異界化したアグアレスを捜索する俺と白音さん、グレモリー先輩。
しかし、さっきからどうも罠の扉を開けてばかりいるような気がする。
ついさっきも――
「おわああああああああっ!?」
「っ!? セージ、捕まりなさい!」
扉を開けて中に入った途端、その部屋には……床が無かったのだ。
つまり、別の階に停まっているはずのエレベーターの扉が勝手に開いたようなものだ。
何とか飛んでいるグレモリー先輩の手に捕まり、転落死は免れたが……
「だ、大丈夫ですか?」
「ああ……『中に入ったら床が無いとか無いだろうな』とか考えてたが
そのものズバリが用意されてるとは思わなかったな……」
「全くだわ。『待ち伏せされている』と思って扉を開けたら
案の定、ラスト・バタリオンやアインストがひしめき合っていたし」
ちなみにその際には、慌てて扉を閉めた事で事なきを得たのだが
ラスト・バタリオンとアインストが仲良くひしめき合っているって事態が
妙な違和感を覚えてならなかった。
……アイツらが手を組むとは思えない。
アインストは
だが、ラスト・バタリオンは既に禍の団とは実質的な敵対状態にある。
イェッツト・トイフェルと同盟を結んでいる時点で、禍の団を敵に回すも同然だからだ。
アインスト以外の禍の団については、この際考えないこととしてもだ。
それに、通路で戦うアインストやラスト・バタリオンよりも
部屋に入った時に戦う連中の方が多い、というのも気になる。
それに、別段何もない部屋とか、ロッカールームのような場所が
今のところ、一切見当たらない。
(アモン。異界化ってこんな感じに罠部屋が増えたりするのか?)
『確かに増えはするが……ここまで露骨な罠の張り方はそうそうないぞ?
今の話を統合すると、「考えていた事」が起きている風に思えるんだが』
『そういや、あの転移装置の部屋に出た時も「出口を探して」いたな』
考えている事が現実になる空間?
だったら、兵藤の奴がいれば一発でわかりそうなもんだが……
そう都合よくはいかないか。
……今度部屋を見つけたら、適当なことを考えながら入ってみるか。
等と思っていたら、都合よく部屋の方から出てきてくれた。
さて、俺の思っている事は現実になるか……
俺は一連の推測を二人に話しながら、扉を開け中に入ってみることにした。
俺はこの中に「はぐれた人達の一先ずの避難所がある」と考えながら扉を開けた。
……しかし、思惑は外れた。
この部屋の中には、誰一人としていなかったし
誰かがいたであろう痕跡も無かった。
『そう都合よく事態は起きねえ、ってことだろうな』
考えてみれば当たり前か。
何で態々都合のいい展開をそうそう持ち出してくるんだ、って話になる。
……そう考えると腑に落ちないのは脱出装置の存在だが
あれもまさか、罠……じゃないだろうな。調べた限りじゃそうは見えなかったが。
などと考えていたら、後ろからグレモリー先輩が物凄い勢いで走って来た。
何かに追われているようだが……って、ありゃあ……ラクダ??
何でこんなところにラクダがいるんだと思いつつ、白音さんと協力して
なんとかラクダを宥めすかして追い払うことに成功したが
なんだってまたラクダなんか……あ、まさか……
「…………グレモリー先輩」
「かっ、考えてないわよ! 扉を開けたら目の前にラクダがいたらどうしようとか
そのラクダに追い回されたらどうしようとか、ぜんっぜん考えてないわよ!!」
そう言う事にしておこう。どうやら「不安」とかそういう感情の方に強く反応するらしいし。
しかしそうなると、はぐれた側の状況が心配になって来るな。
罠にやられた可能性だって無くは無いし、実際そういう手合いでやられたらしい
イェッツト・トイフェルの兵士を何人か見かけた。
アインストは感情が無いからかその手の罠がかかりにくいようなのはわかるが
ラスト・バタリオンが罠にかかってないのは意外だ。
以前誰かが「奴らは所詮空っぽの軍団」と言っていた気がしたが
そこに関係するのだろうか。
「……念のため、臭いを嗅いでみましたが……
…………ラクダの臭いしかしませんでした」
「わ、悪かったわよ……」
ここにはラクダしかいなかった。
そう言う事にして、俺達は別の部屋を探してみることにした。
――――
何度か部屋を調べてわかった事がある。
どうもこの異界は「恐れ」や「不安」で生成されていると思しき作りがある。
そう考えると、あの転送装置は「出られない」という「恐れや不安」の裏返しと言えるだろう。
或いは単純にこの異界を作り上げた何者かがこっちをおちょくっただけかもしれんが。
法則まではわからないので、なるべく「はぐれた人達」の事を考えながら
異界の中を進んで行くと、待機させている分身の俺から
「黒歌さんが見つかった」と連絡を受けた。
そのため、一足先に白音さんを転送装置の部屋まで呼び戻させ
俺達は引き続き探索を続行することにした。
「あとはお父様とお母様が見つかれば……
…………セージ! 声が聞こえたわ! こっちよ!」
呼び止める間もなく駆け出すグレモリー先輩。
まあ、聴力に関してはアモンに代わってない限りグレモリー先輩の方が鋭い。
そう言うって事は、誰かがこの先にいるって事だろう。
聖槍騎士団や元魔王のアインストで無いことだけは願いたいが。
……って考えると出くわす可能性があった! くっ、余計な事考えてしまうな本当に!
