特別編とかでもよかったんですが、通常投稿の方が「らしい」と思いまして。
ネタはあるんですよね、forXの方も。
そちらも楽しみにされている方はお待たせして申し訳ないのですが。
A. M. 05:13
まだ日も暗いこの早朝の時間帯。
かつて悪魔が巣食ったとも、マフィアのアジトとも噂されていた廃工場のあった跡地。
今やここは買い手もつかないまま荒れ果てた更地となっているが
そんな場所にローブを纏った男女が数名佇んでいた。
「けっ。いつまでこんなみみっちい真似しなきゃならないんだ。
ゲオルク、てめぇはいつもの格好とほとんど変わらないから息苦しくないだろうけどよ」
明らかに身の丈に合っていないローブから筋骨隆々な肉体を覗かせた巨漢が
ローブを纏っていても違和感のないであろう魔法使いらしき男に声をかける。
その声色は、あからさまに不服そのものであった。
「仕方ないでしょう。ここ珠閒瑠市は駒王町とは勝手が違うんです。
私の『
それだって不十分なんですよ。
あのクロスゲートとやらが動いている限り、『絶霧』も一時凌ぎにしかならないでしょうが」
ゲオルクと呼ばれた男は、手に持った魔導書を擦りながら嘆息するように語る。
実際、現在の珠閒瑠市の市境には朝靄に混じる形で霧が立ち込めており
内外との行き来が不可能な状態になっている。
――それは奇しくも、十年前に
珠閒瑠市の区域と合致していたのだが、ゲオルクはこの事を知る由もなかったのだが――
「これで赤龍帝も白龍皇も、この地に封じ込めることが出来ました……が。
曹操、一つ聞きたいのですが」
「何だ、ゲオルク」
曹操と呼ばれたローブから漢民族の如き服装を覗かせる青年に、ゲオルクは問いかける。
まるで、曹操こそ彼らのリーダーであるかのように。
「今更ニ天龍にこだわる必要などあるのですか?
私の得た情報では白龍皇は殆ど争いから身を引き
赤龍帝も社会的にほぼ抹殺されている状態。我々が手を下さずとも……」
「そうでもないさ。ニ天龍は存在そのものが人類にとって害悪だ。
所有者には死んでもらわなければならない。
それが世界を平和にするより確実な方法だ。俺にはその力がある。
俺は、この力を使ってこの荒廃した世界を平和にしたいんだ。
それが英雄として生まれた者の役割だからな」
演説をするかのように、この場に集まっている面々に語り掛ける曹操。
英雄。この単語こそが彼らをここに集めた言葉であると言えよう。
ここにいるものは皆、大なり小なり神器によって
どん底の人生から這い上がろうと足掻いてきた者たちである。
「何だっていいさ。俺は暴れられればそれでいい。
特に蔓延ってる悪魔とかを潰すのが気分がいいんだ」
「右に同じくよ。私の中に響くのよ、邪悪なるものを滅せよ、ってね」
巨躯の男――ヘラクレスと集団の紅一点と思われる存在――ジャンヌは
ともすれば過激ともいえる言動をしているが
今の時代、この世界においては彼らの方こそが主流の考えなのであろうか。
しかし、それならば何故彼らは超特捜課と合流しないのか。
それはこの場にいる彼らが皆一様に海外からやって来たことに由来する。
超特捜課はあくまでも日本の組織。海外ではちょっとしたネットニュースにこそなれども
母体が警視庁である以上、日本国籍を有さない彼らは合流のしようが無いのだ。
後方支援組織たる蒼穹会ならば抜け道はあったかもしれないが
それは超特捜課以上に海外では無名だ。
「もっと言えば、超特捜課とだってやり合ったっていい。
ジャパニーズ・ポリスはヘタレの集まりだって聞いてたが
あいつらは様々な悪魔とかをぶっ潰してるそうじゃないか。俺らとそう変わらないのによ」
「ハッ。あんたが警察と一緒なんて、警察に失礼よ」
「んだとジャンヌ!? 俺のどこがヘタレだってんだよ!?」
ジャンヌの単純な挑発に食って掛かるヘラクレス。
その様は大男総身に知恵が回りかね、を地で行くようであった。
とは言えジャンヌもそうは言いはしたものの、本音はヘラクレスに同意していたりする。
超特捜課。それは彼らに言わせれば英雄でも何でもない一般市民が
悪魔などと互角以上に戦っているというある意味、彼らの存在意義を
根幹から揺るがしかねないものであるからだ。
英雄の名を冠し、英雄派を名乗る彼らにしてみれば超特捜課は人間でありながら
目の上のタンコブともいえる存在だったのだ。
「よさないか。作戦決行前に自分たちで争ってどうする?
