――……ジさん、セージさん、しっかりしてください!
遠くから声が聞こえる。これは確か……
……じゃない! 俺はさっきまで戦っていたはずだ!
一体今どうなってるんだ!? 状況を確認しないと……
身体を起こすと、目の前には緑色の鎧兜を纏った光実――
アーマードライダー
龍玄がここにいるという事は……光実に違いは無いだろうが、何が一体どうなった!?
「ぐ……光実か……」
「しっかりしてください、校舎の中はゼノヴィアさんが押さえてくれています。
僕は校庭で爆発があったので来てみたのですが、そうしたらセージさんが倒れていたので……」
倒れて……? そうだ、俺はヘラクレスに吹っ飛ばされたんだった。
よく見ると、さっきの場所からは少し離れた場所にいる。
光実が俺を運んだという事か。何せ、身体がうまく動かない。
ヘラクレスの攻撃のダメージが、まだ残っているのか……
「光実、ついでに一つ頼まれてほしいんだが、左手の
俺は龍玄の手に向けて
情けない話だが、右手がうまく動かない。
こうなった以上、左手にある記録再生大図鑑を使う方法は一つしかない。
龍玄が手を伸ばした瞬間、遠くで爆音が響いた。
ヘラクレスが動き出したか! これ以上もたもたするのはマズい!
「光実! 悪いが急いでくれ!」
「わ、わかりました!」
EFFECT-HEALING!!
龍玄がカードを取ると同時に、俺の右手の違和感は消え去り、見事に動くようになった。
記録再生大図鑑を使い始めの頃、俺が自分でカードを引けない時によく使った手だ。
誰が引こうが効果は自分にかかる。
中身は意識して変えられるので、不意に引かれない限りは大丈夫だ。
「助かった、それより奴が動き出した。接近戦とミサイル爆撃、攻撃範囲がとにかく広い」
「ええ、ブドウ龍砲でミサイルは撃ち落とせますが、アーマードライダーシステムでも
直撃を受ければ危険ですね」
攻撃範囲が広く、威力が高いという事は――これ以上、放置するわけにはいかない。
現に建物にもダメージが行っているみたいだ。
これ以上やらせるわけにはいかない、注意をこちらにひきつけないと!
「光実、俺が注意を引く。お前は龍玄の武器でフォローを頼む」
俺の提案に首肯で返してくれる光実。二人がかりでないと危ない敵ではあるしな。
と言うか、律儀にタイマンはる必要なんかないだろ。テロリスト風情相手に。
「どうした自称ヘラクレス! 俺はまだ生きているぞ!」
「てめえ! 俺は自称じゃねえ! 本物のヘラクレスの魂を受け継いだ英雄だ!」
その英雄がテロ行為か。まあ、英雄なんて一歩間違えば……ではあるが。
ともかく、相手の目をかく乱させるために、俺はわざと太陽を背にして飛び掛かる。
接近戦では相手のパワーとタフネスを考えれば、どう考えなくとも不利だ。
そうなれば、接近するのはブラフにしておかなければならない。
こっちに接近戦用の必殺技があるわけでもなし。
……アキシオン・バスターは……撃つべきじゃないだろ。
SOLID-CORROUSION SWORD!!
SOLID-FEELER!!
ギャスパニッシャーを使ってもパワー負けすると踏んだ俺は、いっそのことと思い
腐食剣と触手を実体化させる。そういや、腐食剣を生身の相手に向かって使うのは初めてだ。
相当えげつないことになりそうだが……そもそも、効くのか?
この剣で、俺はヘラクレスの足元を狙う。
あれだけの巨体だ、足を潰せばひとたまりもあるまい!
転倒させやすくするために、触手もセットで運用している。
攻撃のタイミングは――龍玄の砲撃に合わせる!
