ちょっと配分ミスったかもしれません。
……実のところは筆のノリ具合に斑があっただけなんですけどね。
腹が落ち着くまでの間、ぼんやりと店内を眺めていた。
さっき見かけた怪しい売人はもういない。客と思しき人物も、同じく。
まばらな客を眺めながら、満腹で頭がぼんやりしているところにマスターから話を振られた。
「いやぁ、びっくりしちゃったよ。まさか午前中で『世界の破壊者』パフェが
2つも出るなんてさ。おまけに2つとも完食だもんね。君フードファイターか何か?」
「……や、違いますよ?」
それなりに健啖ではあると思っているが、フードファイターやってる気はない。
他の同年代に比べたら、普通かちょっとよく食べる程度だと思ってる。
白音さん基準を、俺に当てはめたらそりゃあフードファイターやれるかもしれないが。
ふと、気になったので俺はそのパフェを完食したもう一人について聞いてみると
マスターはあっさりと向こうの席の人、と教えてくれた。
振り返ってみると……
…………!?
「あっ、あまっ、あっ……!!」
声にならない声を上げる俺の下に、旧海軍将校の軍服を着た男性がやってきて口を押さえる。
もごっ、苦しい。腹は落ち着いてきたが、違う意味で苦しい。
「……お静かに。ここにはお忍びですが、一応皇室関係者でもありますので
不要な騒ぎは起こさないようにお願いします」
皇室関係者がなんでカラーギャングのたまり場にいるんだよ!? と思いもしたが
それについて突っ込むのも野暮かもしれない。
そういえば、皇室関係者でやたらと大食いなのは……
……あのお方を皇室関係者というのは、いやそうなのかもしれないけど……
「あっ、あなたは……あ、楽にしてください。
公の場ならともかく、ここで畏まられても困りますし」
……天照様。いつぞやの会談の時のような着物ではなく
リブ生地のニットにアイボリーのジーンズという
ラフな出で立ちでこの店に来ていた。そのラフな格好が
余計に付き人の格好と比較して浮いてしまっているが。
彼女こそ、明日の会談に俺に警護に入るよう指名された一柱でもあらせられる。
俺の記憶では、天照様は白音さんと互角かそれ以上の健啖家だったはずだ。
そんな彼女ならば、あの「世界の破壊者」パフェを完食していても不思議ではない。
「……つかぬことをお聞きしますが、何故このような場所に?」
「駒王町でも国民の皆様の生活を体験していたんですよ?
……あまり参考になりませんでしたが。
そこで、今度は
素性を知っている――いや、知ってしまっているというべきだろうか――俺は声を抑えながら
天照様に何故このような下々の場所におわせられるのかとお尋ねする。
そして答えられた内容は、まるでどこかの八代将軍みたいなお答えだった。
駒王町の次は沢芽市か。この分だと
いや、或いはもう行ったのかもしれないが。
それにしても、言い伝えにあるのとはまるで合致しないな。
不敬罪もいいところなので口には出せないが、どちらかと言えばインドア派だったと思うのだが。
まぁ、あまりインドアされても太陽が無くなってしまうのでこれくらいがいいのかもしれないが。
「今回は北欧の皆様とお話させていただくにあたりまして
我が方からも前回来ていない者をお呼びしております。
ここは私の私的な用事ですので同伴してはおりませんが
今回は我が弟も同時に呼んでおります」
天照様の弟……月読様? それとも須佐之男様?
