そしてそこまで長くないという。
「…………おかしい」
冥界におけるレーティングゲーム、グレモリーチーム対バアルチームの試合。
その開幕を今か今かと待ちわびているのはグレモリーチームの代表、リアス・グレモリー。
しかし彼女は、舞台入りしてからもう三十分近くも待たされていたのだ。
この異常事態に、彼女のみならず会場も困惑していた。
そもそも、相手となるサイラオーグ・バアルと言う男。
彼は実直が服を着て歩いていると言っても過言ではない位
悪魔としては異質と言えるくらいの人格者なのだ。
そんな彼が、大事な試合を放棄し相手チームに待ちぼうけを喰らわせる。
そんな相手でないことは、遠い親戚筋でもあるリアスもまた承知していたのだ。
――これは一体どうしたことか!?
サイラオーグ選手、赤龍帝を前に怖気づいたのでしょうか!?
そんなリアスとサイラオーグの背景など知らない実況席が、昨今の赤龍帝の評価から下された
無責任なサイラオーグに対する評価に、リアスは舌打ちをする。
(散々優勝候補だとか持ち上げておいて、いざこうなったら臆病者扱い……
ウケが取れれば何だっていいのかしら。なんていい加減な……!)
内心毒づくリアスだが、観客席はアナウンスに同調していた。
優勝候補として持ち上げられていたサイラオーグだが、それは単に彼の実績によるものだ。
先の試合で実証されたとは言っても、その相手は赤龍帝を擁している訳でもなく
ましてや、衝撃的な番狂わせでも無かった。そう、「ありふれた結末」だったのだ。
それでは、「勝って当たり前」という前評判以上の話題性はない。
話題性で言うならば、試合に遅れている現時点の方が余程高いのだ。
「五輪書のリスペクト、って訳でも無さそうですしね」
「ゴリン……ジュ?」
「違いますよ。五輪書。宮本武蔵が記した武芸書ですよ。ご臨終じゃ死んじゃいます」
「そ、そうそう! ミヤモトムサシね! ゴリンノショーね!
……ところで、ミヤモトムサシってセージの親戚か何かかしら?」
「多分違いますよ。宮本武蔵だって普通の人間です。
悪魔転生したって話も聞いてないですし、僕のお師匠様みたいなことも無いでしょう。
だからセージ君は無関係……だと思います」
ズレた反応を示す自称日本贔屓のリアス。
そもそも彼女の日本に関する知識は木場の剣術の師匠でありサーゼクスの眷属となった
かつての新選組一番隊組長・沖田総司からのものであり
幕末と言う中世日本までのものが基準となっている。
――それでも、五輪書や宮本武蔵は彼が活躍した時代よりも二世紀も遡るのだが。
「宮本って苗字もレアってわけじゃないしな。
俺も最初ゴリンノショってなんだっけとは思ってたけど
宮本武蔵って聞いてわかったぜ。
確かに、今のサイラオーグさんは決闘にわざと遅れてきた宮本武蔵みたいだよな」
(……いや、流石に部長以上に日本に精通していない彼がそんなことをするとは思えない。
ある意味部長以上に堂々とした闘いを尊ぶ人格者と聞いている。
そんな彼が、小手先の心理戦に持ち込むような真似をするだろうか……?)
かつて決闘の時間にわざと遅れてやって来たという説を残す剣豪に喩えて話した木場だが
サイラオーグが宮本武蔵を知っているとは思えないこと。
また語られる限りのサイラオーグの性格は、その説話に記されていたような宮本武蔵の人物像とは
少し違っていることから、口に出しはしたもののすぐにこの考えを取り下げていた。
因みに、五輪書にも兵法や戦術については記されているものの
態々「戦いには遅れて行くべし」と記されていたかどうかは定かではない。
そんなやり取りを繰り広げながら時間が過ぎていくが、それでもなおサイラオーグは現れない。
そして、ついには――
――今回の試合についてご案内いたします。
サイラオーグ・バアルチームが現れないため
この試合リアス・グレモリーチームの不戦勝といたします!
