「……やってくれたな、宮本成二」
試合を終えたセージを出迎えたのは、パトロンを名乗り出たユーグリット・ルキフグスだった。
大っぴらにはしていないものの、彼が人間チームに肩入れしているというのは
一部の悪魔ならば知っている程度には知れ渡っていたため
セージが先の試合で繰り広げた虐殺劇とも言える聖水散布に対して
関係各所に対する説明に追われていたのであった。
「確かに僕は君達のやり方について口出しはしないとは言ったが。
よくも純血悪魔たる僕の支援を受けておきながら、転生悪魔が殆どとは言え
悪魔相手に虐殺まがいの行いが出来たものだね」
詰るユーグリットに、セージは沈黙を返す。
言い逃れをするのでもなく、言い訳をするでもなく。
セージにしてみれば、間違ったことはしていない。
さりとて、反論をしたりましてや言い訳をするようなことでも無い。
故に、沈黙を返答としたのだ。
「だんまりか。まあ、僕としてはサーゼクスの見ている前で
グレモリーを潰してもらえればいいのだけれども。
だが今回のようなことを繰り返すようならば、君との契約も見直さなきゃならなくなるな。
わかるだろう? 僕にだって、悪魔社会における立場と言うものがある」
「……心配せずとも、グレモリー相手にあの手は使えない。
いくら頭脳派気取った脳筋でも、一度ならず二度も見せた手段が通用するなんて
俺としても思っちゃいない」
気丈に返すセージだが、その本音は
「出来るならもう二度と……は無理にしても、極力使いたくない手段である」事に起因していた。
何せやっていることは、猛毒を散布することによる大量虐殺と変わらないのだ。
そんな無体を好き好んでやれるほど、セージは冷酷非道では無かったのだ。
「……それよりも、あんたに聞きたい事がある。ビナー・レスザンって悪魔についてだ」
「ビナー・レスザン? 誰だ、そいつは」
「とぼけるな。奴とレイヴェルさんの試合を見て確信したんだ。
奴の使った能力や魔法。それはあんたのそれと酷似している。
俺は悪魔に詳しいわけじゃないが、あそこまで能力が酷似したりはしないだろう。
……ビナー・レスザン。それはあんただろう、ユーグリット・ルキフグス」
レイヴェル・フェニックスとビナー・レスザンの試合において
ビナー・レスザンはユーグリットが使った
それだけでは証拠としては不十分ではあるものの
ユーグリットとビナー・レスザンが同時にいないこと。
そしてアモンが感知した魔力の波動の近似から
セージはユーグリット=ビナー・レスザンではないかと睨んだのだ。
「……ま、アモンがいればバレるか。その通り、僕がビナー・レスザンだ」
「俺達の監視のつもりだったのか?」
「そんなところだね。それと万が一のための保険、ってところかな。
人間風情に悪魔が負けるのは癪だが、スポンサーとしてついているチームが負けるのも
それはそれで問題だ。そう思って、表立って出るわけにはいかない都合上
姿と名前を変えて参加していたんだが……」
「……その矢先にサイラオーグさんの事件、か」
ユーグリット自らがその名前と姿で人間チームに参加するのは問題である。
そのため「人間に興味を抱き、人間に加担した風変わりな悪魔」として
ビナー・レスザンを演じ、セージ達にまんまと紛れ込んでいたのだ。
『俺が言うのもなんだが、よくサーゼクス達を誤魔化せたな』
「モニター越しなら、たとえ相手がサーゼクスでもいくらでも誤魔化せるさ。
それに、ああ見えてサーゼクスはそう言う感知系の魔力には疎い。
寧ろ危うかったのは姉上だね。ビナー・レスザンの名前の由来は、姉上だから」
グレイフィア・ルキフグスこそがビナー・レスザンの名前の由来だというユーグリット。
その理由をつい興味本位から聞き出してしまったセージは
己の行動を若干だが後悔することになった。
次に語られたユーグリットの言葉は比較的纏められてはいたものの
その真意は、底冷えのするほど悪意に満ちたものだったからだ。
少なくとも、敬愛するものに対する感情には由来しない。
「当てつけだよ。ルキフグスを棄てて奔放に生きた姉上に対する、ね。
諸々の背景こそ異なってはいるが、あの当時姉上がしでかしてくれたことは
今僕がこうして君達に手を貸しているのと然程変わらない位の大事だったんだよ。
幸か不幸か、姉上から訴求されることは無かったけれど……
……ああ。そうか。それ位には、姉上は僕に興味が無いのか。
アモン。前に君が言ったことが朧気だが理解できたよ。
そして礼を言うよ。姉上に対する処遇。僕もこれはどうかと思っていたが……
……踏ん切りがついた」
『一人で納得するのは勝手だがな、一応約束上は俺達がサーゼクスの妹に勝たなけりゃ
お前の姉ちゃんの身柄は確保できないんじゃなかったか?』
「フッ。アモンともあろう者が、戦う前から負ける算段かい?」
皮算用をするんじゃねえ、とアモンは反論する。
アモンの言う通り、ここでグレイフィアの処遇を語るのは、完全に取らぬ狸の皮算用である。
アモンも、無論セージもリアス・グレモリーに負けるつもりは無い。
だが、セージにしてみれば以前戦った時とは相手の戦力が違うのだ。
今まで戦ってきた相手とは違う意味で、警戒している。
「……まあいい。約束は約束だからね。君達の要求は当初の予定通りとさせてもらうよ。
それからレイヴェル・フェニックスにも一応礼を言っておいた方がいいんじゃないかな?