須佐之男様だと要らん騒ぎが起こりそうな……
い、いや三大勢力が関わってない以上それは無いか。多分。
俺も今回は前回みたく針の筵に立たされることも無いだろう。というか前回が頭おかしすぎる。
いや、三大勢力には俺は言いたいことは山ほどあるし、多分今もあると思う。
だけど、それを公の場に立たせて俺の口から言わせるってかなり無謀だったと思う。
別に三大勢力と仲良くする気は無いが
あの件で特にサーゼクス辺りにはかなり敵視されてると思う、俺。
まさかあの件の当てつけであの事件が起きた……いや、いくら何でも考えすぎか。
「天照様。念のため申し上げておきますが、今回自分は警護のために参加した身です。
それに、三大勢力ならばいざ知らず北欧神話に対し物申すようなことは現状一切ございません。
従いまして、今回の会談への自分の参加は……」
「くすっ……あ、ごめんなさい。
心配せずとも、今回は本当にあなたの実力を見越して招集させていただいただけです。
会談で発言してもらおうとは、考えていませんよ?」
実力……ねぇ。天照様はそう仰るが、俺としては
いくら腕っぷしが強かろうが、所詮は未成年だ。公の場に表立って出るのは何か間違っている。
いや、裏ならいいってわけじゃなく。寧ろ裏こそ本当にマズい気もするが。
だがここで俺が辞退しては、天照様の顔に泥を塗ることにもなる。
……今思ったが、中々面倒な事やらかしてくれてない? この神様。
「『何で自分が』とお考えでしたら、そうですね……
怪異に対して私が信頼を置ける者である、としておいてください。
超特捜課の皆さんではやはり万が一に際して力不足は否めませんから。
本来なら、ヤタガラスというれっきとしたこういう場に適した組織があるのですが
ヤタガラスは終戦を機に規模を大きく縮小されてしまいまして……
ヤタガラスが全盛期ほどの勢力を持っていれば
あなたにこんな苦労をさせずに済んだのですが」
ヤタガラス? 聞き覚えのないその組織の名前に、付き人の方が説明を補足してくださった。
いや、八咫烏って鳥がこの国にとって重要な鳥ってのは知ってるけど。
「『超國家機関ヤタガラス』。かつて大正の時代には、この国の霊的防衛を担い
ですが、先の世界大戦で日本はその国力を大きく衰退させ、GHQに接収されました。
ここは学校で学んでいるでしょうから詳細は省きますが、その際に葛葉も解体され
今は末裔が探偵をやっているという噂を耳にする程度です。
それに伴いまして、五大宗家もばらばらとなり、葛葉を併せヤタガラスを形成する
六歌仙とも呼ばれていましたが、現在ではその力を大きく削がれています。
……これは私見にすぎませんが、こうなることを見越して
GHQはヤタガラスの力を削いだのかもしれませんね。
勿論、GHQと三大勢力が繋がっているってトンデモな仮説が前提ですから
与太として聞いていただくべき話ですが」
……ちょ、ちょっと待ってくれ!
私見とは言え、皇室関係者がそれ言っちゃっていいのかよ!?
日本が戦争に負けたから霊的防衛力が落ちて、その結果三大勢力が跋扈するようになったって!
いや、今の俺に「日本が戦争に負けなかったら」なんて
仮説を持ち出されてもピンとこないけどさ……
戦争に負けた後の価値観で育ってきた俺にしてみたら、ちと受け入れがたい話でもあった。
「そこまでにしましょう。戦争の勝ち負けがどうこうよりも、今あることが全てです。
何もセージさんにヤタガラスの役割の全てを押し付けるつもりはありませんし
そこまでヤタガラスは安い組織でもありません。
ただ、あなたの心の赴くままにその力を揮ってほしいのです」
「私としては、ヤタガラス再興に力を貸していただければありがたいのですが。
『ヤタガラスさえあれば』と思った事は、過去幾度かありますので。
……それも、三大勢力絡みで」
……あー、そういう事か。まぁ、何かしら目的があって俺を呼んだって打ち明けられる方が
こちらとしても信用できる。しかし、国の霊的防衛機関の再興か……
「……それ、公務員扱いになりますか?」
「表向き存在しない組織なので、よくてNPO法人扱いですね」
……チッ。
公務員ならかなり心が揺れ動いたんだが、NPO法人じゃなぁ……進路的にはちょっと。
などと現金な事を考えながら、俺はヤタガラスへの協力に関しては保留とすることにした。
理由はいくつかあるが、まず警察とヤタガラスの関連性が見えない。
国の機関である以上、警察と敵対する組織ではないと思うが
警察は説明できる組織であるのに対し、ヤタガラスは説明が困難だ。
今と同じように周囲に話すわけにはいかない。
つまり、訳の分からないNPO法人に加入するってのは色々と、マズい。
それが本当は国営の機関だったとしても。
……いや、これが無いから三大勢力が蔓延った、などと考えると
ヤタガラスに手を貸すのは吝かではないんだが……
「今はそれで結構ですよ。万物は時代とともに移ろうものですから。
それに、今の五大宗家や葛葉の事を考えると、前のままヤタガラスを復興させるのは
最悪ヤタガラスが三大勢力――特に冥界に乗っ取られかねませんからね」
「……それもそうですね。出過ぎたことを言いました。
それより、そろそろお時間が……」
俺がヤタガラスへの参加を後ろ向きに考えていると、向こう側からこの話を取り下げてきた。
確かに、姫島と……真羅も、だったっけ。悪魔の手に落ちている。
ここで五大宗家にその力を左右される国防組織を復興させるのはマズいかもしれない。
国防組織が外部勢力に乗っ取られるとか、笑い話にもならない。
「あら、もうそんな時間でしたか。ではセージさん、明日はよろしくお願いしますね」
付き人に手を引かれながら、天照様はドルーパーズを後にする。
今の話の一部分を聞いていたのか、マスターが俺に
「今のどこかのお偉い人? それともやんごとなきお方!?」とか言ってきたので
俺は笑ってごまかしたが。
……言えるわけないだろ、本当の事。フューラー演説抜きにしたって。
――――
それから、俺は腹ごなしにビートライダーズのステージを眺めていた。
来る途中、周防巡査が話していた青い部屋――ベルベットルームの扉らしきものが見えたが
どう頑張っても開けられなかったので、結局無視した。
札も出ていないので営業中かどうかさえわからない。
いや、そもそも店なのか? ベルベットルームって。
とにかく、そんなわけなのでここでビートライダーズのダンスを眺めていたのだ。
チーム魍魎、チームプリズムリバーは日中のこの時間は活動していないので
それから有名なチーム鎧武にチームバロンと、有名どころばかりを眺めていた。
それと、今日はビートライダーズホットラインの公開録音があったらしく
それも併せてステージ前は人でごった返していた。
……だからだろうか。俺がここで「ありえない人」を見かけたのは。
「――姉さん!?」
人混みから離れるように、亜麻色の長い髪の女性が離れていくのを見た。
あの後ろ姿、俺の見間違いでなければ――明日香姉さんだ!!
