同じく英雄派として名乗りを上げたフューラー・アドルフの部隊と合流し
フューラーと対談を交わし、手を取り合おうとその手を伸ばしたのだが――
――差し出した手には、刃が握られることとなった。
「そもそも貴様ら英雄派は、怪異を打ち倒す英雄を名乗っておきながら
アインストなどと言う怪異の最たるものが率いる組織に属しているではないか。
いや、たとえオーフィスがアインストでなかろうとも
もっと言えば首魁がオーフィスでなかろうとも
あの組織は人間が立ち上げたものでは無い。
貴様が理想とする英雄となるには、初手から誤っていたのだ。
怪異から人類を解放するなどと謳っている癖に、貴様は初めから怪異の傀儡だったのだよ!!」
「そ、そんな…………」
曹操の思い描いていた英雄とは、ナチスの同類ないし思想を体現するものだったのだ。
ナチスの同類と、よりにもよってナチス色の強いフューラーから指摘されたことに
ゲオルクは逆上し、曹操も彼が持つ聖槍だけが目的とばかりに
フューラーは曹操から聖槍を奪い取ったのであった。
ご丁寧に、彼に親殺しの実績まで与えた上で。
「だが、そんな無力な貴様にも英雄になれる機会はある!
さあ、その携帯から己が携帯に問いかけるのだ。
貴様に英雄の資格があろうがなかろうが、その願いは叶う。そう決まっているのだよ」
曹操にフューラーが授けた手段とは、ずばり「JOKER呪い」。
これは自分の携帯に自分の携帯から発信することで
願いを叶える怪人・JOKERを呼び出すものだ。
この願いは多岐に渡り、富や名誉、能力から果ては殺人依頼まですることもできる。
そのJOKERの力を用いて、英雄にさせようというのだ。
本来ならば、曹操とて首を縦に振らない話ではあるが
既にフューラーに己の存在意義の大半と言える
聖槍を奪われてしまっている。聖槍も広義では
抜き取られたことで、曹操は遠からず死ぬ運命にあった。
その死の運命から逃れるという意味でも、曹操は藁にも縋る思いだったのだ。
彼とて人の子である。己の命に対する執着心はある。
そうでなければ、実の親に売り飛ばされそうになった際に逃げ出したりはしなかっただろうし
追手を撒いたりはしなかっただろう。
だからこそ、言われるがままに曹操は自らの携帯から、自分の携帯に発信する。
本来なら繋がらないはずのそれは、コールサインを発信する。
次の瞬間、曹操は知らないはずの呪いの祝詞を口から出していた。
「JOKER様……JOKER様……おいでください……」
次の瞬間、曹操の影は道化師のような人型を取り、曹操の背後に現出した。
白い学ランのような姿に、ひび割れた道化師のような仮面。
――汝が後ろに。
JOKER。夢に煩う者が引いた、最後の切り札。
あらゆる願いを叶える、そう噂された怪人。
曹操にしてみれば、それは悪魔を召喚し願いを叶えてもらう行為と大差ないと認識はしていた。
だが聖槍の力を失った今、英雄となるべく彼が縋れるのはJOKERしかなかったのだ。
情報源が噂という事もあり、半信半疑だったが
確かにJOKERは曹操に後ろに現れた。
ならば、願いを叶えることも当然、出来るはずである。
すかさず、曹操は己が願いを口にする――
「俺を……英雄に……皆に認められる……英ゆ…………うっ!?」
――しかし、その願いが叶うことは無かった。
曹操を貫いたのは聖槍ではなく、もう一つのJOKERの腕。
それはまるで曲がりなりにも人型を成しているJOKERには似つかわしくない
異形の、悪魔のそれであったのだ。
「バァーカ。今更俺に頼ったって遅えんだよ。
そもそもてめぇは聖槍っつー切り札を既に持ってただろうが。
その切り札の使いどころを誤っておいて、切り札を取られたからって
ホイホイ別の切り札に乗り換えようったって、そうはいかねぇぞ?」
曹操を貫いたJOKERは、黒い学ランに赤黒い道化師の面をしていた。
その姿は、以前リアス・グレモリーらを襲撃したものと酷似していたが
それを曹操が知る由は無い。
だが、そのJOKERが何故ここにいるのか。
如何に正体不明の怪人と言えど、私設とは言え軍の前線基地に何事もなく入れるはずがない。
それはつまり、この黒JOKERも何者かに呼ばれた存在なのだ。
「……黄色い猿め! よくも私の英雄としての花道に泥を塗ってくれたな!!
