ある程度立ち直れました。
ご迷惑をおかけしております、すみません。
ユグドラシルタワー。
ユグドラシル・コーポレーション沢芽支社のオフィスビルであり
沢芽市随一のランドマーク。
その存在感は、沢芽市外にも知れ渡っている。
しかし、その有名なタワーと、ユグドラシルが掲げる医療・福祉のモットーの裏に潜んだ
その悪意を知るものは、数えるほどしかいない。
桜の樹の下に死体が埋まっているように、世界樹の根元には悪意が埋められていたのだ――
――――
ユグドラシルタワーの前に来ていた。
塔を見上げる一同は、各々感想を漏らしていた。
「うわあ、おっきな塔ですね……」
「駒王町にはこうしたランドマークは誘致されていなかったからね。
アーシアさんにしたら、珍しいんじゃないかな?」
実際、欧州の片田舎で育ったアーシアは、先進国の中でも有数の巨大施設である
ユグドラシルタワーは物珍しい。
大きな建物、という意味でならリアスの実家であるグレモリー邸もあるのだが
それとは規模もだが意味合いも違う。個人所有の邸宅と
公共施設――ユグドラシルタワーは社ビルだが――では
大きいといっても規模が違うのだ。
ましてや、グレモリー邸は貧困のお陰で抵当に入れられている家財道具が少なくなかった。
しかし、ユグドラシルタワーには当然そんなものは無い。
アーシアは、グレモリー邸を見た時以上に衝撃を隠せていなかった。
そうなると面白くないのはリアスだ。
アーシアのその態度に、顔を顰めている。
ただでさえ、寵愛を注ぎ、その相手から称賛されることを好む傾向のあるリアスにとって
自分以上に周囲の人物の注目を集めるユグドラシルタワーは、彼女にとって面白くない。
(……何よ。グレモリー領だってその気になればランドマークの一つや二つ、簡単に作れるわ。
私の嫌いなラクダモチーフになりかねないってのだけアレだけど
こんな塔以上のものを作ることくらい朝飯前のはずよ)
その態度が顔に出ていたのか、早速やって来たユグドラシルの研究者・
リアスの考えは見透かされてしまった。
「でかいだろう? 何せ私の研究の粋を集めて建設した塔だからね。いいだろ?
だがただでかいだけの塔じゃないよ? 内緒の話だが、テロリストやアインストのような
外敵から防衛するための装置も搭載しているし、いざって時は……」
「凌馬さん、まず自己紹介から入ってください」
ユグドラシルタワーについて、機密に抵触していたり
していなかったりする程度に解説を始める凌馬を光実が宥める。
結果として、リアスは聞きたくもないであろう
凌馬の長ったらしい自慢話から解放されることになった。
「これは失礼、ついつい話し込んでしまうところだった。ナイスフォローだ光実君。
来る途中に光実君から聞いたかもしれないが、改めて自己紹介しよう。
私がこのユグドラシル・コーポレーションで様々な機器を開発している戦極凌馬だ。
今日は、君達駒王学園の生徒諸君に、じっくりと私の最高傑作をご覧いただこうじゃないか」
凌馬はオーバーアクションを取りながら、引率のナイアをユグドラシルタワーの中に案内する。
そこには、相手の話を聞かない一方的な凌馬の性格が滲み出ていた。
そんな様子を見た光実は、殿で嘆息していた。
(……どっちもどっち、か。いや確かに凌馬さんは龍玄の件とかで世話になってるけどさ……
この勝手な振る舞いはあの女生徒とどっこいって気がしてならないね。
それに……あの引率の先生、彼女は絶対に只者じゃない。インベスや、アインストとかとは
当然違うんだけど……ただの人間と言い切るには、絶対何かがおかしい。
噂で聞くオーバーロードって奴か……?)
そんな光実の様子に気付いた木場が、思わず光実に声をかける。
赤の他人である木場から見ても、光実は色々悩んでいる風に見えたのだ。
「……何か、あったのかい?
