ハイスクールD×D 学級崩壊のデビルマン   作:赤土

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表題通りです。

……だけというのも味気ないので、少しばかりアンケートを掲載させていただきました。
既にご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが。
よろしければ、ご協力お願いします。


Will5. ミスター・デンジャラス

11:30 A.M.

沢芽(ざわめ)

ホテル・ユグドラシル 大ホール。

 

俺達超特捜課(ちょうとくそうか)ユグドラシル民間警備会社(YGDPMSC)、自衛隊員と言った

要人警護のために集まったメンバーが、一堂に会している。

 

警備スケジュールや配置の段取りを決める流れになっていたが

俺はここに来る前に見たクロスゲートの事を、超特捜課組の指揮官である

氷上さんに伝え、アインストの襲来をはじめとした非常事態を想定してもらうように伝えた。

 

「……またクロスゲートですか。私たちが見た時には確認できませんでしたが……

 宮本君、それは本当なのですか?」

 

「俺というか、アモンが見た情報ですが。ユグドラシルタワーの上空に

 クロスゲートが『稼働状態』で健在です」

 

一瞬、ユグドラシル民間警備会社の隊長格が苦い顔をしたような?

そりゃまぁ、本丸の上にとんでもないものがあるんだからなぁ……

うん? って事は隊長さんはクロスゲートについて知ってるって事か?

……まぁ、黒影の事とかユグドラシルって会社自体が何かきな臭いが……

今、ここで言っても仕方がない。言うなら氷上さんと霧島さんに留めておくべきだ。

万が一にもユグドラシル民間警備会社との歩調が合わなくなるのはまずい。

 

……そりゃあ、彼らだって使っている黒影が

なんで台湾マフィアの天道連(ティエンタオレン)に渡っているのかってのは気になるが。

 

「わかりました。クロスゲートの事は、自衛隊の皆さんや

 ユグドラシルの皆さんとも協議したうえで会議当日に備えましょう。

 ほかに何か気になった点はありますか?」

 

「……いえ」

 

うん、嘘ついた。黒影の事とかツッコミたい。

まぁ、黒影に関してだけ言えば氷上さんだって知ってるはずだから氷上さんが言うだろうし

ここでいう事でもないか。

 

「警視庁側からの話が終わったのなら、こちらからも補充要員の通達がある。

 凰蓮(おうれん)軍曹、こちらへ」

 

警備会社の隊長格の人に案内される形で、入って来たのは……

やけにガタイのいい、ターバンを巻いたつけまつげの……男? だった。

 

Bonjour, tout le monde.(こんにちは、皆さん)

 ワテクシがご紹介に与りました凰蓮・ピエール・アルフォンゾですわ。

 皆さん、どうぞよろしくお願いしますわ」

 

「凰蓮軍曹はフランス外人部隊に従軍された経験がある。

 今回の作戦において、とても心強い戦力となってくれるはずだ」

 

……そっち系か。

まぁ、ここで調べるよりも後で調べておくか。

隊長格の人の言葉が正しければ、こういう場では心強いだろう。

そう俺が考えていると、凰蓮軍曹は集まった人たちをじっくりと見定めながら

部屋の中を一周するように歩いていた。

 

「フン……フンフン……

 自衛隊の皆さんは合格、警視庁の皆さんも合格。

 

 ……けれどアータは不合格!」

 

「……えっ!?」

 

凰蓮軍曹は俺を指さすなり、失格と言ってのけたのだ。いきなりなんだよ!?

 

「ワテクシの目はごまかせなくってよ!

 アータ、どこからどう見てもただの高校生じゃない!

 その制服がどこのものかは知らないけれど

 高校生が要人警護なんて甘く見ないでほしいわね!」

 

……言い返せない。それに関しては俺もそう思ってるから言い返せない。

俺が押し黙っていると、氷上さんが俺のフォローに入ってくれた。

 

「あ、お言葉ですが凰蓮軍曹……宮本君は今までに

 禍の団(カオス・ブリゲート)との戦いにおいても実績を上げてますし、怪物退治の経験もあります!