JOKERよ! 今ここに英雄を嘯く愚者を生贄に捧ぐ!
そして、我らに民衆を守る英雄としての力を授けたまえ!!」
「クックック……ハッハッハッハッハッ!!
まさか、相棒とも言うべき腹心に謀殺されるとはな!
この死に様の真相だけは、英雄らしいと認めてやるぞお!!」
そう。この黒JOKERはゲオルクが召喚したJOKERだったのだ。
ここに来て、曹操の不甲斐なさに失望したゲオルクが曹操を見限り
JOKERを用いて処分したのだ。
「な…………そん…………な…………ゲオ…………ル…………」
「貴様を聖槍の錆にするのも惜しいわ。だが、JOKERの噂を確かなものにするために
貴様の遺体だけは有効に活用してやろう。遺体としてな。
只の死体に曹操などと言う名は大仰であろう。
見果てぬ夢ならば、見ない方が救済だ。その夢見る力、JOKERの糧にしてくれるわ」
断末魔を上げることなく、英雄としてではなくただの哀れな犠牲者として始末された曹操。
狂気の道化師を象った仮面に相応しく、嬉々として曹操の遺体を解体し始めるJOKER。
その様を見ても、JOKERをけしかけたゲオルクは何ら感情を抱くことは無かった。
曹操の呼び出したJOKERは、ただ静かに佇んでいる。
召喚者が不在でも、JOKERには何の影響も無かったのだ。
「ああ、もう一つ冥途の土産に教えてやろう。
ジャンヌとヘラクレスだがな。彼奴等はアインストとなり果てた上で駆除されたよ。
さっきも言ったが、貴様らは初手から誤っていたのだ。
彼奴らは英雄ではなく、その英雄に駆除される怪物であり
今ここで死ぬ貴様は、英雄としてではなく名もなき市民として野垂れ死ぬのだ」
――切り札はスポイルされた。
次の瞬間、曹操の遺体は黒い影に包まれる。
誰も口に出さなかったが、もはや曹操を名乗った少年の存在は誰の記憶からも消えていたのだ。
その少年は、死に際まで自らのこれまでに絶望し、自分を陥れた周囲を呪いながら消え去った。
本来、白JOKERに願いを言えなかった者は夢見る力を奪われ、影人間と呼ばれる存在にされ
誰の記憶からも消え、認識すらされなくなり、終いには存在そのものが消えてしまうのだ。
順番こそ違ったが、曹操はこうして影人間――影遺体となってしまったのだ。
途中で横槍が入ったとはいえ、願いを言えなかったことに変わりはないのだから。
最も影人間の消失にも時間がかかるため、消失までの間曹操を名乗った少年の遺体は
警察かマスコミが来るまでの間、こうして野晒しにされ続けることになるのだが。
「さて……よくやったぞアーサー、ゲオルク。
これで私は聖槍を手にすることが出来た。
あとは異界の怪物を排除し、今度こそ真なる帝国を樹立する時だ。
そして聖槍が手に入った今、こんな場所は用済みよ!
続け我が軍勢よ! 英雄派などと言う稚拙な集団は今ここに崩壊した!
ここに我が第三帝国の軍はその真名を取り戻した!!
この聖槍の名の下に、我らはラスト・バタリオンなり!!」
――
一つの国、一つの国民、一人の総統!!