ああ、さっき車に乗る前にも軽く名乗ったけど僕は木場祐斗。
見ての通り、オカルト研究部の黒一点さ……今日のところはね」
「今日のところは……って事は、一年には男子がいるんですか?」
軽い世間話だが、光実の気を紛らわすには適切だ。
実際のところは、木場自身も気を紛らわしたい節があるのだが。
今のオカルト研究部は、明確に男子と言えるのは木場位なものである。
ギャスパーは……かなり、判断に迷う部分がある。外見的な意味で。
勿論、生物学上でも、遺伝子的にも男子と言って全く差し障りないのだが。
移動中にも凌馬の講義は続いていたので、その合間を縫っての雑談だが
主の性格と、周囲の環境からセージ以外まともな同性の友人がいない木場にとって
光実は貴重な話し相手と言えたのだ。
――実際のところ、異性と話すというのはこの多感な時期においては神経をすり減らす。
駒王学園という環境は、そういう意味で木場に見えない形でストレスをかけていた。
いくらイケメンだ王子だなどと持て囃されても、それは「友人」として彼を見ているはずもなく
「偶像」、酷く言えば「好奇」としての視線だ。当然、対応もそれに伴う。
まして、駒王学園では変態三人衆のお陰で彼以外の男子の評価は底値を割っていた。
セージでさえ、男子の地位向上のために動いていた節がある位だ。
そうなれば、彼(と、よくてセージ)以外の男子のヒエラルキーなどあったものではない。
そんな中で女子から――他の生徒から扱われれば、余程心を鍛えていない限り
どこかに無理が生じてしまう。
そういう経験をしてきたからこそ、セージとは早めに打ち解けたし
イッセーもその長所が磨き上げられれば友人たり得たのかもしれない。結果はこのざまだが。
以前、セージは木場にこの悩みを打ち明けられたときにこう思ったという。
――よく持て囃されて天狗にならずに自分を保てていたな――と。
悪い言い方をすれば、木場の悩みなど光実には全く関係が無い。
だが、居心地の悪さを感じるというのは光実にはどこかシンパシーを感じるものがあったのだ。
呉島光実は、確かに呉島貴虎の弟として、その補佐を務めることが多い。
だがその一方で、ビートライダーズ「チーム鎧武」の一員でもあるのだ。
光実は、沢芽市の光と影の二足の草鞋を履いていたのだ。
そのことについて、兄である貴虎は見て見ぬふりをしていた。
実際のところ、ビートライダーズの軌道調整をするのに意識調査をするのは大事だ。
光実は、図らずもその役割を果たしていたのだ。
ユグドラシルは沢芽市の治安を、ビートライダーズは娯楽を。
それぞれ手に入れているのだから、見方によっては相互に利益を得ているのかもしれない。
しかしビートライダーズの原動力は「行政、ユグドラシルに対する不満」であるため
そのユグドラシル関係者である光実がビートライダーズに加担するというのは
裏切り行為を強く意識させるのだった。
光実はどちらの言い分も正しい部分があると思っている。故に、その裏切りという行為は
片方だけでなく、両方に対しての裏切り行為に感じられて
光実の心に重圧を課していたのだ。
ところがここでまたシンパシーを感じるものがいる。木場だ。
彼もまた、主であるリアスに忠誠を誓いながらも
明確に反旗を翻し、一部眷属の引き抜きまで行ったセージと協力関係にある。
その関係は、先述の光実のそれに近い。
相違点があるとすれば、光実はユグドラシルとビートライダーズ
そのどちらの言い分も正しいと思っていたが
木場はリアスの側の主張にはあまり賛同していない点が挙げられる。
集団の中の裏切り者、というあまり喜ばしくない共通点ではあるものの
木場と光実は共感するものを得ていた。
そんな意気投合している二人を他所に、一同は目的地にたどり着いた。
「光実君、話し込むのはいいが案内もきちんとしてもらわないと困るよ?
まぁ、私が語る機会が増えるのは喜ばしい事ではあるがね」
「……すみません、凌馬さん、皆さん」
おどけた様子で光実を窘める凌馬だが、そこには叱責の感情はまるで込められていなかった。
光実に対して、「仕事しないならしないで別にいい」という
無関心――投げやりとも言える態度をとっていたのだ。
ただ、リアスだけはその光実の態度に対して思うところがあったのか、強く当たりそうだったが
それはナイアによって制止させられていた。
今までのリアスの言動の起因がほぼ八つ当たりに発していることから
これ以上リアスの勝手にさせては場の空気が悪くなりかねないと判断したことによる。
そもそも、リアスはこの企業見学そのものが乗り気ではない。
彼女の思い描いているスクールライフないしキャンパスライフとは大きくかけ離れているからだ。
尤も、この企業見学を抜きにしても彼女の理想像と現実は大きくかけ離れてしまっているのだが。
一体、何が間違っていたというのか。
愛を注いだ眷属はバラバラになり、己の愛を否定され反旗を翻され、離れていく眷属。
気にかけていた眷属の一人は、誤認逮捕という形にはなったが、逮捕歴がついた。
自分自身さえ、紅髪の滅殺姫などと持て囃されたのが嘘のような境遇だ。
これは悪い夢ではないか、最近リアスはそう考えることも少なくない。
「そこの赤い髪の子は退屈そうだね。だがそんな君にこそ見てもらいたいものがあってね。
例えばこの……ロックシードなんてのはどうだい?」
(おやおや。いきなり本題突入か。まぁリアス君の態度を見るに
食いつきの良さそうな話題から入るのは大事だけどね。
だけど、悪魔がアーマードライダーシステムを? 宝の持ち腐れだと思うけどねぇ……
……それともまさか、インベス召喚能力について語るつもりなのかな?)
凌馬が差し出したのはリアスの髪同様の赤い果実を模した錠前――ロックシード。
その中でも、ザクロロックシードと呼ばれるものだ。
(……ま、これは
本職の悪魔に見せれば、何かしら反応を示してくれるだろ)
リアスは、確かにこのユグドラシルの企業見学に乗り気ではなかった。
だが、彼女の意図に関係なく戦極凌馬という男もまた、この企業見学に対して
「純粋に前途有望な若者に対する講義」として扱っていなかった。
彼は、自分の研究とそれが齎す成果にしか興味がない。
そこには、人も、悪魔も関係なかったのだ。
黒の菩提樹が出たことはご存知の通りですが、ザクロロックシードもこんな形で出ました。
ここも原作からかなり改変かけてます。
……だって原作だったら「三流」の作ったものだしねぇ。
拙作ではその三流がいないのでこうなりました。
リアスの態度もアレだけど、それ以上に不誠実な凌馬。
原作通りとはいえ、若者に対する世間ないし大人の態度がひどすぎるよこの世界。
……こんなもんかもしれないけど。
そして何気に共通点多かった拙作木場と光実。
木場は環境でこうなったクチですが、光実は割と原作仕様。
黒化してないだけましかもしれませんが……