俺は思わず、後を追いかけた。フリッケンとアモンが何か言ってた気もするが、聞こえなかった。
こんなところで会えるなんて! 俺は、どうしても姉さんに会って話したいことがあった。
そして、言わなければならないことも。
それを言わなければ、どうしても姉さんに伝えなければ。
それだけを考えていたため、俺は周囲の情報収集を完全に怠ってしまっていた。
――姉さんが歩いて行ったのは、ステージとは全然違う裏路地。
けれど、その先で俺は姉さんを見失ってしまう。
ここまで来ておいて、姉さんを見失うなんて!
『……見間違いじゃなかったのか? いや、駒王町を出たって話だから
沢芽市にいたっておかしくはないだろうけどよ』
「あれは確かに姉さんだった! ……だけど、言う通り見間違いだったのかもしれないな……」
アモンの指摘に、俺はそう思わざるを得なくなってしまった。
何せ、確かに駒王町で姉さんを見かけるよりは説得力があるが
姉さんが沢芽市に来たという情報など、俺は全く知らない以上
今見たのが姉さんだと断言することが出来ないのだ。
ぬか喜びに肩を落としていると、背後から声をかけられる。
どこかで聞いたような声だが……
「よう、その様子じゃ尋ね人はいなかったみたいだな?
だが、俺としちゃお前に用があるからラッキーなんだがな」
振り返ると、DJスタイルのややガタイのいい男性が立っていた。
この男は確か……ビートライダーズホットラインのパーソナリティーをやっている――
「俺はDJサガラ……って、知ってるかな?
お前は……警察で噂になってるぜ。超特捜課の高校生特別課員、宮本成二」
「番組は聴いたことが……
って、俺そういう方面で噂になってるんですか」
そう。DJサガラ本人だ。だが、今公開録音をやってるはずじゃ……?
それより、嘘か真か俺は警察で噂になってるのかよ。
ガタイのいいオネエと公園で謎の特訓をしている高校生、ならわからなくもないけどさ。
「俺も職業柄、色々な情報は集めてるんだよ。
番組なら、今はニュースの時間だとよ。
駒王町ほどじゃねぇが、沢芽市も治安はよくねぇからな。
そういう不安定な環境でも、逞しく生きようと足掻いている
ビートライダーズの連中には頭が下がるぜ」
しがないDJにも治安が悪いといわれるほどなのか、沢芽市は。
となると、よくこんなところで会談をやろうって気になったよな……
十中八九、クロスゲート絡みだろうが。
「ところで、俺に用事ってのは?」
「……これからの戦い、お前さんにはこの部屋に行ってもらいたい。
『太陽』の特異点から渡されたんだろ? 『無地のタロットカード』をよ」
…………太陽の特異点? なんのこっちゃ?
無地のタロットカードは……
けれど、なんでそれをDJサガラが?