何せ彼女のインタビューが無かったら、君達は外に出た瞬間石やら何やらぶつけられていたよ。
それ位、君達は悪魔社会においてはパブリックエネミーと化したんだ。
僕が態度を軟化させているのも、単に彼女のお陰だと思っていい。
……あれは驚くべき成長だな。兄に対する情が、雛鳥を一気に羽ばたかせたか。
あるいは、再編成した眷属どもの入れ知恵か……まあ、僕には関係ないが」
その言葉に、セージは「……だろうな」と小さく返した。
そもそもリアスの眷属であったライザーの時でさえ、評価が二分したのだ。
純粋な(とも言い難い部分はあるが)人間となった今、同じような手法を使っては
悪魔の側からすれば、将来有望な悪魔に牙を剥いた侵略者も同然だったのだ。
「さて。僕からは以上だ。君達が負けるとは思っていないが
リアス・グレモリーとの戦いの勝利を期待しているよ。
……ああ、そうそう。次の試合もビナー・レスザンは出ないから。
それと、僕がビナー・レスザンだという事は他言無用だ。
君の周りにフリージャーナリストがうろついている以上、余計な情報を与えたくは無いからね」
「サイラオーグさん絡みか? 教えてくれ、何が一体どうなったんだ?」
「サイラオーグ・バアルの顛末を君が知る必要は無いし、僕が話す義理も無い。
知りたければ自分でフリージャーナリストを使って調べるんだな。
僕が次の試合に参加しないのは、僕がいなくともグレモリーには勝てるだろうという期待と
悪魔としての矜持だね。確かに親魔王派からは評判のよくない僕だが
悪魔相手にああいうことをする奴と、一緒に戦いたくはない」
他に手段が無く、どうにもならないアモンはともかくとして
ライザーの顛末を知ってなおセージに力を貸していたバオクゥが特別だった。
ここに来て、セージはそれを思い知らされたのだ。
悪魔の常識に照らし合わせば、セージの振る舞いはスポーツ感覚の娯楽競技に
毒を持ち込んで一切の遊びも許さず一方的に蹂躙する、礼儀知らずでしかないのだろう。
「じゃあ、僕の話は終わりだ」
セージを追い払うように、ユーグリットも席を外す。
忙しそうに振舞うユーグリットだが、実際セージとの関係について
メディアに問い質されていたり、そのことについてサーゼクスやセラフォルーから
叱責されていたりと、気を休める間もないほどの状況下にいたのだ。
――――
ユーグリットの叱責から解放されたセージを待っていたのは
チームメイト……ではなく、リアス・グレモリーによる平手打ちであった。
殺気を隠そうともしない彼女の平手打ちに、セージは思わず反応してしまう。
カウンターこそ見舞わなかったが、リアスの平手打ちは空を切ったのだ。
「セージっ! よくも一度ならず二度までもあんなことをしてくれたわね!
ライザーはともかく、ソーナ達にまであんな仕打ちをすることは無いじゃない!
この際だから言わせてもらうわ。セージ、あなた……
……悪魔を殺して、平気なの!?」
鬼気迫る勢いでセージに迫るリアス。
必死に訴えかけるその目には、うっすらではあるが涙さえも浮かんでいた。
「……逆に聞くがな。お前達こそ人間を何とも思って無いんじゃないのか?
事が起きようとも原因のはぐれ悪魔を倒して、隠蔽して終わり。
賠償と言えば遺族に賠償金代わりの裏金を遠回しに支払う。
殺された人の遺族に対する謝罪の言葉の一つも無いのか?
