ゼクラムの急死、サイラオーグの騒動を経ても
レーティングゲームの試合そのものは変わりなく行われた。
参加チームのうち2チームが脱落した形となるが、2大魔王が推している
グレモリーとシトリーが脱落していないことから、試合を強行する運びとなったようだ。
人間チームのスポンサーとして暗躍していたユーグリットではあるが
試合が中止となればそれはそれでいい、とも考えていたようだ。
寧ろこの異常事態に変わらずレーティングゲームを行っている魔王に対し
さらなる不信感を募らせていたのだった。
(バアルの所のがとんでもない騒動を起こしてくれたようだけど
それにもかかわらず試合続行とはね。事態が事態だから下手に公表するより
普段通りの事をするべきと判断したか。まあ、いつもの甘ったれ魔王らしいけど。
…………にしても)
――そして、そのレーティングゲームだが。
「…………っっっっなんで、なんでソーナちゃんが負けるのよぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
セラフォルーの金切り声が木霊していた。
人間チームとシトリーチームの試合は、セラフォルーの鶴の一声により
従来通りの方式で行われることとなった。
即ち、試合用のフィールドを用意しその中で両チーム全員が戦うという流れとなっていた。
そしてご丁寧に、セラフォルーはソーナが戦いやすいであろう
人間界のショッピングモールを模した空間を破壊禁止の試合用フィールドとして指定したのだ。
……だが、その人間界のショッピングモールと言うのが仇となったのだ。
そのフィールドのモデルとなったのは、ジュネス駒王店。
つまり、セージのバイト先でもあった。
そんなこととは露知らず、セラフォルーはソーナの戦いやすいであろう舞台を
設定したつもりであった。だが。
「そもそもどうしてソーナちゃん達の行く先々にあいつらが先回りして出て来るのよ!
それに貯水タンクに聖水混ぜるなんて卑怯じゃない!
スプリンクラーの水が聖水って、普通に拷問よ!!
サーゼクスちゃん! 一体これはどうなってるのよ!!!」
「い、いや……私にもさっぱり……だが彼らも施設の破壊はしていないし……
スプリンクラーの作動も、実際に火事を起こしたわけでも無いし……」
あまりにもあまりなワンサイドゲームっぷりに
セラフォルーは当たり散らすことしか出来ずにいた。
そう。結果は人間チームの勝利、それも圧勝であった。
シトリーチームはその眷属のほとんどを無力化され、「
いくら相手が特殊装備を満載した人間や妖怪の集まりとは言っても、多勢に無勢だったのだ。
(まあ、原因はわかってますが……敢えて言う事も無いでしょう。
自分の妹を贔屓するあまりに人間への注意が疎かになった。
姉としても、悪魔としても、外交官としても未熟な証拠です。
経験もまともに積んでない悪魔を魔王に、それも外交官に据えようなどと
サーゼクスを神輿にするのはわかりますが、実際に動く必要のある彼女をこの椅子に据えたのは
私に言わせれば、悪魔政府の――大王派の不始末だとしか思えませんね。
そこまで、旧レヴィアタンを続投させるのを拒絶するものなのですかね)
ただ一人、薮田直人だけがそのからくりを知っていたためか
呆れ果てた様子で状況を眺めていたのだった。
――――
「罠とかじゃなく、普通に偶々こちらの有利に働いた、ってわけですか」
「……俺があそこのジュネスでバイトしてるって話。
調べようと思えば調べられたと思うんですがね。
そこはあんな学校でも生徒のプライバシーは守ってくれたと思うべきかもしれませんが」
ソーナ・シトリーが率いるチームは駒王学園の生徒会でもある。
そのため、教師とも近い位置にいるため、セージのバイト先も調べようと思えば調べられたのだ。
だが、実際にはそれを知らなかったかのように、セージの立てた行動に対し
シトリーチームは完全に後手後手に回っていたのだ。
結果、見事なまでのワンサイドゲームでの敗北を、シトリーチームは喫したという事になる。
「三人組によるプライバシー侵害が常日頃行われていた学校でか。そりゃ笑い話か?」
「…………返す言葉もありません」
安玖巡査は警視庁からの異動組ではあるが、駒王町でどのような事件が起きていたのかは
前もって情報を仕入れているのだ。そうでなくとも、継続人事として
彼から駒王町でどのような事件が起きているのかの情報共有をするのは
警察官としての職務執行において、なんらおかしなことは無い。
そしてそこで話題に上がるほどには、あの三人組による駒王学園での狼藉は
駒王警察署でも知れ渡っていたのだ。
「しかし……君も随分あくどいな。貯水槽の水を聖水にして
相手チームが集まったところでスプリンクラーを作動させて一網打尽にするとは」
「あくまでもスプリンクラーの誤作動。設備は一切破壊していない。
誘導もバックヤードを活用する。
相手はフィールドやルールを自分達の有利になる設定をしたのかもしれませんが
ここまで見事に裏目に出るものなんですね」
「聖水に関してはこれが初めての使用法じゃないんで。
それに、俺はジュネスじゃレジ打ちより品出しメインだったんで
バックヤードを活用したルート設定はいつもやってた事なんで。
……それに、警告も出した」
以前、セージが聖水を使って悪魔を追い詰めた際には
その相手の悪魔を再起不能にまで追い込んでしまっている。
その時よりは面識のある相手であることもあり、再起不能にするには忍びないと考えたセージは
作戦指示のために立て籠もった防災センターから、ご丁寧に店内に向けて全体放送を流し
そこから警告を発したのだ。
