――セージ達が岩戸山へと入っていった頃。
「イリナ! ようやく腰を据えて話すことが出来るな。
この時をどれほど待ったことか……」
珍しく単独行動をとっていた紫藤イリナを、ゼノヴィアが捕まえることに成功したのだ。
思えば、紫藤イリナという少女も帰国してからこの方波乱に満ちた生活を送っている。
エクスカリバーの断片の回収を命じられ、ゼノヴィアと共に帰国。
その際ゼノヴィアが警察ともめ事を起こし、暫定的な身元引受人となる。
その後当初の任務に就くも、その際に神の消失を知らされ自暴自棄となり
心神喪失していたところを
その後禍の団で活動を始めるも、当時同じく禍の団に所属していた聖槍騎士団の手引きで
最早、彼女にとって仕えるべきは布袋芙ナイアであり、理想とする兵藤一誠であるのだ。
教会や、天使と言ったものは敵ですらあるといえよう。
彼らがイリナを謀った――神の消失を伏せた上で信仰を強要していた点――について
謝罪をすることは永劫に無いだろうが、たとえあったとしても
彼女がその謝罪を受け入れることもまた、無いであろう。
それ位に、今のイリナにとって過去は「どうでもいいもの」だったのだ。
「……なに?」
「心配したんだぞイリナ!
禍の団に下ってしまったかと思ったら、こうして無事に姿を見せてくれて……
もう、禍の団から足は洗ったのか?」
若干辟易とした様子で、ゼノヴィアの質問に答えていた。
今の彼女の主であるナイアは、間の悪いことに教師としての仕事の最中であった。
だからこそ、こうしてゼノヴィアが話しかける隙が出来たという事でもあるが。
「そこはそうなるわね。今の私にとっては店長とダーリンこそが全部なの。
あんな組織なんてどうでもいいわ。元々、天界に仕返ししたくて協力してただけだし
それも今となっちゃどうでもいいし。
本当なら私もダーリンと一緒に行きたいところなんだけど
店長にそれは止められちゃってね。それに、ダーリンの迷惑にはなりたくないし」
「ダーリン? ま、まさか……」
イリナが心酔する相手。それはゼノヴィアの目線ではお世辞にも忠誠を誓うに値する存在ではない。
それならば、まだ人間を謀ったとはいえゼノヴィアの記憶の中にあるミカエルの方が
余程忠誠を誓うに値する存在だ。
「言っとくけど、いくらあんたでもダーリンの事を悪く言ったらアスカロンの錆にするわよ。
そして、今の私にはそれくらいの力があるの。使い魔――いいえ、使徒になった私なら
人間のあんたなんか軽く捻れる自信はあるわよ」
実際のところ、今のイリナはナイアの魔力を受けているだけで
イリナ自身が転生悪魔に準ずる存在になったわけではない。
アーシアの
――そうした「他種族を自分と同じ種族に改造する・他種族を隷属させる」事こそが
悪魔に対する他種族のヘイトの原因の最たるものではあるのだが。
そんな彼女の言動に、ゼノヴィアは以前ほどでは無いがショックを受けていた。
確かにお互い知恵の回る方ではない自覚はあったが、ここまで「自身が人間であることをやめた」
風になるとは、ゼノヴィアとしても想定外だったのだ。
最悪の可能性は、思い描いていたにしても。
「……そうだ。ねえゼノヴィア。あんたも私と一緒に来ない?
ダーリンの独り占めさえしなかったら、悪いようにはしないわよ。
デュランダルだって今より強く、より使いこなせるようになれるわよ。
店長、そう言う事に関しては物凄い手腕の持ち主なんだから」
ここに来て、イリナからのまさかの勧誘。
しかしそれは、あの得体の知れないナイアのものになるという事でもあり
ひいては、人格面で到底認めることのできない兵藤一誠のものになるという事でもある。
そうでなくとも、このゼノヴィアは「神の消失を知り、自棄を起こし悪魔となった自身の存在」を
目の当たりにしたわけではないとはいえ、知識として知っているのだ。
そうした行いは、彼女の居候先の家主であり、同じ元教会の戦士でもあった
彼からは、かつての同門であり先輩戦士であったシスター・グリゼルダから
しっかりと教わることの無かった「人間の誇り」を教わっている。
今のゼノヴィアには、人間として聖剣を揮い、人間を守るという確固たる信念がある。
その信念と、イリナの勧誘は相容れられないものである。
ナイアが尽くしている――いいように扱っている、と見えなくも無いが――
兵藤一誠は、そもそも悪魔だ。
そして彼には、人間であったことへの未練は既に無いと言い切っていい。
それほどまでに、悪魔であることの恩恵に賜っているのだ。
もっと言えば、人間の存在など悪魔の繁栄のための足掛かりにしか思っていない節すらある。
そんな存在に尽くすなど、ゼノヴィアには到底考えられないことだ。
「――バカなことを言うな! イリナ、もう二度とそんな悪い冗談を言わないでくれ!」
「本気なんだけど、私。ダーリンを知っちゃったら、もう普通の生活なんか満足できないわよ。
私に言わせれば、今のあんたの方がよっぽど味気ない生活を送ってると思うわ。
……本当なら、あんたも私と一緒にダーリンのものになってたはずなのに。
店長は、そう言っていたわ」
イリナのその言葉が引き金となり、ゼノヴィアは思わず拳をイリナの顔に向けていた。
自分があのようなものの慰み者に!? 冗談ではない!