結論から言えば、それは杞憂に終わってくれた。
アインストはともかく、聖槍騎士団は大きさ的にも出くわす可能性があったので
気が気でなかったのだ……そういや、こっちに来てから奴らの飛行機を見てないな。
だからって油断はできないが。
「リアス! 無事だったのね!」
「お母様!」
見つかったのはヴェネラナ・グレモリー。つまりグレモリー先輩の母親だ。
確かバアルの家系だったはずだから、さっき思ったように元魔王のアインストでもない限り
遅れはとらないだろう……多分。
「あなたも、よくぞここまでリアスを守ってくださいました。ありがとうございます」
「流れですがね」
嘘をついても仕方なし。恩を、媚を売る相手でも無し。
ありのまま、正直に俺は答える。
そして、現状についての説明とここからの脱出方法について簡単に説明もした。
「……凡そは理解できました。あのへんてこな罠についても
そうした恐れや不安を基に生み出されたと考えれば、全て合点が行きます」
「さ、セージ。後はあなたの分身を手掛かりに戻るだけよ。
お父様については、お母様を無事に戻してからにしましょう」
「だな。今しがた黒歌さんから光実とゼノヴィアさんが見つかったと報告があった。
こっちとしても不安要素は無くなったから、さっさとこんなところは……」
……ここで、おれはあるとんでもないことを懸念してしまった。
なまじうまく行きすぎていたので、「心配」になってしまっていたのだ。
――敵の奇襲を受けやしないか、と。
「……!!
リアス、危ない!!」
不意に投擲された槍が、グレモリー先輩を庇ったヴェネラナを貫く。
そして俺は、この投擲された槍に見覚えがあった。
…………聖槍だ!!
「…………え」
「フューラーぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
思わず俺は、自身の消耗も鑑みずに
多少面食らったような形でアモンが魔神剛の鎧に宿り、聖槍を投げた張本人を迎え撃たんとする。
「本来は投げずに突き刺すのが聖槍の処刑法だが、効能は変わりあるまい。
それより何故そうも怒り狂う、ユンゲよ。
私は貴様が憎くてたまらないであろう、悪魔を一匹処分しただけに過ぎんのだぞ」
確かに俺はリアス・グレモリーと言う個人に対する恨みつらみはほぼ消えかかっている。
だが、悪魔全体と言うとまた話が変わってくる。
アモン、バオクゥ、ユーグリットなど個人での協力関係にある悪魔はいるが
悪魔全体と言うと、憎んでないとは…………言い切れないのだ。
「大方、そこの娘に絆されて、悪魔に対する憎しみが薄れたと言ったところだろう。
だが、それも仕方のない事。
だからこそ、私が代わりに悪魔の討伐を行ってやったと言う訳だ。
忘れたわけではあるまい? 我等ラスト・バタリオンは、悪魔討伐も任務に入っていると」
「だ、だけど悪魔の正規軍であるイェッツト・トイフェルと手を結んだって……」
グレモリー先輩の疑問も尤もだ。いくら対アインストってお題目が明け透けな同盟だとしても
これはあまりにも……
「ユンゲは知らずともよい、大人の事情と言っておこう。
イェッツト・トイフェルには、生きていてもらっては困る悪魔もいるのだよ」
「!! そ、それじゃあゼクラム・バアルを殺した真犯人は……!!」
「言ったとして、それを誰が信じる?
民衆は、自分達に都合のいい事しか真実として受け入れはせんぞぉ?