シュプレヒコールの後ろで、JOKERを呼び出したゲオルクもまた
噂通りにJOKERへと変貌しようとしていた。
しかし、JOKER呪いをしたものはJOKERになるという噂とは裏腹に
ゲオルクはJOKERへと変化することなく、ただ黒いオーラを体から吹き出し
霧散させただけだった。
「寛大なご配慮に感謝いたします、総統。
あの黄色い猿はどうでもよかったのですが
彼はまだこの地を覆う結界を守るために必要な人材。
あの猿よりは、役に立ちましょう」
「確かに……
今ここでこいつに暴れられても困るからな。
まあ、中身のない奴になったとて神器が使えれば問題なかろう。
だがそれも、クロスゲートが本格稼働するまでの話だがな。
アレが動いてしまえば、こいつの神器など何の役にも立たん」
オーラが抜け出て、崩れ落ちたゲオルクをアーサーに指し示し、運ばせるように指示する。
フューラーが語った「JSM」とは、かつてJOKER呪いが行われ
人々がJOKERとなった際にそのJOKERを強制的に分離させ
人々をJOKER化から救うもの……ではあるのだが。
そもそも、JOKERとてその人から生まれた影の部分であり、その人を形成する一面である。
それを強制的に分離させるのが、どういう結果を齎すか。
当時は、その口調から「レッポジ人間」などと揶揄された中身のない人間に成り果てていた。
JOKER化の阻止のためとはいえ、同じ措置をゲオルクは施されたのだ。
「クックック……その猿は英雄などと嘯いていたが
こうして真なる英雄の出征の礎となれたのだ。
アーサーよ。君の役割も既に終えているが……どうする?
このまま異郷の地で腐り果てるか、いつ終わるとも知れぬ戦いに臨むか。
私に聖槍を捧げた褒美に、好きに選ぶがいい。
無論、家族に復讐するでもいいぞ。私は、成果を上げた者には褒美を取らせる主義だ」
ペンドラゴン家。その名前からかの英雄王アーサーに連なる家系……かと思いきや
実際には全く、何の関係もないただの貧乏貴族である。
そしてなまじアーサーなどと名付けられてしまったがゆえに
否が応にもかの英雄王との関連性を思わせられるものであった。
因みに、妹もルフェイと名付けられており彼女も彼女でさる伝説を思わせるものではあるのだが
然程ある種の風評被害を受けているわけではなく、兄程ぐれているわけではない
ちょっと魔法が使えるだけの普通の少女として生活していた……はずだったのだが
それも、アーサーがテロリスト――それもナチスに連なる組織に属してしまったが故に
その日常は音を立てて崩れ去ったのであった。
聖剣が家宝として伝わっていたことから、意図しての行為であった部分はあるが
アーサーは結果として妹に不要な心労をかけ、家庭不和を招いてしまっていたのだ。
例え、自身につけられた名前が原因であったとしても。
そう。アーサーを突き動かしていたのは英雄としての矜持ではなく
かの英雄王、アーサーと比較される自分へのコンプレックス。
そうした抑圧された感情が、彼の進む道を踏み外させ、目を曇らせていたのだ。
事ここに至り、英雄派はその名前に反し派閥としてではなく、ただの個々の集まりとしての
性質が露呈し、それが仇となって瓦解する結末を迎えてしまったのだった。
そして、散り散りになった英雄派の残党をフューラーが接収。
これまた偶然か必然か、フューラーが当初名乗った通りに名実共に英雄派となったのだ。
今ここにいない天草四郎の末裔を名乗るものや、置き去りにされたレオナルド等
残党はいるかもしれないが、最早聖槍を手にしたフューラーにとってそれらは有象無象と言えた。
その有象無象を纏め上げるという意味でも、皮肉にもその成り立ちや実績から
英雄と言うには憚られる部分も強いフューラーではあったが
リーダーとしての資質は間違いなくあり、その点においてもこれ以上なく適任と言えたのだ。
あるものはアインストへと変貌し。
またあるものは偽りの英雄像に翻弄され。
またあるものは只誰かのいいように扱われただけに終わり。
――この世界に、英雄は存在しない。求められなかったのだ。
英雄に連なる、なりうる異端者はここに駆逐された。