俺はあんたの下にいた時、そう言う怨嗟の声をこれでもかって位聞いていたんだぞ」
セージはリアスの質問に質問で返すが、その内容は事実であった。
当時霊体であったセージは、駒王町に漂うはぐれ悪魔の犠牲者の霊魂の声を耳にし
それもあって、リアスら悪魔に対する不信感を募らせていったのだ。
セージしか知り得ず、共有しようにも彼女らの方針からは真っ向から対立する情報であったため
これが後に彼がオカ研において孤立する一因にもなったのだ。
「……悪魔の存在を表沙汰にするわけにはいかないわ。
表沙汰にしたら大混乱を招く、今フューラー演説でそうなっているのがその証拠よ。
まあ、他の要因もあるかもしれないけれど」
「……そうかもしれんが、モノだけ寄越して謝罪とするってのは誠意としてどうなんだ。
それに、さっきも言ったが何も知らずに殺されて、親しい人からも忘れ去られる――
そんな仕打ちを受けた奴が、怨念にならない方がおかしい位だ。
今の俺が接触したら、もしかしたら怨念として吸収できるかもしれない位には
強い負念と化していた霊魂もあったんだぞ」
セージの意見にも、リアスは思う所があったのか
唯々「私に言われても困るわよ……」としか返せずにいた。
確かに、セージの言葉はただの地方領主とも言うべきリアスに対して言うよりは
悪魔全体の姿勢である以上、サーゼクスら魔王に対して言うべきである部分も少なくない。
「ともかくだ。お前達悪魔がそう言う姿勢で人間や他の種族に接している以上
俺としてはそれを前提として悪魔に対する態度を貫き通す、それだけだ」
「ライザーはともかく、ソーナがそう言う悪魔じゃないってのは知ってるじゃない!」
「逆だろ。俺には寧ろライザーの方が『悪魔としては』真っ当に思えたがな。
少なくとも、俺が知っている限りでは公私混同はしていない。
翻ってソーナ・シトリーってのはどうだ。
駒王学園でもないのに駒王学園での肩書を振りかざす。
駒王学園の生徒会長が世間一般でどれくらいの立場なんだ。
そこまで駒王学園の生徒会ってのは偉いのか。それとも、まさかとは思うが……」
このセージの指摘に対して、咄嗟にリアスはセージの言葉を制する。
何を言わんとしたのか、似たような身の上であるが故に察したのだろう。
これに関してはリアスの落ち度では無いのだが、ソーナを庇い立てした以上
引っ込みがつかなくなってしまっていたのだ。
そう、セージは暗にこう言っていたのだ。
――魔王の妹だから、こういう振舞いをしても許される、と。
当然、それはリアスにもダイレクトに突き刺さる。
彼女にその意思があろうとなかろうと、そう言われて気分のいい話ではないのは明白だ。
しかもリアスは、こと駒王町においてはある意味ソーナ以上に奔放に振舞いすぎた。
セージが言及したのはソーナだが、それ以上にリアスに対する言葉にもなったのである。
「……セージ。あなたはまさか、悪魔と人間との間で戦争を起こすつもりなの!?」
「まさか。ここでの振る舞いはあくまで俺個人のものだ。
……とは言え、『人妖チーム』などと人間の代表みたいな扱われ方をされていては
そう言う風に思われても仕方が無いし、だからこそレイヴェルさんやらユーグリットが
会見に追われていたんだろうよ。
だがこれだけは言っておくぞ。地球上に人間ってのは60億はくだらないほどいるんだ。
いや、下手すりゃもっと多いかもしれない。
それだけの数の代表などと、どうしてそんな烏滸がましい事が言えるんだ。
あんた達だって悪魔に限定しても旧魔王派やら大王派やらに分かれてるじゃないか。
たまたま俺が、悪魔に対しての強硬派だった。それだけの話だ」
責任転嫁とも取れるセージの発言だが、彼自身まさか世界に60億は軽く超えるであろう数の
人間の総意の代弁などと、自惚れた振る舞いをするつもりは無いし
そこまでの責任は背負いきれない。
そこは、人間より絶対数で劣る悪魔との考え方の相違の根本であるとも言えた。
「……決めたわ。だったら私は、悪魔と人間の和平と共存のために、あなたを倒すわ!」
「……和平はともかく、共存だと? 寝言は寝てから言え。
あんたたちの常識じゃ、共存ってのは一方的に支配したり、不正や汚職を蔓延らせたり
上から目線で片手間に干渉してくるようなのが、それだっていうのか?