「……冗談はやめてくれと言ったぞ、イリナ。
まだ言うようなら、私にも考えがある……!!」
「……はぁ。やれやれ、本当にあんたは昔から頭が硬いんだから。
ダーリンを知れば、この世界が間違ってるって事もわかるってのに。
自分の考えに凝り固まって、世界の本当の姿を知ろうともしないってのは
はっきり言って、バカのやることよ。
でもまぁいいわ。そこまで言うんなら仕方ないわね。
あんたの席は開けておくし、ダーリンもあんたが来るって聞いたらきっと喜ぶわ。
だから、気が変わったらいつでも私か店長に話してみたら?」
言うだけ言って、イリナはゼノヴィアの前から立ち去ってしまった。
イリナからの勧誘。それは、かつてイッセーが歩んだとされる「虚憶」に基づくものであり
その概要を、ナイアから聞かされているという証左であった。
つまり、イリナはイッセーの虚憶を「知っていて」今の立場に甘んじているのである。
そしてそれは、今のこの世界に対する不満を
「この世界が間違っている」と言う形で発現させているのだ。
――それは、禍の団を始めとするテロ組織の在り方と何ら変わらない。
彼らはこの世界が自分の理想の世界でないのだから、世界を変えようと力を以て動いている。
イリナ自身は禍の団から足を洗ったとは言っても
彼女自身の本質は何一つとして彼らと変わっていなかったのだ。
(私があんな奴のものに……? バカな、あり得ない!
それではまるで、かつて聞かされた世界の私ではないか!
私は私だ、何であんな奴のものにならなければならないんだ!)
ゼノヴィアにとって、それはかつて聞かされた「異なる世界の自分自身」と被って聞こえた。
話に聞く限りでは、唾棄すべき思想を掲げていた。
それが自分自身のあり得たかもしれない姿なのだから、嫌悪感は殊更に酷いものであった。
さらに言えば、これはゼノヴィアにその世界でのゼノヴィアの在り方を教えた張本人も
与り知らぬ事なのだが、その嫌悪している兵藤一誠に対し
自分から強引に関係――それも肉体的な――を迫ったりもしていたのだ。
万が一、それをこの世界のゼノヴィアが知れば、たとえ他の世界の自身の事であったとしても
自害しかねない勢いであろう。それは自身にとって「あり得たかもしれない可能性」ないし
「どこか別の世界では実際に起きてしまっている」事なのだから。
(……私の事もだが、イリナ。君は本当にそれでいいのか?
私に言わせれば、君こそ何も変わっていないぞ。
今の君はただ、ミカエル様に対する信仰を他のものに挿げ替えただけじゃないか。
それでは、ミカエル様に私達が騙されたように
また同じように騙されてしまうかもしれないんだぞ……)
変わり果てた風に見えつつも、本質は何一つ変わっていないかつての同僚の姿に
ゼノヴィアはただ、心を痛めるばかりであった……。
――――
ホテルプレアデス・客室。
職員用として割り当てられたホテルの一室。
駒王学園の教諭としての役職も持っている
窓の外から珠閒瑠市の様子を眺めていた。
それと言うのも、数刻前に珠閒瑠市を覆っていた霧が突如として晴れたのだ。
それを皮切りに、外部との連絡や通信の送受信が可能となり
今は電話回線などの通信インフラに過負荷がかかっている状態である。
(絶霧が解かれた……? 目的が達成されたか、絶霧の持ち主に何かが起きたか。
いずれにせよ、何事かが起こる予兆には違いありませんね)
そんな薮田が頻りに調べているネットニュースには
――フューラー・アドルフ、禍の団を脱退!?
