――あーっと、これはどうしたことだぁ!
ステージが霧に覆われて、何も見えなくなってしまったぞぉ!
突如として立ち込めた霧に、視界が遮られる。
アモン――
まさか、判定のタイミングをずらすつもりだろうか?
(アモンを戻したことでフレンドリーファイアの心配はなくなった。
いっそ、絨毯爆撃をかけてみるか)
SOLID-GUN LEGION!!
視界が効かない中だが、ガン・レギオンに無作為に攻撃をかけさせることにした。
今この場に俺の味方は外にはいないのだから、俺の攻撃に誰かが巻き込まれる心配はない。
とにかく、浴びせられるだけの攻撃は浴びせてみることにしよう。
……わかってはいたが、手ごたえがない。五里霧中とはこの事か。
ガン・レギオンに偵察をさせてみるが、この霧では何も見えない。
おまけにジャミングも働いているらしく、レーダーがちっとも働かない。
その時、何かを見つけたであろうガン・レギオンが一か所に集まり、集中砲火をかけている。
そこに何かあるのかと振り向いてみると……
……白音さんの、悲鳴が聞こえた!?
あり得ない、そう思いながらも万が一を考えガン・レギオンを戻す。
「ごめん! ガン・レギオンが誤爆した! 大丈夫!?」
声をかけてみるが、応答がない。
まさか……いや、いくら何でも彼女がガン・レギオンの攻撃だけで完全に沈黙するとは思えない。
心配になり、ガン・レギオンが攻撃を仕掛けた方向に駆け寄って行くが――
――突如として、何かに飛び掛かられた。
物凄い殺気だったので、すんでのところで躱せたが
その何かの一撃は俺の左脇腹を掠めたらしい。
その証拠に、服に線が走り、そこから露出した肌からは赤い真一文字が彩られている。
……どう言う事だ?
この方角からは白音さんの悲鳴が聞こえたが、彼女の気配はない。
代わりに、何者かが俺に対し攻撃を仕掛けてきた。
万が一、ではあるが……彼女が何らかの理由で俺に攻撃を仕掛けてきたか?
以前、彼女の気が溢れてしまい暴走状態に陥った時も
本人の意思とは関係なく攻撃に出てきたことはあったが。
……しかし、だとしたら信じたくないが。
今の一撃は、明確に殺意の籠った一撃だった。
ギリギリで躱せなかったら、今度こそ俺はやられていたかもしれないって位には。
――――まただ!!
360度、全周囲のどこから狙われるかわからない。
しかし、何かが駆けるような音と、明らかにこちらを狙っている気配。
その肌の感触だけは、信じざるを得ない。
相手の正体が何かはわからないが……
見えない中で攻撃を仕掛けて来るなら、見えるところに引きずり出せばいい。
幸い、真っ暗闇でも無いから至近距離なら見えない事も無い。
ならば、わざと一撃をくれてやって、そこをふん捕まえてやる。
相手が白音さんだろうとそうでなかろうと、それで正体が暴けるはずだ!
PROMOTION-ROOK!!
(来い……正体を暴いてやる!!)
元来の
俺の「戦車」。力の操作がメインの能力だが、パワーファイトにも転用できないことも無い。
静かに待ち構える事数刻。この数刻が永遠に感じられるほどの静寂。
聞こえるのは、自身の鼓動と息遣い、そして時折響く何者かの足音。
足音の感じからして、四足歩行の獣が駆けているような感じだが……まさか本当に?
その答えは、次の瞬間俺の前に引きずり出されることとなった。
俺の正面少し下から、喉元目掛けて飛び掛かって来る白い影があったのだ。
カウンターを決める要領で、飛び掛かって来た「それ」を掴む。
完全に敵対者に対する行動だったため、「戦車」の力を遠慮なく使ってしまったが。
「くうっ……!」
「さあ、かくれんぼは終わり……ま、まさかそんな!?」
信じたくはなかった。
だが、その証拠たる情報は今までいくつか出ていた。
そして、彼女の置かれている状況を考えると、ここにこうしていることも
最悪の可能性だが、無かったわけではない。
……まさかそんな、一度ならず、二度までも……!!