それに、いつあんたが悪魔の代表になったんだ。
まさか魔王の妹だからって理由じゃなかろうな?
そんな浮ついた考えで大それた看板掲げるんじゃねぇよ。
俺だって大それたことを言えた立場じゃないから、代表面してないだけだ。
だが……今や悪魔社会じゃ俺はパブリックエネミーらしいしな。身に覚えもある。
社会の敵を倒す、この上ない口実が出来たじゃないか。よかったな?」
セージの長台詞が終わった瞬間、彼の左頬にリアスの平手がめり込んでいた。
これには、先程避けて見せたセージも反応が遅れていたようだ。
「バカ言わないで! 社会の敵って事は……あなたは悪魔のほぼ全てを敵に回すのよ!?
そんなことになったら、魔王様はおろか他の悪魔もこぞってあなたを狙いに来るわ!
そうなったら、いくらあなたでも生きてはいられない。だったら、元とは言え主の私が……」
「……その覚悟を、もちっと早く兵藤相手に見せていられりゃ
あいつも今ほど道を踏み外さずには済んだかもしれないが……ま、今更か。
そしたら俺も元眷属として教えてやるよ。
――『人間を、八百万の想念を嘗めるな』。
万物に神は宿り、妖すらも神の側面。それが俺の物心ついた時からの言うなればの信仰だ。
これこそ自惚れだと思うが、俺は一人で戦っているつもりは無い。
お前達悪魔が理不尽を振りかざすから、俺はそれに抵抗しているんだ。
お前達を滅ぼすつもりで戦っているんじゃない。
聖水を撒いたのも、お前達悪魔が人間を甘く見ているから。
人間の恐ろしさを思い知らせるためのものだ。前回はともかく、今回はな」
その証拠に、致死量に成る程の聖水をかけたわけではない。
そうセージは締めくくる。実際、ライザーが再起不能に陥ったのは
その前に消火器で彼の炎を消されていたことも要因として含まれている。
今回はそうした「追撃ないし事前の一撃」が無い、所謂ぶっぱの形で聖水を振りまいたため
確かに強烈な一撃ではあったものの、致命的とまではいっていない。
それでなくとも、貯水槽への祈祷と言う、通常やらない方法で聖水を確保していたのだ。
直接水を聖水に変換したライザーの時とは違い、聖なる力が薄まっていても不思議ではない。
「それでも椿姫以外全員に聖水を浴びせるって……
ソーナ達がライザーみたいになってもよかったって言うの!?」
「そこまでは俺としても望むところでは…………うん?」
ここに来て、リアスの言葉に齟齬が生じた。
彼女はこう言った。
「マスク・ザ・ハチワレに倒された『
だが、セージは防災センターでJOKERと化した「
彼も聖水は浴びていない形である。
「……ちょっと待て。もう一人いるぞ。俺が直接戦った…………
……匙。そう、匙元士郎。そいつも聖水の洗礼は受けてないはずだぞ?」
間を置きながらも、セージは聖水を浴びていない者の名前として匙の名前を挙げる。
しかし、返ってきたリアスの返答は、彼女のものとは思えない耳を疑うものであった。
「…………匙? 匙って……誰?
そんな子、生徒会……いえ、ソーナの眷属にいたかしら?」
セージ、ユーグリットとリアスに詰られるの図。
そりゃああいうことすればスポンサーも黙ってない。
いくら相手がソーナだからって、悪魔を何とも思わないような戦法を立てたことに変わりはないですし。
そしてここぞとばかりに謎の悪魔()の正体を問い質すも、あっさりとバラされる。
まあ、原作既読の方はは察していたかもしれませんが。
またシスコン拗らせちゃったよこの弟。
リアス。必然的に次戦う相手という事もあり
ソーナの敵討ちやら悪魔社会の平和のためやらと、セージを討つ口実だけはどんどん揃っていきます。
そして受けて立ってやると応えるセージ。
歪みすれ違いながらも、何だかんだ通じ合ってない……?
少なくとも、イッセーに比べれば。
交渉の際の名台詞もいただきましたし。
そして不穏なリアクション。
勿論ソーナの眷属の事を知っているリアスが匙の事を知らないはずは無いのですが。
セージが間を置きながらもちゃんと匙の事を認識していたのは
直接匙と戦ったからってのと……
「神器」と「ペルソナ」は近しい物であり、リアスは当然神器を持っていないからして……