夢見が悪く、寝付けない俺は
深夜と言う時間帯ではあるものの、ホテル・プレアデスの外に出て
ちょっとしたパトロールをしようと思った。
……パトロールと言うのは建前で、本当はここ
天樹理化学研究所と言う建物を調べてみるつもりだった。
聞いた話では、ここはユグドラシルが買い取って運用している施設であり
ここで人を集めて何かしているらしいのだ。
いつぞや、情報を仕入れた姉さんが参加しているという
ユグドラシルの試薬モニターも、ここで行われているのかもしれない。
なんでそこまで必死になって調べるのか。
そりゃあ、ユグドラシルって会社の姿勢ややり方を目の当たりにしておいて
さらにその会社の主催していることに姉さんが参加しているんだ。
不安にならないはずがない。
だから、俺は忍び込んででもこの施設の事を調べるつもりはしていたんだが……
……横槍が入ったので、それは諦めざるを得なかった。
いや、寧ろやらなくてよかったのかもしれない。
なにせ、俺だって変な噂が流れているのだ。5人組のテロリストの6人目だとか。
そんな状況で目立つことをしては、噂が本当だと言っているようなものだ。
噂の現実化とか以前に、そう言う事をしていては噂が事実だと言っているようなものだ。
「じゃ、私も付き合うわ。別にいいでしょ?」
「……消灯時間じゃなかったんですか」
俺に潜入を諦めさせた張本人――リアス・グレモリーは
何ら悪びれることも、人の気持ちも知らずに優雅に夜の散歩と洒落込もうとなさっておられる。
ま、悪魔が夜出歩くのは普通だし、寧ろ俺がこんな時間に出歩くべきじゃない。
いくら何でも、グレモリー先輩を連れて潜入なんてやってられない。
そもそもこの悪魔、見た目も行動もいちいち派手派手しすぎて潜入には全然向かない。
そうでなくとも、俺以上にはっきりと5人組のテロリスト「D×D」の一員だと言われているし
ユグドラシルタワーを攻撃する映像が流れてしまっている。
そんなのを連れて、しかもユグドラシルの施設に潜入とかあり得ない。
なので、適当にほっつき歩いて終わらせるつもりだったのだが……
……気付いたら、天樹理化学研究所の前にいた。
一応、地図で場所だけは把握していたが……
入るつもりは無かったのに、足だけ無意識に向かっていたのか。
「セージ、ここって……」
「ユグドラシルの設備らしい。
珠閒瑠市に関連施設があっても別段おかしなことは無いのだが……」
「もしかして、ここに用事があったの?」
……ま、そりゃ聞かれるわな。無意識とは言え一直線に向かった先が
まさかユグドラシルの施設だなんて、ご都合主義にもほどがある。
グレモリー先輩にそう思われたって、不思議じゃない。
それに、用事があるって意味では全くの間違いではない。
諸々の事情が無ければ、この中を調べてみるつもりではあったのだし。
だが、それは今じゃない。
「…………や、単なる偶然ですよ」
「ふぅん、そう言う事にしといてあげ…………っ!?」
グレモリー部長も気づいたか。
こっちに来た時から、誰かに見られている感じはしていたが。
これだけ暗い中だと、俺達を監視していた奴も目視がしづらい。
強い明かりで照らされて、目を開けられなくなる。
それは、確かに予備動作とかがあったのだろうが、暗くて見えなかったのだ。
「貴様ら! タワーを爆破した犯人にこの間忍び込んだ奴! のこのこやって来たか!」
「…………?」
闇夜に溶け込んだ、黒い鎧。
俺達を照らす照明を受けて、額の鉢金のような装飾の銀色が反射して光る。
やはりと言うか何と言うか、複数確認できる。取り囲まれていると見ていいだろう。
……だが、今妙なことを言ったな。
俺が前に施設に忍び込んだ? 俺は今初めてここに来たぞ?
誰かと見間違えたか? ……わざわざ探照灯で照らしておいて見間違え、か?
気にはなるが、今はそれを調べるよりも!
「くっ、散るぞ!」
「わかっているわよ!」
夜景に溶け込んだアームズから唸る、影松の一閃。
まさかの夜間戦闘補正に驚きながらも、ただ棒立ちで受けるわけにはいかない。
いくら黒影のとは言え、アーマードライダーのアームズウェポンを生身で受けてタダで済むわけがない。
対インベスを想定している装備なんだ、悪魔にだって有効打になりうる装備だ。
SOLID-DEFENDER!!
なんとかディフェンダーで影松の攻撃をいなしながら態勢を立て直すが、何分視界が悪い。
照明弾なんて持ってないし、グレモリー部長が光に関わる何かを持ってるなんて考えられない。
スペックとしては黒影はアーマードライダーの中では低い方なのに
地形効果で無茶苦茶手強い相手になってる!