俺が驚きを隠せないでいると、霧の中から布袋芙ナイアの声が聞こえて来た。
まるでこちらを嘲笑うかのようなその声は、奴の本性だろうか。
「紹介してあげるよ。紫藤イリナ君に引き続く、僕の使い魔。
――『塔城小猫』だ。
フフフ、僕は手を出さないであげよう。
彼女の想いのありったけを、受け止めてあげなよ」
何っ!? そ、その名前は……!!
もう一つ、信じたくない出来事が生まれてしまった。
同意の上、リアス・グレモリーの下を出た白音さんが
まさかまたリアス・グレモリーの下に戻るかのような、そんな振る舞いを……!?
いや、彼女にそんな振る舞いをする理由がない。
恐らくだが、布袋芙ナイアがこっちを煽るためにでたらめを言っているだけだろう。
そんな手で、俺が惑わされるものか。
いつぞや見た、姉さんがリアス・グレモリーの眷属になるみたいな悪夢でもあるまいに。
「心外だねえ。僕だって嫌がる子を使い魔に迎え入れたりなんかしないよ。
ただ、彼女にも真実を教えてあげただけさ。
……本来あるべき、自分の居場所をね」
「……イッセー先輩を貶め、部長との絆を否定して。
あまつさえ、姉様を利用して私を誑かそうだなんて……
……宮本成二。あなたは、何度殺しても足りません」
……参ったな。なまじそれが「真実」になってる世界がある以上
この世界では嘘だ、などと言っても簡単に納得できるものでもない。
それに取りようによっては、白音さんとの関係の構築のために黒歌さんを利用した
……なんて考え方も、出来ないことは無い。凄い意地悪な考えだが。
だが、それで黙って殴られてやるかと思ったら大間違いだ!
俺は「戦車」の力を操る能力を応用し、「斥力」を活用して
彼女の攻撃の衝撃を軽減させている。
ゼロやマイナスにしてしまうと、衝撃が彼女に返ってしまう。
俺がやりたいのは彼女の沈黙だ。撃破じゃない。
『随分と甘い事で。あの白猫の嬢ちゃんがテロリストの姉ちゃんと同じ状態だとしたら
あれはもう、お前の知ってる嬢ちゃんじゃないんだぞ?』
(わかってる。だが、今ここにこうして彼女が俺の目の前に立っているという事は
まだ、俺は彼女を助け出していないって事だ。
俺……の影が攫って、狂言誘拐の真似事をして傷つけて。
本人が気にしてない、って言っても……今目の前にあるものは真実じゃない、事実だ!)
アモンに釘を刺されるが、俺としてはここでやらなければならないことが出来た。
布袋芙ナイアを倒すよりも前に……白音さんを取り返す!
……だが、どうやって?
攻撃を往なしながら、俺は何か方法はないか考えを巡らせる。
布袋芙ナイアは彼女を操るのに「悪魔の駒」は使っていないという事だろう。
いくら規格外じみた存在でも、悪魔の駒の利用権限までは持っていまい。
そうなると、黒歌さんに使った時みたいな手法は使えない。
徒に身体を傷つけるだけだし、無いものをどうやって摘出しろというのだ。
鍵を握っているであろうことは、「使い魔」というワードだが……
(アモン。使い魔契約を無効化する方法は――)
『知らん。と言うと語弊があるな。
俺が知ってる使い魔契約と、嬢ちゃんに使ってる使い魔契約が同じである保証がない。
知っての通り、俺が知ってる悪魔の知識は旧いものだ。
近代化された悪魔契約だった場合、俺の知識が役に立たんなんてざらだ。
だが、一つだけはっきり言える事がある。悪魔契約ってのは上書きしてしまうと
契約の優先度は力の強い方に移る。ならば、お前が強い力を以て契約を上書きしてやればいい』
契約の上書き。つまり、布袋芙ナイアが白音さんに施したであろう以上の契約を
俺が白音さんに果たせば、その時点で布袋芙ナイアの契約よりも
俺と白音さんの契約の方が優先度が上がる……って事か。理には適ってる。適ってるが……
(アモン。こんな時にふざけて無いだろうな。
俺の……いや、人間の感性で言ったら、強い契約って要するに……
結婚とか、人生賭けたそう言う類になるんだが……)
『悪魔……嬢ちゃんは妖怪だが、それと人間の感性を一緒にすんなよ。
そもそも俺達デーモンに至っては、共食いすら是とする感性なんだぜ。
前に言ったよなセージ。お前がどう思おうとも、嬢ちゃんとの関係はハッキリさせておけって』
言い返せない。
人間は生物学的にも共食いに適さない(病気的な意味で)が
デーモンは割とすんなりと共食いを行う……と言うか、俺も見た事がある。
人間と悪魔の関係なんて、そんなものでいいのかもしれないが。
(他に方法は)
『無い……と言うか、俺が思うにそれが一番確実な方法だ。
契約ってのは魂を縛る、一種の術式みたいなものだからな。
そこに下手に手を加えるとなると……最悪、魂そのものを傷つけるぞ』
魂を縛る……俺はその言葉に、何かが掴めそうな気がしたが……
まだ少し、何かが足りない。そう考えていた時。
「……ライトニングフィンガー」
「――――!!!」
逡巡に気をやり過ぎていた!