それに、そろそろ協力者を迎えに行ったアーサーと天草が戻ってくるころだぞ」
ゲオルクに窘められ、ヘラクレスとジャンヌの喧嘩は呆気なく幕を下ろす。
この場にいる曹操ら4人の他にも、アーサーと天草と呼ばれる存在や
協力者がいることがゲオルクの口から明かされる。
彼らが属し、掲げているお題目を考慮すればよくない集団であることは明白である。
「……曹操。アーサーや天草は構わないですし
幼いからとレオナルドを置いてきたことは納得できますが……
……やはり、あの彼らと手を組むことはどうしても承服できません。
もっと言えば、何故アーサーが彼らの手引きをしているのか。私はそこからして疑問です」
「彼らも我々と志を同じくするものだ。その答えでは不服か?」
先刻喧嘩の仲裁をしたゲオルクが、今度は己がリーダーたる曹操に対し意見をしていた。
彼は今回の協力者と歩調を合わせること自体を忌み嫌っていた。と言うのも――
「私もゲオルクに同じ。いくら何でも、ナチスと手を組むことは無いじゃない。
あいつらは英雄でも何でもない、ただの侵略者よ。
それなら超特捜課と協力した方が、よほど納得がいくわ」
そう。彼らの協力者とはフューラーの率いる軍団であったのだ。
ハーケンクロイツを徽章とし、ナチスが用いていた兵器の数々を近代化改修させたものを用い
かの指導者を想起させてならないフューラー・アドルフの存在と言い
ナチスそのものと言っても過言ではない程にナチスを想起させるものなのだ。
ヨーロッパ系であるゲオルクやジャンヌが抵抗を示さない方がおかしい。
「彼らも
それにジャンヌ。超特捜課はあくまでも一般人。我ら英雄が庇護しなければならない存在だぞ。
肩を並べて戦うなど……」
「ああ、俺はまどろっこしいことを考えるのが嫌いだからな。
アーサーや天草の紹介なら間違いない。そうだろ、曹操?」
曹操の語ることは、ある意味的を射ていたが、同じ人間を見下すというその様は
ある意味悪魔や天使、堕天使と言った三大勢力のそれよりも醜悪であると言える。
その言葉に、渋々承服するジャンヌとゲオルク。
一方、ヘラクレスは組む相手がナチスの系譜という事さえも意に介していない様子であった。
半ば強引に話が纏められているうちに、曹操らの下に人影がやってくる。
曹操らと同じローブを纏った青年が2人と、顔のない仮面をつけた白い軍服の女性。
ローブ姿は曹操らの仲間、女性は聖槍騎士団の1人であり、彼女らのリーダー格でもあった。
「曹操だな。今回の共同戦線に際し、総統閣下からお言葉を預かってきた。
『此度の作戦に際し、是非一度お会いしたい』……とな。
その協力の証として、我ら聖槍騎士団以下禍の団英雄派――改めラスト・バタリオンは貴公ら
『禍の団・英雄派』との共同作戦に従事しよう」
軍服の女性が合図をすると、何処からともなくガスマスクとシュタールヘルムを装備した
ナチス時代のドイツ兵を思わせる集団や、四本足を生やした立方体のマシンなどが現れる。
全てではないかもしれないが、それでも今までセージ達やオカルト研究部
ひいては超特捜課が相手にしていた規模よりも遥かに大きい。
これには、ヘラクレスも驚きを隠せなかった。
「一般人とは言え、やっぱ軍隊って奴は違うな……」
「
かつて忌み嫌われし力、此度は人類守護のために揮わん!」
銃剣を高く掲げ、声高に宣言するラスト・バタリオンの兵士達。
それに合わせ、太陽が東の空から昇り始める。
「貴公らの協力に感謝します。では早速そちらの総統閣下との面談を行いたいのですが」
「……では、私が付き添いましょう。アーサー君はゲオルク君の護衛についてください。
ゲオルク君がやられては、この作戦は失敗ですからね」
フードを外し、金色の瞳を輝かせながら南蛮鎧を纏った美青年――天草時貞が名乗り出る。
彼はかつて長崎でキリシタンを庇護し、キリシタン弾圧に立ち向かった
天草四郎の魂を受け継いだ……と、本人は語っている。要はジャンヌと同じである。
しかし、彼については謎が多い。曹操でさえ、彼の出生や所有神器を把握していないのだ。