「な、なんだよそれ!? サイラオーグさんは滅茶苦茶強い悪魔だっていうから
気合い入れてきたのに、なんか損した気分だぜ」
「…………」
この告知にどよめく会場。
肩透かしを食らったとぼやくイッセーに対し、リアスは納得がいかない表情を浮かべていた。
(あり得ないわ。サイラオーグが大事な試合をすっぽかすなんて。
非公式の試合ならいざ知らず、この試合は魔王様のみならず全世界が観戦している。
そんな舞台で、自ら恥を晒すような真似をするなんて……)
気が抜けた様子のイッセーを他所に、リアスはインタビューも無視して
神妙な面持ちのまま控室へと戻って行った。
結局、インタビューはイッセーが適当に調子のいいことを言い
それがグレモリーチームの総意として扱われることとなり一悶着起るのだが
それはまた、別の話である。
――――
「……これは……グレイフィア、サイラオーグ君とは連絡が取れないのかい?」
「はい。先程から連絡を試みているのですが、一向に出る気配がなく……」
この異常事態には、流石に主催たる魔王も動かざるを得なかった。
何せ優勝最有力候補の突然の試合放棄だ。観客の盛り上がりは一気に困惑へと変わる。
来賓として来ている他神話の神々やアザゼルの他にも
ユグドラシルの重役も何事かが起きた事は肌で感じたが
事態が事態であるがゆえに、静観の姿勢を取っていた。
緊急事態に気を揉んでいる魔王の下に、直属軍がやって来たのはすぐの事であった。
「どうした? 随分と慌てているようだが?」
「君は……ハマリア!? 軍の方はどうしたんだい!?」
やって来たのは正規軍たる
サーゼクスの言う通り、警備を担う軍の指揮を執る立場であるため
身軽に動ける身の上では無いはずである。
「部下が優秀でな。貴様の狼狽える顔を見に来る余裕位は出来ているのだよ」
「……相変わらず手厳しいね君は。だが、それだけじゃ無いんだろう?」
「無論だ。貴様らが欲しがっている、サイラオーグ・バアルの所在を教えてやろうというのだ。
一応、私は司令から言伝を預かった立場だが……そろそろ頃合いか。
私の口から聞くよりも、ニュースを見た方が早いんじゃないか?」
ハマリアの言葉を受け、会場を映し出しているモニターの一つをニュース番組に変える。
今日も繰り広げられているJOKER出没のニュースが終わった後
臨時ニュースとして、サイラオーグ・バアルの身元詐称問題が浮上したという内容のニュースが
アナウンサーによって読み上げられていた。
「み、身元詐称問題だって!? 彼は、バアルの悪魔では無いとでも言うのかい!?」
「我々もタレコミの情報を見た時は目を疑ったよ。ああ、情報源は秘匿とさせてもらうがな。
あの様子では、少なくともゼクラム・バアルはいい顔をするまい。
そうなれば……わかるな?」
「まさか……ゼクラム様がサイラオーグ様の出場を取りやめにしたと?」
ハマリアの、イェッツト・トイフェルの下に届けられたタレコミ。
それこそ、先だってセージとサイラオーグのスパーリングの際にサイラオーグが見せた
悪魔にとっての特異性――
――光力に対する過剰な耐性
であった。
それをバアル家は「サイラオーグは悪魔ではない」と解釈したのだ。
彼自身は間違いなくゼクラム・バアルの系譜であり
ウェパル家より嫁いできたミスラ・バアルが腹を痛めて産んだ子に違いは無いのだが。
それでも、光力による攻撃を受けて全く影響を及ぼしていないという情報は
彼が悪魔ではない、と言う疑惑を抱かせるには充分であった。
「その通りだ。そして今、ゼクラム・バアル自らサイラオーグに対し査問を行っている。
彼は悪魔でありながら生まれつき魔力が備わっていないことは周知の事実だが
それが『はなっから悪魔ではない』となると事情が異なる。
悪魔でも無いものがバアルを名乗り好き勝手することを看過できなかったと言う訳だ。
どう足掻いたところで、今の試合に出られるはずも無かろうよ」
「そんな事が……」
納得できたか? と言わんばかりにハマリアはサーゼクスを見遣る。
実際には、まだサイラオーグが悪魔では無いという確たる証拠が出ている訳ではないのだが