白音さんの必殺技をまともに喰らってしまい、吹っ飛ばされてしまう。
だが、今のライトニングフィンガー……何か違和感がある。
どこがどうと、はっきり断言は出来ないが……推測は出来る。
なんか、本来の用途じゃないものを無理矢理そうして使っているような。
まさか……今の白音さんは、無理矢理「戦車」の状態を再現していないだろうな!?
確か、兵藤の
つまり「戦車」のままだ。だが、今彼女に「戦車」の駒は無い。
いくら布袋芙ナイアに「戦車」が2個あるからって、それを共有させるような権限は無いはずだ。
そもそも悪魔の駒の共有自体が稀有な例だってのは、俺が身に染みてわかっている。
そうなると……元々身体の強くない白音さんに
駒も無いのに無理矢理「戦車」の戦い方を再現させている訳か!?
クッ、こりゃ悠長なことを言ってられないぞ!
俺が攻撃を凌いで時間稼ぎしているだけでも、彼女は劇的に消耗する!
それに、だとしたら今のライトニングフィンガーの違和感の正体も説明がつく。
元々ライトニングフィンガーはただの掌底に、気を込めて必殺技に昇華させた技だ。
そして掌底は、力押しの技じゃない。だからただの実践系プロレスマニアにすぎない
今の無理矢理力で再現したライトニングフィンガーに、違和感があって当たり前だ!
「……まだ、倒れませんか。イッセー先輩と、私のために。死んでください」
「断る。俺は君のためなら死ねるとか、君に殺されてもいいだとか
そう言う甘い事も、歯が浮くような事も言うつもりは無い。
ただ……過ちは犯させない。既に犯した俺はともかく、君には!!」
DEMOTION
白音さんの死刑宣告を跳ね除け、俺は「戦車」を解いて身構える。
カラクリが読めて来た以上、これ以上の時間はかけられない。
だが……最後の一手。これだけがまだ、思い浮かばない。
単純に倒すだけなら、魔神剛の鎧なりアキシオン・バスターなり打ち込めば済む話だ。
だが、そうして勝ったところで問題の解決にはならない。
白音さんは、布袋芙ナイアに――この世界から見たら偽りの記憶に縛られたままだ。
魂の解放。それが、今俺が果たすべき最大の勝利条件だ。
だがそのためには、どうすればいい?
使い魔契約を無効化する方法――
魂に干渉する方法――
魂への干渉。これについては、一つだけ思い当たるものがある。
ディーン・レヴ。だがこれは、悪霊を喰らうディス・レヴにしなければ
恐らく俺が想定しているような使い方は出来ないだろうし
そもそも、白音さんは死んでないし、死んだら本末転倒だ。
取り込んだものを、元に戻す手段があればいいが……都合よく無いだろう。
だが、魂への干渉の手段とする。それならば……
やはり、これしかないか。そう考え、俺は決心を固めた。
『セージ……お前、まさか!?』
(ああ。ディーン・レヴを……ディス・レヴを使う)
次回、いよいよセージ屈指の厄モノに進展があります(厄モノばっかだけど)。
因みに現在ステージは霧に覆われて何にも見えない状態です。
映像提供はナイアから行われていますが……提供元が提供元なので。