 何より彼の持つ神器(セイクリッド・ギア)悪魔(アモン)の力は有用かと……」

 

Tais - toi(黙りなさい) !!

 高校生が命を懸けた戦いの場にいること自体が問題だと言っているの!

 そもそも少年兵は国際法で禁止されているのよ! お分かり!?」

 

……完っ全に忘れてた……

普通にリアス・グレモリーやらなんやらが戦いに首突っ込んでたから忘れてたが

俺、高校生じゃん。テロ対策とか乗り出すのはまずい年齢じゃん。

ゼノヴィアさんとか蒼穹会(そうきゅうかい)に所属してたからつい忘れてたけど

これ引き合いに出しても全然事態は好転しない奴だ。

 

もっと言えば、拳銃やらなんやらで俺も銃刀法思いっきり違反してるけど……

絶対、今言わないでおこう。

 

「……ま、いいわ。けれど、相手が法に則らない存在だからって

 こちらが法を破っていい道理はなくてよ?

 最低限の法は守る。人が人らしくあるために必要な事よ」

 

「……いち警察官として、心得てはおります」

 

凰蓮軍曹の正論に、氷上さんも言い返せなくなってしまう。そりゃそうだ。

氷上さんには悪いが、俺だって多分凰蓮軍曹の肩を持つと思う。

……いるはずがないが、この場にリアス・グレモリーとか兵藤一誠とかいなくてよかったと思う。

絶対凰蓮軍曹と言い争いになって事態が無茶苦茶になっていただろうから。

 

「……そうね、けれど神様の警護なんてワテクシも初めての経験ですもの。

 今までの常識が通じないという事態も往々にして起こりうるわ。

 

 ……なので、ワテクシのポリシーには反しますけ・れ・ど!

 そこのボウヤがワテクシ顔負けのプロ根性を見せてくれるのなら、認めてあげてもよくってよ。

 真のプロフェッショナルに、年齢は関係ありませんもの」

 

『……なるほどな。このオカマ、喋りと恰好はふざけてるが生粋のプロフェッショナルだ。

 軍曹って言ってるし、何より見ろよセージ、あの勲章。

 ありゃあ、かなりの紛争地帯を渡り歩いた凄腕だぜ。

 下手すれば、神器があろうがなかろうが負ける。

 人間って括りで見たら、かなり上位に食い込むだろうな』

 

色々な意味でどストレートなアモンの推察に、俺は同意する。

確かにそういう気概の人ならば、他者にもそれなりのものを要求するかもしれない。

まして、今回は失敗が許されない要人警護だ。凰蓮軍曹の言う事も、納得できる。

 

「と、言うわけで!

 氷上巡査、これから当日までの間、このボウヤをお借りしてもよろしいかしら!?」

 

「……えっ」

 

いきなり凰蓮軍曹に腕を掴まれる。何か物凄く嫌な予感がする!

……いや、そっちの意味じゃなくて。

 

「スケジュールと配置は後でワテクシに伝えていただければ結構よ。

 ワテクシ、ちょっとこの子を鍛えて来るわ!」

 

「えっ……ちょっ……」

 

周囲の人間が呆気にとられる中、俺達はホールを出ることとなった……

 

――――

 

有無を言わせず、凰蓮軍曹に引っ張られる形で出てきたのは沢芽市の公園。

公園だけ見れば、駒王町のそれとそう大差ない。

 

「さあ、本番まで一週間を切っているから巻きで行くわよ!