――やはりネオナチだった! フューラーが新たに樹立した組織「ラスト・バタリオン」!
――フューラーの組織、珠閒瑠市で未確認怪生物と交戦開始!
と、禍の団・英雄派を語っていたはずのフューラーが「ラスト・バタリオン」と名を改め
未確認怪生物――アインストと本格的な交戦状態に突入しているというニュースが入っていた。
その戦いに巻き込まれないよう、
ギャルソン
戦いの規模は、かつて珠閒瑠市で起きていた事件よりも大幅に拡大しているといえよう。
軍隊とは言え、一部隊に過ぎないラスト・バタリオンに対し
相手はクロスゲートから無尽蔵に湧き出す怪生物である。
さらに、そんな中でもJOKERは次々と現れているのだ。
……ただし、この状況下ではJOKERの回収は行われていない。
ただ、無差別殺人犯が大量に街中に放流されているのだ。
これもまた、かつて起きたとされる事件との相違点であった。
このホテル・プレアデスがある鳴海区もまた、そうした戦闘行為の影響下にあった。
先のギャルソン副島も、このホテルを中心に防衛を行っているような状態なのだ。
(本来なら、アインストやらJOKERと戦える私達が率先して動くべきなのでしょうが
私はともかく、まさか学生をほぼ軍事行動であるラスト・バタリオンの戦いに
巻き込ませるわけにはいきませんからね。
絶霧の解けた今、珠閒瑠市には自衛隊もこぞって押しかけて来るでしょう。
この分ですと超特捜課も来ることは容易に想像できますが……
……何故でしょう。嫌な予感がしますね)
考えを巡らせていると、薮田の携帯が突如鳴り響く。
発信者は超特捜課を指揮する立場にある
発信者を確認し、電話に出る薮田ではあるが
電話越しの声は、かなり憔悴している様子であった。
『……博士、薮田博士、聞こえるか!?』
「ええ、聞こえていますよ。
それよりどうしたんです? その声の様子ですと、ただ事ではなさそうですが」
『危惧していたことが現実になった!
せっかく南条から資金援助受けて完成した「G」もこれで奴らの手に渡っちまった!
他にも神器持ちの安玖も、「G」の操縦適正持ってる氷上も公安に移転させられた!
ギルバート博士は雲隠れしちまうし、俺一人じゃ霧島達を逃がすだけで手一杯だった!
博士の所にも公安の連中が来るかもしれねえ! 十分に気を付けてくれ!』
蔵王丸警部からの電話では、超特捜課の戦力が接収されたという話であった。
これが事実であるならば、指揮系統が単純に変わるだけと言う話ではない。
この状況下で、ノウハウが引き継がれないまま指揮系統が変わるというのは危険である。
(……思ったより、須丸清蔵という人物は俗物のようですね。
いえ、今公安を指揮している人物が俗物と言うべきかもしれませんが)
蔵王丸警部からの電話を切って間もなくと言うタイミングで、客室のドアが乱暴に叩かれる音が響く。
その下品な音に辟易としながらも、薮田は警戒しながら応対に赴いた。
「……どちら様ですか?」
『警視庁公安部だ。薮田直人博士だな?