我らは正規軍と共に敵対勢力を撃退したという『実績』があるからなぁ?」
敵対勢力……嫌な考えだが、多分アインストだけじゃない。
イェッツト・トイフェルの敵は、今やアインストだけではない。
……四大魔王政府そのものが、イェッツト・トイフェルの敵なんだろう。
「そして『実験』も成功した。
もう間もなく、この異界は消滅する事だろう。だがその前に……」
そう言うや、フューラーはヴェネラナに突き刺さった聖槍をおもむろに引き抜き
念入りに急所に突き立てる。
……案の定、突き刺された箇所からは血がとめどなく流れ出している。
そのせいか、顔色が既に悪い。刺された場所が場所だから、言いたくは無いが、もう……
「ヴェネラナ・グレモリーは、『人間』によって無惨にも殺された!
この事実を、広く冥界中に伝え流すのだ!!」
「よ……よく言うわ! あなたみたいなのが人間であってたまるものか!」
「ククク……そこのユンゲは聞き覚えがあろう?
我がペルソナ、運命を嘲笑う
それが何処から産まれ、どういう存在であるか、を」
否応なしにわかっている。周防巡査からも聞いたし、名前だけなら薮田先生からも聞いた。
そして、恐らくその片鱗と俺は対峙している……はずだ。
故に俺は、フューラーの問いに沈黙しか返すことが出来なかった。
……肯定、という意味での沈黙だ。
「せ、セージ! こんな時にはぐらかさないでよ!?」
「本来は宇宙の神とされるニャルラトホテプだが……多分、奴が言っている事は違う。
ニャルラトホテプってのは……人間の…………」
俺が次の言葉を紡ごうとした矢先に、ヴェネラナが吐血する。
俺の台詞のタイミングを遮る形になったが、言っちゃなんだが助かった。
無論、口に出せる事では無いので黙っていたが。
「アーシア! 聞こえる!? すぐに……」
アーシアさんを召喚しようとしたグレモリー先輩を、俺はそっと制する。
刺された箇所、そして凶器。助かる要素が、何一つとしてない。
もう…………手遅れなんだ。
「セージは黙ってて! 肝心な時に役に立たない癖に、偉そうな事ばかり!
やりもしないうちから、助けるのを諦めるのがあなたの言う人間らしさなの!?
アーシア、すぐに来て! お母様が大変なの!!」
自分が何を口走ったのか知ってか知らずか、俺には目もくれずにアーシアさんを呼びだす。
呼びだされたアーシアさんも、大慌てでヴェネラナの治療を試みるが
案の定、血は止まる気配が無い。
……俺はと言うと、意外と冷静に事態を受け止めていた。
ここにいたのが、このセリフをぶつけられたのが俺でよかったな、と。
兵藤だったら、三日と言わず一週間は寝込んでいる可能性も否定しきれない。
それ位の事を、今グレモリー先輩は口走ったのだ。
「アーシア……ちゃん……レシピ……教えられなくて……ごめん……なさいね……
リアス……私は……これからも……貴女の……味方……よ……
……それ……から……セージ……君……」
「!?」
消え入りそうな声で呼ばれたことに、俺は一瞬耳を疑った。
尤も、その後に言われた事はさらに耳を疑う事なのだが。
「リア……ス……を……たの……わ……ね……」
「い……言う相手が……言う相手が違うでしょうが……ッ!!」
「まちがって……ない……わ……
おやの……エゴ……でも……あ……けど……
いつ……か……やに……なれ……わか……とき……が……」
「ふざけんな! 今際の際に偶々そこにいた奴に、自分の娘を押し付ける!
それが親のエゴだってのか!!
俺がどういうスタンスで悪魔と接しているか、知らないわけじゃ無いだろう!?
まして、あんたの娘とは!!」
「だから……よ……
あな……は……みすて……た……り……しな……」
「白音さんや黒歌さんとは違うんだぞ!!」
「だい……じょ……う……
リア……ス……みなを……あいする……いみ……これ……か……ら……
…………」
自分の娘に向けて伸ばした手は、一瞬だけ繋がるも
すぐに糸の切れた人形のようにくたりと落ち。
――二度と、動くことは無かった。
また急展開。
リアスがしれっと暴言吐いてますが、実親が危篤になれば平静でなくなるというもの。
まして、激情家なリアスとなれば。
クリスマスじゃないんで復活とか無いです。いやマジで。
前半と後半の温度差が酷いのもアレっぽいですけど。
罠の性質上、別行動組も何らかの罠に引っかかってた可能性は高いです。
何の罠かは、わかりませんが。