 まずはこれに着替えて頂戴。それから両手両足にこれをつけなさい」

 

そう言って、寄越されたのは訓練用に使うのであろうスポーツウェア。

そして、割と重量のあるリストバンドだ。

ここで突っぱねても話がこじれそうなので、俺は凰蓮軍曹の指示に従うことにした。

 

「着替えたわね。アータ、体格がいいからワテクシのお下がりで間に合って助かったわ。

 あ、きちんとクリーニングはしてあるから心配いらないわよ。

 

 ……さ、これからフランス外人部隊仕込みのトレーニングを開始するわ!

 いいこと? アータみたいなアマチュアが要人警護なんて通常あり得ないの。

 けれど、今は日本どころか世界中でも人間一人一人の力が要求される時代。

 だからアータはプロフェッショナルになりなさい。このワテクシが鍛えてあげるのだから

 一週間でモノにして見せなさい!」

 

――それから、俺は凰蓮軍曹にみっちりしごかれた。

 

公園の走り込みから基礎的な筋トレ、そして態々氷上さんから取り寄せたという

俺に関する資料を基にした戦闘トレーニングまで入って居たのだ。

とは言え、その内容たるや――

 

「アータ、神器に頼るのはアマチュアの悪い癖よ!

 アマチュアはね、強い力を手に入れたら嬉々としてそれを使いたがる!

 それが強ければ強いほど、猶更よ!

 そしてそれが齎す結果を見ようともしない! 責任感がないのよ、アマチュアってのには!

 だから本物なら、己の体一つでこの事態を切り抜けて見せなさい!

 勿論、悪魔の力なんてもってのほかよ!」

 

……口には出さなかったが、心の中で反抗してたと思う。

とは言え目的がはっきりしてる分、リアス・グレモリーの態度に比べればよほど説得力があるし

神器封じの聖槍を持つ聖槍騎士団(ロンギヌス13)って前例がある以上

神器頼りの戦いをするわけにもいかないのも事実だ。

そうでなくとも、凰蓮軍曹の言っていることはそれほど間違いだとは思わない。

 

ところで、この人は神器持ちと接触したことがあるのか?

……ここまで俺にしごきを仕掛けてくるのなら、却って人となりが気になるところだ。

一刻も早く蹴りをつけて、問いただしてやる!

 

そう意気込むと、気合が入った。だが両手両足につけたバンドが重い。

それにも負けず走り込みや筋トレを続けた俺に待ち受けていたのは。

 

凰蓮軍曹がどこかから仕入れた、訓練用のドローンを相手に素手による戦闘訓練だ。

ドローンの相手なら、過去にやったことがある。あの時は神器使ったが。

神器使えない、アモン交代不可、重石付きというハンデはあるが

やってやれないことは無い内容だった……のだが。

 

……流石に、20セットとなるとかなりヤバい。

 

「はぁっ……はぁっ……ひゅーっ……ひゅーっ……」

 

「……初日ならこんなものね。今日はこれでおしまい!

 明日は倍の40セットに増やすわよ!」

 

大の字で仰向けになって倒れこんだ俺に、凰蓮軍曹はとんでもないことを言ってのけた。

お陰で一瞬、目の前が真っ暗になった。

いや、要人警護に来たのだから沢芽市の観光に来たわけじゃないんだが……それにしたって。

その日その日を生き延びるのに、精一杯になりそうだ。

……まぁ、違う意味で明日をも知れない状況に立たされたことはあるけどさ。

 

這う這うの体でホテル・ユグドラシルまで戻り、部屋に戻ってシャワーを浴びる。

こういう時、温泉旅館じゃないのが惜しまれる。まぁ、要人警護の警備員の宿が温泉旅館ってのも

あまり聞かない話ではあるが、風呂派の俺にしてみると物足りなさを覚えるのも事実だ。

 

「~~~~~~~っ」

 

身体を拭き、バスローブを纏って軋む体をだましだまし動かしつつ、ベッドに倒れこむ。

リアス・グレモリーの兵藤に対する特訓メニューが確か大体こんな感じだった。

だが、今回はトレーナーが従軍経験者という事もあり

春先のライザー対策の特訓の時よりも、洒落にならないハードワークであると思う。

そもそも、俺あの時霊体だったし。

 