光力に対するその異常な耐性に加え
ゼクラムともなればサイラオーグの持つ
その事を踏まえた上で、サイラオーグは悪魔ではないという結論を導き出したのだ。
そもそも、純血悪魔が神器を使える時点でおかしい。
「だが、貴様にとってはある意味喜ばしいことかもしれんな。
私には、貴様の妹のチームがサイラオーグのチームに勝てたとは思えん。
たとえサイラオーグが悪魔ではなくとも、だ」
「……リアスの勝利は喜ぶが、それはあくまでリアスが全力を尽くし戦った話だ。
今回のように、不戦勝を祝う程私も恥知らずじゃない」
どうだか。と零すハマリアだが、その後ろではグレイフィアも同意するかのように頷いていた。
普段のサーゼクスのリアスに対する態度から
今回に関してはサーゼクスの言葉よりもハマリアの言葉の方を信じるに値する。
そうグレイフィアは受け取ったのだ。
「さて。昔の女はそろそろお暇させてもらおう。
グレイフィア・ルキフグス。こんな男を選んだことを、精々後悔しないようにするのだな。
貴様が悔恨した時、真に苦しむのは貴様らが尊ぶ若手の悪魔……ミリキャスなのだぞ」
最大級の地雷を捨て置き、ハマリアはVIP席を後にする。
グレイフィアもサーゼクスの元カノの存在は知識として知ってはいたが
それがハマリアであることは今初めて知りこの手の話題に食いつきの早いアザゼルからは
サーゼクスもグレイフィアも根掘り葉掘り聞かれることとなった。
アザゼルの質問責めや、グレイフィアの温度の下がった目線にサーゼクスがげんなりする中
さらなる情報が飛び込んできたのだ。
――たった今入った情報です!
現在行われているレーティングゲーム会場の来賓室にて
ゼクラム・バアル大王の変死体が発見されました!!
ここで言われている来賓室とは、恐らくはゼクラム・バアルの個室の事であろう。
今このVIP席に、ゼクラム・バアルはいない。
そもそも彼は今、サイラオーグの査問を執り行っていたはずだ。
いずれにせよ、現政府の在り方にも重大な影響を齎しているゼクラムの訃報は
現政府の基盤にも影響する。
表面上は平静を取り繕っているサーゼクスだが、同席していた各神話体系の主神達は
そのサーゼクスの姿勢が虚勢であることをすぐに見抜いていた。
「……はめられたな、サーゼクス。
さっきのハマリアって女、こうなることを見越してニュース映像を流させたんだろうよ。
お前にゃ悪いが、今の悪魔政府の為政がどういう状況になっているか位
この場にいる神々は全員知ってるだろうよ。で、その根幹を担う悪魔が急死した。
野心を抱いた奴なら、これ幸いにと冥界に侵攻してくる可能性だってあるぜ」
「フン。心配せずとも、アインストやクロスゲートで手一杯の現状で
そのような死体蹴りに興じる余裕など無いわ。
信じる信じないは、そっちの勝手だがな」
「……貴様の想像に任せよう」
アザゼルの指摘に対し、ハーデスとロキはここぞとばかりに
意地の悪い笑みをサーゼクスに向けて浮かべるばかりである。
彼らの普段の態度を知っているサーゼクスからすれば、肝の冷える思いであった。
人間チーム対フェニックスチームが意外と長引いた反面、こっちはこんな有様。
ライバルとの戦いが全て飛ばされて「戦いの中での成長」ではなく「外付けパワーアップ」極振りになってる原作主人公。
こんな「出来過ぎた展開」に違和感を覚える原作ヒロイン。
そして魔王にも特大の地雷が投下されたり。
名前元ネタ程拗れてませんが昔付き合ってたサーゼクスとハマリア。
ユーグリットが連れ戻そうとしていたり、グレイフィアはグレイフィアでサーゼクスに呆れていたり
その一方でルキフグスからしたら問題のある存在。
恋愛要素薄めても修羅場って出来るんだなあ。
ゼクラムが死んだことがバレた。
アインストやクロスゲートっていう大きな敵がいるから侵略行為働いてないだけで
これらが無かったらロキ辺りは間違いなく要らんちょっかいかけていたでしょう。
そしてゼクラムが死んでもJOKERの出没には何ら関係が無い。
内憂外患ってレベルじゃないな、我ながら。