――やはり、俺はリアス・グレモリーが……冥界の悪魔がよくわからない。
人間をどうしたいんだ。人間とどう付き合いたいんだ。
それによって、俺も悪魔を見る目が変わる。
俺は人間であり、それ以上でもそれ以下でもない。人間としての視点以外は持てないんだ。
だから価値観の基準は人間の物になるから
そういう意味ではグレモリー先輩と分かり合う事は出来ないだろう。
ただ、人間に危害を加えるというのなら徹底的に抵抗するし
そうでないなら態度を多少軟化させるだけだ。
人間以外の知性を持った存在が、人間と共存しようとしている。
これからは、そういう時代なのかもしれないが……人間同士でさえ、共存が難しいというのに。
頼むから、問題を持ち込まないでくれ。
人間の問題が解決していないところに、問題を持ち込まないでくれ。
うっかり入り込んでしまった天樹理化学研究所を足早に逃げ去りながら
俺は考え込んでいた。
何分、このクソッタレなお嬢様は如何にも「自分たちは人間の味方でござい」な面をしている。
やっていることややり方は他の悪魔と然程変わらないくせに、だ。
そんなやり方しかできないなら、冥界の側から働きかけてくれ。
人間の世界から人間の味方がしたいなら、人間のやり方に合わせるようにはしてくれ。
そのつもりは無いと言葉だけは言うだろうけれど、人間を下に見ているのがあけすけだ。
その私服のセンス同様、本音もあけすけにするのはある意味美徳だが
歯に衣着せぬ、とかは必ずしも誉め言葉じゃなかった気がするんだがね。
……それにそもそも、古い意見を述べるなら嫁入り前があけっぴろげに肌を露出するんじゃない。
などと、深夜に歩くにはちょっと肌寒いし無防備すぎるだろと言わざるを得ない
グレモリー先輩の私服――短い丈のシャツに
これまた太腿が剥き出しってレベルのデニムパンツ。
申し訳程度に首元に巻いてるスカーフで、谷間は隠してるつもりなのかもしれないが
却って誘蛾灯になってる気がする――といった具合だ。
いや、動きやすいかもしれないがもうちょっと色々考えろとは言いたい。
……ま、そりゃこんな格好でうろついてりゃ兵藤がホイホイ釣られるわけだわな。
まああいつの場合、外面さえよければ何でも良さそうな気もしないでもないが。
――――
なんとかホテルまで戻ってくることが出来た。
俺の迂闊な行動で、要らん労力を使ってしまったことについては反省すべき点だ。
真夜中という事もあり、ロビーには誰もいない。
誰もいないロビーの椅子に、向かい合わせで座って一息つくことにした。
そして、俺は開口一番謝る。
普段ならともかく、今回は完全に俺のミスだ。流石に自分のミスに巻き込んだとあっては
相手が誰であれ、謝らないわけにもいくまい。
「……グレモリー先輩。その…………すみませんでした。
俺がうっかりあんな場所に寄らなかったら、逃げ帰ってくることも無かったのに」
「……セージ、大丈夫? やけに素直だけど?
あの程度の敵なら気にしなくてもいいわ。その気になれば吹っ飛ばせる相手だったし」
いやそれがまずいんだろうが。
あんた仮にもテロリスト呼ばわりされて地上波で堂々と流されてるでしょうが。
そこで曲がりなりにも会社の施設の警備員吹っ飛ばしたとか擁護不可能だろそれ。
まして、それが過去に攻撃した会社の系列施設とあっちゃ。
「まぁいいわ。悪いと思っているのなら、もう少し私に付き合いなさい。
そうね、具体的には相談に乗ってもらえるかしら?」
相談? 愚痴聞きの間違いじゃなくてか?
俺としちゃ眠気の誘引が出来るんなら何でもいいが。
……出来れば、夢見が悪くない手段がいいけれど。最近、本当に夢見が悪いし。
と、腹の中にしまい込んで一応グレモリー先輩の話を聞くことにする。
それに、最近の彼女の精神状態を顧みると冗談じゃなくてマジの可能性も否定しきれん。
「……私は悪魔としてでは無くて、リアス・グレモリーとしてこの世界で生きてみたいの。
そのために、やらなければいけないことがあるのなら教えてちょうだい」
……あんたらしく直球だな。もう少しカーブ効かせてもいいだろうに。
まあいいや。一応答えを求められたので、俺も思案する。
……だが、そのリアス・グレモリーを体現するのが悪魔って属性だろう。
俺だって人間って言う属性を抜きにして語ることなんかできやしない。
悪魔である前にリアス・グレモリーである、と言いたいのかもしれないけれど
リアス・グレモリーとしての人格が、悪魔の常識の上に成り立っている以上は
悪魔であるという事を抜きにして語ることなんか……できないはずだ。
「…………すみません、わかりません」
「…………そう」
――だから、俺はこのグレモリー先輩の質問に答えられない。
悪魔ではないリアス・グレモリーなんてものは現時点では想像もつかないからだ。
それを答えるには、俺はリアス・グレモリーって個人を知らなさすぎる。
検索すりゃ情報は見られるが、それにしたって情報だけだ。
その出来事に、当人が何を思い決心し今に至っているのか。
そんなもの、俺にわかるはずがない。
「またちょっときつい事言いますがね。俺の持っている
それは心ってものを軽く見過ぎです。俺が持ってるのはいわばカンペですから。
あらかじめ設定された答えならわかりますが、これから作らなきゃいけないものは白紙ですよ。
未来予知も読心術も、そう言うのは筋違いですね。
最も読心術であんたの悩みが解決するとは思えないが、とも付け加えたが。
厳密に言えば、
疑似的な読心術や未来予知ならば理論上は出来る。
だが、その能力を持っている人に当てがない。
未来予知ならアポロン様が持ってるって話は聞いたが、それをトレースできるかって言うと。
神様以外は成功しているけれど、神様のトレースなんてやった事がないし。
ペルソナのアポロは全く別物だし。
「変なこと聞いたわね、忘れてちょうだい。
それとセージ、あなた最初に悪い夢を見たみたいなこと言って無かったかしら?
