ハイスクールD×D 学級崩壊のデビルマン   作:赤土

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この作品は「ハイスクールD×D」の二次創作作品ですが
「ハイスクールD×D」ではありません。
前作「ゴースト」から実しやかに囁かれ、テーマでもあった
「人間」への焦点。そこを重視していきます。
故に、上記の結論とさせていただきました。

さて。
クライマックスは続くよ当分は。
と言うわけで、可能な限り「ゴースト」時代同様の定時投稿を心がけます。


Will2. 「人らしさ」とは

比麗文(ひれもん)石に鳴羅門(なるらと)石と言う、二つの石碑を調べた俺と薮田(やぶた)先生の下に

生徒会の役員がやって来る。聞けば、近隣住民が押し掛けてきたそうだ。

その対応をするために、薮田先生は彼らの下に向かい

俺は薮田先生に言われるがまま、昇降口から生徒会の役員――要するに、転生悪魔である

ソーナ・シトリーの眷属を引き連れて、校舎の中に戻った。

その途中で、どうしてもやって来たという近隣住民の声は聞こえてくる。

 

「何でお前ら悪魔が我が物顔でこの町に住んでるんだよ!?」

 

「悪魔は出ていけ! お前らのせいで俺たちの家が、町が滅茶苦茶になったんだ!」

 

「戦争がしたいなら魔界でも何でも自分たちの世界でやれ! 俺達を巻き込むな!」

 

……うげ。うるさいけど、正論過ぎる。反論する気もないが。

ただ、転生悪魔な眷属軍団はともかく、リアス・グレモリーとソーナ・シトリーにとっては

少々、かわいそうな現状であるとは思わずにはいられなかった。

だからって、必要以上に俺が彼女らを庇う理由なんかどこにもないんだが。

 

その一方で、それに対する薮田先生の反論も聞こえてきたので

俺はこの場にとどまり、一部始終を見ていくことにした。

勿論、この場にいてもいいことのないであろう生徒会の役員には先に行ってもらったが。

向こうだって、生徒会の仕事とかあるだろう。

 

「……仰りたいことはわかりますが、だからと言って学び舎に武器や争いを持ち込むような真似は

 看過できかねますね。ここは悪魔の息がかかっているとは言っても

 普通の人間の生徒も数多く通う、普通の私立校なのですよ?」

 

「その悪魔の息が問題だっつってんだ! 前途有望な若者を、悪魔の教育に染め上げるなんて

 もってのほかだ! 文化侵略だ!」

 

「そうよ! しかもこの町を牛耳ってた悪魔はこの学校に通っていたって話じゃない!」

 

「つまりガキを俺達の管理にあてがってたわけだ! 管理されるってだけでも我慢ならねぇのに

 お遊戯に付き合わされる方の身にもなりやがれってんだ!」

 

「こちとら毎日一所懸命に生きてるのに、それを戯れで管理されたり

 死ぬような思いをするって一体何なの!? 何の権限があってそういう事するの!?」

 

うわぁ……これ、この場にリアス・グレモリーがいなくてよかったよ。

最近はしおらしい風にも見えるが、絶対逆切れして出ていきかねない。

兵藤は……まぁ、退学させられたんだからいいか。

 

兵藤……生徒会……あっ。

 

今、一瞬ヤな奴の事が頭をよぎったが……

どうしようか。黙っておくべきだろうか。

などと考えていたら……時すでに遅し、か。

 

「さっきからうるせぇよ! てめぇらこそ、俺の弟や妹に石ぶつけてるんじゃねぇよ!

 悪魔に反撃されるのが怖いからって、力のない、関係のない奴狙うとか卑怯じゃねぇか!」

 

……匙元士郎。ソーナ・シトリーの「兵士(ポーン)」。生徒会の中では新入りに属するらしく

一応、シトリー眷属における兵藤みたいな立ち位置……らしい。

以前、奴の考えていることを覗いたときにあまりにも看過できかねることがあったので

感情に任せてボコボコにしてしまったが、あの様子ではあまり変わってないみたいだ。

別に更生を期待してたわけでもないけどな。

 

……だが、奴は気になることを言っていた。

「弟や妹が石をぶつけられた」と。

もしそれが本当だとしたら……

 

……事態は、俺が思っている以上にヤバいかもしれない。

 

「匙君。あなたに支取君は何と言いましたか? 下がりなさい」

 

「会長は関係ねぇ! 俺はこの弱くて卑怯な奴らが許せねぇんだ!

