駒王町から沢芽市へと移動する場面です。
サブタイは「酸っぱい葡萄」。イソップ寓話のアレですね。
転じて「負け惜しみ」。
拙作では、この言葉が似合う輩が多すぎる気がします。
あ、因みに今のところE3です。
矢矧、朝霜、沖波と来ました。
たしゅけるのはこれから……だといいなぁ。
――全く、なんで僕がこんなクズどもの相手を……
この日訪ねて来た駒王学園の生徒に対してである。
顧問の教師もいるという事なのだが、それでも一部生徒の態度は
光実にとってはあまり喜ばしいものではなかったのだ。
特に、胸に無駄な栄養を集めた赤い髪の生徒。
光実の好みとも全然違うし、何より彼女を見ていると――
――自分の中のどす黒いものを、見せつけられているような嫌な気分に陥る。
――――
駒王町から
リアス・グレモリーは鬱屈していた。
自分達は悪魔でありながらも、人間の世界の平和を守るために戦っていると
一応は自負しているつもりだった。
それなのに、評価されるのは人間の作り出した装備や組織。
冥界においても、評価されるのはサイラオーグ・バアルやレイヴェル・フェニックスのような
明確に成果を上げた者たち。
リアスは、何ら評価を――称賛をされていなかったのだ。
寧ろ、駒王町に関して言えば「騒動を持ち込んだ厄介者」扱いされているとさえ言える。
流石にクロスゲートなどに関してはお門違いであり、リアスが非難される謂れはないのだが
それまでに起きていた連続猟奇殺人事件や、オルトロス騒動などはリアスが噛んでいる。
そうした「前科」があるため、人間界におけるリアスの評価はだだ下がりなのであった。
そんな現状に、リアスは不満を抱いていた。蝶よ花よと育てられた彼女にとって
現在の彼女を取り巻く状況は、劣悪と言わざるを得ない。
確かに中には劣悪と言っていいものもあるが、中には「贅沢を言い過ぎだ」という意見もある。
そうでなくとも、浪費を是とする価値観を持った彼女は日本的な「質素」だの「詫び寂び」は
根本的に合わないといわざるを得ない。だというのに彼女は親日を自称している。
一体日本の何を見ているのか、と神仏同盟ならば言ったかもしれないが。
「……はぁ。クロスゲートにアインストに問題は山積みだってのに、一体何してるのかしら」
「あらあら、もう電車は出発したんですからぼやいても始まりませんわよ?」
零すリアスを隣の席に座った朱乃が窘める。
二人のスタイルの良さから、駒王町を出るにしたがってちらちらと視線が集まる。
駒王町では悪名高いリアスとその眷属だが、ひとたび駒王町の外に出れば
その高校生らしからぬスタイルは注目の的である。良くも悪くも。
今回は、悪い方向に向かったようだ。
「ねぇねぇ、君らこの辺じゃ見ない制服だけど、どこの子?」
「次の駅で降りね? いい店知ってるんだけどさ?」
この場に兵藤一誠がいなかったことは、幸運であり、不運であった。
見るからにいかがわしい行為が目的であるような面構えをした男が二人
リアスと朱乃に声をかけた。
この場に一誠がいれば(その行動による別のトラブルの発生の懸念は大いにあるにしても)
こうした存在に対する忌避剤ないし案山子にはなったかもしれない。
ため息をつきながら、リアスは男二人を無視する。朱乃も同様だ。
そもそも、リアスも朱乃も男というものに対して好感情を抱いていない。
それが透けて見えたのか、学校では「男に興味ない癖に男子や教師に媚び売って地位を得ている」
と女生徒に誤解され、いじめの標的になったことさえある。
これは悪名高い兵藤一誠を必要以上に庇護したことも大きな要因でもあるのだが
なんだかんだで「赤龍帝」としての側面でしか一誠を見ていない
リアスがその事に気づくことは、まずない。
「つれないなぁ、どこ行くの? 疎開?」
「……疎開、ですって?」
疎開。リアスの耳には聞きなれぬ言葉だが、意味することは分かる。
だが、何故守護者たる自分たちが疎開などしなければならないのか?
そこだけは、リアスの常識で図れる価値観では理解できない事だった。
「知らないの? 一部都市圏じゃ疎開が始まってるって。
俺らは幸い指定区域外だったからこうしていられるけどさ。
ま、大変だよなー、あいつらも」
「そうそう、アインストとか?
