ハイスクールD×D 学級崩壊のデビルマン   作:赤土

41 / 147
筆は乗るんですが、セージが出てきません
まぁ、前作・前々作共にそういう場面は少なくなかったですが


Grape transferee

 

――駒王学園――

 

 

セージはまだ、沢芽(ざわめ)市の病院に入院中である。

しかし、学園生活はセージの動向とは関係なく進んでいく。

今回取り決められるイベントもまた、その一つであった。

 

「――というわけで、昨今の世情を顧みた上で今年の修学旅行は中止。

 代わりに、珠閒瑠(すまる)市にある七姉妹学園(ななしまいがくえん)との合同学習会とする」

 

七姉妹学園――通称セブンス。

10年前、珠閒瑠市では当時の流行の先端を行く高校であったが

今はありふれた高校にまで落ち着いている。

当時のセブンスが特別だったというか、同じく珠閒瑠市にある春日山(かすがやま)高校――カス高が

共学化で目覚ましい発展を遂げた比較で、そう見えてしまっていただけかもしれないが。

 

さて、修学旅行の代わりに合同学習会と称しセブンスに向かうという

この教師の発言には、生徒からは非難轟々であった。

修学旅行ともなれば、学生のメインイベント。

それが取りやめられ、合同学習会になったと言うのだ。

さる田舎の高校では、これが常時実際に行われているという噂もあるが。

 

「静かに! そもそも京都は無理だ。京都府知事が非常事態宣言を発令し

 外部から京都へ入ることはできなくなっているんだ。

 それに伴って、新幹線も米原と新大阪で折り返しになっているし、高速道路も不通だ。

 それもあって、珠閒瑠市側からの提案もあり今回の形になったんだ」

 

事実である。この日の朝、京都府は非常事態宣言を発令。

京都駅の封鎖、各ICの封鎖など陸路をシャットアウトしたのだ。

これはテロリスト対策ではあるのだが、転移のできるアインストやインベスに対しては

あまり対策になっていない。こちらは、京都にある神仏同盟の部隊や

隣の奈良からの応援である蒼穹会(そうきゅうかい)が当たっている形だ。

 

これは、京都に限った形ではない。

日本国内においても、非常事態宣言を発令する道府県は増加の一途にある。

軍事施設の多い沖縄、日本海側を守護し、かつ神仏同盟の拠点の一つである島根。

太平洋の守りの要になりうる神奈川も、近々非常事態宣言が発令されることになるだろう。

 

すでに大規模な攻撃を受けた北海道、福島などもある。

決して、夢物語などではないのだ。

 

「寧ろ、こんな状態でよく修学旅行とやらに行けるな」

 

ゼノヴィアが率直な感想を口にする。彼女は学生生活というものを経験していないため

修学旅行というものを理解していないため、口に出たのだが

そんな彼女の意見こそ、駒王学園の大半を占める生徒の中では異端なのだ。

 

「いや、修学旅行っつったら俺らの一生もんの思い出だよ!?

 そりゃ今のご時世酷いもんだけどさ、行けるもんなら行きたいじゃんか!」

 

「そうだって。ゼノヴィアさんが前どこの学校にいたのか知らないけどさ

 小学校、中学校と修学旅行は経験してるはずだろ?」

 

元浜の意見は日本人ならば義務教育の関係上当然かつ平凡なものであった。

だが、ゼノヴィアはそもそも日本人ではない。学校にしたって、教会の教育機関につきっきりだ。

当然、修学旅行などという習慣はない。

松田と元浜の言葉にも、ゼノヴィアはただ首を傾げるだけだった。

 

「とにかく! 急な話で悪いが、京都への修学旅行は無理だ。

 ほかの地域も今からじゃ宿が取れない。

 珠閒瑠市が辛うじて、名乗り出てくれたんだ。

 七姉妹学園の生徒に笑われないように振舞えよ、いいな?」

 

言うだけ言って、教師は教室を後にする。少し早いが、HRの時間の終わりである。

非常事態宣言発令自体が急なため、駒王学園側としても対応に苦慮していたのだ。

そこに珠閒瑠市からの申し出があり、駒王学園は渡りに船という形で

今回の提案に乗ったことになる。

 

この場にいる誰もが知らないことだが、珠閒瑠市がこの提案を出したのは

珠閒瑠市出身の議員、須丸清蔵(すまるせいぞう)の影響によるものが大きい。

一介の国会議員に過ぎないが、彼の影響力は底知れない。

 

「珠閒瑠市か……どんなところなんだろうな」

 

「私も駒王町以外のところはよく知らないので……」

 