どうかしら、夢占いでも受けていく?」
夢占い、ねえ。正直どうでもよかったが、まあ話の種程度だ。
これも眠気を誘引するきっかけになればいいし。
「……何よその目は。前も言ったかもしれないけど、私だって伊達や酔狂で
オカルト研究部の部長やってないわよ。占い位余裕で出来るわよ。
そうでなくとも、私グレモリーなんだけど」
グレモリー。確かソロモン72柱の1柱で、契約者に女性の愛を与えるとかなんとか。
…………必要なような、そうでないような。
兵藤にしてみりゃ、喉から手が出るほど欲しい力なんだろうけれどもな。
俺には…………それが本当に正解なのかどうか、わからん。
「残念ながらフラれたとかそういう夢じゃないですね。グレモリーの権能の出番は無さそうで。
とりあえず、覚えている限りの俺の見た夢は――」
可能な限り、俺は見た夢を思い出しながら語る。
夢をそこまで覚えていられるのも我ながら大したものだが
何分、フィレモン――と同格の相手のいる領域っぽかったからなあ。
フィレモンとの対話は明晰夢みたいなものだったし、それなら覚えていても不思議じゃない。
最も説明するのにフィレモンの事から話すのは面倒なので、そこは端折ったが。
――絶望を糧とする破壊。
虚無から産まれる調和。
希望をも塗り替える創造――
特に心に残ったのはこの言葉である。そして――
――ディスは、間もなく目覚める――
この辺りの事は、恐らく的確に説明できたと思う。
夢の中の事なので、記録再生大図鑑への記録はしていない。と言うか、出来てない。
俺が説明を終えると、グレモリー先輩は神妙な顔をしていた。
さっきの俺みたいだな。なら、これでこの件はおあいこだな。
……ちらりと小声で「ぜ、全然わからないわ……」と呟いていたのは、俺は聞いていない。
「……ぁふ。何かわかりますかね? 俺としちゃ、いい具合に眠くなってきたので
当初の目的を果たせそうなんで、わからないならわからないで別にいいんですが」
「わっ、わかるわよ! わかんないけど!」
……あ、意地張ったな。これは時としては長所になるが、大体において短所になりうる点だ。
兵藤にも、無論俺にもあるその人(グレモリー先輩は悪魔だが)の個性だ。
だからそれを如何こう言う気は無いが、俺は眠いんだ。
「ディス……は、死の神だとか冥府の悪魔王だとか言われている存在よ。
それと最初に話してた3つの言葉だけど……嘘をついてもしょうがないから正直に言うわ。
…………あまり、よくない内容の言葉よ」
「……ふむ」
「リリス冥界大図書館……って図書館があるんだけれども。
そこの本に、異世界の邪神に関する本があるの。そしてその邪神を蘇らせるために捧げる生贄の魂。
その魂に込められた感情……それが、あなたの話した『絶望』『虚無――無念』『希望』。
そこに書いてある内容が、この3つと合致するのよ。
また別の本だけれども、ディスの名前もそこの本に載っていたわ。
まつろわぬ霊達を貪りつくし、数多の魂を輪廻の外へと放逐し、銀河に終焉を齎す悪魔王にして死の神――と」
そりゃ、確かによくない内容だ。しかしまたご無沙汰な名前だな。
相変わらず何と言うか……だな。
「しかし、異世界の邪神なんぞ、この世界で蘇らせるメリットなんかあるんですかね。
もうアインストにインベス、怪しい宗教団体にデーモン族とごった返してるってのに」
「怪しい宗教……もしかして! セージ、お手柄よ!