この世界では、赤い龍の鎧がただ一人の英雄なのだ。
そうあるべきなのだ。
またしても珠閒瑠市は陸の孤島と化してしまう。
まだ、珠閒瑠市にアインストやJOKERが存在するという事実は変わらないのだ。
それどころか、JOKERの存在は証拠が挙がったという形でより確固たるものとなった。
その日の夜、
その手口はかつてのJOKERによるものに酷似していたとは言われたものの
被害者の身元は、終ぞ判明することは無かった……
――――
「愛する者を失い、失意と無念を胸に抱いて朽ちた怨念に
信頼していた者と共に掲げた理想を裏切られ、絶望に沈んだ怨念……か。
フフフ、これは面白くなってきたね」
七姉妹学園の時計台の上から、蝸牛山の方角を眺め口角を上げる女性の影。
曹操の死と共に、空へと昇っていき珠閒瑠市の南西の方角へと飛んで行った絶望の想念。
普通の人には不可視のそれは、彼女の双眸にははっきりと映っていた。
「残る一つは……希望を胸に抱き、絶望への布石としながら散りゆく怨念か。
なるほど、確かにこれは面倒臭そうだ。こんな都合のいい生贄は……
……まあ、無ければ作ればいいか。今までみたいに」
女性の目の先にあるのは、珠閒瑠市・鳴海区。
それは絶望の想念が飛んで行った先であり、怨念を喰らう装置を持つものがいる方角であり。
――そして、生贄が集められた場所でもあった。
長引きましたが、「合同学習のプレアデス」完結です。
これ当初の予定だとまだ続く予定だったんですよね。
キリの良さでここで次章突入としましたが
曹操の顛末描いただけのシーンなので、次章回しでもよかったかも?
まあ、一応原作でも英雄派顔見世と同じ時系列ではあるのですが。
(なお起きているイベントは全く異なってます)
>曹操
以前バラキエルを相当えぐい退場のさせ方しましたが、多分それ以上。
ゲオルクやアーサーから黄色い猿呼ばわりされてますが
大なり小なり、アジア系ってそういう見方されますので……
実績もなく、偉そうに振舞っているだけなら猶更。
身元不明の遺体として処理されてますので、無縁仏行きです。
名声としての英雄を求めた者には相応しい最期だと思わないか?
ふはははははっ!!
>ゲオルク
このポジは裏切ってなんぼってのは、それはそれで固定観念にとらわれているかとは思いますが
今回作劇の都合もあり普通にルラギリました。
まあ史実の曹操も裏切りが普通にある時代の人間ですから、別にいいでしょう。と開き直り。
今回JOKER化キャンセルされましたが、ある意味もっと酷いことになりました。
使い潰されるって意味では曹操とどっこいか、それより酷いか。
一応個人として認識されている分、その事考えればマシでしょうか。
>JSM
正式名称は推測からの独自設定。あるのでしょうけど、ソース探せなかったので。
まかり間違っても「JOKERが 佐々木に取り憑き まあ愉快」じゃないです。
今回使ったのは小型化された簡易版。別に集めてるわけでもないですし。
>アーサー
やさぐれてましたが、とりあえず名前が原因でぐれたって生々しくてひどい理由。
アレな名前の子供の両親のアレ率も酷いですが、子供も大概だと思いますし
何なら曹操もそのクチだったかもしれない。
肖って名前を付けるのは、自称どまりにしておかないと生育に悪影響しか及ぼさないと思います。
肖ってもないであろう某ニュータイプは……うん、まあ。
>レッポジ人間
JOKERって人間の影の部分を無理矢理抜き取った成れの果て。ゲオルクの現状。
この呼称は非公式ではありますが、口癖のように「レッツ・ポジティブ・シンキング!」と叫びながら何もしない空っぽ(になった)人達。
口ではいいこと言ってても、実が伴わないでは……
>最後の独白
ここに来ていきなりペルソナ2要素が抜けます。
無念、虚の感情を抱きながら死んだ人の魂、裏切られ、絶望しながら死んだ人の魂。
前者は拙作では人ではありませんが、まあそれはそれ。
最後の一つ、死の間際まで希望を捨てずにいた魂を求めているあたり
かなりヤバい物集めてます。霊魂集積装置持ってる奴もいることですし。