「……持っていたとしたら、なんなんですか」
「別になんもしねぇよ。俺としては、お前に
この部屋は、本来ならペルソナっつー力を専門に扱うところだが
ペルソナも神器も発現は心に左右される。そういう意味では同質の力だ」
周防巡査に聞いた覚えがある。ペルソナも神器も性質は近い、と。
だから俺にフリータロットを託した、と。
そのため、俺はそのフリータロットを活用すべく偶々見かけたベルベットルームに入ろうとしたが
ここのベルベットルームは鍵がかかってて……現在に至るってわけだ。
神器についても詳しそうだけど……神器はフューラー演説でも多少触れたしな。
とは言え、DJサガラはそれ以上に知ってそうだが、今はそれどころじゃないか。
「あん? お前、ベルベットルームの『鍵』は貰ってねぇのか。
……あー、あいつらはフィレモンから直接だったからな。鍵って概念が薄いか。
ベルベットルームはな、一応資格――ま、ペルソナ能力か、神器適正だわな。
そうした力が無ければ入れねぇ。まぁ、会員制クラブみたいに入る権利を有している奴と
一緒に行けば、そうした力が無くとも入れるが……」
「いや、俺は神器だったら目覚めているし、
反論する俺を、DJサガラは指を振って制止する。
神器や、ペルソナ能力に覚醒するだけでは、ベルベットルームには入れないのか?
「『鍵』がいるんだよ。ベルベットルームは夢と現実、精神と物質の狭間にあるとされる場所。
そこには強大な力が渦巻いているからな。ただペルソナや神器の力を手に入れただけじゃ
その扉をたたくことは出来ねぇ。入れるのは『鍵』を持っている奴か
普遍的無意識のポジティブマインドに直接認められた奴位だな」
つまり、迂闊に強大な力に触れないようにするためのセーフティーってわけか。
そのセーフティーを解かなきゃならない事態って、今それほどの事態……だわな。
クロスゲートの戦力は、はっきり言って測定できないし。
「前置きが長くなっちまったが、こいつがベルベットルームの鍵だ。受け取りな」
そう言って、DJサガラは俺に黄色の蝶が象られた鍵を手渡した。
受け取った鍵は、握りしめるとスッ、と消えてしまった。
「それでいいのさ。それで、ベルベットルームに自由に入れるはずだ。
さっきも言ったが、ベルベットルームは夢と現実、精神と物質の狭間にある場所だ。
思いがけない場所に、入り口があるかもしれないぜ。例えば……夢の中とか」
今一要領を得ないが、DJサガラは俺がベルベットルームに入れるようにして
一体何を狙っているのだろうか。
「……何が目的なんです?」
「俺か? 俺はただ見守るだけだ。世界を大きく変えるはずだった赤龍帝は
お前の活躍でこっち側での社会的地位を失墜させたからな。
今度は、お前が世界を大きく変える番だ。
……もう一つ、その失墜した赤龍帝に、化身の一つがちょっかいをかけてるからな。
俺としちゃ、それが気に入らねぇ。ただの化身の分際で、まるで本物みたいに振舞ってやがる。
お前がまた赤龍帝の鼻を明かしてくれれば、俺としちゃ胸のすく思いなのさ」
……????
いまいちよくわからない。わからないが、こいつはリー以上に危険なにおいがする。
いや、比べ物にならないレベルだ!
ベルベットルームに入れるようになったのは感謝すべきかもしれないが
こいつは…………味方だと言い切れない!!
「さて。そろそろ俺も収録に戻るとするかな。
ビートライダーズの活躍も、お前の活躍も、俺はこの沢芽市から見守らせてもらうぜ」
立ち去っていくDJサガラの後姿を、俺はただ黙って見送った。
心にざわつくものを感じながら、会談前日の一日は過ぎていくのだった……
天照様がディケイドパフェを食べ、DJサガラがベルベットルームの鍵を寄越す。
一体全体何が起きてるんだよ!?
>ヤタガラス
デビルサマナー(葛葉ライドウ)より。
戦後(あの世界でWW2が起きたかどうかはともかく)どうなったかは不明ですが
この手の戦前活躍していた組織って
戦後軒並み解体されてるイメージですので拙作においても弱体化。
そしてそれが原因で三大勢力が蔓延ることに……
心情的にも、能力的にもセージがヤタガラスに入るのはありなんです。
やるかどうかは別として。
因みに、ゼノヴィアが参加し伊草さんが所属している蒼穹会も
元々はヤタガラスの支援組織って裏設定があったりなかったり。
葛葉と五大宗家の関係も、独自設定ですよ?
>DJサガラ
ぐっさん。
ヘルヘイムというよりは、ニャルラトホテプの化身の一人かもしれません。
目が金色かどうか……それは、どうなんでしょうね。
>ベルベットルーム
P3以降は鍵が必要ですが、拙作ではP2設定ですので。でも鍵出してます。
デザインはP3のものとは違い、フィレモンを意識してます。
中にいるのは画家とピアノマンとオペラ歌手。
エレベーターガール? ドアボーイ? 秘書? 双子の看守? 知らない人たちですね。