一応、今は自由時間という事で割り振られているが

今日は沢芽市の見物をする気にはなれなかった。

情報収集のためにラジオをつけるが「ビートライダーズホットライン」という番組の

音声を聞いている途中で、舟をこぎだしてしまう。

 

……遠くに、チームプリズムリバーというどこかで聞いたような名前だけが聞こえたが……

……その顛末を、俺ははっきりと聞く前に意識を手放してしまった。

 

――――

 

――起っきなさぁぁぁぁぁぁぁい!!

 

……何かが頭の上に落ちてくる衝撃で目が覚める。

猫から解放されたと思ったら、とんでもない起こされ方をしたものだ。

目を開けると、枕元に金ダライがあった。まさか、これ落ちてきたのか?

だとしたら、いったい誰が……

 

その答えは、ベッドの横に腕を組んで仁王立ちしているガタイのいいつけまつげが物語っていた。

 

「いつまで寝ているの! もう総員起こしの時間は過ぎていてよ!」

 

「え? 凰蓮軍曹……というか総員起こしは海上保安庁の話で

 フランス外人部隊は関係ないんじゃ……」

 

「口答えしない! 支度したら朝のトレーニングから始めるわよ! 40秒で支度なさい!」

 

どこかの冒険活劇のようなことを言われながら、急ピッチで支度する。

……なのだが、着衣と洗顔、そもそも歯磨きまで入れれば

1分は余裕で超えそうな気がするんだが。特に歯磨き。

おまけに、ヒゲの問題もあるし……

 

「……2分40秒。まぁ40秒は言葉の綾だからとりあえずは許してあげるわ。

 けれど総員起こしの時間を過ぎているのは本当よ!

 ホテルを出たら昨日の公園までダッシュなさい!

 ホテルもエレベーターなんて使わないで、階段で降りてきなさい、いいわね!?」

 

因みに、俺の部屋は6階である。

そりゃあ、ダッシュすればエレベーターより早く降りられるが

この早朝にホテルの階段をダッシュで降りていいものか?

 

いや、考えていても仕方ない。

非常階段を使う事も考えたが、非常階段を伝う足音が聞こえたら

安眠妨害どころの騒ぎではない。なので、俺は普通に階段を駆け下りた。

 

そうしてホテルのロビーを抜けて、昨日の公園に向けて一目散に走りだす。

辿り着いた先では、既に凰蓮軍曹が待ち構えていた。

 

「さあ、遅れた分を取り戻すわよ!

 遅れた分はリストバンド追加! 朝食まで時間がないから今回も巻きで行くわよ!」

 

その日も、凰蓮軍曹によるしごきは苛烈を極めた。

稀にではあるが、インベスも襲ってくる中でのトレーニングだ。

しかし、インベスが襲って来ようとも俺は神器も、アモンとの交代も許されなかった。

……おいおい、マジで死ぬ奴じゃねぇか!

 

「凰蓮軍曹! 流石にインベス相手は万が一のことを考えて……」

 

Tais - toi(黙りなさい) !!

 戦場では、相手はこちらの都合なんて考えてくれないのよ!

 力が使えない? こちらの予想外? だから何!?

 そんなものは、アマチュアの言い訳でしかないの!

 プロフェッショナルなら、常に最善のコンディションを保ち

 その上で不測の事態にも対処できるように日頃から鍛えておきなさい! 行くわよ!」

 

やべぇ。スパルタってレベルじゃない。霊体になれるのならインベスの毒は回避しやすいが

肉体がある以上、霊体時のようなよけ方は出来ない。

異能に拠らず、生き延びる術を確立すること。

それが凰蓮軍曹の狙いなのかもしれないが、それにしたって。

 