怪しい宗教――黒の菩提樹は、その異世界の邪神を召喚しようとしているのかもしれないわ!」
真夜中に大声を上げたグレモリー先輩の口を、俺は慌てて塞ぐ。
興奮するのはいいけど、時間と場所を弁えてくれ。
「……で、それがわかったらどうするんですか。当たり前ですが、俺は邪神を復活させるつもりは――」
「セージ。夢の話を踏まえると、今はあなたがその魂を抱えているのよね?
つまり、こっちで押さえておけば邪神の召喚には利用されない。
つまり……セージ。あなたは今まで通りにしていなさい。
ずっと前に忠告したけど……今度は本当に、あなたが悪霊になってしまうわ。
そして、肉体のあるものが悪霊になってしまったら……どうなるか、私にもわからないわ」
かなり神妙な様子で、グレモリー先輩が呟く。
こっちもつられて神妙な面持ちになっているかもしれない。
少なくとも、この現状を兵藤辺りに見られたら面倒なことにはなるかもしれない。
兵藤…………あっ。
「ご忠告感謝します。言われずとも、俺は俺のままある……つもりですので。
それじゃ、いい具合に眠気も来たのでお暇させていただきます。
それじゃ、おやすみなさい」
「ええ、おやすみなさいセージ」
思わず欠伸を噛み殺しながら、俺は足早に自分の部屋に戻ることにした。
監視の代理を頼んでいる以上、必要以上に部屋を開けるのは好ましくない。
グレモリー先輩との挨拶もそこそこに、階段もしんどいので
さっさとエレベーターに乗り込んでいくことにした。
シャワー浴び直して寝よう、そうしよう。
――――
警察の人に挨拶を交わし、部屋に戻る。
兵藤は幸い寝ているようで、相変わらずマヌケ面を晒している。好都合だ。
さっとシャワーを浴び直して、寝る支度を整える。
「んが……? セージ、どこ行ってたんだ……?」
ベッドに突っ伏した衝撃で起こしてしまったか。
起こすつもりは無かったので、少し悪いことをしたな。
「悪い。起こすつもりは無かったんだが」
「エロ本でも買いに行ってたのか? だったら俺もつれてけよ」
「違う。と言うかお前エロ本そのものっつーか、それより凄い事してるだろうが」
お前もか。まあ、平常運転だが。
と言うか入れ替わりで悪いが眠いんだ。眠らせてくれ。
白音さんの問題もあるんだし。
「その凄い事のネタ探しだよ。刺激は必要だしよ」
「どっちにしたって断る。なんでお前のネタ探しに付き合わなきゃいけないんだ」
枕に突っ伏し、兵藤に背を向けながら返事を返す。
まさか、今度はこいつが起きたりしないだろうな?
だとしたら結構面倒なことになる。下手すりゃ完徹だ。
「ん……部長の匂い……? お前、部長の部屋に……? ま、まさか……!!」
「違う。さっき廊下ですれ違っただけだ。なんで俺がグレモリー先輩と逢引せにゃならん」
半分嘘をついた。バカ正直に話すとこいつは面倒だからな。
しかし、こいつも悪魔だから鼻がきくって事を忘れていた。
グレモリー先輩、きつめの香水つけてやがったか? あまりわからなかったが。
シャワー一回じゃ落ちなかったか。
……こりゃ、行動考えないと黒歌さんだの白音さんだのに会う時面倒なことになるな。
「そうだぞ! 部長は俺のもんだからな!」
言ってろ。だがそう言う割には、告白するとかしないとかそういう話をまるっきり聞かないな。
姫島先輩や紫藤イリナに関しては、順序が逆になったって事で今更言っても仕方ないが……
果たして、当のグレモリー先輩はどう考えているんだかね……
そんなに欲しいんなら、さっさと告白でも何でもすればいいものを。
気持ちを伝えなきゃ、どうにもならんだろうに。
…………気持ちを伝えなきゃ、か。
それを一番蔑ろにしたのは、俺なんだろうけどさ。
険悪な態度でなく話せているのは意外と新鮮かもしれません。
ただ、リアスはやっぱりセージに対してどこかずれたアドバイスしているし
セージも本心からリアスを信用している訳じゃないしで
問題の解決は当面先になりそうな予感。
>イッセー
そう言えばイッセー「自身」の活躍はデビルマン編入ってから無いような。
まあこれから否応なしに戦場なんですがね。
この手のキャラの大半に言えることかもしれませんが、「(ヒロイン名)は自分のだ」
って言ってる割には、それが行動に移せてないような。
まして彼奴の場合、ヒロインに気がある素振りしておいて他のヒロイン、下手すりゃモブキャラにセクハラ働いてるってのが……
で、いざヒロインから言い寄られると引っ込む。
まあ、疑心暗鬼もわからんではないですが……序盤で片づけてもいい問題だったかもしれませんね。
10巻を序盤と言ってしまえるのかどうかは、何とも言えませんが。
(まさか媒体違うとはいえジョジョやドラゴンボール並の長丁場のつもりしている訳でもあるまいに)
>セージ
なんかだんだん爆弾が浮き彫りになってきてない?
前回のチョンボもほとんどこいつのせいだし。