 先生こそどいてろ! 俺がこの力で……」

 

顧問である薮田先生すら押しのけながらも、匙は自分の意見を通そうとする。

感情に任せて飛び込み、事態を悪化させる。

剣呑な空気の流れている中で、そういう行為がどういう結果をもたらすか……

 

……言うまでも、なかろうよ。

 

「ほら見ろ! やっぱり悪魔は凶悪じゃないか!」

 

「悪魔の教育を受けた子は、みんなこうなるっていうの!?」

 

「暴力で解決するってのが悪魔のやり方なんだろ!?

 そういうやり方はお前たちの世界だけでやってくれ! 迷惑なんだよ!」

 

「さっきからうるせぇ! 黙りやがれ!」

 

熱量を増していく悪魔へのヤジ。

それに耐えかねたのか、匙はなんと神器(セイクリッド・ギア)である黒い龍脈(アブソーブション・ライン)を発動。

勿論、相手はそこにいる……一般人だ。

 

止めるべきだった! 今の俺の位置からじゃ、どうあがいても攻撃の発動は止められない!

また、天野さんの時みたいな事態が起きるのか!?

 

AKASHIC RE-WRITER SET UP!!

 

俺は思わず目を閉じたが、少しの悲鳴が上がった程度で大きな衝撃などは来ていない。

何かが着弾したような音はしたが、匙の放った一撃が弱すぎたのか、あるいは別の要因か。

俺が思った以上に、響いては来なかった。

恐る恐る目を開けると、薮田先生が……何かしたのか。

匙の攻撃は確かに門の前にいた彼らに向けられていたが、攻撃が着弾したのは

全く明後日の方角である誰もいない校庭だった。

 

「……匙君。頭を冷やしなさい。あなたがどういう思想を支持するのか、までは問いません。

 ですが、今あなたがやろうとしたことは立派な傷害未遂です。

 そうなれば、兵藤君の代わりにあなたが刑務所に送られることになりますよ。

 支取君はもとより、あなたの兄弟の事を考えればどうすべきか……

 ……わからないとは、言わせませんよ」

 

「……く、くそっ!」

 

薮田先生の冷たい目に睨まれ走り去っていく匙を

俺はただ黙って見送ることしかできなかった。

別に、あいつを慰めるとかどうこうするつもりは全くないし

寧ろ頭を冷やすでもブタ箱に行けばいいとさえ思えるのは……俺も良くも悪くも人間なんだろう。

 

匙と入れ替わるような形で、騒ぎを聞きつけたのか警察の人が来たみたいだ。

見た感じ、超特捜課(ちょうとくそうか)の人では無さそうだ。

察するに、駒王学園前で騒動が起きているから誰かが警察に通報して

手の空いている警官が来た、と言ったところか。

超特捜課が動くような事態には、幸いにしてならなかったしな。

 

そうなれば、後はもう大人の――薮田先生の仕事だ。

俺がここにいても仕方ない。一度教室に戻ろう。

 

――――

 

「……『また』、か。もうあいつがいない以上、ここにいる悪魔の生徒で

 近隣住民に迷惑をかける奴はいないと思うんだが……」

 

その日の授業は無事終わり、困った様子でゼノヴィアさんが俺に話を振って来た。

ゼノヴィアさんの言う「あいつ」とは、言わずもがな兵藤一誠の事である。

覗きに始まり、TPOを弁えない猥談で周囲に不快感を与えるハラスメント行為を働き

この学校のほぼ全ての女子生徒及び大半の男子生徒の敵として名高く

松田や元浜とつるんでは、そうした行為に毎日のように及んでいた――のは今は昔。

 

……兵藤一誠は、性犯罪のみならず殺人も犯したため、駒王学園を退学処分となっている。

また、確認の取れていない情報だが勘当もさせられたというらしい。

しかもその殺した相手と言うのが、堕天使レイナーレと契約し

兵藤が犯した性犯罪の報復を試みた少女――天野夕麻と言う、なんとも因果なものである。

 