俺は、死に物狂いでインベスと戦った。

正直、神器やアモンの力を使えば余裕で倒せる相手ではある。

神器も、アモンもダメというならばそのどちらにも属さないフリッケン由来の力である

紫紅帝の龍魂(ディバイディング・ブースター)を使えばいいんじゃね? と思ったが、やめた。

凰蓮軍曹の性格的に、そんな屁理屈じみた抜け道で解決したら

後で何倍にもなって返ってきそうな気がしたから。

 

とにかく、そんなわけで完全に異能抜きでインベスの相手をすることになった。

調べによれば相手は初級インベス、つまりそれほど強くないインベスなのだが

それでもドラゴンアップルを繁殖させる毒は健在であり

俺が危惧していた最大の理由はそれである。

 

もし感染したら、治療の方法を知らない以上どうにもならない。

だから、そうならないように全力で相手をする羽目になった。

 

――――

 

「ぜぇっ……ぜぇっ……」

 

Super(上出来よ).

 巷に聞く神器使いは、皆神器の異能に頼って戦いの基礎を疎かにしているわ。

 そんなアマチュア丸出しの戦い、美しくも無いしやがて限度が来るわ。

 だから、ボウヤには神器に頼らない戦い方を学んでほしかったの。

 勿論、必要とあらば神器は使いなさい。得た力をどう使うかは、アータ自身が決めるのよ」

 

……そうだ。神器は所詮、力でしかない。その人間を構成する要素の一つに過ぎない。

神器がメインじゃない、その持ち主がメインなんだ。

そのことを忘れれば、それは人の皮を被った何か悍ましい存在に成り下がることだろう。

死線を潜り抜けてきただけあってか、凰蓮軍曹の言う事は一々苛烈だが、筋が通っている。

 

「さ、今日はこれでおしまい。休めるときには休んでおきなさい。

 有事に備えて体を休めるのも、プロフェッショナルの仕事よ」

 

凰蓮軍曹に促され、俺はホテルに戻ることにした……のだが。

 

その途中、どうしても寄ってみたい場所があったのだ。

凰蓮軍曹曰く「アマチュアがこぞってだべっているだけのお遊戯会、行くだけ無駄」と評した

「ビートライダーズ」とやらのパフォーマンス会場。

日も暮れていたのでさっさとホテルに帰るべきだったのだが

俺はふと気になったのと誰かが読んだ気がして

話のタネに少し見学していくことにした……のだが。

 

そこで踊っているのは、どう見ても人間じゃない。

これを人間と呼ぶならば、一度眼科に行けというか

お前は何を以て人間を人間として見ているのかと問い質したくなるソレだった。

何というか、サルが服着たような奴とか河童がリズムに合わせて踊っていたりとか

後は……豚? イノシシ? それっぽいのとか、蛇とか、虎とか、そんな感じ。

 

……そのシュールな光景に呆気に取られて忘れていたが、こいつら悪魔……じゃなさそうだしな。

だとしても、こんな奴らが堂々と踊っているってこと自体が衝撃的だった。

フューラー演説、ここでは効果ないのか?

そして、こいつらが踊っている曲もどこかで聞いたような曲調だ。

目を凝らしてみると、表で踊っている妖怪軍団の後ろで

ギターやトランペット、キーボードが舞っている。

声楽まで混じっているとなると……これは……マジか。

 

ちらほらといる観客を押しのけながら、俺は最前列に躍り出てみた。

妖怪軍団の後ろでは、見覚えのある赤や藤色、黒、そして新調したと思しき

スポーティーなツーピース。くっきりと見えるわけじゃないが、彼女らを見間違うはずがない。

俺がまだ悪魔だったころ、最初の契約者として色々世話になった虹川(にじかわ)姉妹だ。

 

「えっ!? うそっ、セージ!?」

 

「えっ!? あ、ほんとだ! セージも沢芽市に来たんだね!」

 

三女の莉々(りり)と次女の芽瑠(める)が俺に手を振ってくるので、俺も手を振り返す。

その動きに、向こうは面食らったみたいだが……あ、そうか。

向こうが駒王町を出る少し前、即ち俺が肉体を取り戻したあたりでは

彼女らの姿は見えなくなってたんだったっけ。

黒歌さんとの特訓の成果、こんなに早く出るものなのか?