自分たちは関係ない、と言わんばかりの男たちの発言であるが
そうした態度も、リアスにとっては辟易とさせるものだった。
「自分達さえよければそれでいい」「問題は他の誰かが片付けてくれるだろう」
その態度は、曲がりなりにも力を持ったリアスにとっては
受け入れ難い思想に基づくものであった。
だが、目の前の男二人は何の力も持たない、ただの人間である。無論、
そんな彼らに、アインストやフューラーの部隊と戦えというのはあまりにも酷である。
それでも現状に不満は抱いているのだから、取れる手段は「人任せ」しか存在しないのだ。
リアスは自覚していない事だったが、彼女はそうした「人任せ」で
すべて解決しようとする者を見下していた。
そう。イザイヤ――木場にせよ、朱乃にせよ、アーシアにせよ、そして一誠にせよ
神器なり、特異能力があるなりしていたからこそ彼女の眷属となった側面が間違いなく存在する。
力を持たない人間など、自分の眷属には相応しくない。寧ろ自分が守り導くべき有象無象である。
だがそんな考えで動いた結果が駒王町で起きた連続猟奇殺人事件であり、セージの反乱であった。
「で、悪魔とか天使とかがこれ幸いとばかりに俺ら人間にちょっかいかけてるんだよな?」
「ああ、ナチスの連中に頼るのはヤベーって気がするけどよ、だからって
人間を食い物としか見てない悪魔や天使に頼るのはもっとヤバくね?
つーかさ、なんでこの期に及んで人間にちょっかいかけて来るんだろうな?
戦争したいならよそでやってくれよな」
「わかる! バケモノ風情が人間の世界に来るなっつーの!
なぁ、悪魔とかキモイよな? 後からしゃしゃり出てきたくせに我が物顔するとか
マジウゼェって奴?」
殺人事件はもとより、セージの反乱も初めはただ一人の
成り損ないの転生悪魔が歯向かっただけの事。
だがその後、セージは着実に自らの足場を固めていき、今では超特捜課という後ろ盾を得
仲間こそ少ないものの、
リアスは、己の価値観に固執するあまり自らライバルとも言えない
不倶戴天の敵を生み出してしまったのだ。
その事は、リアスに自覚しないストレスを与え続けていた。
さらにダメ押しとばかりに目の前の男二人は純血悪魔であるリアスを前に
悪魔ディスを始めたのだ。無論、二人はリアスが悪魔であることなど
全然知らないからこそできたのだが。
「…………るさいわよ」
「うん?」
「うるさいっつってんのよ、このクズ!」
リアスの怒号が電車内に響く。
男を無視して考え事をして、それで勝手に思考の袋小路に嵌っていたことを考えると
リアスの行いは完全な八つ当たりであり
一誠と同等の下心丸出しでリアスらに声をかけた二人だったが
滅びの力を向けかねないリアスの態度に、男たちは震えあがっていた。
腐っても上級悪魔であるリアスの殺気に対して
どこにでもいる一般市民の男が立ち向かえるわけがない。
すっかり震え上がる男二人を前にして、リアスはさらに腹を立て、朱乃は笑みを崩さない。
朱乃の性格上、震えあがる男を見るのが楽しいというのもあるのかもしれないが。
……だが、ここは貸し切り車両ではない。他の乗客もいるのだ。
そんなところで大声を張り上げるのみならず、滅びの力を行使するという事が
どういう事になるのか。同乗していた木場もアーシアも、よくわかっていたが
リアスの剣幕に押され、ただでさえ主と眷属という力関係のはっきりした関係にある以上
強く出られず、それがますますリアスを増長させる結果になる……かと思われたが。
「そこまでにするんだ、リアス君」
「……っ! ナイア先生、けれど……!」
「彼らの態度は確かに褒められたものではないかもしれない。
だが、公共の場、しかも人間が大多数を占める場所で
君が悪魔の、滅びの力を行使するという事がどういう結末を招くか
聡明な君なら知らないわけではないだろう?
それに朱乃君も、見ていないで止めてもらえないか?
君は一応『
ああ、今のは『
教師として君の行いを注意したという事は理解しておくれ。
何でもかんでも自分の力で思い通りにできるものじゃない。
社会というのは、そういうものだよ?」
見かねたナイアが、リアスの滅びの力を打ち消す。
その事にリアスが抗議しようとするが、ナイアは眷属であると同時に顧問教師。
いくらリアスが我儘放題だからとはいえ、教師に面と向かって逆らうほどではない。
もう一つの要因として、ナイアの神器である「
「……二人とも、うちの生徒がすまなかったね。
お詫びをしたいから、連絡先を教えてくれないかい?」
「……そこまでしなくていいっての。白けたから行こうぜ?」
「あ、ああ……」
ナイアに仲裁されたことで、男二人も興醒めしたのかすごすごと車両を変える。
周りの乗客も、リアスの大声に反応して別の車両に移ってしまっていた。
ナイアもリアスや朱乃と同等以上のプロポーションを誇っており
声をかけた当初ならば男たちも乗り気でSNSのアドレス交換をしただろう。
だが、リアスの覇気に圧されてそんな気は失せてしまっていたのだ。
「……よく見ておくんだ、リアス君、朱乃君。
欲望のままに力を揮った結果がこれだ。君の周りには、誰もいない。
そんな状態で称賛を得たとして、それは彼らの本心からの称賛かな?