因みに兵藤だが、殺人犯(と一般的に出所後の再犯率が半端ない性犯罪者)と言うことで

塀の中にいれば万々歳なのだが、そうはなっていない。

事もあろうに、証拠不十分の誤認逮捕と言う形で釈放されたのだ。

しかも、それに伴って責任を取らされる形で警視庁超常事件特命捜査課(ちょうじょうじけんとくめいそうさか)の課長だった

テリー(やなぎ)警視が左遷。現在は蔵王丸慚愧(ざおうまるざんき)警部を後任に据える形で活動できているが

柳警視の左遷に伴って駒王町の治安が一時的にヤバいことになった。

 

勿論、兵藤の誤認逮捕なんてのは嘘っぱちのでっち上げだ。

奴が天野さんを殺害する瞬間を他ならぬ俺が見ている。

リアス・グレモリーもその場に居合わせて目撃していたはずなのだが

どうも彼女の証言も、俺の証言も握りつぶされたらしい。

 

どうやら、この事件の背後にはとんでもない黒幕が潜んでいるみたいだ。

須丸清蔵(すまるせいぞう)と言う国会議員が怪しいらしいが……

これはどういうわけだか俺も神器で調べられない。薮田先生、って前例はあるが

あの人はそもそも正体が……だ。そう考えると、須丸清蔵もそのクチかもしれない。

ともあれ、神器が使えない以上流石に素の人間の力で永田町を相手にするのは無理だ。

なので、兵藤については俺も手が出せない状態だ。

 

「……現状を招いたのはあのフューラーの発言だけどさ。

 三大勢力に疚しいところが無かったら、みんな彼の話を信じなかったと思うんだ。

 こうなったのは、自己責任かもしれないね……」

 

「フューラーか。確かにあれの狙いは俺にも読めないところがある。

 三大勢力と敵対しているのは確かだし、攻撃対象は三大勢力と関わりのある区域ばかりだ。

 しかも、あれは自分の軍も確かに動かしているが、それ以上に民衆を動かしてやがる。

 

 ……こいつ、見てみな」

 

別の教室から顔を出しに来た祐斗が神妙な顔でフューラーの名前を出したので

俺もフューラーに関する情報を出してみることにする。

おもむろに、スマホから見られるニュースサイトの見出しを見せた。

そこには、フューラーの活躍を大々的に取り上げる情報が並んでいたのだ。

勿論、駒王町爆撃などではない、悪魔をはじめとした三大勢力との戦闘の様子だ。

駒王町以外の場所においても、フューラーの軍勢は三大勢力と戦っている。

一応、禍の団(カオス・ブリゲート)と三大勢力の争いと言う体裁はとれているのだから恐ろしいものだ。

 

「ば、バカな!? 奴は大々的にナチズムを掲げていないとは言っても

 ハーケンクロイツを徽章に据えるような軍団が、何故こうも英雄視されるんだ!?

 あのヒトラーの、ナチスの関係者だってのは見ればわかるだろう!?」

 

「セージ君……これ、一応確認するけど……

 君の知り合いのマスコミの記事じゃないよね?」

 

「ああ。全部人間社会の出版社が発行元だ。

 大は嫁売新聞、小はキスメット出版。ネット上でもOREジャーナル。

 皮肉なもんだよ。諍いの絶えない人間が、三大勢力って共通の敵が出てきたもんだから

 あちこちで意見の統一が始まってる。

 日本でも、防衛省や外務省から対三大勢力法案の草案が出たとか、出ないとかだ。

 ……ま、流石にテロ組織である禍の団を支援する、なんて言ってる国は今のところないけどな」

 

俺が三大勢力を「人類共通の敵」と表現したことに対して

ゼノヴィアさんは少し苦い顔をした。しまった、彼女一応追放されたとはいえ教会の所属だった。

アーシアさんにしても、三大勢力と人類が手を取り合えるように動いているんだから

俺のこの発言は、些か失言だったやもしれん。

 

「……なあセージ。いま私達の敵は禍の団、そしてそれに追随する形で現れる

 アインストやインベスの方ではないのか?