 

折角なので、そのままダンスパフォーマンスと演奏を聴いていくことにした。

虹川姉妹からは、こっちでの情報を持っているなら欲しいところだし

久々と言うほど時間が経っているわけでもないが、積もる話もある。

それも含めて、俺はパフォーマンスを最後まで観ていくことにしたのだ。

 

――パフォーマンス終了後。

 

明日もあるから、あまり長居は出来ないことを伝えつつ

俺は久々に虹川姉妹と会話することにした。

その前に、前で踊っていた妖怪軍団――チーム魍魎の紹介をされたが。

なんでも、元々はチーム鵺と名乗っていたらしいが

河童のサラマンダー富田とかいう奴と意気投合。

そのまま、チーム魍魎と名前を変えて今に至るらしい。

 

聞けば、妖怪勢力の重鎮が神仏同盟への当てつけのように三大勢力――特に悪魔と歩調を合わせ

お陰で東西妖怪勢力が対立するほどの騒ぎになってしまっているらしい。

あえて言おう。アホか。まぁ、人間でも須丸清蔵(すまるせいぞう)みたいなやつがいるし

確かレイヴェルさんのとこには永遠の命を求めて眷属になった弁護士ってのもいたはずだ。

そのことを考えると、悪魔と手を結ぼうと考える輩は出てきてもおかしくないか。

俺に理解できないだけで、すべての人間が俺と同じ思想なんてありえないし、あってほしくない。

 

「それより、本当にセージさんから私たちが見えるの?」

 

「ああ、流石に霊体時代ほどじゃないけど」

 

四女の(れい)が改めて、俺に自分たちが見えるかと聞いてくる。

彼女らは幽霊なのだから、霊感のある人間か霊的な存在でないと見えない。

それは肉体を持った悪魔にも見えないらしく、それでいつぞや祐斗が一悶着あった。

なので、当時の俺としても相手にしても、普通に会話できる貴重な存在であったのは確かだ。

……いや、変な意味じゃなく。

 

「……いくらあの黒猫の腕がいいとしても

 この短期間でセージさんが私達を認識できるようになるなんて」

 

「ああ、自分でもびっくりだ」

 

長女の瑠奈(るな)が驚いたように、感心したように呟く。

こういうのって、大体数か月単位でかかりそうなものだと思っていたんだが。

 

ふと、瑠奈がすっ、と手を差し出す。思わず反射的に握手し返しそうになるが

俺の手は、瑠奈の白い手をすり抜けてしまった。まぁ、そりゃそうか。

 

「うわ、姉さん大胆」

 

「あー、やっぱダメかぁ。私は久々にセージに会えたから思わず抱き着いてやろうと思ったけど

 触れないんじゃね、しょうがないわね」

 

「……それをいいことに変な事しちゃだめよ、芽瑠」

 

瑠奈の行動に、末っ子を除いてわいのわいのと盛り上がる。

うちでも最近よく見かけるのに似た光景だ。

ただ、末っ子の玲は首を傾げていたので「そのうちわかる」とだけ言っておいた。

……幽霊に成長の概念ってあるのかどうか知らないけど。俺も俺で、結構無責任だなおい。

 

「へぇ、面の割には色男じゃねぇか兄ちゃん」

 

面は余計だ、とサラマンダー富田に返しながら俺は妖怪軍団とも話をする。

実質真っ二つに割れてしまった妖怪勢力。東のぬらりひょんと、西の八坂。

この二つに分かれていたところ、三大勢力が日本に侵略。

対抗する形で神仏同盟(しんぶつどうめい)が結成されたが、これが決め手となってぬらりひょんが離反。

八坂も三大勢力との和平は相手方のその素行から疑問視していたところ

スタンスが分かれてしまい、そのままずるずると妖怪勢力は二分割してしまっているらしい。

 

……これ、変に意地張らないで神仏同盟と合流するなりした方がいいんじゃないか?