一応、言い伝えにあるような治療を見せたことから
「
「……大丈夫なのですか、曹操」
「心配は要らないさゲオルク。彼もきっと我々の理想を理解してくれる。
その証拠にこうして協力してくれたではないか。
アーサー、ゲオルクを頼んだぞ」
軍服の女性に連れられる形で、曹操はこの場を後にする。
入れ替わる形で、ラスト・バタリオン側の指揮官と思しき
灰色の軍服の女性――聖槍騎士団の一人がゲオルクらと挨拶を交わす。
彼女との挨拶を交わした後、ゲオルクはアーサーに話しかける。
彼には、どうしてもアーサーがナチスの直系たるラスト・バタリオンと協力することが
不思議に思えてならなかったのだ。
「……アーサー。納得のいく説明をしてください。
何故ナチスの手を借りようなどと思ったのです。
ナチスをよく知らない、黄色いサルな曹操ならいざ知らず、あなたはよく知っているはずだ。
あなたほどの方が、何故ナチス如きの手を借りようとするのです」
「……呪いですよ」
しかし、アーサーは顔色一つ変えずにゲオルクに答える。
――呪い。聖剣とはおおよそ縁遠い概念と思われるが、彼は自嘲気味に呟くのみであった。
「ゲオルク。アーサー王の話は知っているでしょう?」
「知ってるも何も、それは……」
「……それがそもそもの間違いだったのですよ。アーサー王は確かにアーサー王です。
ですが、そのアーサー王のファミリーネームは知っていますか?」
アーサー王伝説。それは海を隔てた日本においても
数多の脚色を加えられながらも語り継がれる伝説。
そのアーサー王が率いる円卓の騎士の物語には、確かに諸説ある。
……しかし、その中で殆ど語られないものもある。それこそが……
「ファミリーネーム? ペンドラゴンではないのですか?」
「……フフフ、そうですか……やはりそう答えますか……フフフフフ……」
ゲオルクの答えに、アーサーはただ力なく笑い返すのみであった。これが意味するところとは。
しかし、アーサーのこの態度でゲオルクは自身の答えが違っていることを察したのだった。
「……違う、そう言いたいのですね。
……ん? だとするとあなたは…………?」
「……そもそもペンドラゴンとは称号であり、ファミリーネームではありません。
それはアーサー王の父親であったユーサーからしてそうです。
では、ペンドラゴンを姓に持つ私は何なのですか?
イギリス貴族の末裔であることは知ってますよ。ですが、それだけです。
アーサー王とは何の関係もないんですよ、私は――いえ、我が一族は。
……或いは、アーサー王が遺した子孫がペンドラゴン姓を名乗ったという可能性もありますが
それにしたって所詮は分家。ペンドラゴン家がアーサー王の直系であると
胸を張って言える証拠など、どこにもないという事ですよ」
「それでは……!? あ、あなたは一体……!?」
驚きながらも投げかけられたゲオルクの問いに、アーサーは嘲笑を浮かべる。
自分はただのアーサーであり、アーサー王とは何の関係もない
ただの出奔した英国貴族にすぎない、と。
「そう言う意味では、私はとんだ裏切り者です。
英雄でも何でもない、ただの貴族の道楽でここまで来ただけの、ね。
なんでもエクスカリバーの一部を持ち逃げした者もいるそうじゃないですか。
私もそのものと何ら変わりませんよ。しかも私はお膝元から直接です。
今頃、祖国では指名手配でもされていることでしょう」
「しかし……! 我らの理想に賛同し、共に立ち上がったあなたは間違いなく!」
己を嘲笑うように、アーサーは語り続ける。
そこにいるのは、ヘラクレスやジャンヌとは違う意味で英雄とは程遠い、人間臭い青年であった。
そんなアーサーを、ゲオルクは宥めようとするが――
「フフフ、よしてくださいゲオルク。今の私には、その優しさすら辛い。
何せ、私は知っていて彼らと――ナチスの末裔と手を組んだんですよ。
曹操のような黄色い猿ならば、ナチスの本当の恐ろしさを知らない。
だからこそ、私はわざと曹操とフューラーとのかけ橋になったんです。