 私達人間と三大勢力が争っても、得なことは無いと思うのだが……」

 

「それに、三大勢力の皆さんの処遇を巡って、人間同士でも諍いが起きているみたいです。

 私達のせいで、人間同士が争うようなことになってしまったら……!」

 

「……順当に考えれば、それがフューラーの狙いかもな。

 三大勢力……下手すれば、それ以外の神話体系でさえ奴にしてみれば排除対象だ。

 彼らを人間を使って排除させて、その後で何をするつもりなのかまでは、わからんけどな」

 

ゼノヴィアさんとアーシアさんの問いかけに、俺は今までの状況から推測できる事を

包み隠さず話した。どう考えてもフューラー演説そのものが、三大勢力の瓦解と

彼らに対する求心力の喪失を狙ってのことだ。

困ったことに、三大勢力のその所業のせいでフューラー演説の内容が人類にとって

正当性を与えていたのだ。これでは、義憤にかられた人間が暴走しかねない。

実際、そういう人間はこの駒王町だけ見ても数多い。いや、駒王町だからかもしれないが。

 

「なーにしけた面してんだよ! そりゃフューラーの言ってることは無茶苦茶だけど

 俺達だって、アーシアちゃんを見捨てるほど薄情じゃないぜ。木場はともかく」

 

「そうそう、それよりこれ見てみなよ。

 ユグドラシル、今度はオンラインゲームに手を出すんだってな。

 製薬会社だってのに、本当に幅広いよな」

 

神妙な顔をしていた俺達に、松田と元浜が話を振ってくる。

悪魔バレはしているものの、祐斗やアーシアさんとは

変わらぬ対応をしてくれているのはありがたい。

距離感がなせる業だろうか。リアス・グレモリーやソーナ・シトリーに対しては

少々、冷たい態度をとることが増えたようだが。兵藤? それ以前の問題だ。

そんな二人が、話題を変えるように今度出ると言われている

オンラインゲームの話題を振ってくる。

 

さて。

ユグドラシル・コーポレーション。沢芽市に拠点を構える、世界有数の医療・福祉系企業だ。

実は俺の母さんの職場も、ユグドラシル系列の訪問介護ステーションだ。

その流れからか、俺もユグドラシルは進路の一つとして見据えていたんだが……

 

……なんでユグドラシルがオンラインゲームを?

幻夢コーポレーションとかならわかるが。

 

「『ベルゼビュート』ってどっかの国のプログラマーが

 幻夢コーポレーションに持ち込んだ企画らしいんだけど

 それが通らなかったらしくって、ユグドラシルが拾って開発に至ったらしいぜ?」

 

「何で知ってんだよ元浜……」

 

ベルゼビュート。聞きなれない名前だが

ゼノヴィアさんとアーシアさんはその名前を聞いて苦い顔をする。

まさか……悪魔関係か?

 

検索をかけるのもできるが、そこまでやることでもないだろうし

仮に悪魔絡みだとして、まさかこっちでレーティングゲームを流行らせるつもりではなかろう。

そもそも、成り立ちを考えるとこっちでレーティングゲームをやる意味がない。

 

「キャッチコピーは『全ての者に冒険と未来を』。

 ARMMOとVRMMOのいいとこどりみたいな、そんなゲームらしいぜ。

 しかも基本無料と来た! いやぁ、ユグドラシルって太っ腹だよな!」

 

「……ユグドラシルの回し者みたいに聞こえるぞ」

 

「ほんとだよ」

 

俺の言ったことは松田も思っていたらしく、元浜のユグドラシルのゲームの語りっぷりは

まるで元浜がユグドラシルに金を積まれて宣伝しているようにも聞こえた。

まぁ、口コミで商品宣伝するって方法は昔からある方法だから

それ自体はさしたる問題ではないんだが……

 

「そうじゃねぇって。ただ申し込んだβテスト落ちちまったからさ。

 こうして口に出してプレイしてるような気分だけでもって……」

 

ストレス発散かよ。まぁ、誰かに迷惑かける分でないなら、問題はないか。

以前のこいつらならば、犯罪行為を行っていたかもしれない。

そのことを思えば、環境は人を成長させるというのも強ち間違いでもないだろう。

 

「元浜君。そのゲームの名前はなんていうんだい?」

 

「『D×D』って名前だけど、製品版は『D×C』って名前になるらしいぜ?