「イッセーの奴が昔珠閒瑠市にいたって話は聞いたけれどな」

 

兵藤一誠が昔珠閒瑠市にいた。これはアーシアもゼノヴィアも知り得ている

というか共有する形になった情報だ。

兵藤一誠と天野夕麻の因果関係を調査する際、一誠の過去と夕麻の交友関係などを洗った結果

一誠が中学時代に起こした同級生に対するセクハラ行為によりその生徒が不登校になり

夕麻はその復讐のためにレイナーレと契約し、レイナーレに協力していた。

しかし、それが遠因となり夕麻は一誠に殺される形になったのだ。

殺害事件を引き起こしたことで一度は逮捕された一誠だが

現在は証拠不十分ということで釈放されている。

これにも、須丸清蔵――より正しくは須丸清蔵と契約しているサーゼクス・ルシファーだが――が

絡んでいる形だ。

 

その前からも紆余曲折で駒王学園から孤立していった一誠だが

今は時間城でナイア、イリナ、朱乃と暮らしている。

どちらが幸せかを語るのは、野暮にすぎないだろう。

彼にとっては、駒王学園での生活よりも

時間城で美女美少女に囲まれる生活の方が充実しているのだ。

 

――例え、親元を勘当されたとしても。

 

「はぁ……あれの事だ。どうせいたとしてもろくな話はないだろう」

 

「まぁな。いろいろあってこっちに来たって本人は言ってたが、今思えば察しはつくさ」

 

元浜も直接聞いていないが、顛末は想像がつくと言っていた。

ただ、彼らは天野夕麻殺害との因果関係にまではたどり着いていないが。

一誠は、悪魔の側に寄り過ぎた。それはこの場にいる全員が思っていることであった。

そう、自身も悪魔となったアーシアでさえも。

 

 

――――

 

 

翌日。先日の修学旅行の件とはまた別の件で教室は騒がしかった。

このクラスに、転入生が来るというのだ。

このタイミングで? と思いながらも松田と元浜は転入生が美少女だと勝手に思い込んでいる。

こういうところは、前と変わらない。

 

教師の案内で入ってきたのは、残念ながら男。

だが、どちらかと言えば中性的な雰囲気であるが、男である。

少なくとも、ギャスパーよりは男よりの顔立ちである。

 

呉島光実(くれしまみつざね)です。よろしくお願いします」

 

「……あっ! 光実さん!」

 

転入生とは、ユグドラシル・コーポレーション開発主任である呉島貴虎(たかとら)の弟にして

自身もユグドラシルの手伝いをしている光実。

そして、オカ研の企業見学の際に案内をしていたのだ。

 

「なにぃ!? アーシアちゃん知ってるのか!?」

 

「企業見学があったじゃないですか。その時に……」

 

「静かにしろ。光実君、君の席はあそこの……」

 

興奮する松田を注意し、席に着くように促す教師。

その席は、アーシアの後ろであった。

 

「光実さん、よろしくお願いしますね」

 

「あ、うん……よろしく頼むよ」

 

見知った顔がいたことに複雑な顔を見せる光実だが、その表情はさらに変わることとなった。

松田と元浜が因縁をかけてきたのだ。

 

「おい新入り、アーシアちゃんに色目使うんじゃねぇぞ」

 

「そうだぞ、あとゼノヴィアさんと小猫ちゃんにもな」

 

初対面にもかかわらず突っかかってくる松田と元浜に、光実は辟易としていた。

光実にとって、関わり合いになりたくない部類の人間であるのも大きい。

 

(……黙ってろよ、クズが。

 全く、いくら兄さんの指示だからってなんで僕がこんなところに来なきゃいけないんだ。

 駒王町の実情調査ってのはわかるけれどもさ……)

 

内心で暴言を吐きながら、光実は自分がここにいることを苦々しく思っていた。

だが渡りに船はあるもので、光実に対し暴言を吐いた松田と元浜はゼノヴィアを始めとした

クラスの女子中から非難を浴びることとなった。

まだ駒王学園は女子の比率が高いため、これには松田と元浜は分が悪い。

そうでなくとも、かつては一誠と組んでやんちゃをしていたのだ。そもそもの評価が低い。

 

だが、ゼノヴィアを除いたその攻撃たるや

心の中で暴言を吐いた光実がドン引きするレベルで酷いものだった。

人格否定は当たり前、かつての悪事をねちっこく責め立て、反論さえも許さない。

しかも教師は我関せずとばかりに無視を決め込んでいる。

 

(なんだよこれ……聞いてた以上に酷いところじゃないか。

 この世に理由のない悪意は数知れないって兄さんは口癖のように言っていたけれど

 ここにあるのは……まさしくそれじゃないか!)