偽りの英雄には、民衆の悪意に支えられた英雄こそが相応しいと思いましてね」
「アーサー……!!」
アーサーの歪みながらも確固たる信念の前に、ゲオルクは何も言えなくなってしまう。
アーサーとて、ナチスが何をしでかしたかは知っている。
しかし、アーサー王の末裔と言うアイデンティティを喪失していた
アーサーを拾い上げた者こそ、フューラーであったのだ。
アーサー王伝説の真実を知り、ペンドラゴン家を出奔したアーサー。
そんな彼に保管していたエクスカリバーの一部を授けたのがフューラーであった。
その後アーサーはエクスカリバーで罪の有無を問わず様々な人魔を斬り渡り
曹操の挙兵を聞きつけ、英雄派へと参戦した背景がある……あった。
しかし、その実アーサーはフューラーの尖兵に仕立て上げられており
曹操が確かに聖槍のオリジナルを確保していることを確認。
聖槍のオリジナルを探し求めていたフューラーへと情報を売り渡していたのだ。
「で、どうします? ……ああ、今更彼女らを追っても無駄ですよ。
それに彼女らはコピーとは言え異能封じの聖槍を有しています。
神器に頼る我々英雄派は、いいカモに過ぎません……私がそうであったようにね。
ならば私を倒しますか? それも無駄なこと。
……精々、お互いに踊らされた英雄を演じようじゃありませんか。
英雄など、所詮は民衆の体のいい玩具に過ぎませんよ……」
アーサーのこの言葉は、曹操率いる英雄派の性質をこれでもかと的確に言い当てていた。
誰が彼らに英雄としての挙兵を望んだのだ。
誰にも望まれぬ英雄は、本当に英雄と呼べるのだろうか。
そもそも、英雄とは何なのか。
定義は多数あれど、絶対の定義は存在しない。
そういう意味では曹操の提唱する定義も間違っていないが
それをかさに着て暴力をふるう事に、果たして正義は存在するのか。
正義無き英雄に、存在意義はあるのか。
誰もその問いに答えることは無く、英雄を騙る軍隊は再び珠閒瑠の大地を踏みしめるのだった。
英雄派。原作よりかなりやさぐれてますね(一部除く)。
>アーサー
ペンドラゴンが名字じゃない、ってのは意外と知られてないと思います。
原作(HSDD)じゃ名字なんだよ! でもいいんですがね。
すり合わせの結果、拙作ではアーサー王本家とは別口のただの英国貴族という事に。
アーサー王の分家か、アーサー王伝説に肖って当時の貴族が勝手に名乗った名字か。
そもそも、アーサー王伝説の舞台になった時代のイギリスとかじゃ名字を名乗る文化無かったっぽいですし。
ある意味今回一番やさぐれた人。ナチスがどういう存在か知ってて協力してるんだもんなあ。
(なお彼らの正体については考えないものとする)
>ゲオルク
今回やった事って、異聞録で御影町を覆った結界とほとんど変わってない事実。
なので対外的にはセベク・スキャンダルの再来と噂されることとなります。
そして何気に曹操の事を「黄色い猿」と揶揄していたり。アーサーもですが。
別にこの二人が白人至上主義者とかでは、無いですけどね。
>曹操
黄色い猿。浮ついた英雄像しか持っていないので、アーサーの手引きでやってきた
(来てしまった)フューラーの甘言に乗ってしまうことに。
これでは英雄ではなく道化だと思います。
……本当に、命がけでフューラーに聖槍渡すだけの役になりそう。
>ヘラクレス、ジャンヌ
英雄派の中でも殊更に三下感の強かった人ら。
曹操程ではないにせよ、英雄ではない一般人を見下してます。
警察でもないのに警察気取るのって、結構……
>天草時貞
原作には存在しない、拙作オリジナルの英雄派構成員。
実は(正体的な意味で)織田信長とどっちにしようか悩んだんですが
胡散臭い(某幕末~明治頃の侍魂格ゲーのせい)雰囲気なのはこっちだろうってのと
もう原作で天草四郎出てきそうにない(多分)のでご指名。
キリシタンとしては信長以上に有名だし、三大勢力との相性かなり良さそうなのに何で原作に出てこないのか謎。
あと何気に神仏同盟特効持ってそうな感じもしたり。