 どういう意味なのかは分からないけど、キャッチコピー的に

 それぞれで意味を考えてくれ、って事なのかもしれないな」

 

「『D×D』……か。どこかで……いや、気のせいだね。

 とにかく教えてくれてありがとう、元浜君」

 

D×Dという名前に、祐斗、アーシアさん、ゼノヴィアさんが反応する。

この三人の共通点って……天界関係者、か?

いや、そうだとしても若干弱い。アーシアさんと祐斗ならオカ研。

アーシアさんとゼノヴィアさんならクロスゲートを通って来たあのシスターさん繋がり。

祐斗とゼノヴィアさんなら聖剣繋がり。

三人同時の接点ってのが、今一つ浮かばない。それなのに、なんでそろって反応するんだ?

 

情報が少なすぎて、検索かけるにも絞り切れない。プライベートな事情含むならなおさらだ。

記録再生大図鑑は、プライベートも読もうと思えば読めるが、ロックの解除がめんどくさい。

それに大した用もないのにプライベートを読むのは憚られる。

なので、俺はD×Dと言うものについて調べるのはやめにした。

元浜がさっきべらべら喋ってくれたおかげで概要はつかめたし。

そもそも、記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)で調べ物をすること自体はともかく

そこに至る情報が少なすぎれば、疲れる。今回はそのケースかつどうしても必要な話でもないので

調べないことにしたのだ。

 

「あ……! ごめんなさい、今日私ベビーシッターのバイトが入ってたんでした!

 すみません、先に帰ります。部長さんには祐斗さんから伝えてください」

 

「よし、ならば私も付き添おう。どうせ行く先は同じだしな。

 それに……さっきの輩がまだいないとも限らない。護衛役は必要だろう?

 まさか、蒼雷龍(スプライト・ドラゴン)に人間を襲わせるわけにもいくまい」

 

アーシアさんはベビーシッターのバイトをしている。行っている家は元教会の戦士の家で

ゼノヴィアさんも下宿しているところらしい。そのため、いろいろな事情はすべて把握したうえで

アーシアさんを雇っているようである。俺自身、その家の人と顔を突き合わせたことはあるが……

変人だが、腕はたつし本質は悪人ではない。人間としては、十分に信用できる相手だ。

 

俺は当初、マシンキャバリアーにアーシアさんを乗せて帰路につこうかとも思っていたが

ゼノヴィアさんがいるなら、特に必要ないだろう。

そうなれば、俺は一人で帰ればいい。眠気も覚めたし、帰りにバイクを操縦すること自体は

何ら問題ではない。祐斗は部活だし、松田と元浜はマシンキャバリアーには乗せられない。

頑張れば三人乗りできないこともないが、道交法的にどうなんだと言わざるを得ない。

 

それに、白音さんの事も気がかりだ。超特捜課からの招集も来ていないし

俺は今日はまっすぐ家に帰ることにした。

流石に「白音さんが心配だから帰る」とは言えないが。

言ったら、元浜あたりに因縁つけられかねない。

 

「それじゃ、俺も帰る。ちょいと野暮用があるんでな。

 松田、元浜。お前らも気をつけろよ、怪物軍団に襲われたらただじゃすまないからな」

 

「……ああ、学校帰りにエロ本……なんて、言ってられる状況でもないしな」

 

最近、駒王町の復興もそれなりの速度で進んでいるからか

住民にもそこそこの余裕が生まれているみたいだ。

それが、元浜の話したD×Dとかいうゲームだったり、松田の今の発言だったりだ。

 

……まぁ、三大欲求大事だしな。俺もその点に関しては全否定する気は無いし。

時間と場所を弁えなヨー、とはどこかの英国生まれの帰国子女が言った言葉らしいが

その通りだとは思う。

そんなわけで、俺は松田の発言を聞き流しつつ学校の駐輪場に向かい

人に見つからないようにしながらマシンキャバリアーを実体化させた。

 

――――

 

マシンキャバリアーを走らせながら、駒王町の街並みを眺める。

一時は焼け野原同然になったこの町だが、今ではここに出店してきたショッピングモール

ジュネスが営業再開する程度には復興している。今なお避難所生活の人も少なくはないが。

 

