聞き飽きた怨念の言い分。
だが、今回に限っては妙に引っかかる。
そもそも、黒い龍脈にこうした負念がまとわりつくものか?
いくら匙が力を奪う過程で仮に倒したとしても、これほどの強い負念を残すものか?
ただ倒されただけの奴の負念にしては、やけに強すぎる。まるで……
「み、宮本君……顔色が優れないようですが……?」
「……だ、大丈夫だ。これでシーグヴァイラの負念は除去できたはずだ。
だ、だが……本当に黒い龍脈の攻撃を受けてからこうなったんだよな……?
吸収してみてわかったんだが、俺の想定よりも負念がかなり強かった……
こんなに負念が強いものを、この先使い続けるのは……」
必死にシトリー会長に返答するが、正直さっさとこの抱えた負念をガン・レギオンに変換したい。
俺は制止も振り切って、スパーリング用のステージにサイラオーグさんと共に上がることにした。
俺の零した忠告が匙に届いていたかと言うと、多分届いていないだろうな……
また語られるヴリトラの闇。
この場にはいないけれどナイア先生が関与しているので
その際に細工されたと見るのが自然。
匙は知ってか知らずかそれを行使してしまった。
言うなれば、改造エアガンをサバゲ―でぶっ放したようなもん。
前回使った相手は中身のないライダーだったので発覚が遅れた、ってのもあります。
ソーナも今回の件で危険性を把握してますが
持ち主の匙がどうしてかシラを切る。没収を懸念してるのでしょうか。
負念に対する抗体。
この場合、ワクチンどころかウィルスそのものを使って抗体作ろう、って話なので
無茶にも程があります。
逆にセージは負念に曝され続けて本人自覚がないところで闇属性になってたり。
※05/24修正
ソーナが6チームリーグ戦なのに2回戦で2試合とか言う酷いことになりそうだったので訂正