しかも当然、向こうは暗視ゴーグルとか積んでいるだろうから、こっちは丸見え……
「グレモリー先輩、突破口作りたいんで手薄な場所の方角教えてもらえませんかね?」
「自分で調べればいいでしょ? それかアモンに代わるとか」
そりゃそうだ。
だが、持ち主は人間だ。つまり、夜目が効かない。
言う通り、アモンに交代すれば夜目が効くが、今は必要以上に騒ぎを起こしたくない。
確かに倒すだけならば、アモンに代われば手っ取り早い。
だが、変に倒したら警戒が強くなる。全滅させても結果は同じだろう。
戦闘で騒ぎを大きくするくらいなら、ここは逃げの一手だ。
闇討ちするにしたって、既に見つかってる相手に闇討ちが効くとは思えない。
「や、ここは逃げたいんですがね」
「あら。敵に背中を向けるというのかしら?」
言ってろ。そういう態度ならあんたを囮にして逃げるぞ。
白音さんの救出には兵藤を引きずっていけばいいんだ。
別にあんたがどうなろうが俺の知った事じゃない。
最悪、兵藤は意見を無視して引きずって行くつもりだったし。
「そこだっ!」
「!!」
言い合っている間に、闇夜に紛れて影松が飛んできた。
かなりぎりぎりだが、何とか回避は出来た。グレモリー先輩も無事そうだ。
まあ万が一影松が刺さっても、聖槍じゃないから大丈夫だろ。
それに、中身は訓練しているとはいえ人間だ。上級悪魔とやらなら大丈夫だろ?
だが、このままじゃ埒が明かない。
こうなったら無理やりにでも突破口を開いて逃げるか。
SOLID-FEELER!!
EFFECT-THUNDER MAGIC!!
「うまく避けてくださいよ、グレモリー先輩!」
「ちょっ、セージ危ないじゃない!」
影松を難なく躱せるグレモリー先輩ではあるが、俺の触手に関してはかなりぎりぎりのようだ。
多少は当ててもいいやと思いながら振り回しているが、わざと当てるつもりは無い。
致命傷にはならないだろうとは言っても、やっぱり女の子に傷をつけるのは忍びない。
……魔力でそういう傷はすぐ塞げそうな気もするけど、まあそれはそれだ。
それに、ここで痺れさせでもしたら担いで帰らなきゃならなくなる。
仕事増やしてどうするんだって話だ。黒影の足を止めるのが目的なのに、こっちの足を止めたんじゃ意味がない。
文句を意に介さず、攻撃が飛んできた方向に向かって電磁触手を伸ばす。
スパークのお陰で黒影の位置は割り出せた。攻撃は外れたが、思いのほかスパークが便利なので
このまま電磁触手を振り回すとするか。
上級悪魔なら、こんな攻撃避けるくらい訳ないだろ。
「味方を巻き込むなんて、ライザーみたいなことするわね。
あなた、本当に人間なの?」
「……そりゃどういう意味ですか。俺はやっと人間に戻れてるんですよ。
それにそれは聞き方によっちゃ『俺は元々悪魔』みたいな言い草じゃないですか。
どうして悪魔『なんか』に未練を持たなきゃいけないんだ。
もうあんな生活は二度と御免ですよ」
「……その悪魔を前にしてそうも言い切られるのも複雑よ」
電磁触手を位置を割り出した黒影に巻きつけ、感電で昏倒させながら
グレモリー先輩とやり取りを交わす。
俺は人間であることに誇りを持っているし、満足している。
その俺がどうして悪魔をやめたことを後悔しなきゃいけないんだ。
そもそも、やむにやまれぬ事情だったとはいえ人を勝手に悪魔にしておいてよく言う。
腹いせも兼ねて、電磁触手で周囲を薙ぎ払い、黒影の部隊を昏倒させる。
応援呼ばれたら厄介だし、昏倒させること自体は当初の予定通りだ。そのまま朝まで寝てろ。
ひとしきり蹴散らしたところで、電磁触手をしまって記録再生大図鑑もしまおうとするが――
「セージ、後ろ!」
グレモリー先輩の叫びに、咄嗟に振り向くと
夜の帳の中から黒影のアームズが溶け出て、俺に向かって影松を突き出してくる。
迎撃しようにも、電磁触手もディフェンダーもしまってしまった。
影松はアーマードライダーのアームズウェポンの中でも威力は低いが
それでも生身で受けたら重傷は避けられないし、記録再生大図鑑では受けきれない攻撃だ。
――しくじった。そう思ったが、黒影は横から飛んできた滅びの魔力を受け
戦極ドライバー諸共アームズが分解。衝撃を受け変身者も昏倒していた。
へぇ。よく中の人を殺すことなく無力化出来たもんだ。
黒影の装甲、別に特別分厚いわけでもないはずだし。
…………と言うか、だ。
「……あ、ありがとう」
「どういたしまして。いつまでも、あなたに嘗められたままじゃいられないもの。
どうかしら? これでポンコツ呼ばわりはやめてもらえる?」
……その態度がポンコツなんだよ。
とは思ったが、まあ助けてもらったのも事実だ。今回「は」ポンコツは返上しておきますか。
「助けてもらったことには重ね重ね礼は言いますがね、それとこれとは話が別ですな。
何かにつけて恩着せがましいその態度が…………っとと」
「いいでしょ別に。私は褒められて伸びるタイプなの」