俺も以前はジュネスでバイトしていたが、今は行っていない。

一応、超特捜課の協力者になったことをバイト先に伝えたし

バイト先からは「学校もあるし、このご時世だから警察の方を優先してくれ」

……と、言ってはくれたが。

 

……明日香(あすか)姉さんは、この町を出たので当然もうジュネスは辞めている。

つまり、バイト先に行ったところで顔を合わせることはもう二度とないという事だろう。

それがいいことなのかどうかは、わからないが。

 

『セージ。あまり考え事をしながら運転するな。事故るぞ』

 

「……っと、すまない。今ジュネスの前を通ったもんだからな、つい」

 

フリッケンの警告を聞き流しながら、俺は運転に意識を向けなおす。

改めて思いなおすと、確かに危険だ。一応法定速度は遵守しているつもりだが

こんなごついサイドカーで事故なんぞ起こした日には

せっかく復興した町に要らん被害を出してしまう。

 

そんなことは、俺の本意ではないし免許が失効してしまう。そんな阿呆な結末があってたまるか。

そうして、家に向かう道をひたすら走り続けていると――

 

『……セージ。見たこともない連中が来てるぞ。

 いや、もしかすると俺は見たことがあるかもしれないが……

 少なくとも、この世界では見たことがない』

 

「なに?」

 

フリッケンのいまいち要領を得ない言葉でミラーを確認した俺の目に映ったのは

タンポポの花が象られた模様の入ったエアバイクらしき乗り物。

それに乗っているのは、全身黒ずくめの足軽兵の鎧のような「何者か」。

 

「…………超特捜課の新装備、って感じじゃなさそうだな」

 

俺は超特捜課に顔を出した際には、いろいろな情報を集めている。

その中には、当然装備カタログとかもあるのだが……

 

……あんな装備は、見たことがない。

俺が知らないだけで導入されたものなのかもしれないが

開発するにしたってそれなりの期間はかかる。

だがそれは、超特捜課に限った話だ。これが自衛隊だの、国連だのが絡んでくれば話が違う。

超特捜課とは別の開発ルートで作られたものと言う事も、大いにありうるからだ。

 

しかしさっきから普通の公道をあんなエアバイクで、あんな目立つ格好で走っていることは

俺も気になったため、スピードを落とし記録再生大図鑑で調べようとするが――

 

『――!!

 ロックオンされてるぞ、セージ!!』

 

「はぁ!? ……クッ、こうなりゃ進路変更だ!

 なるべく住宅街以外の場所で迎え撃つ! こんなところで砲撃戦が出来るか!

 フリッケン! 進路割り出し頼む!」

 

次の瞬間、エアバイクは砲撃してきた。

乗り物で移動中に襲撃を受けるとか、まるであの日のようだと思いながら

俺は、正体不明の相手とバイクチェイスと言う名の砲撃戦を繰り広げることになったのだ。




>近隣住民
以前生徒会とトラブルを起こした人達とはまた別です。
一般人が超常バトルに巻き込まれればどうなるか。
彼らが言っていることは、ごく当たり前のことなのです。

そして、彼らこそが集団を、国を、世界を動かすピース。
そんな彼らをおざなりに扱う世界に、未来はありません。
あったとしても、歪み切った未来です。

>D×D
まさかの虚憶案件。
この場に白音がいたらさらに強く反応するんでしょうが
昨夜セージとおたのしみだったため不参加。
何かが働いたのかもしれません。
因みに、この感覚の正体が虚憶と言う事はこの場にいる全員、知りません。
開発者のベルゼビュートと言い、原作既読の方には引っかかる場面でもあります。

そして、一度形だけでも幻夢コーポレーションに持ち込んでいる辺り
「あれ」を意識している部分はあります。
製品版のタイトル「D×C」はまさに……

>エアバイクと襲撃者
一撃! イン・ザ・シャドウ!

パーソナル転送システム(ゲシュペンスト)と戦極ドライバー(黒影)、使うならどっち?

  • パーソナル転送システム(ゲシュペンスト)
  • 戦極ドライバー(黒影)

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