 

「やめないか! 確かにミツザネに喧嘩を売ったのはこいつらだ。

 だが、だからって今関係ないことを持ち出す必要はないだろう?」

 

「で、でもこいつら……本性を現した風で……」

 

ゼノヴィアの制止に、片瀬と村山が消え入るような声で反論する。

被害者の筆頭である彼女らだが、その反動か松田と元浜に対しては

かなり懐疑的な目を向けていたのだ。

学園のプリンスである木場も悪魔だからという理由で懐疑的な目を向け

ここに来て「人間のイケメン」である光実が来たことで

舞い上がっていた部分もあった(光実が悪魔でないと証明されたわけではないが)。

そんな光実に攻撃的な態度をとったのだ。彼女らにしてみれば格好の攻撃の口実になった形だ。

 

「私は過去のこいつらをよく知らない。だから今の行いだけで評価する。

 それは君たちも一緒だ。悪いことは悪い、良いことは良い。それで十分じゃないか。

 なあ、ミツザネ?」

 

「変な騒ぎが起きなければ、僕としても問題ないですよ」

 

毒気を抜かれたように、騒ぎが収まる教室。

ゼノヴィアの態度は間違っていないが、部外者視点の発言でもあった。

彼女は、松田と元浜の被害を受けていないと言い切っていい

(実際には元浜に変な目を向けられたが)。

そして、現状の平和な日常とは程遠い中での学校生活だ。

不要な騒ぎは起こすべきでもないし、諍いの元など無いに越したことはない。

故に、ゼノヴィアは松田と元浜を許しているが――被害者はそうもいかない。

例え、彼らが改心し更生したとしても、罪が消えるわけではないのだ。

 

ただ、今回は当事者である光実が深く追求しない態度をとっているため

松田と元浜を攻撃する口実がない。そのために矛を収めたといっても良いだろう。

 

「……いいか? 授業を始めるぞ?

 昨日やったところからだが……光実は隣の……あ、疎開でいなくなってたか……

 じゃあ宮本……もいなかったな。仕方ない、アーシア。光実に教科書を見せてあげなさい」

 

「はい!」

 

さっきまでの喧騒が嘘のように、アーシアは普段と変わらぬ態度をとっていた。

それは彼女にとって光実がどうでもいい存在だから、という意味ではない。

 

(ごめんなさいね、あとであの人たちには「言って聞かせ」ますから)

 

「…………え?」

 

光実は、小声で話しかけてきたアーシアの真意が読めなかった。

ただ一つ言えるのは、必要以上に暴言を吐いた女子生徒がこぞって謎の感電をし

痺れるような痛みを訴えたということである。

 

 

――――

 

 

「……そうですか、珠閒瑠市ですか」

 

「光実君は、珠閒瑠市は行ったことがあるのかい?」

 

昼休み。話す機会のなかった木場とも対話する光実。

この場にいるのは光実と木場以外にはアーシア、ゼノヴィア、白音、松田、元浜。

割と普段のメンバーである。朱乃はナイアに呼び出されているらしく、この場にはいない。

 

「いえ。僕は基本的に沢芽市からは出ませんし。今回の転入だって急に決まって……」

 

「それで合同学習会だから、慌ただしいよな。ま、駒王町に観光スポットなんかないけどな」

 

松田の言う通り、慌ただしい。

駒王町に来たと思ったら、今度は学校行事で珠閒瑠市だ。

ハードワークはユグドラシル手伝いで慣れているとはいえ

慣れない環境に、めまぐるしく変わる環境は負荷が大きい。

 

(調査というから一応ドライバーとロックシードは持ってきたけど……

 駒王町は兎も角、珠閒瑠市の情報なんて無いぞ? 臨機応変に行動するのも大切か……)

 

「……セージ先輩がいれば、わかったかもしれませんけど」

 

白音の違う意味も含んだかのような声色の提案に、アーシアらは納得したように頷く。

松田と元浜もまた、何か勘違いしながらも頷いていた。

光実も一瞬考えこんだ後に「ああ」と納得していた。

彼の場合、アーシアらと同じ理由で納得したようだが。

 

「あれで色々博識だからな、セージ。つか、あいつ本当に高校生?」

 

「言えてる。実は3回位ダブってたりし……あだっ!?」

 

茶化す松田と元浜を、不機嫌そうな眼をした白音がどつく。

勿論、セージに留年の事実はない。そもそもどちらかと言えば貧乏な彼の家で

留年は死活問題だ、学費的な意味で。

それが馬鹿にされたと取れてしまったのか、白音は不機嫌そうであった。

 