「てめえ! ちょこまかと……なんだ? さっきからちまちまと撃ってきやがって?」
龍玄の砲撃に全く怯む様子を見せない。
あれ、一応初級インベスなら余裕で倒せる威力があるはずなんだが。
いくら見てくれ通りに頑強だからって、程度があるだろ。
どう見ても、普通の人間の強度じゃない。
『……伊達に英雄名乗ってねえな。ありゃ、マグネタイトで相当強化してやがる』
「マグネタイトって、そう言う事にも使えるのか?」
アモン曰く、マグネタイトは生体エネルギー。肉体を覆う不可視の外殻にもなる生体エネルギー。
普通の人間が保有できるマグネタイトはそう多くないが、ある一定以上の力を得た人間は
悪魔などの存在にも比肩しうる肉体強度を得られるそうなのだ。
そして、そういう人間は得てして普通の人間より多くのマグネタイトを保有しているため
洋の東西を問わず、霊験あらたかな謂れを持つとされる人物が妖魔に狙われるのは
そのマグネタイトを狙っているらしい――とのことだ。
『お前もある意味そうかもな。だが詳しい話は別の機会だ。
あのブドウ野郎が作った隙を逃がすな!』
「……っと、そうだ!」
龍玄の攻撃に気を取られたヘラクレスの隙を突き、触手を足首に絡ませる。
そして、腐食剣をヘラクレスの向こう脛に叩きつける。
この剣、切れ味がそもそもあまりないので
本来の西洋剣同様、叩きつける目的で使う事が多かったりする。
「――っっっ!!!」
「『弁慶の泣き所』。どれだけオカルトパワーで補強しようとも
骨をほぼ直に叩かれれば痛くないわけがないだろ!」
そして、狙いどころは向こう脛。所謂弁慶の泣き所だ。
伝説の弁慶も、頑強な体を誇ったと言われているらしいし。
その弁慶でさえ、向こう脛は弱点足り得たそうな。
まあ、目の前の自称と弁慶を比べるのは、あまりにも弁慶に対して無礼だと思うが。
思わず飛び上がろうとするヘラクレスだが、それを阻むように足には触手が絡みついている。
するとどうなるか――当然、派手に転ぶ。
SOLID-GUN!!
隙だらけの自称に一気に距離を詰め、俺は自称の口に銃口を宛がう。
念のため、手首足首は縛っておく。
「形勢逆転だ。大人しく警察に出頭しろ。日本でのテロ行為は死刑になるかもしれないが
そんなこと俺が知るか。お前は英雄などと嘯いちゃいるが
お前らのやってる事を顧みればただのテロリストだ」
銃口を口に宛がわれているため喋れない自称は、俺を睨んでくるが形勢は俺が優位だ。
とは言え何を言っているのかわからないので
銃口を口から眉間にずらす形で、俺は銃の向きを変える。
「ふん、俺は英雄だ! 英雄に対してこの仕打ち、タダで済むと思うなよ!」
……ふと思った。こいつ、「ヘラクレスじゃない自分」は何なんだ?
生まれた時からヘラクレスだったわけじゃあるまい? もしそうなら、話題になるはずだ。
情報統制を敷くにしても限度がある。まあ、フューラーも突然沸いて出てきた気がするが。
「……お前、本名はなんて言うんだ?」
「本名も何も、俺はヘラクレスだ!」
「そうじゃない。俺が聞きたいのは――」
まあ、聞くだけ無駄だったか。
「自分がヘラクレスだと思い込んでいる」と踏んで話を振ってみたが
これは筋金入りと言うか、なんというか……
ふと、レーダーが何かをキャッチした。光実も勘づいたらしく、俺に注意を呼び掛けてきた。
止む無く俺は自称から距離を取る。
すると、空中に突如として黒い長髪を靡かせた悪魔……? が現れた。
少なくとも、俺はこいつを見たことが無い。ならばとアモンに聞いてみるが――
『あれは……クルゼレイ・アスモデウスか? いや、それにしちゃ雰囲気が違いすぎる……』
アモンのいう事を、俺はすぐに察せてしまった。
何せ、目の前の悪魔? は見てくれこそ悪魔だが、レーダーが導き出している答えは――
――アインストなのであったから。
実際、そのクルゼレイとやらの見た目はアインストグリートを思わせる触手が生えていたり
アインストリッターを思わせる装甲を纏っている。その下に申し訳程度に貴族風の衣装が見えるが
最早、それもほとんど襤褸となっている。
「……何を……している。静寂を……この地に……齎すのでは……なかったのか……?」
「何を言っている!? お前ら旧魔王派と、俺達英雄派は相互不干渉のはず!
それは曹操が確かに言っていた――」
ヘラクレスの反論も意に介していない。
まあ、アインストってコミュニケーションに関してはかなり一方的だしなあ。
コミュニケーションで事態を解決するような連中にも思えないが。
……などと思っていると、ヘラクレスの体に異変が生じだした。
「…………!?