ただ実を伴わない称賛が得たいだけなら、僕は止めはしないけどね」
(……誰もいない? そんなわけないじゃない。私には朱乃が、祐斗が、ギャスパーが
それにアーシア、イッセーだっているのよ? 私は紅髪の
私の愛する下僕達――特にイッセーさえいれば、後はどうなったって……)
ナイアがそう思うように仕向けたのかどうかはわからないが
リアスの心に渦巻くものは、決して明るくはない、昏いものであった。
愛情深い性格が、完全に裏目に出てしまっていたのだ。
彼女が向ける愛情は、愛玩動物に対するそれである。
それは「相手は自分に対し無償で尽くすべきだ」
「自分は相手に対し世話をしなければならない」という、完全に上から目線の繋がりである。
彼女もまた、知らず知らずのうちに「歪んだノブレス・オブリージュ」を会得していたのだ。
そして何より「自分が必要とされなくなった場合の事」を一切頭から外している。
逆はあったとしても。
最悪、一番目にかけている一誠でさえも「飽きが来たらおざなりになる」事もあり得るのだ。
そして、その一誠も最近はナイアに傾きつつある。
それもまた、リアスのストレスを無意識に加算させていたのだ。
「……祐斗さん、部長さん、本当に余裕がなさそうですね」
「……言っちゃ悪いけど仕方ないよ。僕らに何ができるって言うんだい?
気休めを言って、現実から目を背けさせる? 僕はそれが解決法だとは思わないけど。
かと言って、今の部長が真実に耐え得るとは思わない。
聞く耳持たないんじゃ、言ってもなぁ……」
少し離れた席で、アーシアと木場が相談している。
心を蝕む現実から目を背けたところで、事態は何も解決しない。
かと言って事実を伝えても、それはリアスを追い詰めるだけだ。
心身共に、リアスを支える存在が必要なのだろう。
だがそれには、「
主と眷属という関係が邪魔をしていた。
一誠でさえ、立場の差は理解していたため
――本人に一線を越える度胸がまるでないというのもあるが――
リアスは名前呼びしてほしいにもかかわらず
一誠の側からは今に至るまでずっと役職呼びである。
これなら、敵愾心すら持っているかどうか怪しいセージの名字呼びの方が親近感がある。
言ってる本人に言わせれば「名前で呼ぶほど親しみ持てるわけないだろ」
という即答が返ってきそうだが。
リアスが思い描いていた「素晴らしい王と、それに傅く眷属たち」という理想像は
ここに来て、彼女を蝕む毒となっていたのだ。
……果たして、そんな状態で沢芽市への遠征がうまくいくかどうか。
そして、何故ナイアはそんなリアスを企業見学にかこつけて沢芽市に連れていくのか。
(……おやおや。これは予想以上に追い詰められてるね。
大人しくしていればそれでよし、先方に迷惑を掛けたらサーゼクス辺りに問題を押し付ければいい。
そのためにユグドラシルを指定したんだからね。
それにしても、イッセー君のハーレムを増強するのはいいけど
あんまり心をへし折った女の子ばかり集めてもねぇ。
心をへし折った女の子なんて既に一人当てがあるし、もう一人くらいは増えそうだしね……
アーシア君が見込みがない以上、せめてリアス君は健康な心のまま
イッセー君のハーレムに入ってもらいたいからね。
全く、イッセー君も何を尻込みしているんだか。僕相手に自信をつけたんじゃなかったのかな)
ナイアがその金色の瞳の奥に何か途轍もなく昏いものを秘めながら
引率しているリアス、朱乃、木場、アーシアの様子を見る。
引率の教師という立場上、別段生徒の動向に目を光らせるのはおかしなことではないし
それが寧ろ普通である。ただ、何を考えているのかが全然読めないだけで。
そんな彼女らの行く末を暗示するかのように、電車から見えるユグドラシルタワーの上空にある
光学迷彩で隠されたクロスゲートは、不気味な光を発していた……
リアス、追い詰められているの巻。
自業自得な部分も少なくは無いですが。
色々「一誠に都合のいい設定ばかり取ってつけたおかげで価値が暴落した」って考えると
冗談抜きで犠牲者だと思います。
「男に興味が無い」ってのも鞘当てを回避するためにつけた設定にしか見えませんし
まさかバトルだけじゃなく恋愛でもライバル()とは恐れ入りました。
今話題のNTR対策にしても杜撰が過ぎると思います。
つーか一誠がむしろオーラ()でヒロインを寝取る下衆野郎にしか見えないんですがそれは。
作中言及はされてませんが、拙作でも虚憶を通じてそういう力があると
ナイアに吹き込まれてますけどね(なおヤバいフラグになる模様)。
思い返してみると、原作ハーレムメンバーってみんな初恋(免疫が無い)だと思います。
そりゃあ、オーラ()関係なく変なのに引っ掛かりますわ……
……初恋って成就しないからこそ美しいものだと思ってます。
そのオーラ()の発生源というか端末も初恋で殺されたはずなんですけどね……
……あ、免疫つけたらオーラ()なんぞ跳ね除けるか。拙作白音みたく。
黒歌は……ビッチぞろいの原作でも輪をかけてビッチ(ある意味誉め言葉)だから
まぁ……