警視庁超特捜課は、我々公安部の管轄下に組み込まれることとなった。
薮田博士にも招集令状が出ている。我々と来てもらおうか』
やはり来たか、という感想しか薮田には湧かなかった。
彼の持つ本当の力を使えば、この事態を解決は出来るだろうが
それは彼の在り方に反する事であり、そこまでしては彼がここまで来た意味が無い。
しかし、公安に身柄を拘束されるというのも、彼の望むところではない。
「駒王学園の教師と言う側面から、お断りします。
予め言っておきますが、駒王学園は治外法権が認められていましてね。
駒王学園の教師としての籍も持っている私の身柄を預かりたいのでしたら
まず駒王学園の理事長に話を通していただけますか。
超特捜課への協力は、そもそも駒王学園の教師としての私が
外部協力者として名乗り出ただけの話ですので」
ここに来て、薮田は嘘では無いが本当でも無い話を持ち出したのだ。
駒王学園の教師としての籍。これは当然持っている。
超特捜課へは外部協力者として参加していた。これも事実である。
駒王学園の治外法権。これはかなりグレーの話だ。
ただ、いつまでたっても警察の足が鈍い兵藤一誠らの目に余る行為や
リアス・グレモリーを始めとした一部生徒の特権。
義務教育の教育現場ではないとはいえ、国が定める教育方針からはかなりかけ離れた授業。
これらをして、薮田は「駒王学園には治外法権がある」と言ったのだ。
駒王学園に限らず、おおよその学校――特に私立校――は治外法権もかくやと言う
学校独自の風習が息づいているところも少なくは無いが。
しかし当然、こんなその場しのぎのでたらめが通じる相手ではない。
薮田もそれは理解していたので、それっぽい事を言っている裏で
『現在は厳戒態勢下である。我々には強制的に招集が行える権限が与えられている。
よって、駒王学園に対する説明は、それを必要としない。
もう一度言う。薮田直人博士、公安部への出頭を命じる』
(……まるで逮捕状ですね。ここまでして戦力を集中させたいとは
余程永田町も現状を恐れているという事ですか。
国民を、人々を守るという目的ならばまだ許せますが
あの様子では間違いなく、接収そのものが目的でしょうね。
……ならば、従う理由はありませんね)
創世の目録の力で、客室はまるで最初から誰も入っていなかったからのような姿へと早変わりし
薮田もまた、自身の転移能力でどこかへと姿を消した。
反応の無くなった部屋を不審に思った警察が部屋の中に入るも
既にそこはもぬけの殻であり、彼らは薮田に出し抜かれたことをようやく悟ったのだった。
しかし、これは始まりに過ぎなかった。
薮田に対し公安が動いているという事は、指名手配ないし重要参考人とされている
六人の少年少女の身柄を確保すべく、珠閒瑠市の外から
人員が入り込んでいるという事に他ならないのだから。
(彼らがここに来たという事は、リアス君らの所にも公安が来ている可能性もありますね。
彼女らの身柄が公安に拘束されては、面倒なことになりかねません。
こうなった以上、当初の予定とは大きく外れますが
彼女達を連れてアラヤ神社に向かった方がよさそうですね)
以前触れたイリナとゼノヴィアの確執にようやく触れられました。
遅きに失した感はありますが。
>イリナ
元々空っぽで自暴自棄になったが故に禍の団に入ってました。
そこに(理想の)イッセーを宛がったために欲望の器が満たされて
イッセーに心酔。イッセーと言うよりは、引き合わせてくれたナイアに心酔してる節もありますが。
ただ、これも「自分の欲望を満たす対象」としてしかイッセーを見ていないので
万が一イッセーが自分の欲望を満たすに値しない存在だった場合
あっさりイッセーを切ってナイア一筋になりかねない危険性も。
彼女もナイアからイッセーの虚憶(原作の展開)を知らされており
「そっちの方が面白そう」と協力していたりします。
そりゃ、救いも何もない世界よりはどんなご都合主義でも救いに満ちた世界の方がいいって人、いますからね。
ただ、それは見方によっては現実からの逃避なので……
>ゼノヴィア
最高な人に師事したり、別の世界の自分と組んでいた人のお陰で
身を持ち崩さずに済んだ人。イリナの勧誘もあっさりと跳ね除けてます。
更衣室でイッセーを襲おうとした人なんかいなかったんや。
ただ、そのお陰で身を持ち崩してしまった友人と訣別せねばならないフラグが立ってしまいましたが。
その友人は(本人的には)善意で勧誘してくるから猶更つらい。
>ラストバタリオン
オリジナルの聖槍が手に入った瞬間アインスト撃退に乗り出してます。
この辺、原作と異なり禍の団がはるかに規模がでかくなっている&対抗組織が少ないので
いつの間にやら原作で三大勢力が担っていたであろう対禍の団の行動をとってしまっている形になります。
まあ、首魁が「アレ」ですので。ただ聖槍騎士団のキャラ元ネタ的には
他国とは言えようやく「人を守る軍艦」の役割を果たせているのは皮肉。
英雄派? 完全に吸収されてますが何か。
英雄派が大人しく旧魔王派とかクリフォトに従うとは思えませんし。
と言うか猫も杓子もDCだった旧シリーズのスパロボの方が
余程その辺のすり合わせしっかりしてたような。
>超特捜課
敵対フラグ入りました。セージの「6人目のD×D」は完全にこの前振り。
しかも折角完成したゲシュペ……げふんげふんも持ってかれています。
南条君が資金援助してくれたってのに。
そしてタイミングが悪いことに珠閒瑠市の隔離が解除されてる。
援軍のはずが、とんでもないことになるやも。