へいへいそうですか。その甘やかしが原因で天狗になって痛い目に遭ってるのはどこの誰だか。
とは言え俺も流石に恩人相手にあまり悪し様に言ったり、喧嘩を売るのは気が引ける。
それを言うと、そもそも命を助けてもらった恩はあるんだが……
……同時に、怨にもなっちまったからなあ……
全く、このリアス・グレモリーってのは俺にとっては複雑な相手である。
恩人であり、不倶戴天の敵。眷属、下僕に向ける情とは言え愛情を向けられていると同時に
自身を破滅させた忌むべき存在。お互いに、そんな関係だ。
だからめんどくさいから俺としては可能な限り縁を切りたいんだが……
この世情では、そうも言っていられない。
よせばいいのに、騒動の中心に近い場所にいて、しかも親族に世界に影響を与える存在がいる。
そういう意味でも、本当にめんどくさい。まあ、身内がそういう存在で
何かにつけて比較されるってのに関してはある意味同情できるが。
一般家庭の育ちで、親父もいなけりゃ兄弟もいないから
気持ちがわかるなどとは言わないけど。
自分は自分らしくあろうとしても、周囲がそれを許してくれない。
家族が与える影響が大きすぎて、自分としての存在を確立できてない。
……この間の不安定さとかから顧みても、偉そうに振舞ってる割には
リアス・グレモリー個人は本当に、人間年齢相応程度かそれ以下のメンタルなんだろう。
ま、それ故に偉そうに振舞ってるってのはあるかもだが。
だからこそ、俺は冥界の、悪魔政府のやり方が許せない。
そんな奴に、人の住まう場所を仕切らせるな。
俺だって駒王町の町長にいきなり任命されたら、泣いて辞退する。
そう考えると、グレモリー先輩も被害者なんだろう。
だから不始末で人を死なせたことまで許すかと言われたら、それこそ
「それはそれ、これはこれ」なんだが。
「…………不始末を許す気は無いが、あんたなりによくやってるんだろうよ。
少なくとも、俺が同じことを出来るかって言われると無理だな」
「何か言った、セージ?」
「……てめえで立候補した責任ある立場なら、しっかり責任もってやれって言ったんだ。
死人が出たのを許す気は無いんだ、甘ったれた考えで動いてるんじゃねぇよ」
実際のところ、俺はグレモリー先輩が駒王町の管理者って立場に
立候補してなったのかどうかの話は知らない。
死んだ人はもうどうにもならないが、だったらその死を無駄にしないでほしい。
そして、未熟な奴を管理者に宛がうような真似はこれで最後にしてほしい。
と言うか、それ以前に悪魔が人間の街を管理ないし干渉すんなって話だが。
――やはり、俺はリアス・グレモリーが……冥界の悪魔がよくわからない。
人間をどうしたいんだ。人間とどう付き合いたいんだ。
それによって、俺も悪魔を見る目が変わる。
俺は人間であり、それ以上でもそれ以下でもない。人間としての視点以外は持てないんだ。
俺の価値観の基準は人間の物になる。
だからそういう意味でグレモリー先輩と分かり合う事は、最悪未来永劫出来ないだろう。
人間に危害を加えるというのなら徹底的に抵抗するし、そうでないなら態度を多少軟化させる。
それだけだ。
人間以外の知性を持った存在が、人間と共存しようとしている。
これからは、そういう時代なのかもしれないが……人間同士でさえ、共存が難しいというのに。
頼むから、問題を持ち込まないでくれ。
人間の問題が解決していないところに、問題を持ち込まないでくれ。
黒影に見つからないようにしながら、足早に天樹理化学研究所を離れながら
俺はそんなことを思っていた。
まさかの黒影夜戦シナジー。
真っ向勝負なら火力の問題で圧勝でしょうけど
今回は撤退戦ですので。真夜中にドンパチとか噂にしてくれって言ってるようなもの。
>黒影
今回中身はユグドラシル民間警備会社。
沢芽市でアインストと戦った時にはセージと一緒に戦った人達ですが
事情が変わればこうもなります。
同一人物がいたかどうかはセージは知りませんが。
そしてまさかの夜戦シナジー持ちが発覚。
特に夜間迷彩施さなくても配色が既に。
劇中別に夜戦が得意とかってわけじゃなかったはずですが、配色から導き出した結果。
あとは装備の拡張性を考えて。
最後の伏兵は奇襲ではなく応援を呼ぶべきだった。
>褒められて伸びるタイプ
リアスに限らず、大体の人はそうだと思います。
ただ、彼女の場合評価に胡坐をかいていたとしか思えないのが……
>自分に駒王町の管理者は無理
そりゃ一般市民たるセージに言わせばそうもなります。
シムシティやるわけじゃないんですから。
ただ、この点に関してはリアスもそう大差ないとは思います。
経験と言う問題では、普通の高校生と遜色ないというか
なまじ裏社会(悪魔的な意味で)に精通しているがために
人間の目線での価値観が抜け落ちている風には思えます。
人間の街を管理するんですから、人間の目線は必要なはずです。
……それとも、そこは町長に丸投げだったんでしょうかね。
それが一番妥当な線とは思いますが……うーん。