がああああああっ!? あがあああああああっ!?」
「……
我らに……属するとは……そういう……意味だ……」
ヘラクレスの筋骨隆々の肉体が、歪に変形する。
既に縛り付けていた俺の触手は千切れている。
だが、とても俺達に向かって襲い掛かってくる風には見えない。
と言うより、明らかにその変化は異常である。
……これは、前に似たようなのを見たことがある。
あの時は運よく助かったが……今回のこれ、大丈夫なのか……?
「セージさん、これは一体……!?」
「……あいつ、何らかの方法でアインスト因子植え付けられてやがったな……
それがあそこにいるクルゼレイってアインストのお陰で活性化しやがった。
そう見るのが自然か」
……多分だが、兵藤夫妻よりアインスト因子を体内に保持していた期間は長い。
となると、ここでアインスト化したら……まず間違いなく……
「い、いやだああああああ!!
俺は、俺は、俺は英雄なんだあああああああ!!
ヘラクレスなんだああAAAAAAAAAAAAAA!!!」
ヘラクレスの胸筋をぶち破る形で生えてきたアインストのコア。
そして、それに呼応するように全身から触手が生え、筋肉の鎧はそのまま硬質化し
アインストゲミュートを思わせる鎧の巨人へと姿を変えたのだった。
COMMON-SCANNING!!
俺もこういった事態に慣れてきてしまったのか、淡々と記録再生大図鑑を向ける。
――アインストヘアクレス・ニヒト。
幼き日、英雄ヘラクレスに憧れてきた男が道を踏み外した成れの果て。
元来持っていた鎧のような肉体は文字通りの鎧となり、自身を覆い、攻守を担う。
触手は鎧を動かす筋肉や神経のような役割を果たしており、それ自体に攻撃能力はない。
「ボースハイト・エクスプロジィオーン」と呼ばれる爆発を両掌にあたる部位から発する。
他のアインスト同様、弱点はコアの部位。
見てくれは確かにアインストゲミュートに似ている。だがあいつは中身が空っぽだった。
それを、一応中身のあるヘラクレスが変異する形でなったというわけか。なんて話だ。
「英雄……尊厳……そんなものは……どうでもいい……
俺達を……認めぬ……世界を……作り直し……静寂なる……世界を……」
アインストの定型文まで出てきたか。まさかテロリストがアインストになるなんて……
いや、そもそもテロリストの首魁がアインストだった。こりゃ当然の帰結って訳か。
「くっ……アインストはアーマードライダーでも苦戦する相手ですからね……
だけど、兄さんに頼ってもいられない! セージさん、行きま――
――――後ろです、セージさん!」
「なにっ!?」
光実の声に驚き、振り向くと爆発と共にゼノヴィアさんが飛び出てきた。
またあの変態じみた教会の服、かと思いきや警視庁で採用された特殊強化スーツを着込んでいる。
慧介さんあたりから受け取ったのか?
……デザイン的には五十歩百歩だけど。
「すまん光実、突破された!」
「ゼノヴィアさん!」
ゼノヴィアさんが対峙している煙の中から、今度は女性が出てくる。
だが、その姿はヘラクレス同様に――
――いや、あの姿は、見覚えがある。アインストレヴィアタンだ。
だが尾が剣で出来ているみたいだし、アインストのコアは見当たらないので
アインストではないのかもしれないが……人間とも言い難い。
こいつもヘラクレスの仲間か? だとしたら英雄とバケモノは紙一重ではあるけれど
本当にバケモノになってどうするんだよ、まったく。
「私は……私は……ジャンヌ・ダルクではない……
では私は何者……? 私はジャンヌ……ジャンヌじゃない……私は……私は……
私は……わたしはわたしはわたしはわたしはわたしはわたしはわたしは
だれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれ?????」
彼女の服装が飛び散り、その胸部にはやはりアインストのコアが浮かび上がっていた。
それと同時に、背中から無数の触手が生え、その先端は俺のスイングエッジ同様に
剣で形成されていた。
――アインストヨハンナ・ニヒト。
フランス革命の旗印、ジャンヌ・ダルクの再来を嘯いた女性の成れの果て。
以前使っていた神器・
自らの体を形成している。
アインスト特有の再生能力と合わさり、その刃の切れ味は衰えることは無い。
触手部位は「シュヴェールト・ギーセン」。
下半身にあたる巨大な尾は「ツュッヒティゲン・ドラッヘ」と呼称される。