だが当然、相手がその警告に従うはずもなく。
――結果として、セージにしてみればいつぞやの惨劇の再来とまでは言わないにせよ
それを彷彿とさせる事態を、再び招くこととなったのだ。
「私としてはちょっと暴れ足りない気もするにゃん。
「仕方ないじゃないですか。スプリンクラー作動させる中だと
黒歌……ハチワレさんは動きが鈍くなる以上
水に強いメンバーが出る必要があったわけですし」
「確かに見てくれは水着みたいだが、教会の戦闘服は水着では無いのだがな。
そりゃあ水泳の授業だって出来んことは無いし、その気になれば風呂だって入れるが」
「……一応言っておきますけど、日本の公衆浴場は原則水着禁止ですよ」
スプリンクラーの作動する内部での足止めはゼノヴィアと変身した光実。
そして火力過剰にならないように可能な限り武装を落とした氷上巡査のゲシュペンストが用いられ
そのアシストとしてバックヤードから
水に弱いマスク・ザ・ハチワレとカムカム・ミケが動く形となった。
「……まさか、いの一番で俺が戦力外になっちまうとはな。
これなら、セージと一緒に防災センターに籠ってた方が良かったか?」
「神経断裂弾とまでは言わないにしても、祓魔弾は有効なんですからいいじゃないですか。
それに、対怪異のプロとも言える我々が怪異とは言え高校生に嘗められるのは
その方が問題だと思いますけど」
「……ここぞとばかりに言うじゃねえか氷上。
てめえだってゲシュペンストの適正が俺らの中で一番高かったから
ゲシュペンスト使ってるだけで
俺だってゲシュペンストの操作の訓練自体は受けてるんだからな?」
「はいはい、そうかっかしないにゃん。
子供の前で大人が喧嘩するほど大人げないのは無いにゃん。
そういやセージ。大人って言えばあのビナー……なんだかいう
へんてこな悪魔はどこ行ったのにゃん?」
氷上と安玖の口喧嘩自体は超特捜課においてはしばしば見られた光景ではあるが
今はそのブレーキ役とも言える霧島巡査や柳警視、蔵王丸警部がいない。
それもあってか、珍しく黒歌が喧嘩の窘めに入ったのだ。
彼らを除けば、このチームは皆十代の学生なのだから。
その黒歌が投げかけた、ふとした疑問。
――ビナー・レスザンがいない。
彼の不在による失格などは無いが、単純にメンバーが欠けた状態で
試合に臨まなければならなくなるため
ただでさえ戦力の層が薄いセージのチームにはこの上ない逆風となったのだ。
「何か忙しい、って不参加表明出したんですよ。
多分、サイラオーグさん絡みじゃないですかね。何で他人のチームの人員を駆り出してくるのか
全く理解に苦しみますが。或いは、俺達に力を貸しているのは本当にただの道楽で
事ここに至って本業が忙しくなってきたと見るか」
「……本当に得体の知れない奴だな。と言うか、そんな緊急事態でまで
こんなゲームをやるとは、悪魔ってのは能天気なのか、それとも……」
「…………無責任なだけよ。人を蒐集品か何かとしか思ってない。
自分達の勝手で人を支配下に置いて
都合が悪くなったらすぐに悪者扱いして処分しようとする。
世間じゃ天使が傲慢の権化みたいな言われ方してるらしいけれど
私に言わせれば悪魔だって十分傲慢の権化よ」
「確かに、今の悪魔の元締めとも言えるルシファーは傲慢の悪魔だったか」
はぐれ悪魔絡みで実感のこもった恨み節を述べる黒歌。
セージもまた、声に出しこそしなかったものの
悪魔絡みの傲慢には間近で触れていたので、全面的に同意していた。
無意識に、先の試合で付けられた傷痕を擦りながら。
「……うん? セージ、まだ痛むのかにゃん?」
「え? ああ、何分妖刀で斬られたのなんて初めての経験なので
まだ少し違和感があるような、無いような……? ってなところですよ」
「……あのな。怪異に間近で触れてる奴に言っても仕方ねえが
普通は妖刀でなくとも刀で斬られる経験っての現代の日本人はしないもんだ。
それにしても、まさかJOKERが試合場内に出て来るとは予想外だったな」
「いくらバックヤードとは言え、ですね。警備体制に穴があるんじゃないでしょうか?」
そう。セージは先の試合において、バックヤード奥にある
防災センターに立て籠って指令を送る立場にいたが
そこに突如現れたJOKERの急襲を受けてしまったのだ。
その際に妖刀で斬りつけられた傷は、ゲーム後の治療で回復したのだが
まだ違和感が残っているのか、無意識に傷痕を擦っていたのだ。
シトリーチーム相手だと多少逆風吹いたところで負ける要素が無い、と。
悪魔とは言え高校生の集まりと、特殊装備に身を固めた警察官では、ねえ。
おまけに地の利を与えようとセラフォルーが特別ルール出したら
その特別ルールを相手の方が活用してきたという。
そりゃ確かにセージはメタ張りではこの上なく強いタイプですが
ここまでメタらなくとも……
しかもセージじゃなくてソーナの後援しているはずのセラフォルーがメタ張りの基盤を固めてきたという。
そりゃ(セージがジュネスでバイトしてるなんて知らない)セラフォルーはキレるしかない。
一応、今回は原作5巻のリアス対ソーナ戦の流用。
デパート(と言ってたけど昨今どころか発売当時の実情やら考えるとイ〇ンみたいなショッピングモールかと)舞台だと
ジュネスでバイトしてるセージにしてみれば無双フラグなわけで。
前線切って戦うタイプではない生徒会ですが、そもそもセージがそう言うフィールド向けの能力ですし
ユグドラシルタワーで指揮取った時に比べて少人数・面識のある相手という事で
指揮伝達速度も段違い。基礎スペックで劣る分は聖剣やゲシュペンスト、龍玄でフォロー。
負ける要素が思いつきませんでした。
次回からは試合内容を少し掘り下げます。