「悪かったよ小猫ちゃん……っつかさ、なんか小猫ちゃん、セージに対して……」

 

「なにぃ!? どう見たって犯罪だろ!? こんな愛らしい小猫ちゃんと

 あんなでかいセージが一緒にいるなん……あだっ、あだだっ!?」

 

「……君たち、懲りるということを勉強した方がよくないか?」

 

照れ隠しが大半を占める勢いで繰り出された一撃は、無遠慮であった。

その光景には、ゼノヴィアも呆れることしかできなかった。

苦笑いを浮かべながら眺めるアーシアに木場。

 

――対して光実は、冷めた様子でその光景を眺めていたのだった。

 

 

束の間の平穏な学生生活。

しかし、そんなものはあっという間に掻き消える環境にいることを、一瞬たりとも彼らは忘れてしまっていた。

それを物語るように、空を暗雲が覆い、得体のしれない怪物が現れる。

 

「あ、あれは……?」

 

「はぐれ悪魔……いや、討伐依頼は来てないはず……!」

 

「討伐依頼より先に、奴らが動き出したということか?」

 

「…………悪魔のにおいがします。でも、今までの悪魔とは少し違う……?」

 

アーシア、木場、ゼノヴィア、白音がこぞって反応する。

悪魔の存在は公のものとなっているが、それでも大規模な行動は今のところ、無い。

だが、今はどうだ。空を覆う飛翔体の群れは、アインストやインベスとは違う。

異形の存在という意味では、さして変わりはないが。

 

「と、とにかく急いで避難しないと!」

 

「そ、そうだな。光実、お前も避難す――」

 

差し伸べられた松田の手を、光実は拒んだ。

払いのけたとか、険悪なものではない。その目は、戦場に向かう戦士の目であった。

 

「僕は大丈夫です。戦うための力なら、ありますから」

 

「そうだったね。光実君、君の力を貸してくれ。

 アーシアさんは二人をお願い、ゼノヴィアさんと白音さんも僕に続いてくれ」

 

朱乃がいない以上、木場が陣頭指揮を執ることが多くなった。

本来眷属という立場でとるべき行動は、主であるリアスの指示を待つことだが

そもそもリアスの指揮下にいないゼノヴィアや白音、光実にしてみれば

その行動は悪手もいいところだ。

彼らの心情を考慮すれば、先行することもあながち間違いではない。

 

(ふう、僕は別に前線指揮官向きとは思ってないんだけどね……

 まあいいや。相手の戦力がわからないから下手を打てないけれど

 被害が出る前に、やるしかない!)

 

駒王町にやって来た呉島光実。

彼の駒王町での初陣は、思いのほか早く行われることとなる。

駒王町に現れた謎の飛翔体。その正体は、何者なのか――




ミッチ駒王町に来る。
そして修学旅行ですが、ペルソナ4方式をとることにしました。

……いや、アインストだのインベスだのクロスゲートだの出てきておいて
そこに付け加えてある意味原作以上に禍の団が暴れてる。
とてもじゃないですが修学旅行やってる場合じゃないです。
(構成自体は前から練ってたんですが、リアルがこんな有様なのは完全に想定外)

京都府は妖怪勢力とも口裏を合わせ、緊急事態宣言を発令しました。
よって、修学旅行イベントは大幅に変更がかかります。

>アーシア
原作とは違う意味で「黒さ」が目立ち始めました。
普通に蒼雷龍けしかけてます。もちろん微弱な電流ですが。
本人自覚してませんが、悪魔の駒の影響かもしれません。

>松田と元浜
残念ながら、少しでも隙を見せればこうして袋叩きです。
しかもイッセーがいないからヘイトが集中、庇い立てするセージがいないと
逆風拭いてる状態でした。ゼノヴィアいなかったらどうなっていたか。
まあ、人は簡単には変われませんし。

>ミッチ
内心では黒化フラグが少しずつ立ってますが……彼もどうなることやら。
因みに持っているのは戦極ドライバー、ブドウロックシード、キウイロックシード、ローズアタッカー。
そしてもう一つ、ロックシードを持っています(オリジナルです)。

>討伐依頼より先に動いた~
ゼノヴィアが指摘してますが、これ以前にも普通にありうるレベルだと思うんです。
まさか、常に先手を打って討伐依頼が出されていたわけでもないでしょうし
討伐依頼と実行のタイムラグは大きなものと認識してます。

パーソナル転送システム(ゲシュペンスト)と戦極ドライバー(黒影)、使うならどっち?

  • パーソナル転送システム(ゲシュペンスト)
  • 戦極ドライバー(黒影)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。