俺はその事を富田に振ってみたが

 

「俺に言われたって困るぜ。俺だって実家逃げだしてきたんだからよ。

 ……ま、ただ逃げてきたわけじゃないぜ。実家がきゅうり農家なんだけどよ。

 妖怪式農法だけじゃ限界だと思うわけよ。そこで、偶々人間のテレビ番組見たら

 アイドルがきゅうり育ててるじゃねぇか! これ見て俺はピンと来たね!

 だからよ、俺はあと3人くらい仲間を集めてきゅうりに限らず

 でっかい農園を作るのが夢なんだよ!」

 

今ここにはいないが、イラストレーター兼声優という妙な肩書の河童

オオヒガシとかいう河童と一緒に

実家を飛び出したらしく、後3人ほど必要らしい。チーム魍魎に参加しているのは

そのメンバー集めも兼ねての事らしい。逞しいな。

余談だが、オオヒガシとかいうイラストレーター、船これで聞いたことがある様な?

 

……なあ。それはそうとそのグループ、農園どころか村

終いには島開拓まで始めたりしないだろうな?

 

『セージ。そろそろ戻らねぇと明日がきついぞ』

 

「おっと、もうそんな時間か。それじゃ、俺はあと5日は沢芽市にいるから」

 

「うん、また来てね!」

 

幽霊姉妹と妖怪軍団に見送られる形で、俺はホテルへと戻ることにした。

当然、部屋に戻るなり爆睡することになったのだが。




魔を断つ剣とのコネがありそうなパティシエ参戦です。
(プルガトリオ時代からいましたけどね)

そう言えば、HSDD原作には「導く大人」って要素が薄いと思うんです。
アザゼルくらいしか思い浮かびませんし、そのアザゼルもふざけが過ぎる気がしますので……

なので、HSDDから師匠キャラを引っ張ってこようと思っても来れないんです。
師匠キャラに仕立て上げてもいいのかもしれませんが
「体と技の師匠」はいても「心の師匠」がいない気がしまして。
今回、凰蓮さんに出張ってもらったのも
師匠としては割といい仕事してくれそうな人だからでした。

無論、私のチェック不足もあり得ますのでもしいたら教えてください。
あと「敵ながら天晴」と呼べる決して味方に回らない敵キャラ。
ライダーで言えばグラファイト、FFで言えばルビカンテみたいなの。
ギルガメッシュは味方になること多いし、ゴル兄さんはそもそもが……

>虹川姉妹
意外と早い再合流。
それに浮かれて、インベスの毒が霊体にも感染する事態の報告を忘れてしまってます。

それより、やけにセージが彼女らを視認できるようになるのが早すぎませんか……?
一応、セージもセクハラされまくってる後ろで霊感鍛える特訓はしてました。

>サラマンダー富田
原作チョイ役がこんなところで。意外と拾えるネタあったのでご登場願いました。
うちこんなんばっかやな。
拙作では目指す方向がTOKIOというおかしなことになってますが。
なお一緒に出てきた河童のオオヒガシの元ネタは金剛型他の絵師さんから。

>妖怪勢力
原作とは真逆の思想。八坂が三大勢力の素行を目の当たりにして和平に後ろ向きになった他
ぬらりひょんが神仏同盟に対する嫌がらせで三大勢力と組もうとしたり。
なお、神仏同盟に嫌がらせするのが目的なので三大勢力と本心で組みたいとは思ってない模様。

パーソナル転送システム(ゲシュペンスト)と戦極ドライバー(黒影)、使うならどっち?

  • パーソナル転送システム(ゲシュペンスト)
  • 戦極ドライバー(黒影)

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