なお、アインストレヴィアタンとは異なり、下位アインストに過ぎたないため
この個体にアインストを生成・召喚する能力はない。
これはアインストヘアクレス・ニヒトも同様である。
「これは……アインスト!? やはりこいつら、オーフィスの!」
「……そうだ。我らの……目的は……いずれ……成就される……
我らの……望む……世界に……彼奴らは……不要……故に……」
「予め仕掛けておいて、鉄砲玉に仕上げたって事か!」
クルゼレイって奴の言う事を要約すると、英雄派は初めからオーフィスにとって
鉄砲玉程度にしかなっていなかったらしい。つまり、こいつらは英雄だなんだと言っても
テロの片棒を担がされたどころか、使い捨てられたって事だ。
……今ここにいる二体を倒したところで、向こうには何のダメージも無いって事だろう。
そもそも、アインストが人間と同じ組織体系を運用しているかどうか怪しいし。
女王バチを頂点とする生物と考えたら、およそ人間的組織運用ではあるまい。
つまりこいつらは……スペックはともかく、替えの利く働きバチって事だ。
以前戦ったアインストレヴィアタンも、性質は女王バチだったがアインストと言う種全体で見たら
氷山の一角に過ぎなかったわけだし。
寧ろ、後ろでふんぞり返っているクルゼレイの方が女王バチに思えないこともない。
「とにかく、こんな奴らにこれ以上暴れられたら危険です!」
「だな。光実、ゼノヴィアさん、やれるな?」
「勿論だ。学校内には負傷者もいる。
アーシアが応対しているが、皆のメンタルにもかなり負荷がかかってる。
早いところ奴らを片付けて、原因を取り除かないとな!」
フューラーの部隊から、神器持ちの超人、そしてアインストと
敵の種類がめまぐるしく変わっていたが、倒さなければならないことに変わりはない。
「……静寂なる……世界を……齎す……ために……」
だが、クルゼレイは動こうとしない。
こちらから仕掛けようにも、目の前の二体が邪魔で近づけないが。
『クルゼレイも引っかかるが、今はこいつらが先だ。セージ、やるぞ!』
「ああ!」
「本物の聖剣の力を見せてやる!」
「今ここに兄さんはいない……僕が、やるしかないんだ!」
相手がアインストという事で俺はナイトファウルを。
ゼノヴィアさんはデュランダルを。
光実はブドウ龍砲を。
昴星の校庭に、虚空の魔物と化した英雄を嘯く者たちを相手に俺達は戦いを挑む。
英雄派の扱いは、拙作ではこんな感じです。
オーフィスが仕事しない禍の団だからああなっていた部分あると思いますし
じゃあってんでオーフィス仕事したらこうもなるかと。
>ヘラクレス
こいつに限らんのですが、「英雄じゃない」自分は無いのでしょうか。
原作では事案起こした後で見つけたようですが、拙作ではそこに至る前に……
そもそも、テロリストが普通に表舞台に出るなって話なんですよ。
元アルカイダとかオウムの実行犯がその辺うろついてたらダメでしょう。
セージもそれなりに体格あるので、牛若丸みたいな戦い方はできませんでしたという事で
強引に転ばせました。ころばし屋が欲しいところ。
>ジャンヌ
端折られました。彼女も多分ゼノヴィアから似たような問答されてると思います。
>ミッチ
一応テロ容疑かけられてるのにどうやって? まあ、ユグドラシルのコネ使ったのでしょうね、多分。
一度外に出てしまえばあとは変身で正体ごまかせますし。
>英雄派
実は曹操英雄派はオーフィスと謁見しています。
つーか組織なんだからトップへの謁見位するでしょ普通。
アインスト因子はその際の物。
腕輪なんぞ無くったってアインスト因子あればアインストに変異します。
ディオドラやカテレアパターンではなく兵藤夫妻パターン。
しかしこちら兵藤夫妻より遥かにアインスト因子を長期間体内に保有していたという事は……
フューラー英雄派? 中身がアレなので……
作中、鉄砲玉と評されてますがフューラーから見ても曹操英雄派って鉄砲玉扱いだったのかもしれません。
今のところ一部兵士以外はマシンばかりですし
虎の子(最も、これでさえも使い捨て疑惑あるけれど)の聖槍騎士団がいませんし。
(危惧はされてましたが)
※2/26追記
誤字報告ありがとうございます。
ですがこれ誤字じゃないんですよー
ヘラクレス、ドイツ語表記だとヘアクレスらしいので(googleの発音もそう聞こえます)。
アインスト関連の名詞は一応ドイツ語縛りかけてますので、そっちに因んでます。
(ヨハンナになったジャンヌも同様の理由です)